写真展レポート

GOTO AKI写真展:terra

独自の視点と表現で捉える風景写真

GOTO AKIさん。会場のキヤノンギャラリーSの前で。

風景写真家・GOTO AKIさんの写真展「terra」が東京・品川のキヤノンギャラリーSで開催中だ。会期中はトークショーも行われ、展示と同名の写真集も発売中。GOTOさんが在廊中であればその場でサインももらえる。

展示されている写真は、主にここ2年の間、GOTOさんが日本国内で撮影したもの。その多くは観光などで誰でも入れる場所で撮影した作品だという。

場の要素を“翻訳”して伝える

だが展示されている写真は、何が写っているのか、どこで撮ったものなのか、一見しただけではわからない写真も多い。それでも不思議とその作品に見入ってしまう魅力があった。その理由は、GOTOさんの独特な視点で捉えた作品が写されているからだろう。

「私は写真を撮るときに『場所』という属性は剥ぎ取っています。展示の説明にもあるように、光・時間・色・造形・音・気温・匂い・風という、要素を見て撮影しているのです。写真というのは、視界には立体的に見えているものを平面に落とし込むこと。私はそれは『翻訳』だと思っています」

吊り橋の上から撮影。ギャラリー内でこの写真を離れて見た時と近づいて見た時の見え方は印象が違う。

空間づくりにも徹底したこだわりが

そしてその世界観を作り出すための演出にも、相当なこだわりを感じる。ギャラリーの中は外からの光があまり入らず、黒い壁に白い額装が施された写真がより際立つ。館内に流れている音楽は作曲家の高橋英明氏が手がけ、今回の展示写真をすべて見ながら作曲したものだそう。

また、レイアウトもこだわり抜いている。GOTOさん自らが約1/36サイズのジオラマを作り、そこに小さく印刷した写真を飾って、スマートフォンのカメラを突っ込んで「擬似鑑賞体験」。どんなレイアウトにして、どの写真をどんな順番でどれくらいの大きさで並べるのか、考え抜いたという。

「芸術作品には鑑賞距離というものがあり、横幅が1mの写真は1m離れて、横幅が2mの写真は2m離れて見るのが適正距離だと言われています。しかし今回のレイアウトは、バラバラな鑑賞距離で見る設計にしました。写真を見る距離によって見方が変わり、1枚の写真でいろいろな見方をして、見る人の心が揺らぐような展示にするよう意識しました」

白浜海岸の神社で撮影した一枚。波が岩にぶつかって水しぶきが舞ったところを、超高速シャッターで捉えた。

タイトルやキャプションは必要ない

ギャラリー自体の世界観を作り込む一方で、個々の写真にはタイトルもキャプションもない。それはすでに写真にメッセージを込めているからだ。

「『terra』という個展のタイトルがすべてを表しているので、タイトルとキャプションは必要ないんです。写真にメッセージを込めているので、さらに何かを持たせる意味はないんですすよね」

「一方で、この写真を見て何を感じるかは人それぞれです。例えば同じ歌を100人が聞いたとしたら、それぞれが自分たちの思い出や経験と合わせて感情移入していき、『いい』と思う理由もさまざまです。芸術作品は、世に出たら鑑賞者の心の中に入り、それぞれとの感情と結びついて初めて完成します。想像する余白は残しておきたいんです」

今回の展示でもっとも大きな写真。長い回廊の一番奥に展示されており、初見は鑑賞距離がとても長くなる。

筆者がギャラリーに入って最初に抱いた感想は「美術館みたい」。荘厳な雰囲気に包まれ、なるべく物音を立てないように静かに鑑賞した。これまでいくつかの写真展を見てきたが、これほどまでにこだわり抜き、世界観やメッセージが明確に練られている展示も少ない。一方で、そのメッセージをどう受け取るかは自分次第という、主張と優しさが同居するような不思議な空間だった。

風景の在り方、写真の捉え方がまったく変わるような展示のように思う。写真に行き詰まったり、新しい表現を模索したりしている方は、ぜひ足を運んでみてほしい。

展覧会概要

会場

キヤノンギャラリーS
東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階

開催期間

2019年1月19日(土)〜3月4日(月)

開催時間

10時00分〜17時30分

休廊日

日曜日・祝日

トークイベント

日時

2月2日(土)13時30分〜

会場

キヤノンホール S

タイトル

「写真を読む」

ゲスト

池谷修一(写真集「terra」の編集者)、三村漢(アートディレクター)

申込方法

要事前申込(先着申込順、参加無料)
写真展告知ページ上の「お申込みフォームへ」より申し込む。

ギャラリートーク「写真を聴く」

日時

2月9日(土)13時30分〜
予約不要

会場

キヤノンギャラリー S

ゲスト

高橋英明(音楽家)

ギャラリートーク「写真と言葉」

日時

2月16日(土)13時30分〜
予約不要

会場

キヤノンギャラリー S

ゲスト

石原大次郎(株式会社電通クリエーティブX・コピーライター)

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。