標準ズームを“逆付け”した「高倍率超マクロレンズ」


「ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6」を改造した「リバースマクロ 14-42mm」を、お気に入りの「E-420」に装着してみる。非常にコンパクトで、我ながらカッコいい……いや電気コードが怪しいが、しかし「ジオン軍のモビルスーツ」みたいだと思えばこれまたカッコいいのである(笑)

写真展用に開発した新タイプの「高倍率マクロレンズ」

 実は、6月1日から「4mm×3mmの世界 ―超マクロで見る草花―」という個展を開催している。会場は愛犬同伴可能の「Deco's Dog Cafe」(大田区田園調布)とちょっとユニークな場所なのだが、その撮影のために新たに改造したレンズを紹介しようと思う。

 今回製作した改造レンズは、個展のタイトルにあるように、約4mm×3mmの範囲が拡大撮影できる「高倍率マクロレンズ」である。

 このレンズは、2008年の記事「高倍率マクロ撮影のための最小システムを考える」で紹介した撮影システムの、改良バージョンでもある。

 以前の記事では、高倍率ズームを装備したコンパクトデジタルカメラに、高倍率クローズアップレンズを装着する方法を紹介したが、これはコンパクトで気軽な反面、画質がちょっと犠牲になってしまったきらいがある。

 やはり単純に“高画質”を追求すると、コンパクトデジカメより撮像素子サイズの大きなデジタル一眼レフカメラのほうが有利、ということになるだろう。であれば、これも前回の記事に書いたとおり、現在一眼レフカメラ用として発売されている唯一の“高倍率マクロ専用レンズ”であるキヤノンの「MP-E 65mm F2.8 1-5× マクロフォト」(14万4,900円)を使えば話が早い。

 しかし、これも前回の記事に書いたのだが、MP-E 65mm 2.8は高価な上に大きく重く(性能や特殊性を考えれば妥当なのかもしれないが)、なかなか購入に踏み切れない。それに、市販品をただ購入しただけでは、「切り貼りデジカメ実験室」の記事にならないのである(笑)。

 そこで、MP-E 65mm F2.8よりも安価で、できるだけ軽量コンパクトで、しかもできるだけ描写が劣らないレンズを、市販品の切り貼り(ブリコラージュ)で製作できないか、自分なりに試行錯誤してみた。

レトロフォーカスレンズをリバースすると高倍率マクロレンズになる

 等倍以上の高倍率マクロ撮影を実現する方法は、昆虫写真家をはじめとする先人たちによって、さまざまな研究がなされている。その中で今回は、レトロフォーカスレンズのリバース(逆付け)という手法を試してみることにした。

 レトロフォーカスレンズとは、焦点距離よりバックフォーカスが長くなるよう設計された、一眼レフ用の広角レンズのことである。現在のライカ判以下のセンサーサイズを採用しているデジタル一眼レフは、フランジバックが約40~50mmある。だから、焦点距離35mm以下の広角レンズはみなレトロフォーカスレンズであり、広角域を含む標準ズームレンズもレトロフォーカスレンズに含まれる。

 そのレトロフォーカスレンズは、レンズをカメラにリバースして取り付けると、等倍を超える高倍率マクロ撮影が可能で、しかもレンズによっては、なかなかの高画質が得られるのだ。この手法は、それこそニコンFの時代から知られていて、一部のメーカーからは現在も専用の「リバースリング」が売られている。

 ただし、レンズをリバースして装着すると、当然のことながら“自動絞り”が作動しない。絞りを手動操作しながらの高倍率マクロ撮影は、大変な作業である。おまけにキヤノンEFマウントやフォーサーズマウントなどの完全電子マウントは、絞りの手動操作ができないから、リバースすると絞り開放でしか撮影できない。

 そのため現在は、この“レトロフォーカスレンズのリバース”は、すっかり忘れ去られた過去の技法になってしまった感がある。

 しかし逆に考えると、完全電子マウントを利用すれば、レンズをリバースしたまま“自動絞り”を作動させることは可能なはずである。つまり、レンズ後部から摘出したレンズマウントを、レンズ先端に固定し、電子マウントの接点とレンズ内の回路を延長コードで接続するのだ。そうすれば、絞り駆動用の電力をはじめとする各種信号のやり取りも可能になり、自動絞りはもちろん、AEやAF、EXIF情報の書き込みなど、全ての機能が利用できるはずだ。

