イベントレポート

本格的なライティング技術が学べる「Profoto Academy」が開講

記念イベントに講師が来日 卓越したテクニックを披露

セミナー2日目の様子。左が講師のDavid Bichoさん。Profoto Academyの講師も務める。

プロフォト株式会社は、プロ写真家を招いてのライティングセミナー「Profoto Academy with David Bicho」を11月25日〜27日に開催した。本格的なストロボライティングが学べるとあって、3日間とも満席という盛況ぶりだった。ここではそのセミナーの一部を紹介する。

Profoto Academyとは?

今回のセミナーは、プロフォトの有料オンライン教育コース「Profoto Academy」の日本語字幕対応を記念して行われたものだ。本格的に学べると話題になっていたが、これまで英語だっため受講を諦めていた人も多いのではないだろうか? それが11月22日から順次日本語字幕に対応したということだ。

Profoto Academyのポイントは、機材の使い方を学ぶというよりもライティングそのものを学習できるという点だろう。筆者も早速受講したところ、講座内で使われている機材はもちろんプロフォト製だが、プロフォト以外のストロボでも同じように実践できる内容だと感じた。何度でも繰り返し見ることができるのもオンラインならではといえそうだ。

ちょうど、入門コースの「距離、方向、形 - ライティングの基礎講座」(2,800円相当)が無料で視聴できるキャンペーンが2019年1月21日まで行われているので、ライティングに興味がある人はアクセスしてみてはいかがだろうか。

ストロボ光を如何に自然光に馴染ませるか

リアルで行われたセミナーの話に戻るが、講師はProfoto Academyの「距離、方向、形 - ライティングの基礎講座」を担当した写真家David Bicho(デイビッド・ビショー)さんだ。

スウェーデン出身で、ハリウッドセレブなどポートレート撮影を得意としている。ちなみに、プロフォト製品のカタログ写真も彼が撮っているのだ。

David Bichoさん

セミナーは11月25日が座学、11月26日と11月27日がスタジオでのワークショップとなっていた(ワークショップは両日とも同じ内容)。

Bichoさんは長年ライティングに関する理論を積み上げてきたフォトグラファー。冒頭、写真のライティングには4種類あると説明した。

それは、

・自然光
・人工光
・自然光と人工光のミックス
・人工光のみで自然光のように見せる

である。

Bichoさんはこの中でも特に後者の2つを得意としており、自然光にストロボを加えても、あたかも自然光だけのような自然さの作品を例として見せてくれた。

資料提供:プロフォト株式会社

「影」の重要性

「自然光とストロボ光の融合」を演出するために欠かせないのが影である。この影が不自然だと自然光で撮ったようには見えない。

そこでまず、モデルに対してどのように影ができるのか確認することが大切とのこと。モデルの位置から光源をよく見れば、どこに影ができるのかを知ることができる。モデルの顔にどちら側から光を当てるのか。その違いによる「ショートライト」と「ブロードライト」という概念が示された。

モデルの顔がカメラに向かって斜めを向いている場合、鼻を中心として見える面積の少ない側にライトを当てるのが「ショートライト」。

資料提供:プロフォト株式会社

反対に広く見えている側を照らすことを「ブロードライト」という。

資料提供:プロフォト株式会社

ハリウッド映画ではショートライトが多用されるそうで、「モデルを綺麗に見せたいならショートライトが簡単」とのこと。一方のブロードライトは、アートのような雰囲気になるそうだ。

人物のライティングといえばよく聞くのが「レンブラントライト」。人物の斜め前で顔の45度程度上から照らす方法だ。

このとき、顔の影ができる半分において目の下に光の三角形ができるのが正しいレンブラントライトだそうだ。実際の絵画を見ると、レンブラントライトはほとんどがブロードライトとして使われているそうである。

さらにもう一つ紹介されたのが、「バタフライライト」だ。これは顔の正面上から照らしたもので、鼻の下に蝶のような影ができるためこう呼ばれる。

資料提供:プロフォト株式会社

昔のハリウッド映画でよく使われていたものだそうで、別名「パラマウントライト」ともいう。女優を美しく見せるライティングで、首に顎の影ができるため首のしわが隠れる効果もあるとのことだ。

影のエッジに着目

Bichoさんによると、ストロボ光を自然光のように見せるためには、影のエッジにある半影(penumbra)の部分がとても重要だという。この半影の幅を変えて影をシャープにしたり柔らかくしたりするには、ちょっとした機材の調整でできることを実演してくれた

資料提供:プロフォト株式会社

例えば背景にできるモデルの影を柔らかくするには、ソフトボックスを使うなどして光源を大きくする、モデルと背景を離す、光源をモデルから離すという方法があるとした。

影をシャープにしたい場合はこの逆をすれば良い。これらを応用すると、ストロボの光を黒い板で適当に遮って背景にグラデーションを作る、といったこともできるようになるとのことだ。

