リコーGXR MOUNT A12で「超広角マクロ」

Reported by糸崎公朗

Lマウントのコシナ製「ウルトラワイドへリアー12mm F5.6」はリコーGXR MOUNT A12ユニットに装着すると、非常に優れた描写をする。今回はこの銘レンズで“広角マクロ撮影”が可能なシステムを考案してみた。

レンジファインダー用超広角レンズで“広角マクロ撮影”を試みる

 前回の記事「リコーGXRマウントユニットに一眼レフユニットを装着」は、言ってみればマニアックなネタ記事だった。そこを反省し……ということではないけれど、今回は同じリコーGXR MOUNT A12ユニットを使い、実用的なアイデアを考えてみた。

 ぼくはライカMマウントのレンズは持っていないのだが、Lマウントのコシナ製「ウルトラワイドへリアー12mm F5.6」を持っている。このレンズはフィルムカメラを使っていた時代、立体写真「フォトモ」のパーツ撮影用に購入したのだが、あまりに特殊な画角のためほとんど使わずじまいでいた。

 しかし“いつか出番が来るかも”と売らずにとっておいたところ、ついにこのレンズが使えるGXR MOUNT A12が発売されたのだ。さっそく装着してみると、画角が「ライカ判換算18mm」のほどよい超広角レンズになり、なかなか使いやすい。画質は画面周辺に至るまでシャープで、正直驚いてしまった。

 しかしまぁ、毎度のことながらただそれだけでは「切り貼りデジカメ実験室」の記事にはならない。そこで今回は、この素晴らしい超広角レンズを使って“超広角マクロ撮影”を試みることにした。

 ウルトラワイドへリアー12mm F5.6の最短撮影距離は30cmで、レンジファインダー用広角レンズとしては短めに設定されている。しかし広角マクロ撮影用としては物足りなく、小さな昆虫を大写しすることは出来ない。そこでこの欠点(普通の意味では欠点にはならないが)を克服する工夫を考えてみた。

 レンズの最短撮影距離を短縮する方法としては“中間リング”を接続する方法が考えられる。しかし中間リングは構造上マウントの厚みより薄く作ることができず、Lマウント用でもせいぜい5mmが限界だろう。そして、ウルトラワイドへリアー12mm F5.6にもし“5mm厚の中間リング”を接続したら、撮影距離が短くなりすぎ実用にならないだろう。

 ところがLマウントはシンプルなねじ込み式である。そこで閃いたのだが、レンズとマウントの間に“スペーサー”を挟めば、極薄の中間リングと同様の働きをさせることが出来るはずだ。というわけでさっそく工作に掛かることにした。

―注意―

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「GXR MOUNT A12」はあらためて単体で手に取ると、実に不思議な「物体」である。コンパクトデジカメくらいの大きさの中に、APS-Cサイズの大型CMOSセンサーとフォーカルプレーンシャッターを内蔵し、ライカM互換マウントを備えている。それでいながらレンズはもちろん、シャッターボタンも十字キーも液晶モニターもカードスロットも何もない。まさに純粋なデジタル暗箱(カメラオブスキュラ)だGXR MOUNT A12ユニットをGXR本体にセットし、コシナ製「ウルトラワイドへリアー12mm F5.6」を装着したところ。ライカ判換算18mm相当のほどよい使い勝手のスーパーワイドになり、その描写は周辺まで驚くほどシャープ。しかしこのレンズの最短撮影距離は30cmで、昆虫などの小さな被写体の撮影には不向きだ
ウルトラワイドへリアー12mm F5.6はスクリュー式のライカLマウントで「L→M変換リング」を介してGXR MOUNT A12に装着する。この機構を利用して“超広角マクロ撮影”が可能なパーツを製作してみる製作したのはこのような“スペーサー”パーツ。1.5mm厚のABS板を、Lマウントの径に合わせてドーナツ状にカットした。(プラ板を円形にカットする方法はこちらの記事を参照のこと。工作に自信が無い場合は厚紙などで代用できるだろう
スペーサーは、このようにレンズマウントにはめ込むそしてカメラにレンズをねじ込むとこのようになる。スペーサーのおかげでレンズが1.5mm分繰り出されたことになり、ほどよい距離で接写することが出来るようになった。その分ねじ込みは浅くなるが、いちおうしっかりと装着出来ている
さらにストロボシステムを考えてみる。内蔵ストロボはケラレてしまうため、外部ストロボの「サンパックPF20XD」を装着。ディフューザーはタッパーとコンビニ袋を素材に自作したもので、「ペンタックス「645D」で試す“ヘビー&ライト”マクロシステム」で使用したものと基本的に同一。しかし今回さらに改良を加えているタッパーの中心に錐で穴を開け、息を吹き込むとコンビニ袋が風船のように膨らむ仕組みになっている(笑)。これにより散光効果が高まり、レンズによるケラレをより効果的に防ぐことが出来るのだ

