吉村永の「ホントに使える動画グッズを探せ!」

9品目:気軽に持ち運べる“動画向け”トラベル三脚

Ulanzi「X-Aircross F38 Carbon」

一眼レフ、ミラーレスを問わず、最近のカメラにはもれなくと言っていいほど備わっているのが「動画撮影機能」。写真撮影については一家言あるけれども、動画についてはまだ未知の領域……、という読者も多いはず。
この連載では“スチルカメラ愛好家”に向けて、動画畑出身のカメラマン 吉村永がレンズ交換式デジタルカメラで動画を撮る際に便利なグッズを見つけて紹介していく。時にプロ向けの高価な機材から、馴染みのないメーカーの製品まで積極的に試して紹介できたらと思う。

今回紹介するのは、動画撮影に対応したトラベル三脚。最近、三脚やアクセサリー類を精力的に発売し、動画クリエイターから特に注目されている中国Ulanziの製品だ。Amazon.co.jpでは、3万円前後で取り扱われている。

Ulanzi「X-Aircross F38 Carbon」

役立ち度:★★★★★
コスパ:★★★★★
マニアック度:★★★

“気軽”に持ち運べるトラベル三脚

動画用の三脚の要件というのはよく知られていないため、この連載の4品目で述べてみた。だが、ここで紹介した三脚はテレビ放送や映画制作に使えるレベルの製品で、価格も、6kgオーバーという重量もライトユーザーから考えると一般的ではない。

そこで今回は旅行などにも気軽に持ち運べ、Vlog撮影やちょっとした作品づくりに役に立つ“ライト”なトラベル三脚を紹介したい。

ユニークな撮影アクセサリーで人気のUlanziだが、このメーカーはコラボレーションというか、ダブルネーム製品を多く手がけていることでも知られる。この製品の前に注目されたトラベル三脚「Zero Y」は、COMAN社(中国)とのダブルネームだった。今回もFotopro社(中国)とのダブルネームとなっている。よく見てみると、三脚部は基本的にFotoproの「X-Aircross 2 Carbon」という製品がベースで、雲台部分がUlanziのデザインによるものと考えられる。

製品には薄手で邪魔になりにくい布ケースが付属している。肩にかけられるストラップと、裏面には長さ調節可能なベルクロのハンドルがついている

まずは外観から見ていこう。小型三脚というのは昔からあるが、特に「トラベル三脚」というジャンルが意識され始めたのは、Gitzoの「トラベラー」による脚部を180度反転させることで雲台部の出っ張りなく収納するようにしたメカニズムが現れてからだろう。

ただし、この方式は収納時や使用時に3本の脚をそれぞれ反転させるのがとても面倒。しかも、収納時には長さは短くなるものの、直径が実質的には大ぶりになるというデメリットもあった。これを解決して最近のトレンドを作ったのが、2020年に登場したPeak Design(米国)の「TRAVEL TRIPOD」。センターポールを三角形、脚をかまぼこ型の断面形状にすることでそれぞれの剛性強化と収納時の直径を抑えることに成功し、多くのフォロワーを呼んだ製品だ。

これに比べ、本製品はすべての脚やセンターポールが円筒形で、素材がカーボンであること以外、特別なギミックによる小型化を感じさせない。しかしながら、雲台を含めた総重量は1.08kg、長さは44cmと小型軽量なのだから驚きだ。

脚の部分は5段伸縮式。伸縮とロックはダイレクトコンタクトパイプによるワンタッチ式。これは、ベルボンのウルトレックシリーズで知られる方式で、回転ノブやレバーを持たず、脚の先端部分をひねると全段のロック/アンロックがワンタッチで行えるというもの。通常であれば各段の伸縮部ごとに操作するロック部が、ワンタッチで全部の段を動かせるので、設置と撤収がとてもスピーディー。ただし、いちばん細い部分を伸ばさないで4段目だけで使ったりという具合に、細かく脚の長さを調節する場合はちょっとやりにくいというデメリットもある。

センターポール下のフックを回すと、中からスマホホルダーが現れる。これにスマホを挟んでスマホ三脚としても使える

そして雲台部。動画撮影ではパン操作をしても常に水平が保てるように雲台のパン軸を完全に垂直に調節する必要があり、このためにセンターポールがなく、代わりにボールレベラーが装備されているのが一般的。だが、本製品はセンターポールの上に半球関節状のレベリングベースが採用されているので、不整地などの使用でも水平出しが一発で行える。

そのうえ、カメラの装着部分はUlanziを一躍有名にした「F38」クイックシューシステムが採用されている。

これは、アルカスイス互換形状のF38プレートをカメラに装着していれば、ワンタッチでの取り外しが可能になる独自のマウントシステム。アルカスイス互換タイプのマウントは通常、プレートを載せたらネジを回して固定する必要があるのだが、F38は雲台の上部の溝にスライドするだけで装着可能。ねじの回転やレバー操作など一切なしで、嘘のようにガッチリと固定されるのだ。取り外しもワンタッチでできる。これを可能にするには、カメラに必ずF38プレートをつけておく必要があるのだが、このプレートはアルカスイス互換形状の雲台に対応するので、対応する他の三脚を使うユーザーにも馴染みやすいだろう。

F38クイックリリースプレート(左)と、アルカスイス互換のPeakDesign Standard Plate(右)。名前通り一辺38mmで、厚さ7.8mm、重さ15.2gと小型なのでカメラにつけっぱなしでも邪魔になりにくい

実際に使うと、パンやティルトのトルクも均一で、このサイズから予想するよりしっとりしたカメラの動きが楽しめる。5段を全部伸ばすと流石に最後の脚は細く、パンをするとねじれを感じさせるが、ゆっくりとした操作であれば画面のブレを不自然にならない程度に抑えることもできる。

対荷重は、スペック上では脚部10kg、雲台部が3kgとなっている。確かに載せるだけならそれも可能だが、使ってみた印象だと総重量1.5kgぐらいまでのカメラシステムがベストマッチと感じた。

決して万能な三脚ではないが、いつでも持ち歩くことで映像のクオリティをワンランクアップさせることができる、日常使いの三脚として小型の動画カメラユーザーにお勧めしたい。

吉村永

東京生まれ。高校生の頃から映像制作に目覚め、テレビ番組制作会社と雑誌編集を経て現在、動画と写真のフリーランスに。ミュージックビデオクリップの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真メインのカメラマン。2017年~2020年カメラグランプリ外部選考委員。