交換レンズレビュー

SG-image 35mm F0.95

APS-C「F0.95」の世界を3万円台で

「SG-image 35mm F0.95(富士フイルムXマウント用)」の特徴は、何と言っても開放F0.95の大口径であること。MF(マニュアルフォーカス)専用のレンズではありますが、標準レンズという扱いやすい画角で、大口径ならではの極めて浅い被写界深度を楽しめます。

APS-Cサイズのイメージセンサー向け。富士フイルムXマウント用以外に、ソニーE、キヤノンRF、マイクロフォーサーズ、ニコンZ用も用意されています。

外観・仕様

外形寸法は約Φ58×62mmで、質量は約362g(対応マウントにより異なります)。F0.95という大口径とは思えないほどコンパクトです。日常的に持ち歩くことも不可能ではありません。

鏡筒は金属製で剛性感があり、質感もなかなかに良好。高品位なボディとのデザイン的なバランスも違和感がなく、組み合わせても自然に馴染む印象です。X-H2Sに装着してもサイズ感に過不足はなく、取り回しのしやすさも感じられました。

操作性

リング類はレンズ先端から順に絞り、フォーカス。フォーカスリングは幅広で指がかりが良く、適度なトルク感もあります。MFでの微妙なピント合わせにも対応してくれます。

懐かしくもうれしい距離指標もあしらわれています。設定した絞り値とピント位置までの距離に応じて、大まかな被写界深度を把握できるというものです。実際に使うかどうかは別として、本格的なレンズであるという雰囲気を醸し出しています。

作例

開放F0.95での撮影。ピントが合った被写体のエッジには諸収差の影響からか滲みが見られますが、シャープネス自体は良好に保たれています。この滲みは描写上の弱点というよりは、むしろ柔らかさと美しさを添える演出的な効果として楽しむことができます。昔ながらの素朴な大口径レンズの描写傾向を残しながら、現代的な光学設計の成果も融合しており、本レンズならではの個性的な描写と言えるのではないでしょうか。

富士フイルム X-H2S/SG-image 35mm F0.95/絞り優先AE(1/75秒、F0.95、−0.3EV)/ISO 320

F2.8での撮影です。都市景観のなかを泳ぐ白鳥を主題として捉えました。周辺部にはまだいくらかの画像の乱れが残存していますが、鑑賞時にはそれほど気になる程度でもなく、十分に作品としてまとめることができるのは嬉しいところです。本レンズがもつこうした描写傾向であれば、大口径レンズらしい表現力を活かしつつ、幅広い被写体に応用できます。

富士フイルム X-H2S/SG-image 35mm F0.95/絞り優先AE(1/2,700秒、F2.8、−1.3EV)/ISO 320

F4まで絞り込めば画面の隅まである程度結像しており、安心して撮影することができます。もっとも純正レンズなどと比べれば、全般的に結像性能は劣ります。被写体を厳密に再現するような撮影より、スナップやポートレートといった撮影での活用が向いているのではないでしょうか。

富士フイルム X-H2S/SG-image 35mm F0.95/絞り優先AE(1/13秒、F4.0、+0.7EV)/ISO 400

まとめ

開放F0.95というスペックを備えながらも、コンパクトなサイズと扱いやすさを両立させた大口径標準レンズです。MF専用ではありますが、カメラ側のピント拡大機能を活用すれば、十分に正確なピント合わせを行うことができ、実用面で大きな不安は感じません。

開放時に独特の柔らかさを伴いながらも、絞り込むことで画面全体の像が安定します。スナップやポートレートを中心に、被写界深度の浅さやボケの表現を積極的に楽しみたい方に適した1本でしょう。

しかも実売3万円台という価格を考えれば、得られる表現力は十分以上。F0.95の世界を気軽に体験できる存在として、多くのユーザーの有力な選択肢となるはずです。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。