キヤノンEOS 50D【第5回】

実は画質が違うRAWとsRAW

Reported by 野下義光


 デジタル一眼レフカメラでは基本的にRAWしか使わない筆者です。業務はもちろんファミリーフォトもRAWで撮っています。日常的に業務で数十・数百カット、最終セレクトされて実際に使用される画像を1枚1枚RAWの現像設定から仕上げているので、たまのファミリーフォトもRAWから仕上げるのは全く手間には感じません。逆に後処理の自由度が低いので、RAWで撮っていないと後ろ髪を引かれる思いをするでしょう。

 後処理の自由度は高いRAWではありますが、年々増大する画素数、さらにA/D変換14bit化によりデータ量が肥大し、パソコンでの処理も重くなっています。

 かつて試用したコダックのDCS Pro 14nには、画素数の異なるRAWを数種類選択できる機能に先進性を感じていました。そこでキヤノンにも常々RAWのサイズを変えて記録できるようにならないかと思ってきましたが、ついにEOS-1D Mark IIIで記録画素数の小さいsRAWが搭載されました。

 以後、EOS Kissシリーズを除く全機種にsRAWが搭載されてきましたが、EOS 50Dではさらに大中小3段階のRAWを選択できるようになっています。最大画素数がRAW(約1,510万:4,752×3,168ピクセル)、中間がsRAW1(約710万:3,267×2,178ピクセル)、最小がsRAW2(約370万:2,376×1,584ピクセル)です。

 もっとも、sRAW1、sRAW2という呼称はイマイチわかり辛いと思っていましたが、結局10月2日発売のEOS 7Dでは、mRAW、sRAWという表記に落ち着いたようです。今後のEOS DIGITALはEOS 7Dでの呼びかたに習い、sRAW1、sRAW2の呼称はEOS 50DとEOS 5DMark IIのみになるのでしょう。

 sRAW1もsRAW2も、筆者はEOS DIGITAL各機で積極的に使っています。記録画素数が少ない分データ量も少なくなりメディアへの書き込みも速く、メディアに記録できる枚数も多くなり、メディアからHDDへの転送、HDDへの保存、現像、後処理など全てが軽くなります。

 必ずしも高画素が必要ない場合、というより高画素が必要であれば別途EOS-1Ds Mark IIIやEOS 5D MarkIIを使うので、EOS 50Dで最大画素数をわざわざ選ぶ理由が筆者にはほとんどありません。
結局、EOS 50DではほとんどsRAW1あるいはsRAW2を使用しています。

 さてsRAW1とsRAW2では(フル)RAWよりもデータ量が小さいので、連続撮影可能枚数もその分増えるのでは!? と最初は思ってましたが、実際に試して残念。ISO100・高感度撮影時のノイズ低減「標準」で(フル)RAWは16枚。sRAW1も同じく16枚、sRAW2はチョットだけ増えて19枚です。

 とはいえ、実際の撮影ではデータ量が小さい分メディアへの書き込みも1カットあたりでは速くなるので、連写を多用しなければならないような場面では、バッファフルでシャッターが切れなくなる頻度が減り、快適に撮影できます。RAW現像時の制約は全くありません。キヤノン純正のRAW現像ソフト Digital Photo Professional(以下DPP)の全機能が使えます。

 画質も画像サイズを除けば全く同一……と思っていましたが、意外と違いはありました。最も記録サイズの小さいsRAW2の画質が最もよく、次いでsRAW1、(フル)RAWの順です。

 ただしこれは画像サイズをsRAW2に合わせてsRAW1、(フル)RAWはリサイズした場合です。sRAW1や(フル)RAWの画像サイズが活かせる大プリントなどでは、当然sRAW2は解像感に欠け画質は劣ります。しかし、sRAW2でも画像サイズ的に十分でそれ以上の画像サイズがあっても解像感は変わらないような、例えば2LサイズくらいのプリントであればsRAW2の方が優位です。sRAW1と(フル)RAWの場合も同様です。

 sRAW1とsRAW2の画質の差はわずかですが、sRAW1と(フル)RAWの差は顕著です。更にsRAW1は約7.1Mという十分な画像サイズがあります。約7.1Mで十分、それ以上はあっても意味がないような利用目的では、sRAW1の方が(フル)RAWよりも画質が高められる可能性があります。

 ショートケーキの作例では、それぞれのRAWの違いを顕著に現すため、拡張機能で最高感度のISO12800、さらに撮影時-2EVアンダーに撮って現像時に+2EVにしています。こんな極端な使い方は滅多にしないと思いますが、普通の撮影状況であってもノイズが出やすい状況や、大きな後処理を加える場合などでは違いがはっきり出るでしょう。

・Digital Photo Professional(Ver.3.6.1.0)で現像

 


  • RAWとsRAW1は現像時にsRAW2のサイズ(2,376×1,584ピクセル)にリサイズしています。
  • 現像時に「明るさ調整」を+2にしています。
  • ホワイトバランスは撮影時設定(マニュアル)、ピクチャースタイルはスタンダード、ノイズリダクションは「なし」です。
RAWsRAW1sRAW2

・SLKYPIX Developer Studio Pro(Ver.4.1.21.1)で現像

 


  • RAWとsRAW1は現像時にsRAW2のサイズ(2,376×1,584ピクセル)にリサイズしています。
  • 現像時に「露出補正」を+2にしています。
  • ホワイトバランスは撮影時設定、ピクチャースタイルはスタンダード、ノイズリダクションは「なし」です。
RAWsRAW1sRAW2

(フル)RAWとsRAWとではミントの葉っぱのグリーンを見ても一目瞭然です。sRAW1とsRAW2との差は非常に微妙ですが、わずかにsRAW2の方がノイズが少なく、解像感が勝ります。DPPだけによる結果ではなく、ほかの現像ソフトでも試してみましたが、同様の特徴が現れました。

・Digital Photo Professionalで現像

※共通設定:EOS 50D / EF-S 18-200mm F3.5-5.6 IS / 約8.1MB / 1/160秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 187mm

RAW(4,752×3,168ピクセル)sRAW1(3,267×2,178ピクセル)sRAW2(2,376×1,584ピクセル)

※共通設定:EOS 50D / EF-S 18-200mm F3.5-5.6 IS / 約3.5MB / 2376x1584 / 1/160秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 60mm

RAW(4,752×3,168ピクセル)sRAW1(3,267×2,178ピクセル)sRAW2(2,376×1,584ピクセル)


野下義光
(のしたよしみつ)熊本県生まれ、千葉県育ち。国立木更津工業高等専門学校機械工学科卒業後、エンジニアとして大手コンピューター会社に5年勤務。その後、夢を捨てきれず写真界へ身を投じる。現在ジュニアアイドルを中心にWeb、DVDジャケ写などで活躍中。フルデジタルの写真集も多数手がけている。趣味はネットオークション(笑)

2009/9/24 18:58