写真展レポート
荒木経惟展「花遊園」レポート
和紙の上に綴られる私的な楽園
2017年6月12日 12:18
今年、荒木経惟さんが開く個展は16を数える。今も新たな企画が持ち込まれているので、さらにこの数は増えそうだ。その一つである「花遊園」は唯一、インクジェットプリントを使い、和紙にその世界を定着させた。
荒木さんは数々のモチーフを並行して撮影しているが、今年、意欲的に取り組むテーマが「花と戯れて楽園を作り上げる」ことだ。日々、あらゆる被写体にカメラを向ける中、プライベートな空間で花とフィギュア、人形を組み上げ、シャッターを切る。新宿の片隅に、写真家の私空間が広がる。
荒木経惟写真展「花遊園」
会期:2017年6月10日(土)〜6月29日(木)
時間:10時半〜18時半(最終日は14時まで)
住所:エプソンイメージングギャラリー エプサイト(東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル1階)
「時間が微動していることを、最近、思うようになってきた」
シャッターを切っても時間は止まるはずはなく、写真の中で揺らぐ。荒木さんから最近聞いた言葉だと、本展キュレーターの本尾久子さんは話す。
写真によってはピントがずらされ、微妙にブレた状態で写し込まれているようだ。そうして少し曖昧さを漂わせた像は、和紙とのマッチングもあってか、緩やかに目に映る。
荒木さんがお気に入りの花屋が何店かあり、毎週、珍しい花を中心に持ち込まれる。もう一つの主役であり、優れたバイプレーヤーであるフィギュアたちは、荒木さんの仕事に関わるスタッフたちが持ち込むものだ。
荒木さんのお気に入りで、長い付き合いであるゴジラも随時、新顔が入り、何体もある。そして、彼は核戦争の申し子ではある。「荒木さんはメッセージ性を否定しますが、私はいつも写真から時代の風を感じます」と本尾さんは言う。
花とフィギュアたちと戯れ、花瓶に挿していく。その一つ一つは1週間、10日とそのまま置かれ、枯れて、朽ち果てていく頃、再度、カメラの前に立つことになる。
「今は年寄りの時代。老いていくその変化を、自信を持って発表していくべき。歳を取らないと分からないことはたくさんある」
現在、東京・六本木のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで開催中の「写狂老人A 17.5.25で77齢 後期高齢写」に寄せた荒木さんのコメントだ。
撮影は今もフィルムを使う。花遊園はペンタックス67か645で、フィルムはフジクローム。カラーはポジをスキャンし、エプサイトに併設されたプライベートラボで、インクジェット用の阿波和紙「楮 厚口 白」にプリントした。
モノクロは8×10判のプリントをスキャンして出力している。
特別な画像処理はほとんど行なわず、フラットにスキャンしたデータを忠実に再現したという。
和紙は昨年秋、東京・原宿のアートスペースAMで開いた写真展「淫秋 ― 般若心經惟」で試みたそうだ。「般若心経を書で書きたい」との欲求が起こり、そこにモノクロ写真を合わせた。
大病を経て、荒木さんの中で、写真に対するエネルギーがこれまで以上に強くなっているという。
「まさに寸暇を惜しまずという感じで撮っていて、そのすべてが作品として成立している」と本尾さん。
バルコニーから空を撮り、眼下に見える道を捉え、移動の車中からもシャッターを切る。
人生は日々の生活の中にあるもので、その傍らで常に死は並走する。その存在をいかように見るかで、この世の見え方は大きく変わる。喜寿を迎えた荒木さんが遊ぶ花遊園に、何を思うだろうか。