インタビュー

キヤノン「Digital Photo Professional 4.0」の進化に迫る

誕生から10年を経て全面刷新。自社開発のメリットを最大限に活かす

 キヤノン純正のRAW現像ソフト「Digital Photo Professional」(DPP)が6月に大幅にアップデートし、「Digital Photo Professional 4.0」(DPP 4.0)として公開された。今回はDPP 4.0の新機能について開発者にお話を伺った。(聞き手:杉本利彦、本文中敬称略)

お話を伺ったメンバー。左からキヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICP統括第二開発センター 室長の増田英歳氏(DPPやユーティリティソフトの開発を担当)、同事業本部 ICP第二開発センター 開発部長の杉森正巳氏(DPPの画像処理を担当)、同事業本部ICP戦略企画センター 専任主任の松山智久氏(DPPの商品企画を担当)

名称変更も想定していた大改良

――そもそもDPPはどういった経緯から生まれたのですか?

松山:DPPは2004年に最初のバージョンをリリースして約10年になります。それ以前のRAW現像ソフトには、「EOS Viewer Utility」(以下EVU)ですとか「File Viewer Utility」(以下FVU)、もっと古いものですと「Raw Image Converter」というものもありました。

 このうちEVUやFVUは、カメラ内部で行っている画像処理と全く同じものをパソコン上で行うという、映像エンジンシミュレーターだったのですが、カメラの画素数が増えてデータ量が増すとパソコンでの処理にどうしても時間がかかってしまう問題が目立つようになります。

 シミュレーターでは、カメラと同じ画像が得られるという点でメリットはありましたが、その反面、せっかくパソコンで処理しているのに、カメラと同じ画しか出せないもどかしさもありました。

 そこで、画作りのコンセプトはそのままに、処理をパソコンに最適化して高速処理を実現するとともに、カメラにはないパソコンソフトならではの機能を盛り込んだRAW現像ソフトとしてDPPが生まれたのです。そしてこの10年来、基本UIは維持したまま、「デジタルレンズオプティマイザ」をはじめ、機能を徐々に追加しながらバージョンアップを重ねてきました。

Digital Photo Professional 4.0

――それでは今回DPPを4.0に刷新した理由は?

松山:DPPはパソコンに最適化したソフトですが、最近ではカメラのデータ量もさらに増大して処理時間がかかるようになっていますし、肝心の画像処理の部分ももっと突き詰めたいとする要望もありました。

 そしていろいろと機能を積み重ねて来た結果、操作性の面でももっと使いやすくならないかというお客様の声も寄せられるようになり、このあたりで全面的に改良したRAW現像ソフトを新たに作ろうということになりました。

 当初は必ずしもDPPの名称でなくてもよい新規のソフトウエアを検討していましたが、さすがに約10年間もの間慣れ親しんで頂いたDPPを全く無視することもできません。そこで、DPPの良い部分は残しつつも、操作性から画像処理の機能面に至るまで全面的に改良し、バージョンを1つ上げて「DPP 4.0」として開発することになりました。

 操作性はもちろん、画面もだいぶ変わったように見えますが、例えばツールパレットなどはDPPの後継ソフトであることを感じて頂けると思いますし、セレクト編集画面やクイックチェックツールなどは従来と同じような感覚でお使い頂けると思いますので、Ver.3からVer.4に乗り換えた場合でも、すぐに操作に慣れて頂くことができると思います。

――DPPは、キヤノンの独自開発ですか?

松山:はい。キヤノンの社員が直接開発に携わっております。お客様の中には、米国版が先にリリースされることがあった時には、開発は米国で行っているのでは? と疑問に思っておられた方もいらっしゃるようですが、開発はキヤノンの社内で行っています。

 自社開発のメリットは、イメージセンサーから画像処理、レンズデータに至るまですべての開発データを社内で持っていますので、それらを最大限に活かしたソフトウエア開発ができる点にあります。

――現在はシミュレーション型であるEVUやFVUは使えずDPPでしかRAW現像できないようですが、カメラ内での現像結果をそのまま再現したいという要望はないのでしょうか?

松山:そういったご要望もあることは認識しています。ただDPPでRAW現像した結果が、カメラ内で生成したJPEGデータと全く異なるのではいけませんので、階調や色再現共にカメラのJPEGデータとかなりのところまで再現するようにしています。

 完全に同じではありませんが、EVUやFVUをお使いのお客様でも違和感が感じられないように処理できていると思っています。

――カメラ内で生成する処理とDPPの処理は具体的にどう違いますか?