 とまぁ、実のところそういうレンズは、自分ですでに2005年に作ってしまったのである。それは、当時オリンパスから発売されていた、普及タイプ標準ズーム「ZUIKO DIGITAL 14-45mm F3.5-5.6」を改造し、リバースして取り付けた電子マウントの全てに、電気コードを接続した「リバースマクロ 14-45mm」だ。この改造レンズはまずまずの画質で、しかも軽量コンパクトで気軽に持ち歩けるため、自分でも気に入ってたまに使っていた。

 あるときこのリバースマクロ 14-45mmと、オリンパスから新たに発売された普及タイプ標準ズーム「ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6」のリバース状態とで、撮影比較をしてみたのである。もちろん、改造してないZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6は、手で逆さに持ってカメラマウントに押し当てたまま、撮影しただけである。当然ながら、絞りも開放でしか比較できなかったが、しかしどうも、リバースマクロ 14-45mmよりも画質が良さそうなのである。

 そこで、今回は意を決して(面倒くさいので重い腰がなかなか上がらなかったのだが)、新型の普及ズームであるZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6をリバースに改造することにした。以下、その手順を順を追って説明してみたい。

―注意―

  • この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
  • デジカメWatch編集部および糸崎公朗は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

レンズマウント部品の取り外し

ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6を後部から見たところであるが、まずはこのレンズマウントを取り外すはじめにマウント内側の小ネジから外す。これでマウントの内側のプラスチックカバーが外れる
カバーを外すとこんなふうにメカが露出するが、そのうちのアースと思われるネジを外すマウント外側の、電気接点部品を止めている小ネジを取り外す
最後にマウントを止めているネジを外すが、この際レンズを逆さにして作業する。マウントの止めネジには薄いワッシャーが挟んであり、マウントをレンズから外す際、これが飛び散らないように注意するレンズマウントはこのようなパーツに分解できる。小さなワッシャーは無限遠調整用なので、今回の改造では使わない
電子基盤にハンダ付けされたマウントの接点の部品を取り外す。ハンダをハンダゴテで溶かしながら、ハンダ吸取り線で吸い取らせる。この際作業がしやすいよう、電子基盤を固定するための治具を割り箸とガムテープで簡単に作った。このレンズはズームをワイドにすると後玉が出っ張り傷つける恐れがあるので、作業中はズームをテレ側に固定するとよいマウント接点の部品はこのように取り外せる

レンズマウントの取り付け作業

ZUIKO DIGITAL ED 14-42mmF3.5-5.6のレンズマウントはプラスチック製だが、今回は個人的な好みでZUIKO DIGITAL 14-45mm F3.5-5.6から摘出した金属マウントを使用する。旧式のZUIKO DIGITAL 14-45mmF3.5-5.6は中古で数千円で売られているし、ジャンク品となったレンズもまた何かの改造パーツに使えるかもしれない本来のレンズ先端にマウントを装着するための台座として、「ステップダウンリング」を使用する。気をつけなければならないのは、同じブランド(今回使用したのはマルミ製)でも、リングの形状に違いのあることだ。右の58mm→49mm用は、リング表面に段差があり、通常使用には支障はないだろうが今回の加工には適さない。だから段差のないタイプを探して選んだ
ステップダウンリングを、本来のレンズ先端にキッチリねじ込み、センターに来る部分に白テープで印を付ける印をつけたマウントを取り外し、マウントと重ね合わせて周囲をセロハンテープで仮止めし、ネジ穴をケガキ針でなぞって線を入れる
ネジ穴の中心点を決めるため、丸い線に十字線を入れるネジ穴の中心に、センターポンチとハンマーでドリル用の窪みをつける
卓上ボール盤で垂直に穴を開ける。ボール盤は1万円以下の安物だが、機能的には十分だドリルで穴を開けたら「タップ」という道具でネジ穴を開ける。タップの使い方はちょっとコツがいるが、パッケージの使用説明書に従い慎重に作業すれば大丈夫。ホームセンターや金物屋で購入できる
1mm厚のABS板を切り出したパーツも製作。ディパイダーという製図用具で、グリグリと二重の円を描きながら溝を掘り……カッターを使い、このような直線の切れ目を入れ……
余計な部分をパキパキと折り取るさらに穴を明け切れ目を入れて、パーツが完成。これは電子接点を結ぶ電気コードを通すためのスペーサーになる。サイズや形状は「現物あわせ」である
右のパーツは、黒ケント紙をマウント内側の形状に合わせて切り抜いている。テストの結果マウントのメッキの反射がフレアとして写り込むことが分かったので、その遮光用であるレンズマウントのパーツをすべて組み立て、さらに自作パーツを加えた状態。自作ABSパーツの切り欠き部分が、電気コードの通る穴になる。このあと電気接点にコードをハンダ付けする
電気コードは10本平に束ねたものを秋葉原で購入。この両端をレンズ内部と電気接点の形状にあわせ、ご覧のような形状に加工する。形状のガイドに黒ケント紙を使い、コードは瞬間接着剤で固定しているレンズマウントの内側に、全ての電気コードをハンダ付けした状態。ピンセットで固定しながら、慎重に作業を行なう。楳図かずおのマンガ「洗礼」の中の脳の移植手術をするシーンで、「神経の1本1本をつなげるのが大変なのだ……」とかいうセリフがあったが、まさにそんな感じである(笑)。電気コードは自作ABSパーツの切り欠き部分を通過し、マウント内部で交差させている
ネジ穴を開けたステップダウンリングを、もう一度本来のレンズ先端のフィルターネジに装着し、次に電気コードを接続したマウントをネジ止めする完成したレンズマウント部。電気コードを通す穴を高さ1mmに押さえることで、改造に伴うマウント取り付け部分の厚みの増加を、極力抑えるように考えてみた

