写真展

鷲尾倫夫写真展「巡歴の道 オキナワ II」

(ニコンサロン)

日本・沖縄の歴史に対し、無知ゆえに無関心でいた。其処から私の沖縄通いが始まった。沖縄の今、人々の日常生活に一歩踏み込み、一齣、一齣を拾い集め、悲しい時代、昭和の歴史全体が見渡せる写真を切り撮りたいと考えた。想像に応える写真、写真としての存在感があり、人々の心に落としたいと、視点をここに置き挑み続けている。

何回も足を運んでいる洞窟に意を決し、深夜に出向いた。入口まで来ると真暗闇だった。摺り足で階段を降りた。目の前の小川の水流音が不気味に響き、尖った神経が、激しい動悸に変わった。空気は湿っぽく重い、風がない、樹々の葉に覆われ空は隠れていた。目を凝らしあたりを見回すが何も見えない。身体は小刻みに揺れだし立っていられない。尻を地面に落としても呼吸の乱れからくるのか、体は治まらない。少しでも動くと足下で骨の折れるような音が全身を縮みあげる。逃げだしたかったが方向感覚を失っていた。恐怖感が心身に駆け巡り、体を丸め頭を両手で抱え、おでこを膝に置きじっとしているしかなかった。思考能力は働かなかった。瞼にうっすらと明るいものを感じ、目を開くと階段の上に薄い光が斜めに射していた。五時間余り洞窟を目の前にしていたはずなのに背を向けていた。多くの命を奪った聖地に我が身を寄せることで何か見えて来るのでは。しかし何も持ち帰ることは出来なかった。のちのち洞窟での体感は私を変えた。私に、私の在り方をみる貴重な時間だった。

今まで不躾に聞きにくい事を聞くのが、仕事と思いあがっていた。それ以来、高齢者たちの心に染み広がる傷口を切り開いて、塩をすり込む話を持ち出すことはなくなった。内なる傷を明かさないのは、我が身を守るためではないのかと、私は想像できるようになった。(鷲尾倫夫)

(写真展情報より)

会場・スケジュールなど

  • ・会場:銀座ニコンサロン
  • ・住所:東京都中央区銀座7-10-1STRATA GINZA(ストラータ ギンザ)1・2階
  • ・会期:2015年11月4日水曜日~2015年11月17日火曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

  • ・会場:大阪ニコンサロン
  • ・住所:大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • ・会期:2015年12月17日木曜日~2015年12月29日火曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

作者プロフィール

1941年東京都生まれ。60年愛知県国立高浜海員学校修了。60年東洋海運 (現・新栄船舶)に入社し、72年同社退職。73年日本写真学園研究科卒業。81年から「FOCUS」(新潮社)編集部専属カメラマンとして20年間在籍。83年日本写真学園主任講師になる。

写真展(個展)に、72年「東アフリカ・マガディン村の人々」「そのままで、君たちは」(以上新宿ニコンサロン)、76年「日々一生」、77年「寿町えれじぃ」、80年「冠婚葬祭」(以上銀座ニコンサロン)、81年「顔・エトセトラ」、(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン)、84年「ヨボセヨ」、86年「ヨボセヨⅡ」、89年「原色の町 ソウル84-88年」、91年「1977年-13年-1991年 エトセトラ」、94年「顔・エトセトラⅡ」、98年「韓国」(以上銀座ニコンサロン)、2003年「ソウル・シティ」(PLACE M)、04年「野球人」(ギャラリーコスモス)、07年「原色のソナタ」(PLACE M)、09年「写・写・流転」、10年「望郷・エトセトラ」(以上新宿ニコンサロン)、13年「巡歴の道 オキナワ」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン)、14年「THE SNAP SHOT」(JCIIフォトサロン)がある。

写真集に、90年『原色の町』(IPC)、00年『写真』、07年『THE SNAP SHOT』(以上ワイズ出版)、08年『原色のソナタ 1992~95 SEOUL』(PLACE M)がある。

受賞歴に91年伊奈信男賞特別賞、96年編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞がある。

(本誌:河野知佳)