写真展レポート

星野道夫の“44年の人生とその旅”に触れる、写真展「悠久の時を旅する」

東京都写真美術館で2023年1月22日まで

春のアラスカ北極圏、群れにはぐれてさまようカリブー(展示作品より)

漠然とあった北の自然への憧れが、1枚の写真から動き出した。今年生誕70年を迎えた星野道夫の写真展「悠久の時を旅する」が東京都写真美術館で始まった。会期は2023年1月22日まで。

1996年8月、カムチャツカ半島での取材中に不慮の事故で亡くなって26年が経ったが、今も彼の作品や著書は新たなファンを生んでいる。始まりは古本屋で手に取った洋書『ALASKA』に載っていたエスキモーの村の写真だ。

「写真を撮ったことがなかった彼が、アラスカと関わるために写真家になることを選んだ」と星野道夫事務所代表 星野直子氏は話す。野生動物たちの生活を追う中で、その地で暮らす人々とつながり、彼らが伝承してきた創世神話を知った。本展では彼が残した写真と資料とともに44年の人生とその旅を再現する。

星野さんが「最も印象深い1枚」を問われて選んだ写真。テントが吹き飛ばされそうな悪天候の中で、外を見るとカリブーの群れが移動していた

改めて写真を見ると星野さんが時間をかけて被写体を観察していたことと、絶妙な瞬間を捉える技量を感じる。

「どうしたらクマにあれほど近づいて撮れるかを問われた時、彼は『クマと一緒に呼吸をするんだ』と答えていました」

動物の撮影では接近した写真に目が行きがちだが、星野さんの写真は広角で彼らの住む世界を俯瞰する視点が巧みで、観る者をその世界に引き込んでいく。

1993年、ハントリバーを遡る旅をした。星野さんがこの風景を何枚も撮影していた姿を印象深く覚えていると直子さん。約30年後、NHKのクルーが同じ場所に行くと、全く違う光景になっていたそうだ

この会場では星野さんが愛用していた「フジパノラマG617プロフェッショナル」が初公開される。今年5月に自宅から発見されたもので、装填されていたフィルムにはホッキョクグマが収められていた。

今年12月、NHKで星野道夫の特別番組が放映予定。その収録をきっかけに自宅を整理した際、このパノラマカメラが見つかった
写真展会場の様子

展示作品(一部)

アラスカの原野に生きる狩猟民族の古老ピーター・ジョン
クジラの肋骨が立つ浜ロシア、チュコト半島に近いイティグラン島
ホッキョクグマ カナダ、ハドソン湾
ホッキョクジリス
ワイルドストロベリーの葉に初霜がおりる
アルペングロウ(山頂光)に染まる夕暮れのデナリ(マッキンレー山)デナリ国立公園
ロシア、チュコト半島 1996年

星野道夫写真展「悠久の時を旅する」

会場

東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

会期

2022年11月19日(土)~2023年1月22日(日)

開催時間

10時00分~18時00分

休館日

毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(12月29日~1月1日、1月4日)
※12月28日、1月2日、1月3日は臨時開館

入館料

一般:1,000円(800円)
学生:800(640円)
中高生・65歳以上:600円(480円)
※( )内は同館の映画観賞券提示者、年間パスポート提示者、目黒区在住者、各種カード会員割引の利用料金

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。