インタビュー
ライカM10発売記念・ライカカメラ社CEOインタビュー
M型の若者人気 フォトキナへの期待 ファーウェイとの技術提携
2017年2月2日 07:00
「ライカM10」の製品発表に併せ、ドイツのライカカメラ社CEOのオリバー・カルトナー氏にインタビューする機会を得た。話題は現在のライカにおけるM型カメラの位置づけに始まり、ライカカメラ社が考えるコンシューマー向けイベントのあり方、インスタントカメラ「ライカ ゾフォート」の人気や、ファーウェイとの協業など多岐にわたった。
カルトナー氏は2015年4月に同社CEO就任。同社以前にはマイクロソフト、エレクトロニック・アーツ、ナイキといった大企業を経ている。カメラに近いところでは、ソニーでデジタル一眼レフカメラやハンディカムのマーケティングを担当していたこともある。今回のインタビューでは、カルトナー氏の考える「ライカが取り組むべきこと」のビジョンがより明確化されたことが感じられた。
M型ライカは最重要。若者がスマートフォンの次に手にするカメラにも
——現在のライカカメラ社はM型をどう位置づけていますか?
ライカのポートフォリオで一番重要な製品です。コアであり、伝統あるポルシェ911のような存在で、M以外の製品は全て「Mに対してどういう意味があるのか」という部分を評価しながら進めていく必要があると考えているほどです。M型を発表するのは重要なことで、昨日の発表会(本インタビューは1月19日の発表会翌日に実施)はうまくいきました。
——国によってM型の売れ行きに違いはありますか?
特にアジア(日本と中国)で、若い世代がM型カメラに興味を持って使っています。手に入れやすいライカM6(1984年登場の露出計入りフィルムカメラ)やライカM8(2006年登場のMデジタル初号機)に始まることが多いですが、これは他の地域ではあまり見受けられない傾向です。M型のほかにはライカQの人気が高いですね。
我々は「これからは若者にフォーカスしなければいけない」と議論してきましたから、こうした現状を"ライカは若い人の市場にもかなり入っていけている"と受け止めています。スマートフォンで写真に興味を持った若い人がいて、スマートフォンもそれはそれで素晴らしいデバイスですが、写真に関しては限られた機能しかありません。そこで「じゃあカメラを買おう」というときの若いユーザーの選択肢には"真ん中"がなくて、システムカメラにステップアップするならライカ、ライカを買うならM型、という流れで興味を持つ人が増えてきました。
今はライカM8やライカM9(2009年登場のライカ判フルサイズMデジタル)の中古が買いやすいので、これからの若いユーザーに買ってもらえるものが増えてきました。うまく回り始めてきたと思っています。
——中古市場もライカカメラ社の商機と考えているのですか?
製品をとても長いサイクルで考えています。ライカが新しい製品を開発するときには、すでに4〜5年後は中古市場、20年後にはオークションに出る、という前提で考えています。一般的な製品のプロダクトサイクルは3カ月ですが、ライカは20年です。
現在は年に2回「ロードマップ検討会」を実施していて、各商品が将来どういう意味を持ってくるか、常に検討しながらロードマップを考えています。これが正しかったかどうかは20年後にわかります。
私が2年前にライカカメラ社へ入ったときには、「ライカのお客さんは年を取り過ぎている」と外から言われました。なのでそれを変えたかったし、うまくいっていると思います。若いM型ユーザーは過去60年間でM型ライカを使ってきた方々とはまた違うと思いますし、より広げていきたいです。
フォトキナのあり方を考えるライカ。近年は自社イベントを活用
——ライカM10は、もしかして昨年のフォトキナでも出せたのではないですか?