レンズ先端部の工作

改造レンズの先端部(元のレンズの後部)は電子回路がむき出しになっているため、カバーとなるためのパーツを、1mm厚のABS板から切り出す(手前)。現物に即して検討した結果、カバーパーツのほかに2個のスペーサーパーツも製作した(奥)49mm→58mm径のステップアップリングを加工して、このようなパーツも作った。マウントのネジ位置にあわせて、4カ所穴をあけた。実は、このパーツがなくともレンズは組み立てることはできるが、マクロストロボなどのアクセサリーを装着するために必要なのである
先ほどと同じパーツを裏から見たところだが、レンズ取り付けネジを金鋸で切り取っている。ちょっとコントロールが悪くてキズだらけになってしまったが、耐水ペーパーで平滑に磨いている必要なパーツができたところで、電気コードをレンズ内の基盤にハンダ付けする。電気コードは先に示したように、レンズ形状や接点の位置に合わせてあらかじめ固めてある。この作業がないと、10カ所もの複雑なハンダ付けをするのは不可能だろう。なおABS製のスペーサー2個を、ハンダ付けの前に電気コードに通しておく必要がある
ハンダ付けが終わったら、2枚のスペーサーをレンズの内側にキッチリはめ込み、その上にカバーパーツを被せるステップアップリングを加工した金属パーツを被せてネジ止めすると、こんな状態になる。しかしこのままではレンズ及び内部メカがむき出しなので、ガードをつける必要がある
そこでカバーパーツの穴に28mm径フィルターのガラスを外した“枠”を接着し、さらに通常の28mmm径保護フィルターをねじ込んだ。フィルターだけだとレンズ先端がガラスにぶつかるため、フィルター枠の厚み分だけ浮かせるのである。今回の改造ではレンズ前面の突出を極力少なくし、ワーキングディスタンスを少しでも長く取れるよう考慮している。というわけで、これで今回の改造はひとまず終了である
各レンズとの比較として並べてみた。左から、以前製作した「リバースマクロ 14-45mm」、今回製作した「リバースマクロ 14-42mm」、ノーマル状態の「ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6」。新型改造レンズは、旧型からずいぶんとコンパクト化しているのが分かる。また改造レンズは元のレンズよりも多少全長が増しているが、その増加は極力押さえられているのも分かるだろう同じレンズのマウント部の比較。レンズに印字された文字を見ると、改造レンズがリバースされていることがわかる。昔のプラモデルのCMに「ジオン脅威のメカニズム」というフレーズがあったが、まさにそんな感じである(笑)

 

完成した「リバースマクロ 14-45mm」をE-420に装着したところ。ズームを縮めたワイド端14mmで、最高倍率の撮影ができるズームを伸ばすと撮影倍率が変わり、テレ端42mmで最低倍率になる

