交換レンズレビュー
SP 35mm F/1.8 Di VC USD
優れた描写に手ブレ補正 手堅くまとまった単焦点レンズ
Reported by 大浦タケシ(2015/12/4 08:00)
これまでタムロンのレンズライナップはズームレンズがそのほとんどを占め、単焦点レンズといえばマクロレンズが35mmフルサイズ用、APS-Cサイズ用含めて数本あるのみであった。そのため、レンズの描写に強いこだわりを持つ写真愛好家にとって些か物足りなく感じられていたのも事実である。
そんな状況を打破するかのようにこの秋リリースされたのが、「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」(Model F012)と「SP 45mm F/1.8 Di VC USD」(Model F013)の2本のフルサイズ対応単焦点レンズである。いずれもガラスモールド非球面レンズや異常低分散ガラスなど贅沢に用いた光学系の採用のほか、強力な手ブレ補正機構や一般的な単焦点レンズとしては驚異的な近接撮影能力を備える。
さらにメーカーロゴも含め鏡筒の新しい意匠も見どころの意欲作である。今回はその2本のなかからSP 35mm F/1.8 Di VC USDをピックアップしてみたい。対応マウントはニコンF、キヤノンEF、ソニーA(予定)。
デザインと操作性
鏡筒のデザインは、これまでのタムロンとは大きく異なるものである。まず目につくのが、マウント側にある薄いゴールドのリング。表面処理は美しく、その形状とともに鏡筒全体を優雅に見せる。これまでSPシリーズのレンズには鏡筒先端に金色の帯が巻かれていが、それに代わるものであるという。ちなみに、同社ではこのリングのことを“ブランドリング”と呼ぶ。
フォーカスリングに巻かれたラバーや、AF/MF切り換えスイッチおよび手ブレ補正機構ON/OFFスイッチの意匠もこれまでと異なる。ラバーは目の細かなローレットタイプで、指にしっとりとよく馴染む。各スイッチは大きく視認性がよいうえに、手袋をしたままでの操作も苦にならない。しかも、掲載した写真を見てもらえばわかるとおりスマートな形状としているので、大きいながらダサく感じないのも特徴だ。
鏡筒は同じクラスのレンズと比較すると大きい部類に入る。この主だった要因といえば手ブレ補正機構を入れたためということだが、一見するとF1.4クラスのレンズのようである。
実際、鏡筒のサイズは80.4×78.3mm(Fマウント用)、質量は450g(同)、フィルター径を67mmとする。同じ35mm F1.8のニコン「AF-S NIKKOR 35mm f/1.8G ED」72×70.5mm、質量305g、フィルター径58mmなので、その大きさがわかるかと思う。もっとも極端に大きく重いわけではもちろんないので、可搬性など悪く感じられるようなことは少ないだろう。
フォーカスリングの回転角の大きさも注目の部分。超音波モーターUSDの搭載でAF合焦後シームレスにMF操作によるピント位置の微調整が可能だが、そのようなときにより緻密な操作を約束してくれる。さらにフォーカスリングの適度な重さのトルク感も良好で、MF操作に応じてスクリーンに被写体がじわじわと鮮明になる様子は官能的といって過言ではない。
AFスピードに関しても不足のないレベル。カメラに依存する部分もあるが、ニコンD810や同じくDfで使った限りにおいてはもたつくようなこともなく、デフォーカスから一気に合焦する。ちなみにフォーカスリングの回転方向はキヤノンと同じ。反対方向のニコンおよびソニーのユーザーは、MFの際戸惑うことがあるかもしれない。
手ブレ補正機構はシャッタースピードに換算して約3段分の補正効果を持つ。明るい開放F値とともに暗い場所での撮影の可能性は高まるので、広角レンズといえどもやはり同機構の搭載はありがたい。なお、ソニーAマウント対応の同レンズについては、手ブレ補正機構は省略されている。
直接機能とは関係ないが、レンズ鏡筒やキャップ類、化粧箱などに記されているメーカーロゴは、これまでの大文字と小文字を組み合わせた「TAmROn」から、大文字のみの「TAMRON」に書体も含め変更になっている。従来ロゴに馴染んでいるユーザーのなかには、新しいロゴに違和感を持つかも知れないが、これも新しいSPシリーズに対する同社の意欲の現れとみてほしい。ちなみに新しいロゴはプロダクツロゴであり、従来ロゴもこれまでどおり使用していくとのことである。
さらに余談ながら、今回のSP 35mmF1.8 Di VC USDおよびSP 45mmF1.8 Di VC USDの登場に合わせてフロントおよびリアのレンズキャップも大きく意匠が変更になっている。特にリアキャップの側面は、先に紹介したブランドリングのシェイプと繋がるようなテーパー状で、鏡筒と一体感あるものである。質感やつくりの精度は高く、もちろん新しいプロダクツロゴが誇らしげに入る。
遠景の描写は?