テスト撮影

 今回は解像度をシビアに比較するような撮影ではないので、スペーサーの有無による倍率の比較テストのみ行った。絞りはどちらもF11に統一してある。被写体は「ウラナミシジミ」というチョウの一種(大きさ約15mm)だ。

まずはスペーサー無しのノーマル状態。最短撮影距離は30cmで、チョウがほんの点にしか写らない。超広角レンズとしてはまずまずの接写性能だが、昆虫撮影用としては物足りない。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/50秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mmスペーサーを組み込み、なおかつヘリコイドを最大に繰り出した状態。撮影距離はレンズ前から約7cm。主役のチョウがほどよい大きさで写り、かつ周囲の環境も描写される“広角マクロ”らしい写真になった。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/50秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm

実写作品と撮影のコツ

 冬が近づきだいぶ気温が下がってきたが、実はまだまだいろいろな昆虫を見ることが
できる。というわけで「路上ネイチャー」のコンセプトに基づき、街中に生息する昆虫を見つけて撮影してみた。

 ウルトラワイドへリアー12mm F5.6は距離計に連動しない目測専用レンズだが、GXRに装着すれば液晶モニターとフォーカスアシスト機能により精密なピント合わせが可能になる。

 しかしこのレンズはマクロ撮影に使用しても被写界深度が深く(それが目的なのだが)、ピントの山は意外に掴みづらい。どのみち撮影距離は“レンズ前から約7cm”で固定なので、それを目安に目測で撮影した方が気が楽だ。

 露出はMモードで絞りは基本的にF11固定、シャッター速度の調節とストロボのマニュアル調光で露出調節した。

道路を横切るオオカマキリ。この時期は地面でぺちゃんこになっているカマキリをよく見かけることがある。ウルトラワイドへリアー12mm F5.6は一眼レフ用の超広角ズームなどよりレンズ径が小さく、より低い視点で撮影できる利点がある
GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/160秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm
オオスズメバチがアスファルトにへばりついたガムを舐めていた。と思ったら、このハチは翅が小さく縮れていて飛ぶことができない。脱皮に失敗したようだが、どこから歩いてきたのかナゾである。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/200秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm
美しい羽のツマグロヒョウモンが、セイタカアワダチソウの蜜を吸っている。意外に寒さに強いチョウで、晩秋の暖かい日にはひらひら舞っているのを見ることが出来る。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/200秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm同じツマグロヒョウモンの、翅の表を撮影。オスとメスでは模様が違うが、これはオスである。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm
キチョウが歩道の真ん中に止まっていた。急に気温が下がったため、動けないでいるようだ。おかげで思う存分撮影できるが、それもこの季節ならではだと言える。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/50秒 / F22 / 0EV / ISO200 / 12mmコセンダングサに付いていたナカジロシタバというガの幼虫。2匹にピントを合わせてみたが、こうしてみるとなかなかきれいな模様だ。実はこの写真、シンクロ同調速度1/180を超えた1/320で撮影したのだが、おかげで画面下部の草の茎がケラレてしまっている。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.0MB / 4,288×2,848 / 1/320秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm
ブロック塀にひっついていた、ハラビロカマキリ。この時期に見られるカマキリはたいていメスで、お腹の卵の栄養のためエサを探している。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/80秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm住宅地内に残された雑木林にて、コナラの樹液を吸うルリタテハ。成虫越冬するチョウで、晩秋でも暖かい日には活動するのを見ることが出来る。GXR MOUNT A12 / ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/20秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 12mm




糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki

2011/11/25 11:50