 

撮影テスト

※サムネイルをクリックすると、長辺1,024ピクセルにリサイズした画像を表示します(特記あるものを除く)

・撮影倍率テスト

左は旧タイプの「リバースマクロ 14-45mm」で、ワイド端14mmで最大倍率となる。被写体は1,000円札に書かれた「NIPPONGINKO」のマイクロ文字。「1000」の数字の下にあるので探して欲しい。右は、同じレンズのテレ端45mmでの撮影。最低倍率だがここまでのアップになる。
次に、同じ被写体を新タイプの「リバースマクロ 14-42mm」で撮影してみた。ワイド端14mmでは、ほぼ同じ倍率で撮影できる(左)。右は同じレンズのテレ端42mmでの撮影。旧タイプのリバースマクロ 14-45mmより、撮影倍率の変化が少ないことがわかる。ほぼ同じスペックのレンズでこのような違いが出るのは、ズームに伴うレンズ移動機構の違いだろう。変倍式マクロレンズとしては、旧タイプのリバースマクロ 14-45mmの方が有利である。このために、「ZUIKO DIGITAL 14-42mm」を購入した当初、あえてこのレンズをリバースに改造する必要はない、と判断してしまったのである

・描写テスト

描写の比較テストには、1,000円札より微細なディテールを持つタンポポの種子を被写体に使用した。まずは旧タイプ「リバースマクロ 14-45mm」の14mm、絞り開放での描写。新タイプと比較すると暗部の締りが悪く、全体的にフレアーっぽく、色にじみも出ている。(右の画像をクリックすると、左の画像の中心部を等倍で切り出した画像を表示します)
旧タイプ「リバースマクロ 14-45mm」の絞り5.6での描写。色にじみは減ったが、コントラストは低めのままだ。それでも「高倍率マクロ撮影のための最小システムを考える」で紹介したシステムよりは、高画質だといえる。(右の画像をクリックすると、左の画像の中心部を等倍で切り出した画像を表示します)
次に、新タイプ「リバースマクロ 14-42mm」での14mm、絞り開放での描写。旧タイプで見られたような色にじみは見られず、コントラストも高い。(右の画像をクリックすると、左の画像の中心部を等倍で切り出した画像を表示します)
「リバースマクロ 14-42mm」の絞りF5.6での描写。旧タイプの同じ絞り値よりも、明らかに描写がよいことが確認できる。(右の画像をクリックすると、左の画像の中心部を等倍で切り出した画像を表示します)

次回は「最小のマクロストロボ」を考えてみる

 とりあえず完成した「リバースマクロ 14-42mm」だが、旧タイプより画質の良いことが確認された。もちろん、元のレンズはリバースでの使用など想定もしていないはずだから、この結果は偶然の産物でしかない。ともかく、手間のかかる改造を再び行なった苦労が報われて、一安心である。

 しかしレンズが完成したからといって、それだけで撮影が可能になるわけではない。リバースしたレンズは、実効F値が表記よりも格段に暗くなり、撮影にはストロボの照明が不可欠なのである。

 このような特殊なマクロ撮影にも対応したストロボシステムは、実はオリンパスから発売されており、それが「ツインフラッシュ」(TF-22)である。これと、同じくオリンパスのクリップオンストロボ「FL-36」を組み合わせれば、理想的な照明が得られるだろう。

 このシステムは非常によく考えられているが、しかし自分が使うにはちょっと大きすぎの感がある。そう思うと、何とかして似たような機能のものを、できるだけ小型化して考えたくなるのが自分のクセである(笑)。

 というわけで次回は、今回製作したリバースマクロ 14-42mmに装着するための、「最小のマクロストロボシステム」を紹介してみたい。それとともに、開催中の個展「4×3mmの世界 ―超マクロで見る草花―」に出品中の作品の一部を公開してみようと思う。

 

【告知】

・糸崎公朗写真展「4×3mmの世界 ―超マクロで見る草花―」

期間:2009年6月1日(月)~6月30日(火)
会場:Deco's Dog Cafe田園茶房
   大田区田園調布2-62-1 東急スクエアガーデンサイト北館1F

 

※記事初出時、個展の開催期間を2009年5月30日~6月30日と記載しておりましたが、正しくは6月1日からになります。





糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://www.itozaki.com/

2009/5/28 00:00