杉森:エンジンが異なりますので処理の方法は当然異なりますが、それ以外にもカメラでは処理が重くなるので入れられなかった機能を実現しているなどの違いがあります。

 例えば解像感についてもぎりぎりまで伸ばせるようにしている所ですとか、ノイズリダクションもカメラ本体での処理より強くできるようになっています。

 また、今回の特徴でもありますダイナミックレンジを拡張して明るい部分の階調を出すようにできる部分などがあります。こういった機能を、カメラに先駆けてDPPで実現し、逆にカメラ内の処理に応用するなどのサイクルができればいいなと考えています。

松山:ダイナミックレンジの拡張機能を具体的にご説明します。この写真(下記画像)は、迫力のある雲のイメージですが、浜辺の部分を明るくしようとすると通常は雲の部分は白く飛び気味になってしまいます。そこで、DPP 4.0の「ハイライト」スライダーをマイナス方向にスライドさせると徐々にハイライト部の階調がはっきりと出て、明るい浜辺と見た時のイメージ通り迫力のある雲の表現を同時にバランスよく描写できます。

ハイライトスライダーをマイナスにして、雲のディテールを出した

 従来も「ハイライト」スライダーはありましたが、飛び気味のハイライト部を出そうとするとグレーっぽくなってしまう傾向がありました。DPP 4.0ではアルゴリズムや効果の幅などを大幅に変更し、見た時のイメージに近いトーンでハイライトの階調を再現できるようにしています。

 もちろんハイライトだけでなく、シャドウ側も同様に調整ができるようになっています。

――よく見るとトーンカーブがくねくね曲がったように見えますね。

松山:「ハイライト」スライダーを下げますと、ハイライトの明るさを抑えると同時にディテール部分にコントラストがつくようになっています。そのためトーンカーブは細かく曲がって見えるのです。

――新機能の特定色域調整(8軸色)パレットは、どういったときに有効ですか?

松山:例えば先ほどの海のカットで、空の青と海の鮮やかなグリーンの部分だけを色調整したいというとき、8つの色域で個別に色相、彩度、明度の調整ができますので、狙った色だけ調整することが可能になります。

「対応機種は今後増やす」

――DPP 4.0の対応カメラが、現行のフルサイズ機(EOS-1D X、EOS-1D C、EOS 5D Mark III、EOS 6D)に限られているのはどうしてですか?

松山:当初は対応カメラは従来と同様、ほぼ全てのデジタル一眼レフを網羅したいという目標がありましたが、新しい処理方法を取り入れていることもあり、開発を進める段階で対応機種はある程度絞らざるを得ないことがわかってきました。

 そうであるなら、現行のハイエンド機であります、フルサイズ4機種をお持ちのお客様に新しいDPP 4.0をいち早く体験して頂こうということになりました。

――対応カメラとそれ以外のカメラは、RAWデータに多少なりとも違いがあるのでしょうか?

増田:RAWデータはここで挙がっています4機種に限らず、カメラごとに微妙に異なる特性を持っていますので、処理のアルゴリズムが更新されると、全ての対応カメラについて1台ごとに最適化する必要があります。そのため特にこの4機種だけが特別ということではありません。

――今後対応カメラが増えることはありますか?

増田:徐々に増やしていきたいと考えています。最終的には、当初の目標通りVer.3と同等の機種に対応できればと考えております。

――そうしますと当面はDPPはVer.4とVer.3の2本立てになるのですか?

松山:そうなります。Ver.4の対応機種が増えて、Ver.3と同等になった段階で、Ver.3は役割を終えるイメージです。

――インストール可能なOSが64bit版に限定された理由を教えてください。32bit版ではできなかったことはありますか?

増田:Ver.3は、32bitで動作していたのですが、64bit版はありませんでした。これはVer.3では、従来技術の積み重ねで改良、改善をしていた関係で、全面的に64bit化するのは非常に困難だったからです。

 一方で、32bitであるがゆえの制限事項がいろいろとあるのですが、従来は実際の操作で困らないように工夫しながら使えるようにしていました。

 例えば、RAWデータを展開する際には、お客様が思っておられる以上の莫大なメモリー空間が必要になり、そのような画像を何枚も開くとなると32bitの空間では収まりきらない場合が多々あります。

 そのため、Ver.4 では最初からアーキテクチャとして物理メモリーの制限を受けにくい64bitのみに対応させるようにしました。最近のパソコンでは、ローエンドのものでも64bitに対応できるようになっていますので、お客様により快適な動作を提供する意味でも64bit版のみとするのが最適と判断しました。

 すでに、32bit版対応のご要望も寄せられており、対応は検討中です。ちなみに、「EOS Utility 3.0」のほうは、動作にほとんど影響がありませんので32bitと64bitの双方で使えるようにしています。

松山:DPPの開発当初、あるプロ写真家からカメラのファイルシステムでは1フォルダに1万枚の写真が入るのだから、ブラウザはすべて見られなければいけないのではないかというご指摘がありました。

 ところが32bitで動作させますとアプリケーションが使えるメモリー(RAM)の領域がWindowsでは約2GBに制限されますので、1万枚のサムネイル画像を開くのが難しくなり、実際に1万枚入ったフォルダを開くと、おそらくメモリーが足りないという内容の警告が出ると思います。それが64bitですと、メモリーの領域が大きく使えますからストレスなく開くことが可能になります。

 また、デジタルレンズオプティマイザなどの重い処理をされる際には、特に快適さを実感して頂けると思います。

ダイナミックレンジを広げ階調性を向上

――解像感の向上や、偽色の低減など、画質面での改善点はありますか?

杉森:カメラでの処理に比べると時間をかけることができますので、解像感を維持したまま偽色の低減処理なども行っています。他社製RAW現像ソフトと比較して頂いても、低減効果が大きいことがおわかり頂けるのではないでしょうか。

――階調面の改善点はありますか?

杉森:「ガンマ調整」機能のところに、「自動」ボタンがついたことがあげられます。カメラの設定ではピクチャースタイルの選択だけで終わってしまいますが、「ガンマ調整」の「自動」ではRAWデータの持っているポテンシャルを全て引き出せるように、ダイナミックレンジを広げるとともにコントラストも整えることができるようになっています。

 具体的には、ハイライト部分に階調が残っている場合は、まずダイナミックレンジを広げ、その上で全体の階調が眠くならないように、ハイライト部とシャドウ部の階調を調整します。ハイライト部分に階調がない場合は、コントラストが下がるだけなのでダイナミックレンジの拡張は行いません。

 このあたりの機能改善は、お客様からどうしてDPPは雲の階調がうまく再現できないのかと指摘されたことがきっかけでした。以前は、カメラの階調をできるだけ忠実に再現するというポリシーが強かったこともあり、ハイライトやシャドウ部で部分的にコントラストを調整することは行っていませんでしたが、DPP 4.0では思い切って変えていこうということになりました。

――以前は比較的自然なトーンカーブが保たれていたと思いますが、先ほどもお聞きしましたややいびつなカーブになっているのはそういう理由だったのですね。

杉森:他社のRAW現像ソフトでは、ハイライトやシャドウの調整機能適用後のカーブまでは表示していないと思いますが、DPP 4.0では処理の内容を正直にカーブで表示していますので、多少曲がって見えることもあると思います。

松山:ここまで、トーンカーブをストレートに見せているのはDPP 4.0だけだと思います。

――こうしたガンマ調整の機能や、好評なデジタルレンズオプティマイザなどもカメラ内に実装されるといいですね。

杉森:過去には、ピクチャースタイルの「忠実設定」など、DPPで先に採用した機能をカメラにも搭載した例がありますので、搭載可能なものは順次検討していきたいですね。ただ、デジタルレンズオプティマイザは処理がかなり重いのですぐに搭載するのは難しいと思います。

――ところで、ピクチャースタイルのガンマ調整のヒストグラムに 「-10~+4」の表記がありますが、これは露出の段数ですか?

杉森:そうです。適正露出を0として、上に4段、下に10段の目盛をふっています。

――ということは通常設定でハイライトとシャドウのポイントがある-9~+3.7位が、標準的なカメラのダイナミックレンジなのでしょうか?

杉森:そう見て頂いて結構です。今回はそれよりも外側のレンジまで使えるようにしました。

――ホワイトポイント(ハイライト側)がだいぶ拡張できるようになっていますが、この部分が今言われた外側のレンジ、つまり従来カメラ内の画像処理では使用していなかった領域ということでしょうか?

