ライカレンズの美学
SUMMILUX-M F1.4/28mm ASPH.
100周年レンズ、待望のレギュラーバージョン
2017年6月30日 12:00
現行のM型ライカ用レンズの魅力を探る本連載。21回目となる今回はSUMMILUX-M F1.4/28mm ASPH.を取り上げる。
連載14回目にSUMMICRON-M F2/28mm ASPH.を取り上げた時にも書いたけれど、M型ライカ用28mmレンズの現行ラインナップはF1.4からF5.6まで開放F値が異なる4本が揃っている。その中でももっとも大口径なのが今回試用したSUMMILUX-M F1.4/28mm ASPH.である。
余談だが、35mmフルサイズ用の28mm F1.4を現時点でラインナップしているメーカーは意外に少なく、メジャー系ではライカとニコンとツァイスのみ。キヤノンやシグマは24mmと35mmはF1.4の用意があるものの、28mmはナシ。ソニーにも無い。だからどうしたと言われればそれまでだが、単焦点広角レンズの中ではもっとも定番と思われる28mmであっても、大口径F1.4となると選択肢は思いのほか少ないのはちょっと驚きだ。ちなみにM型ライカ用レンズは21mm、24mm、28mm、35mm、50mmのすべてでF1.4が用意されており、これは大口径単焦点主義者にとってはかなり魅力的だったりする。
SUMMILUX-M F1.4/28mm ASPH.が初めてお披露目されたのは今から3年前の2014年のこと。ただし、それはレンズ単体ではなく、ライカ100周年を記念して発売されたボディ2台とレンズ3本からなる限定キット「ライカMエディション100」の中の1本という、少々イレギュラーなカタチでの登場だった。このキットは101セットの限定で、ボディはライカMモノクロームとフィルムカメラのライカM-A、それに28mm、35mm、50mmのSUMMILUXレンズ3本に加えてコダックのトライXフィルム1本が専用のリモワ製ケースに収められていた。しかも2台のボディと3本のレンズはいずれもステンレス製の外装を与えられた特別バージョンということで、そのスペシャル度はかなりのものだった。税別580万円というセット価格もさることながら、限定101セットのうち日本に入ってきたのは数セットのみという事実から考えても、気軽に試せる代物ではなかったことは確かだ。
この100周年セットの中でボディ2台とSUMMILUX 35mm、50mmはいずれも既発売の製品をステンレス外装に仕立て直したものだったが、SUMMILUX 28mmだけは製品として初出ということで、ライカファンからは大いに注目された。いずれはレギュラーバージョンが発売されるであろうことは誰もが想像できたが、100周年セットの発売からちょうど1年後の2015年6月に時は訪れ、SUMMILUX 28mmがレギュラーモデルの単体レンズとしてカタログにラインナップされることになった。もちろん100周年バージョンのようなステンレス外装ではなく、他のMレンズと同じく黒いアルミ製の鏡胴になっていて、外観のデザイン的な意匠も他の現行M型ライカレンズと同等という仕様である。
レンズ構成は7群10枚で、そのうち異常部分分散ガラスを7枚、非球面レンズを1枚使用している。全体のレンズ繰り出しとは別に前から5番目のレンズ群だけを単独移動させるフローティング機構により、近距離撮影時の諸収差もしっかりと補正するなど、他のSUMMILUX銘レンズと同じくかなり凝った光学系を採用。とかくサイズが大きくなりがちなF1.4という大口径でありながら、フィルター径はたった49mmというコンパクトさを実現しているのはさすがだ。
これは28mmに限った話ではないけれど、やはり大口径レンズは多彩な表現が可能だ。F1.4という明るさを活かした低照度での撮影のほか、広角レンズでありながら背景や前景を大きくボカせるという効果ももちろんある一方、絞り込めばパンフォーカスにもなるので、1本で色々な使い方が可能なのだ。
実際に使ってみると当然ながら写りは本当にシャープで、絞り開放から合焦部のピントの起ち上がりはとってもクリア。異常部分分散ガラスを7枚も採用した成果か、高輝度部のエッジに現れやすい色ニジミもかなりキチンと補正されている。今回はスナップを撮ってみたが、広角なのにボケ味が抜群にキレイなので、雰囲気のある室内ポートレートなどで使っても効果的だろう。
協力:ライカカメラジャパン