撮影時の天候は晴れ、大気中の水蒸気はどちらといえば少ない条件での撮影である。
まずは画面中央部だが、開放絞りから十分な解像感とコントラストである。ビルの窓の桟など鮮明に描写する。コントラストも良好で、ヌケもよい。絞り込むと、シャープネスとコントラストはさらに向上し、より立体感のある描写となる。
ただし、シャープネスに関してはいたずらにカリカリとしたものではなく、あくまでも上質。豊かな階調再現性を持つ。
一方画面周辺部に関しては、絞りF2までは解像感とコントラストの低下がわずかに見受けられる。ただし、像の流れや色のにじみのようなものが皆無であるのは特筆すべきところだろう。絞りF2.8になると解像感もコントラストもぐっと増す。
さらに絞りF4になると、キレがよく不足を感じさせない優れた描写となる。周辺減光については開放値および 絞りF2で見受けられるものの、絞りF2.8まで絞り込むとほとんど気にならないレベルとなる。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:D810 / -0.3EV / ISO64 / 絞り優先AE / 35mm
ボケ味は?
大きなボケは近接撮影の場合でないと期待できないものの、総じて濁りのようなものはなく、しかも柔らか。ボケの変化も合焦面から滑らかに変化していき、気になるようなクセもない。前ボケに関しても、暴れるようなことなどなくナチュラル。球面収差を上手くコントロールしているといってよいだろう。
もちろん前述のように絞り開放でもピントの合った部分はエッジが立ちキレがよいので、積極的に絞りを開いて撮りたくなるレンズである。最短撮影距離は0.2mを実現。フローティング機構を採用するため、近接撮影時でも像の乱れはまったくない。絞り羽根は9枚、円形絞りとしている。
逆光耐性は?
太陽が画面のなかに入る場合も、画面のすぐ外にある場合も、撮影した作例に限っていえば、いずれもゴースト・フレアの発生をよく抑えている。じっくりと画像をチェックすると、前者の場合小さなゴーストが光源のまわりに見受けられるもののさほど気になるようなものではない。
フレアについても光源の周囲でわずかに散見される程度で、総じて逆光に強いレンズといえる。eBANDコーティングとBBARコーティングという性格の異なるコーティングを施すが、その効果の現れ、といえるだろう。フードは花型で深めのものが付属する。
作品
絞りはF4。ピントを合わせた手前の瓦屋根を見てもらうとよくわかるが、キレのよい描写である。画面周辺部についても気になるような収差の発生は見当たらず極めて良好だ。
開放F1.8での撮影ながら、合焦面(鉄瓶の蓋あたり)のエッジは立ち、コントラストも高い。ボケは不自然さのようなものは感じさせず、しかも柔らかく感じられる。周辺減光も気にならないレベル。
絞りF11と深く絞り込んでいる。画面の隅々まで色収差や解像感の低下など見受けられず精細で緻密な描写だ。立体感ある描写も含め、このレンズの優れた描写特性がよく現れている画像だ。
ピントはハクチョウのボートに合わせている。抜けがよいので、早朝の空の青さも鮮明に描写する。カメラの性能に依存するところも多いが、階調再現性にも長けているレンズである。
クリアで抜けの良い描写である。鮮鋭度も極めて高いが、カリカリとした不自然なものではなく好感の持てるものだ。このレンズの描写のピークは幅が広くF5.6からF11あたりといってよいだろう。
絞り値は、開放から1/3段ほど絞ったF2とする。合焦面からなだらかにボケが始まっていることが分かる。画面右隅に玉ボケが見受けられるが、大きくは変形しておらず、口径食が少ない。
まとめ
“隙がない”、まさにそう思えるレンズである。絞り値や撮影距離に関係なく得られる優れた描写特性に、高い操作性などどれを取ってみても付け入る隙がない。
ライバルが開放F1.4とするなか、手堅くF1.8で勝負してきたが、写りのよさを考えればそれも決してウィークポイントではないように思える。むしろ手ブレ補正機構やフローティング機構の搭載が実現できたことは、大きなアドバンテージといえよう。
今回は本レンズとSP 45mm F1.8 Di VC USDがリリースされたが、今後ズームレンズも含め新世代SPシリーズを積極的に展開していく予定だという。大いに期待したい。