杉森:そうです。従来使用しているレンジの外側部分はデータの信頼性の面で使用が難しく、カメラ内での処理では安定して使える部分だけを使用しています。

 しかし、パソコンのソフトウエア上では積極的にデータを利用し、外側部分も使えるようにしました。実は、こういう部分で機種ごとの微調整が必要になるのです。

――シャドウ側が-9より拡張できないのはなぜですか?

杉森:1bitよりも階調を細かくとることはできませんので、-9から下にはいけないようになっています。

増田:圧縮してもダイナミックレンジが伸びないなら伸ばしても意味がない。つまり階調がない部分を広げてもコントラストが低下するだけで意味がありません。

――RAWデータの処理はDPP内では何bitで行っているのですか?

増田:DPP内部ではRAW、JPEGとも16bitに拡張して処理しています。

――先ほどレンジの目盛が-10~+4まで合計14段あることをお聞きしましたが、RAWデータではその領域を14bitに割り当てて記録しているのですか?

杉森:だいたいそう考えて頂いて結構です。

――そうしますと感度を上げる場合、AD変換前にアナログ段階で増幅を行っているのでしょうか? それとも、14bitでAD変換して、それ以降はデジタル調整だけで感度を上げているのでしょうか?

杉森:個々のカメラによって異なりますが、アナログゲインによって感度を上げる方法とデジタルで感度調整する場合の双方を適宜組み合わせて使用しています。

 たとえば、通常のカメラには基本的に何十倍かのアナログゲインをかけられるアンプを内蔵していますが、増幅率が大きくなるほどノイズも大きくなりますので、アナログゲインだけで感度を上げるには限界があります。

 そこでデジタル調整で感度を上げる方法なども組み合わせ、なるべくノイズが少なく豊富な階調が得られるように工夫しています。

――ハイライト/シャドウスライダーの調整領域拡大は、従来と何が違うのですか?

増田:スライダーの数値は±5までで変わらないのですが、1目盛りの調整範囲が広がっているのに加えて、ステップが0.1刻みで細かく調整できるようになっています。加えて、調整領域の境界部分で階調がスムーズにつながるように工夫しています。

カメラと同じホワイトバランス設定方法に

――それと今回、画像調整前と後を比較表示できる機能がつきましたがこれは便利ですね。また、ピン画像との比較とはどういった機能ですか?

松山:セレクト編集画面のプレビュー機能ではまず、編集前後の比較画面で、従来は編集前後を別ウインドウで表示していましたが、新たに同じ画面を左右または上下に分割して表示する機能を追加しました。

 また、今回新たに2つの画像を比較表示する機能も追加しました。これは、最初に2枚の異なる画像を比較して、残しておきたいほうを「ピン設定」するとその画像がピン画像となって固定され、もう1つの画面に次の画像を順次表示して比較できます。これは、比較してよいほうを残す「勝ち抜きセレクト」を行う場合に便利な機能です。

2枚の画像を見ながら選んでいける「勝ち抜きセレクト」機能

――ピン画像またはフラグ画像を拡大して一方を動かすと、もう一方はシンクロして動かないのですか?

松山:メニューから「プレビュー」→「プレビュー画像の表示位置を同期」をチェックして頂ければ左右の画面をシンクロさせて動かすことができます。同様に「プレビュー画像の表示倍率を同期」をチェックすると左右の画面の表示倍率がシンクロします。

――比較画面でプロパティを表示すると、調整項目が赤字で表示されますが、これは現像後のExif情報に反映されますか?

松山:DPPでは、仕様として撮影時の情報を表示しているので、撮影後の調整結果をExifデータとして表示することはできません。

画像情報は調整した項目が赤く表示されて分かりやすい。調整後の値はExifデータには反映されない

――ホワイトバランス機能の改善点はありますか?

杉森:ホワイトバランスの微調整機能ですが、従来は色あいと色の濃さを数値または円形の色度図で指定する方式でしたが、カメラのホワイトバランスの微調整機能と同じものを採用し、使いやすくました。また色温度指定する場合の色温度の数値が従来の100K単位から10K単位に細かくなっています。

ホワイトバランス設定がカメラと同じXYのカラーマップで行える

――JPEG画像にも「オートライティングオプティマイザ」が適用できるようになったのはどうしてですか? 画像は劣化しませんか?

