写真を巡る、今日の読書

第83回:見たい映画探しの参考に…制作の裏側や批評から“映画の魅力”を深掘り

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

制作の裏側や批評を読み聞く

写真家深瀬昌久を描いた映画『レイブンズ』が、3月28日(金)についに公開になりました。深瀬作品のファンはもちろん、写真を実践する多くの写真家や写真学生にとっても必見の一本と言えるでしょう。内容には触れませんが、浅野忠信と瀧内公美というキャストも魅力的だと思います。

さて、そんなわけで今日は映画に関する新書をいくつかご紹介したいと思います。映画というのは、見るのも面白いのですがその制作の裏側や批評を読み聞くのもまた面白いものです。

ラジオでは、ライムスター宇多丸がパーソナリティーを務めている「アフター6ジャンクション2」の『週刊映画時評ムービーウォッチメン』は、前番組から数えるともう随分長い間聴いているように思います。TBSラジオのウェブサイトでは書き起こしが読めますので、映画選びの参考にしている方も多いかもしれませんね。

今はNetflixやHuluなど様々な動画配信サービスがありますので、自宅に帰るとその日見る映画を探すのが日課になっているという方もおられるでしょう。今回ご紹介する3冊は、みなさんの日々の映画選びにも役立つかもしれません。

『荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟』荒木飛呂彦 著(集英社/2013年)

1冊目は、『荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟』。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの荒木飛呂彦による映画批評、映画論です。映画に散りばめられたサスペンスの要素を分析することが面白い漫画にも繋がるという荒木独自の視点から、様々な映画が紹介されます。

『ジュラシックパーク」や『激突!』から見るスティーブン・スピルバーグのストーリー展開、クリント・イーストウッドの人物描写、ロマン・ポランスキーが描く「闇」。非常に有名な映画が多く分析されているため、読みながらシーンを思い出すことができる読者も多いのではないでしょうか。

読み終えてから、紹介された映画を観つつ、『ジョジョの奇妙な冒険』も同時に読み返したくなる1冊です。

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『見るレッスン 映画史特別講義』蓮實重彥 著(光文社/2020年)

2冊目は、『見るレッスン 映画史特別講義』。フランス文学および映画批評において多くの名著を残してきた蓮實重彦による映画論です。

大きなシネコンで扱われている話題作から、映画祭などで発表される短編作品やドキュメンタリー作品まで、評判の良し悪しに関わらず自身の視点から鋭く揺るぎのない姿勢で映画批評が繰り広げられます。映画作家論、ショット論としても明快に論じられているため、どのようなポイントについて話されているのかが理解しやすいのではないかと思います。

個人的には、小津安二郎、溝口健二の映画の美しさや、1930年~1940年代の作品の面白さについて解説されている章では、改めて見直してみたい作品を多く発見できました。また、第5講の「ヌーベル・バーグとは何だったか?」では、リアルタイムでの体験が語られているからか、映画という芸術への熱がこちらにも豊かに伝わってくるようで、映画を見ることの面白さが端的に伝わってくるように思います。

一方、駄作、醜悪と感じた作品への辛辣で挑発的な言葉には痛快さがあり、ふんわりとベールに包んだ感想めいた評論に慣れてしまっているかたにはむしろおすすめしたいところです。また、新書など絶対書くまいと言いつつ出版された蓮實の新書という点でも、1度読んでみるのは面白いのではないでしょうか。

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『ヒット映画の裏に職人あり!』春日太一 著(小学館/2024年)

3冊目は、時代劇・映画史研究家の春日太一による『ヒット映画の裏に職人あり!』。映画制作には多くのスタッフが関わるわけですが、光のあたる俳優や監督だけでなく、裏方の制作スタッフが映画の質やリアリティ、あるいは広報に非常に大きな役割を担っていることは多くあります。本書はそんな映画を裏で支える職人たちへスポットを当てた1冊です。

映画『おくりびと』やNHK大河ドラマで特殊メイクを担当した江川悦子から始まり、『この世界の片隅に』の音響効果の柴崎憲治、『アウトレイジ』シリーズのポスターデザインを担当した中平一史などのインタビューが収められており、監督や俳優の話からでは想像できない映画制作の進み方やこだわりを読み取ることができます。

それぞれの映像を見る上での新たな視点が得られるという点で、本書を通して映画の魅力により深く触れることができるでしょう。また、時代変遷による技術の変化や、リアリティを追求する多彩な工夫について知ることができます。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。