切り貼りデジカメ実験室

「完全に」透明なマウントアダプターを作る

OLYMPUS AIRをフレキシブルに活用

既存のアイデアに自分のアイデアを付加させる

この連載ではカメラやレンズの改造を、毎回何か違ったネタでやっているのだが、もうネタが尽きた……と思った時どうすれば良いのか?

それは1つには、他人からネタをパクれば良いのである。他人のネタをパクろう! と思ってそのネタをじっと見てるうちに、ふと「自分ならこうするのに……」というアイデアが浮かんでくる。そうなるとそれはもう、自分のオリジナルのネタになるのである。

これは私のことだけではなく、写真をはじめとするアートの分野も、カメラをはじめとするテクノロジーの分野も同じで、既存のアイデアに新たなアイデアを付加させながら、文化というものは進歩してきたと言えるのだ。

そういうわけで、私は何かパクリのネタを探そうと思って(笑)デジカメ Watchのバックナンバーを眺めていたのだが、「【CP+2016】透明なマウントアダプターが登場」という記事が目にとまった。

ここで紹介されているのがテクニカルファームの「TF-Flare Adapter」という透明アクリル樹脂でできたマウントアダプターだ。もしカメラやレンズに「光線漏れ」があるならそれは致命的欠陥だが、それを逆手に取って盛大に光線漏れを起こさせ“表現”として取り入れようという趣旨の製品である。

これはなかなか大胆な試みだが、税別6万円となかなか良いお値段なのである。それと使った人のレポートによると、アクリルを切削した跡が筋模様として写り込むことがあるらしい。つまりTF-Flare Adapterは完全な透明ではないのである。

などと思ったりしたところで、私の頭に閃いたのが「完全に透明なマウントアダプター」というアイデアである。それは一体どういうものなのか? 以下順を追ってご覧いただければと思う。

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カメラとレンズの工夫

こちらがCP+2016に出品されていた「TF-Flare Adapter」で、透明アクリル樹脂でできている。しかし実際に使用した人のレポートによると、アクリルを切削した跡が筋模様として写り込むことがあるらしく、その意味では完全に透明とは言えないのである。

そこで私が考えた「完全に透明なマウントアダプター」の最初のスケッチである。カメラマウントとレンズマウントを4本のロッドでつなげた構造をしている。

それだけでは撮像素子がむき出しになってしまうため、レンズマウントの穴にフィルターをはめ込む。こうすると、原理的には完全に透明なマウントアダプターにあるのである。

しかし、私はまたしても閃いてしまったのである。まず用意したのが以前の連載で紹介した接写用ベローズである。これはもともとM42マウント用だったのを、マウントをマイクロフォーサーズ用に交換する改造を施している。

このベローズの蛇腹部分を取り外すと、もうそれだけで「完全に透明なマウントアダプター」ができてしまうのだ。しかし喜ぶのはまだ早い。このベローズには1つ欠点があったのである。

ベローズを最も縮めた状態だが、マイクロフォーサーズのフランジバックより少し厚みがあり、無限遠の撮影ができないのだ。

そこでまたまた閃いたのだが、まずはベローズをいったんバラバラに分解する。

そしてベローズのレールに前板を「前後逆」に取り付けるのである。

逆向きに取り付けた前板に、M42レンズマウントを取り付ける。

再改造したベローズを縮めると、改造前よりだいぶ薄くなり、これならマイクロフォーサーズのボディに取り付けて、M42マウントレンズを無限遠から使えるはずである。

次に、37mm径レンズ保護フィルターの周囲に細く切った画用紙を巻き付ける。

フィルターをレンズマウント内側にスッポリとはめ込む。そして、上部のネジ(もともとを締めればフィルターはキッチリ固定される。これによって、撮像素子に汚れが付着するのを防止することができる。

今回、ボディはOLYMPUS AIRを使うことにする。この改造ベローズはもともとOM-DシリーズにはEVF部分が干渉し取り付け不可なのである。PENシリーズには装着可だが、後で述べるようにAIRの方が都合が良いのである。

さてレンズの装着だが、ご覧のタクマー35mm F3.5など自動絞りを装備したレンズは、その切り替えレバーと前板下部の突起が干渉して、取り付られない。

そこで手持ちのM42レンズを探したところ、シンプルでスリムな鏡筒のマクロキラー40mm F2.8が装着できた。

スマートフォン(iPhone 6)を装着すると、撮影システムが完成する。しかしこの改造ベローズの構造上、レールが斜め上に来てしまい、これが影となってせっかくの「完全に透明なマウントアダプター」の特徴をスポイルしかねない。

そこで、AIRボディを上下逆さにセットして、ベローズのレールが下側に来るようにした。実はAIRにスマートフォンを取り付ける「カップリング」が上下逆にも装着できるのだ。

円筒形ボディと相まって、このフレキシビリティがOM-DやPENにまさるAIRならではの特徴だと言える。ちなみにこの状態でピントは無限遠である。

ノブの操作で前板を繰り出せばマクロ撮影ができる。AIRの撮像素子がむき出しになるが、フィルターのお陰でゴミの付着の心配はない。これで工作は終了である。

実写作品

池に咲いていた睡蓮の花。見事にフレアが掛かった描写で、コントラストが落ちている。以下、花の写真は全て絞り開放F2.8で撮影している。

1/3,200秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / プログラム / 40mm

畑脇咲いていたコスモスの花だが独特の空気感が描写されているように思える。

1/1,600秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

同じくコスモスだが、少し小さめの花が咲いていたので、見下げた角度で撮ってみた。ホワイトバランスはオートに設定しているが、肉眼で見たよりも青み掛かって写っている。

1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

サルスベリの花。撮影倍率を上げて被写界深度を浅くしたのと相まって、幻想的な写真になった。

1/4,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

遠景の描写。幻想的な描写を生かして、藤沢市内に残る里山的な風景を撮影してみた。

1/800秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

同じ位置から絞りをF8に絞って撮影したところ、さらにコントラストが低下し、青みも増した描写になった。

1/320秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

これも絞りをF8にして、コントラストを落としてみたが、フレアが不均質にかかって、単にコントラストを落とした写真とは異なっている。

1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

こちらは絞り開放にて撮影。マクロに比べて遠景の描写が苦手なマクロキラーだが、この場合はそれがかえって味わい深くなっているように思う。今回の撮影はあいにくの曇り空だったが、晴れの日に撮ればまた違った光の効果が得られるかもしれないし、モノクロで撮ってもまた面白いかも知れない。

1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40mm

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki