交換レンズレビュー
圧縮効果が楽しめる超望遠レンズ
PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
2016年10月25日 12:04
PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWは、35mmフルサイズ撮像素子に対応するイメージサークルを持つD FA仕様の超望遠ズームである。
PENTAX望遠レンズのラインナップの中で、一般的な200~300mmクラスとHD PENTAX-DA 560mmF5.6ED AWの間の空白の焦点域を1本でカバーする、PENTAX Kマウントシステムの中で重要な位置を占めるレンズだ。
焦点距離は150~450mmで、APS-Cサイズの撮像素子を持つPENTAX機との組み合わせでは、35mmフルサイズ換算230~690mm相当の画角をカバーする。
光学系は14群18枚のレンズで構成され、うち3枚に特殊低分散(ED)ガラス、1枚に異常低分散ガラスを用い、超望遠レンズの性能低下の大きな原因となる色収差を効果的に補正している。
9枚羽の円形絞りはズーム全域を通じて開放からF8までのあいだで開口部をほぼ円形に保ち、美しい玉ボケを演出する。絞り込んでも角の立った多角形のボケが表れることはなく、光源が写り込んだときに生じる光芒も穏やかだ。
超望遠ズームは焦点距離のカバレージで大きく2つのカテゴリに分けることができる。例えばキヤノンの場合は100-400mmと200-400mm(1.4×エクステンダー内蔵で実質的に200~560mm)の2本があり、ニコンの場合は80-400mmと200-500mmの2本が用意されている。
同カテゴリの標準に比べてカバレージが長焦点側に振られているのが特徴だが、おそらく、これより長い焦点距離をカバーする純正レンズがDA 560mmF5.6ED AWしかないので、望遠端が400mmだと560mmとの間が穴になってしまうことがその理由だろう。
接写にも強い
このレンズはカリカリにシャープというタイプではなく、同時にテストしていたHD PENTAX-D FA★ 70-200mmF2.8ED DC AWと比べると、ピクセル等倍で比較するようなレベルの解像力では及ばない。
しかし、コントラストが十分に確保されていることと、合焦面の前後のボケがとても素直で立体感を損なわないために、写真として見たときの絵の強さでは負けていない。
望遠端450mmの開放絞りで、ごく周辺部に結像のあまいところがあるが、F8でまずまずになり、F11では問題ない描写になる。150mm域では絞り開放からとくに甘いところもなく優れた描写だ。
※実写テストは回折補正と色収差補正をON。歪曲補正、周辺光量補正、フリンジ補正をOFFで撮影しています。
450mm(絞り別)
※共通設定:K-1 / +0.7EV / ISO400 / 絞り優先AE
歪曲収差はズーム全域で糸巻型で、200mm以下では少し目立つ。問題になる場合はカメラが備えているディストーション補正機能を使って抑えることもできる。
最短撮影距離はズーム全域で2mで、この値はライバルと比べて少し「寄れない」ことになる。しかし、標準的なこのクラスの望遠側が400mmであるのに対し、このレンズは450mmまでカバーするので、最大撮影倍率は0.22倍(およそ1/5倍)となり、遜色のないスペックを確保している。
超望遠ズームをテレマクロ的に使う場合「近寄れないものを大きく撮りたい」という要求を満たすことが重要だ。とすると最短距離を縮めるより、同じ撮影距離で焦点距離を長くする方が正解とも言える。
近接撮影時のシャープネスもまずまずで、接写に強いレンズと言っても間違いではない。下の3点の作例はいずれも最短撮影距離である2mの距離で撮影したものだ。
レンズ本体はやや大きめか
大きさは最大径95mm×長さ241mm、レンズ本体の重量は2,000gあり、付属メタルフードと三脚座を含めた携行重量は2,130gに達する。他社のこのクラスのレンズが概ね1,500g内外で収まっているのと比較すると「小型計量がPENTAXの魅力」と、ここで何度も書いてきた私としては苦笑いする他はない。
とはいうものの。携行時の全長は250mmほどに過ぎず、ボディに装着したままでも旅客機搭乗時の機内持込手荷物サイズのバッグに収納可能なので機動力は高い。普段持ち出すときでも中型以上のサイズのカメラバッグならば特に工夫せずに収めることができる。
レンズマウントの連動機能はAFカプラーを省略したKAF3マウント仕様であり、レンズ内モーター用の電源接点を持たない古いPENTAX機ではMFになる。DA★シリーズと同等以上のAW仕様の防塵・防滴構造が与えられ、悪天候下でシャッターチャンスを待つようなシーンでも耐候性に関する不安はない。
