写真展レポート
GOTO AKI写真展:terra
独自の視点と表現で捉える風景写真
2019年2月1日 12:00
風景写真家・GOTO AKIさんの写真展「terra」が東京・品川のキヤノンギャラリーSで開催中だ。会期中はトークショーも行われ、展示と同名の写真集も発売中。GOTOさんが在廊中であればその場でサインももらえる。
展示されている写真は、主にここ2年の間、GOTOさんが日本国内で撮影したもの。その多くは観光などで誰でも入れる場所で撮影した作品だという。
場の要素を“翻訳”して伝える
だが展示されている写真は、何が写っているのか、どこで撮ったものなのか、一見しただけではわからない写真も多い。それでも不思議とその作品に見入ってしまう魅力があった。その理由は、GOTOさんの独特な視点で捉えた作品が写されているからだろう。
「私は写真を撮るときに『場所』という属性は剥ぎ取っています。展示の説明にもあるように、光・時間・色・造形・音・気温・匂い・風という、要素を見て撮影しているのです。写真というのは、視界には立体的に見えているものを平面に落とし込むこと。私はそれは『翻訳』だと思っています」
空間づくりにも徹底したこだわりが
そしてその世界観を作り出すための演出にも、相当なこだわりを感じる。ギャラリーの中は外からの光があまり入らず、黒い壁に白い額装が施された写真がより際立つ。館内に流れている音楽は作曲家の高橋英明氏が手がけ、今回の展示写真をすべて見ながら作曲したものだそう。
また、レイアウトもこだわり抜いている。GOTOさん自らが約1/36サイズのジオラマを作り、そこに小さく印刷した写真を飾って、スマートフォンのカメラを突っ込んで「擬似鑑賞体験」。どんなレイアウトにして、どの写真をどんな順番でどれくらいの大きさで並べるのか、考え抜いたという。
「芸術作品には鑑賞距離というものがあり、横幅が1mの写真は1m離れて、横幅が2mの写真は2m離れて見るのが適正距離だと言われています。しかし今回のレイアウトは、バラバラな鑑賞距離で見る設計にしました。写真を見る距離によって見方が変わり、1枚の写真でいろいろな見方をして、見る人の心が揺らぐような展示にするよう意識しました」
タイトルやキャプションは必要ない
ギャラリー自体の世界観を作り込む一方で、個々の写真にはタイトルもキャプションもない。それはすでに写真にメッセージを込めているからだ。
「『terra』という個展のタイトルがすべてを表しているので、タイトルとキャプションは必要ないんです。写真にメッセージを込めているので、さらに何かを持たせる意味はないんですすよね」
「一方で、この写真を見て何を感じるかは人それぞれです。例えば同じ歌を100人が聞いたとしたら、それぞれが自分たちの思い出や経験と合わせて感情移入していき、『いい』と思う理由もさまざまです。芸術作品は、世に出たら鑑賞者の心の中に入り、それぞれとの感情と結びついて初めて完成します。想像する余白は残しておきたいんです」
筆者がギャラリーに入って最初に抱いた感想は「美術館みたい」。荘厳な雰囲気に包まれ、なるべく物音を立てないように静かに鑑賞した。これまでいくつかの写真展を見てきたが、これほどまでにこだわり抜き、世界観やメッセージが明確に練られている展示も少ない。一方で、そのメッセージをどう受け取るかは自分次第という、主張と優しさが同居するような不思議な空間だった。
風景の在り方、写真の捉え方がまったく変わるような展示のように思う。写真に行き詰まったり、新しい表現を模索したりしている方は、ぜひ足を運んでみてほしい。
展覧会概要
会場
キヤノンギャラリーS
東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階
開催期間
2019年1月19日(土)〜3月4日(月)
開催時間
10時00分〜17時30分
休廊日
日曜日・祝日
トークイベント
日時
2月2日(土)13時30分〜
会場
キヤノンホール S
タイトル
「写真を読む」
ゲスト
池谷修一(写真集「terra」の編集者)、三村漢(アートディレクター)
申込方法
要事前申込(先着申込順、参加無料)
写真展告知ページ上の「お申込みフォームへ」より申し込む。
ギャラリートーク「写真を聴く」
日時
2月9日(土)13時30分〜
予約不要
会場
キヤノンギャラリー S
ゲスト
高橋英明(音楽家)
ギャラリートーク「写真と言葉」
日時
2月16日(土)13時30分〜
予約不要
会場
キヤノンギャラリー S
ゲスト
石原大次郎(株式会社電通クリエーティブX・コピーライター)