写真展

鷲尾倫夫写真展「巡歴の道 オキナワ」

(ニコンサロン)

2011年1月、作者は沖縄の写真家、伊志嶺 隆氏の回顧展に呼ばれたことをきっかけに沖縄の歴史を書物で触れた。そこで作者は、沖縄を遠方から見ていたのか、あるいは背を向けていたのか、全く沖縄に対し知識がなかった事が解り、今までの自分の言動を恥じ素直に受け止めた。その体感が沖縄に心を寄せた。

沖縄の現状は今も問題が山積され、カメラを持つ前の準備を心掛けるも絞り切れず、魚の骨がのどに引っかかったまま海を渡った。太平洋戦争末期、住民を巻き込み、ありったけの地獄を集めた沖縄。米軍上陸地点、慶良間諸島から作者の沖縄が始まり、本島は北の本部から南は糸満と歩いた。

混沌と動く心の内を、よそ者の作者に語る高齢者との出会い、その体験談は想像以上に重くのしかかって来た。穏やかな朝陽の中で庭の畑で人参の収穫をしているオバーに挨拶すると、日本から来たのかと、手を休めた。

たわいない話で繋がり家に招かれ縁側に腰を据えた。そこで話題を変え、作者の知りたい問いを投げかけると、口を閉じてしまった。沈黙は作者を観察する目に変った。オバーは立ち、奥の間に消えた。暫くすると皿を持って戻って来た。その上には紅イモがあり、口に合うかねえと差しだした。作者は手がでなかった。オバーは目を閉じ、唐突に細い声で、「なんでえ~、私、生きているさあ~、みんな忘れたさあ~、人は目をつぶると何も見えなくなるはずなのに、私は逆にいろんな物が色付きで蘇ってくるさあ~。夜空に走る艦砲射撃は花火のようにきれいだったよ~、その火が途切れると身を起こし逃げるさあ~、目の前には傷つき倒れている人、人で一杯だったよ~」と云って手を合せた。小さな身体は小刻みに震えていた。オバーは作者の匂いでも嗅ぐように顔を寄せ、大きく息をつき、強い口調で、「人間、とことん追い詰められると、私が私でなくなり、とんでもない事をしでかすのさあ~。ぬすんだ生米(○○○○○○)、口の中でふやかし、周囲を気にして噛む味はさあ~」と云い目頭に手を当てた。「私、布団に入っても目はつぶらないよ、怖いからさあ~」と云い、目を薄く開けた。濡れた目は眩しそうに作者を見据え、やわらかい声で、「カラスがこないねえ~」と目の前の山を見上げた。「そこに魚の煮付けがあるのにさあ~、カラスはオバーの話し相手さあ~」と笑った。

長時間揺れる心で話す生の声は歴史本とは異なり、また頭からの言葉と腹底から吐き出す言葉の違いを作者は身をもって実感させられた。

別れを告げると、イモを持たされた。すぐオバーの話を書留めた。方言を極力避け、根気よく話してくれたオバーの心情に心打たれ、オバーの心の傷を、作者は心に刻んで歩き続けた。

モノクロ47点。

(写真展情報より)

  • 銀座ニコンサロン(ニコンプラザ銀座内)
  • 住所:東京都中央区銀座7-10-1 STRATA GINZA(ストラータ ギンザ)1・2階
  • 会期:2013年8月4日(水)~2013年8月27日(火)
  • 時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • 休館:会期中無休

  • 大阪ニコンサロン(ニコンプラザ大阪内)
  • 住所:大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • 会期:2013年9月5日(木)~2013年9月11日(水)
  • 時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • 休館:会期中無休

(本誌:武石修)