レンズコーティングは高性能なHDコーティングが採用され、このレンズに高いコントラストを与えている。前玉の最前面には汚れを拭き取りやすくするSPコーティングも施される。フードは鏡筒先端のバヨネットに装着する頑丈なメタルフードが付属する。
フィルター径は86mmで、HD DA 560mmF5.6(112mm)やHD D FA★ 70-200mm F2.8(77mm)との共通性がない。中判用レンズ一般としては86mmは珍しくないのだが、PENTAXには645マウントでもこのサイズは見当たらないので少し珍しく感じた。後部ドロップインフィルターやシートフィルターホルダーの装備はない。
ズームリングとフォーカスリングの間には90度ごとにAFボタンがあり、12時位置と9時位置のボタンの間にフォーカスモードレバーとフォーカスレンジリミッターが配置されている。
フォーカスモードレバーは、AF作動後にMFにシームレスに移行する「QSF/A」モードと、AFが迷ってしまっている時に即座にMFで介入できる「QSF/M」モードの2つのクイックシフトフォーカスの動作モードと「MF」を加えた3モードを状況に応じて選択できる。フォーカスレンジリミッターはAFレスポンスを向上させる目的でAF作動範囲(距離)を制限する。
9時位置と6時位置のAFボタンの間には、AFボタンの機能を設定する「AFボタン切り替えレバー」と「プリセットボタン」がある。
AFボタン切り替えレバーには「AF」「PRESET MODE」「AF CANCEL」の3つのポジションがあり、これでAFボタンの機能を変更する。それぞれの設定時のAFボタンの振る舞いは、プリセットモード以外はボディのAFボタンと同じと思えばいい。
レバーがプリセットモードにあるときにAFボタンを押すと、あらかじめ記憶されたフォーカス位置にピントが移動する。フォーカス位置を記憶させるには、任意の位置にフォーカシングした状態でPRESETボタンを押せばいい。
いずれも他社ではすでに当たり前に備えている機能なので、文字を連ねて説明するのもいささか奇異ではある。
短期間のテストでは実戦で十分に評価することはできなかったが、もちろん一通りの機能と目的は達していたので、今後は操作性に一層磨きをかけながらPENTAXらしい独自のアイデアを盛り込んで、また我々を驚かせてくれることに期待したい。
作品
浅草寺仲見世の参道から宝蔵門越しに本堂を望む。それぞれ200mほど離れている3つのモチーフを1枚の中で扱えるのは超望遠がもつ遠近感の圧縮効果によるものだ。
吾妻橋のビルに映ったスカイツリー。被写界深度が欲しいのでF13まで絞り込んだ。超望遠で撮る被写体は遠くにあるため撮影者が動いてフレーミングを調節できないことが多いが、ズームレンズならば思い通りに切り取ることができる。
被写界深度の浅さと写り込む背景の狭さを活かすことで、構図の整理がしやすい。
1段絞ればシャープネスはぐっと向上する。
開放絞りで撮影。ヘラシギの体の部分はボケてしまっているが質感を失っていない。画面のほとんどがアウトフォーカスで占められる超望遠レンズにおいて、ボケの素直さは重要な性能だ。
広い競馬場でも手前のラチ(柵)を避けてトラック上の馬を狙えるカメラポジションは多くないが、ズームレンズならば画を作りやすい。
開放に近い絞りで馬の顔はアウトフォーカスになっているがよくディテールを残している。チューニングの妙だろう。
高感度性能に優れるK-1とのコンビなら、明るいとは言えない開放F値でも夜間撮影が可能だ。
広角端の150mmで撮影。こちらも描写は悪くない。
圧縮効果はフォルムをグラマラスに見せるので、こうして自動車を撮るにもいいレンズだ。
道路の向こうの張り紙を平面的に捉えて、拓本のようなイメージを狙った。
まとめ
このD FA150-450mmはカリカリにシャープなレンズではないが、ボケの素直さと十分なコントラストのおかげで、映し出す画に写真としての力強さを感じさせる。
450mmという超望遠の圧縮効果や狭い画角をうまく使えば、見慣れたはずの街の風景の中に立ち上がってくる被写体を、印象的に捉えることができる。
今回の自由作例は三脚を使わずに撮影したが、K-1の優れたホールディングと手ブレ補正がこうした超望遠レンズの手持ちスナップを強力にサポートすることはいうまでもない。3,600万画素・ローパスレスセンサーの高い解像力もこのレンズの性能を余すことなく引き出してくれる。
なにぶん重量級のレンズなので持ち出すには覚悟がいるが、その写りは素晴らしく、超望遠レンズらしい表現を存分に楽しめる1本だ。