2つの答えがあります。いままでのライカは、新製品が発売されても数量や品質が足りないとよく言われてきました。ですから社内のメンバーには「約束は守らなければならない」と、発売日を決めたら品質も数量もそこに合わせて出すように強く言いました。私がCEOになってから発売されたライカQやライカSLでは、それができたと考えています。
もうひとつは、必ずしもフォトキナという場に満足してない点があります。開催は2年に1度ですし、コンシューマーから見て魅力的ではありません。なので今回は出展規模を減らしました。しかし、意味があると思っている限りは今後も出展していきます。フォトキナのあり方については、カメラ業界や運営側ともよく話をしています。
じゃあ魅力的なショーとは何かというと、ラスベガスのCESやケルンで開催されるゲームショウが例に挙げられると思います。現在ライカは内部で開催するイベントの魅力や発信力を高められているので、フォトキナのような外部のプラットフォームを使わず、自分達のイベントを活用したほうがいいのではないかと考えました。
去年のフォトキナでは、まだ商品にフォーカスした展示という印象を受けました。商品を見るだけならメディアマルクト(ドイツの家電量販店)に行ったほうが早いので、あくまでカメラは道具であり、これからは写真について評価されなければいけないのではないかと思います。なので、フォトキナというイベントを魅力的にすることに関しては、ライカギャラリーの展示などを通じてライカも参画していくと思います。
ライカSLはプロ向けに注力。ゾフォートは長期的な定着を目指す
——ミラーレスのライカSLやライカTLは、当初の想定ユーザーに届いていますか?
YESとNO、それぞれがあります。ライカTL(APS-Cミラーレス)はコンセプトをよりはっきりさせていこうと思っています。元々はスマートフォンなどと連携できる"コネクティビティ"のあるカメラという位置づけでしたが、究極的にはスマートフォンの機能が入ったカメラにしなければいけないと思いました。それを実現できそうなアイデアもあります。
ライカSL(プロ向けの35mmフルサイズミラーレス)については、商品の評価は高いのですが、まだレンズが揃ってないことについてお言葉をいただいています。なので商品自体がよいと思ってもらえている点を踏まえて、プロに向けて販売していく仕組みを構築することが大事だろうと考えました。
例えばレンタルや分割払いといったサポートや、24時間/365日の交換サービスなどはまだありません。社内でも最近プロセールスの組織を立ち上げたので、そのような環境を作っていくことを考えています。ライカSLは成功すると思っていますし、それに向けて取り組んでいます。
——インスタントカメラのライカ ゾフォートはどうですか?
ゾフォートはお楽しみの製品(fun products)で、今後4〜5年という単位でやるかはまだわかりません。35歳以下のユーザーがかなり購入しているので、そこにアクセスできたことには大きな意味があります。ゾフォートのユーザーを見ていると、出てきたプリントをスマートフォンで撮りなおしています。今まででは考えられない楽しみ方で、スマートフォン世代にとって最初のアナログ体験ですね。
撮った写真が物理的にできあがって、20枚撮ったら20枚のプリントができるというのは若い人にとって凄いことで、反応が面白いです。カメラから物理的にプリントが出てくるし、出てきたら最初は真っ白なのに、少しずつ画像が現れて驚きます。いくらでもコピーできるデジタルカメラが当たり前の世の中、プリントがそれ1枚しかないのも驚きでしょう。全ての経験が若い人にとって新鮮だと思います。
ゾフォートに関して富士フイルムとは2年前から取り組みをはじめましたが、当時チェキは400万台、今は650万台という凄いマーケットです。
今後、ボディカラーを増やすことも検討しています。こうした製品はだいたいホワイトが売れますが、ゾフォートはミント、オレンジ、ホワイトの順番で売れています。 短期的ブームの商品でなく、長期的に定着するだろうと思っています。
ファーウェイなど、ライカブランドは技術供与の証に
——最近のライカはゾフォートだけでなくスマートフォンのHUAWEI P9など、今までのラインナップと違うことも始めています。今後はどう広げたいですか?
ファーウェイとは新しく研究所を設立していて、ライカの光学技術のノウハウをどのようにビジネスにより繋げていくかを考えています。今後、自動車には20個ぐらいのカメラが搭載されると思いますし、そこには光学設計のノウハウが必ずしもないと思うので、そこでライカのBtoBビジネスを広げる事を考えています。
ブランドのライセンスは今まで何度かやってきましたし、やりたいという提案もたくさん受けていますが、それはこれから減らしていこうと思っています。ファーウェイの製品は単なるライセンスではなく、ライカの技術を供与している表示としてのライカブランドです。ファーウェイは通信機器をやっているメーカーなので、ライカにないところを補える重要なパートナーだと考えています。