杉森:多少の画質劣化は伴うと思いますが、できないよりはできたほうがお客様の利便性につながると考え採用しました。

――JPEG画像ですからダイナミックレンジが広がることはないですよね。

杉森:それはもちろんありません。オートライティングオプティマイザの効果を最大限に発揮するには、なるべく撮影時にお使い頂くことをお勧めします。

――デジタルレンズオプティマイザのレンズ補正データは、Ver.3を入れていたとしても、Ver.4ではもう1度登録する必要がありますか?

松山:お手数ですが、もう1度ご登録頂く必要があります。

ユーザーインターフェースも一新

――操作性の面での進化点はありますか?

松山:Ver.3までは、メイン画面の上部に画面の切換えボタンやツールボタンなどが一括表示されていて、使いにくい面がありましたので、例えば「スタンプ」や「トリミング」は、ツールパレットに移動させ、画面の回転機能はチェックマークやレーティングなどとともに画面の最下層にまとめました。

 これによってメイン画面の上部のツールバーには「セレクト編集」や「クイックチェック」などよく使う項目にボタンを絞り、新規に「EOS Utility 3.0」と連携して動作する「リモート撮影」の項目を追加して、よりスムーズな使用感が得られるように工夫しています。

 また、メイン画面の下部に、サムネイルのサイズやプレビュー方法の選択ボタンなどを配置したプレビュー制御パネルを配置しました。以前は上部にあった全選択、全解除ボタンもこの位置に移動しています。

 念願のフィルター機能もここで実現しています。フィルター機能はチェックマークやレーティングの数、拡張子をそれぞれ個別に選択/解除できます。例えばレーティングが2以下の画像だけを表示したり、JPEG画像だけを表示させたりもできます。

 実は、使い勝手を良くする意味でも、先ほどの32bitと64bitの違いが出てきます。例えばスタンプツールの場合も、Ver.3の場合は別の画面が立ち上がって処理していたのですが、Ver.4では今見ている画面で直接画面を修正することができます。このようなちょっとした機能の実現にも32bitであることが足かせになってしまう部分がありました。

 Ver.3から移行すると、最初は多少戸惑うこともあると思いますが、すぐに慣れますし、使いやすさを実感して頂けると思います。

――セレクト編集画面について、セカンドウィンドウが4枚まで開けますが、どういったときに活用すると良いのですか?

松山:これは複数の同じカットを選択して、例えば被写界深度の違いやピントの状況を比較したい場合など、セカンドウインドウで複数箇所を拡大表示しておけば、コマを送るだけで拡大箇所の違いがすぐにわかって便利です。

1枚の画像の複数箇所を拡大してチェックできる

――100%表示でのセレクト作業の高速化とありますが、セレクト編集画面の表示が100%表示のまま次のコマに送れるということでしょうか?

松山:これはセレクト編集画面の表示だけではなく、クイックチェックツールを使ったセレクト作業も含みます。特にクイックチェックツールの100%表示速度は大幅に改善していますのでぜひお試しください。

従来はセレクト編集画面で100%表示する場合RAWデータの全領域を現像して表示していましたので、100%表示のままコマを送った際、非常に表示に時間がかかりました。しかし、今回は100%で表示している部分付近を現像して表示できるようにしましたので、次のコマに送った場合でも高速に表示できます。

――スクロールすると時間はかかりますか?

松山:ほんの一瞬表示が遅れますが、気にならないレベルに仕上げられたと思います。

増田:全体の現像をやり直すわけではありませんし、一部分の現像を行うだけですから多少位置が変わっても比較的高速に表示できます。

 従来は処理が全部終わってから次の処理を行うという考え方でしたが、64bit処理でいろいろなことができるようになったこともあり、できるだけ余分な処理はしないという方向で再設計していますので、従来より速度改善している部分があるということです。

――ユーザーインターフェースのその他の進化している部分があれば教えてください。

松山:まず多機能プレビュー機能を挙げておきたいですね。メニューから「ツール」→「プレビュー画面表示の設定」で「多機能プレビュー」機能をチェックしますと、プレビュー画面の表示機能を変更できます。

 例えば、通常はメイン画面でサムネイルをダブルクリックするごとに1枚のプレビュー画面が開き、複数の画面を開くと枚数分のプレビュー画面表示されますが、多機能プレビュー機能を使うと次へ次へと順にコマ送りすることができますし、セレクト画面同様比較表示ができたりします。

 それから、新しいヒストグラム機能も挙げておきたいですね。輝度だけを表示させることができますし、RGB個別、輝度とRGB個別、RGB重ねての各表示が可能です。また、ヒストグラムだけを独立して表示できるほか、ツールパレットにドッキングして表示させることもできます。

さまざまなヒストグラムの表示を切り替えて使える

リモート撮影も使いやすく

――DPP 4.0のツールボタンに、リモート撮影が加わって格段に連携しやすくなりましたね。

松山:先ほどのセレクト編集画面と同様、リモート撮影でも比較画面で「勝ち抜きセレクト」をしながらリモート撮影を行うことができるようになりました。

リモートライブビューで勝ち抜きセレクトをしながら撮影できる

――「EOS Utility 3.0」の進化点を教えてください。「テスト撮影」がなくなったくらいしか違いがわかりませんでした。

松山:まず起動画面ですが、従来はリモート撮影とカメラの設定が一緒のボタンになっているなどちょっとわかりにくかったのですが、項目を「画像をパソコンに取り込み」、「リモート撮影」、「カメラの設定」と目的別にシンプルに分けました。「リモート撮影」の機能そのものは従来とほぼ同じですが、「DPP 4.0」と連動可能な点が従来と異なり、使いやすくなっています。

増田:基本的にはカメラの機能を踏襲してリモート撮影するアプリケーションなので、2004年の「EOS Utility」の誕生時とそれほど変わっているわけではありませんが、その後追加されたメニューやウインドウなどは整理統合しています。

 新しい機能としてはライブビューウィンドウにおけるグリッドの間隔を自由に設定できるようになっている所ですとか、ご要望のあった部分は改善するようにしています。

リモートライブビューのグリッドは本数や間隔を自由に設定できる

 また、機能の階層をできるだけシンプルにして、最小限のクリック数で設定変更できるように再設計して改良しています。例えば、カメラの設定をしたいだけでも従来は一旦リモート撮影画面を経由してカメラの設定を行っていましたが、直接カメラの設定画面に移行できるようになっている部分などが違います。

――EOS Utility 3.0も、対応機種は現行フルサイズ機のみになるのでしょうか?

松山:その通りです。

―インタビューを終えて― 対応機ユーザーは早々に導入の検討を

RAW現像ソフトに対する各カメラメーカーの対応はまちまちで、キヤノンのように自社製の高機能RAW現像ソフトを無償提供しているメーカーは意外に少ない。多くの場合、自社製RAW現像ソフトがあっても高機能なものは有償であったり、無償RAW現像ソフトがサードパーティメーカーのOEMであったりする。それゆえ、高価なデジタル一眼レフを購入してもRAW現像ソフトが別売りであれば、ちょっと損した気分になるし、サードパーティ製のRAW現像ソフトが付属していても仕上りがどうしても他社と似通ってしまって、新鮮味が薄れてしまうのが実状だ。

キヤノンは、「RAW現像ソフトを提供するのはメーカーの責任」と言うが、ここ10年にわたって一貫して「DPP」という高機能な自社製のRAW現像ソフトを無償で提供し続けてきた姿勢は称賛に値すると思う。しかも、2012年には交換レンズの収差補正に革命的な効果をもたらした「デジタルレンズオプティマイザ」をDPPに組み込み、そして今回のVer.4への進化と、さらなる高機能化へ進みつつあるのだからなおさらである。

ところが、今回のDPP 4.0では、対応機種が現行の35mmフルサイズ機に限られたことから、さまざまな憶測をよんでしまった。ネット上では、対応の4機種には特別なデータが含まれているのでは? とか、対応機以外は切り捨てられるのか? といった疑問がささやかれた。しかし、インタビューで明らかになった通り、対応機種が限定されたのはDPP 4への最適化に時間がかかるためであり、将来的にはほとんどの機種に対応する予定ということで安心された方も多いと思う。

それともう1つは、64bit版の最新OS以外は対応しないと言う敷居の高さだ。旧ソフトとの互換性を確保するため、あえて32bit版のOSを使用しているという方もたくさんおられると思うが、快適な動作を確保するため64bit版に限定したという説明は、納得のゆくものだった。仮に、要望が多くて32bit版に対応したとしても、動作が重くなってしまうのならRAW現像ソフトの将来を見越せばふさわしくないのは明らかだろう。

筆者の場合もご多分に漏れずDPP 4.0の導入前にOSのバージョンアップからはじめる必要があったが、結果的には動作が大幅に快適になったので正解であった。現行フルサイズ機のユーザーには早々にDPP 4.0の導入を検討することをお勧めしておこう。(杉本利彦)

杉本利彦