交換レンズ実写ギャラリー
ペンタックスHD PENTAX-DA 560mm F5.6 ED AW
Reported by 大高隆(2013/8/19 08:00)
35mm版換算859mmの本格的超望遠にあたるこのレンズは、見慣れた超望遠レンズと較べるとどこか風変わりなスタイルをしている。それもそのはずで、実はこのレンズは写真用超望遠レンズというより、天体望遠鏡に近い成り立ちを持っている。かつてペンタックスは天体望遠鏡も手がけており、その中に「75ED-HF」という小型高性能モデルがあった。この560mm F5.6は75EDの再来ともいわれ、焦点距離と開放F値の語呂合わせから、巷では“ゴロゴロ”というニックネームで呼ばれることもあるようだ。
まずサイズの話をすれば、全長521.7mm×最大径130.3mm、重量は3,040gある。実に堂々としたものだが、他社の800mm F5.6クラスの重量が4,500g前後あるのに較べれば「軽量である」と言って差し支えない。ライバルと比較すると「細く、軽く、長い」のが特徴で、この辺りにも望遠鏡っぽさがにじみ出ている。レンズ構成は6群7枚で、うち2枚にEDガラスを採用する。他社の800mm F5.6と比較すると、ニコンが13群20枚、キヤノンが14群18枚であるのに対し、際立ってシンプルだ。
構成枚数の少なさは内面反射に起因するフレアの抑制につながり、このレンズに高いコントラストをもたらす。さらにレンズコーティングには従来のSMC(スーパーマルチコーティング)を凌ぐ反射防止性能を持つ「HDコーティング」が与えられている。作例として掲げた2羽の鴨が水面に浮かぶ倒木に止まっている写真を見ると、水面を埋め尽くす水草の緑色が完全に飛んでしまうほど強い逆光にも拘らず、鴨の羽毛の細部まで、コントラストを失うことなく表現されている。この耐逆光性能は、構成枚数の少ない光学設計とHDコーティングの賜物だろう。
コントラスト低下のもう1つの要因である大気中の微粒子による光の散乱を抑えるため、専用設計のC-PL(円偏光)フィルターが標準添付される。鏡筒後部のフィルターポケットに挿入する40.5mm径のドロップインタイプで、ホルダーに設けられたダイヤルでフィルターを回転させ、最もよい効果を発揮する角度に調整できる。C-PLは水面の反射を除いたり、木々の緑や紅葉の色を鮮やかに写す効果も有り、風景写真には必須のアイテムだ。必要なものだからベストなものを最初からという、ペンタックスらしい細やかな配慮に敬意を表したい。
各操作部はシーリングが施された防塵防滴仕様となっており、新たにAll Weather(全天候)を意味する「AW」というシリーズ名が与えられた。前玉最前面には水や油をはじくSPコーティングが施され、収納状態から数秒でセットアップできる組み込み式フードなど、悪条件下の撮影をサポートする配慮が隅々まで行き届いており、短い試用のあいだにも、使うごとに“助けられている”という感じを受けた。前玉枠には112mm径のフィルターネジも備えられ、もし望むならプロテクトフィルターを使うこともできる。
AFシステムはKAF3マウントのレンズ内DCモーター方式で、クイックシフトフォーカス機構も備える。動体に対するAFの追従性はまずまずで、航空機や新幹線のような遠い被写体ならば、かなり高速な動きにも完全に追従する。一方、近距離で的が小さい野鳥などはなかなか手強く、横切るように飛んでいれば問題ないが、カメラに迫ってくる方向の動きには追従しきれないことが多かった。とはいえ、この狭い画角では飛ぶ鳥をファインダーに捉え続けること自体が難しく、撮影者の技量の問題も大きい。その辺りの事情も含め、私自身のテスト評価としては「まずまずだった」と言わないとウソになってしまうが、ライバルに較べて劣るというわけではないだろう。
テストにあたっては、手持ち撮影の可能性も含めて現実的な画質を評価するため、高感度の手持ち撮影と三脚使用の中庸感度の撮影を取り混ぜて行なった。結論から言えば、1/1,000秒以上の高速シャッターが切れる条件なら、手持ち撮影は可能だ。ただし、サンニッパ並の重量で手ブレ補正も動作するといえども、1/500秒では微細なブレを抑えきれず、レンズ本来の性能が出ていない写真を量産してしまった。カタログにも「このレンズでは期待通りの手ブレ補正効果が得られない場合があります」という趣旨の特記があるくらいなので、ボディの手ブレ補正機能を過信せず、TAvかTvモードで極力高速なシャッターを切るようにすべきだろう。
三脚を使うならば、是非ともジンバル雲台と丈夫な三脚を組み合わせたい。今回のテストではKIRK Enterprisesのジンバル雲台「キングコブラ」をハスキー三段に載せ、おなじKIRKのロングプレート「LP-8」介してDA560mmを取付けて撮影した(いずれもスタジオJin扱い)。常にレンズが水平に戻ろうとするブランコ型ジンバル雲台と違い、キングコブラで支えられたレンズは全方向に抵抗なく振ることができ、手を離せばぴたりと止まる。撮影中のカメラの自由度は手持ちよりむしろ高く、高性能超望遠レンズの性能を引き出すための相棒として申し分ない機能を持っている。今回の作例の幾つかは、この雲台がなければものにできなかっただろう。
DA 560mmの解像力は高い。開放絞りから期待通りのシャープな写真が得られ、一段絞ったF8からF11辺りが最高の解像力を発揮する。卓越した高コントラストのため数値的な解像力以上に視覚的にはシャープで、じっと見ていると300mmレンズで撮影した写真であるかのような錯覚を覚える。このクラスの超望遠になると、遠近感の圧縮効果のマイナス面として立体感が失われ、書き割りの前で写したような写真になることがままあるが、このDA 560mmの映像はピントが来ている面から前後になだらかにボケていき、自然な立体感をもって表現される。絞りは9枚羽根の円形絞りを採用し、F11までは光輝ボケの形も崩れない。色収差は大きめだが問題になるほどではなく、カメラが持つ収差補正機能を使えば解消できる。
特筆すべき逆光性能がこのレンズの最大の美点だ。スペックの近い超望遠ズームとの比較では、全画面・全撮影距離を通じて安定した高解像力と自然で美しいボケもアドバンテージになるだろう。単焦点超望遠レンズとしてみた場合、ライバルの800mm F5.6が概ね150~180万円前後、レンズメーカー製でも60万円台半ばであるのに対し、50万円台前半という実勢価格は非常に魅力的で、このレンズを使うためにペンタックスを1台買ってもよいくらいのインパクトがある。さしずめ“買って使える超望遠レンズ”の最右翼というところだろうか。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
- 特記なき作例は内蔵C-PLフィルターは使用していません。