ちなみにソフトボックスは、回転させると光源の見た目の長さが変化するため、半影部分の印象が変わる。例えばソフトボックスを斜めにすると半影部分が柔らかくなる。

自然光の観察でインスピレーションを得る

質疑応答では、「どうやってオリジナルのイメージを得るのか?」という質問があった。

Bichoさんの答えは、

「自然界の光からインスピレーションを受けることが多い。カフェに行ったらその場の光がどう良いのか、悪いのかずっと見ている。ライティングが巧みな映画を見るのも良い」

というもの。

4時間近くにわたった座学では、これ以外にも光の反射、多灯ライティングの基本、色の問題などにも触れ、充実したセミナーとなった。プロフォト株式会社では今後も定期的にこうしたセミナーを開催する予定とのことなので、興味のある人はこちらも見逃さないようにしたい。

自然なライティングの実践編

続く2日目と3日目に行われたワークショップは各日20名という少人数制をとり、Bichoさんのライティングを間近で学べる機会となった。

「ライティングはできるだけ自然に見せることにこだわる」というBichoさんが用意したのは、キッチンとリビングでのポートレートとテーブルフォト(料理)という3つのシーンである。

Bichoさんが強調していたのは、ライティングは背景から作っていくということ。すなわち、人物のライティングは最後ということになる。

キッチンに差し込む自然光を活かしたライティング

1つめのシーンは、窓から自然光の差し込むキッチンに立つ男性モデル。まずシャッターを切ってみて、どのような光になっているのかを分析するところから始まった。全体の明るさはもちろんだが、テーブルや壁の反射がどのようになっているのかを明らかにしておくことも重要だそうだ。

「反射を強調した方が良いのか、または弱めるライティングが良いのかなどを検討していく」

続いて自然光の向きを考慮して、自然な形でモデルを照らす。この時はショートライトを採用した。このように窓と反対側から当てるとこの場合は不自然になる。

そして、ソフトボックスを使うことでモデルの影を柔らかくする。背景が不必要に明るくなりすぎると不自然さが出るので、モデルのみに光が当たるようにソフトボックスにはグリッドを装着した。

さらにストロボによってできる人物の服の影を和らげるため、リフレクターを外したProヘッド1灯をフィルライトとしてモディファイヤー無しで被写体と反対側に発光させた。

こうして出来上がったのがこの作品。

撮影:David Bicho

夜でも昼間のような光を作り出す

2つめはリビングのソファーに女性モデルが座るというシーン。

完成した作品を見ると昼間のようだが……

撮影:David Bicho

実は撮影したのは日が落ちてから。つまり、ストロボ光のみで昼間のように撮っているのだ。

このシーンもBichoさんのセオリーに沿って、背景からライティングを作っていく。奥の窓の外はすぐに隣のビルの壁。それを活用して隣の部屋からその壁に1灯を向けて窓を明るく見せている。

また窓から差し込む光を演出するため、戸の影をそこそこシャープにする必要がある。そこで、奥の部屋の角から手前に向かってバーンドア付きのストロボを使っている。バーンドアで上下の光を切って光線が広がりすぎないようにした。

ここで試写してみると、左のソファが暗いことがわかった。全体の明るさをそのままにソファだけを明るくするため、シート状のNDフィルターに穴を空けたものをストロボの前に置いて調整している。

Bichoさんはちょっとした明るさの違いにこだわり、微調整を繰り返していた。

続いてはモデルのライティング。左奥から太陽光が差し込んでいるイメージなので、モデルに対しても前方の左側からショートライトで光を当てる。手前をやや暗くするためにカポックで覆った。

このとき、大きめのソフトボックスを使うことで、背景で作り込んだライティングを壊さないようにするのがポイントだった。

自然光のような料理写真

最後シーンはテーブルの上の料理。これも自然光は入らない状態でストロボだけでの撮影となった。目指すのは、「晴れた日の窓辺で撮ったかのようなショット」(Bichoさん)。

ここではスタンドを使って真上から撮影する。これも例に漏れず背景となるテーブルや皿からライティングする。このケースでは、メインの被写体は料理そのものである。

完成した状態の作例がこれだ。

撮影:David Bicho

まずは、ディフューズしたストロボ光の前に板を置いてテーブルにグラデーションを作る。また、スポットで照射できるアタッチメント「Profoto スポットスモール」を付けたストロボをさらに用意し、ようじの影が長くなるように調整する。

また、レモンが明るすぎるとのことでシートのNDフィルターを適当に切って、レモンの前に置いて減光するといったテクニックも披露された。

そのあとでいよいよ食材の表面を照らすためにグリッド付きのストロボ(Profoto A1)を使い、角度などを微調整していった。

さらに、太陽光のきらめきを出すために1灯を追加し、その光をミラーで反射させて使っていた。非常に細かいライティングだが、1つ1つのプロセスを積み上げることで、狙い通りの作品になったようだ。

応用できる密度の高い技術の数々

第一線で活躍する海外の写真家にレクチャーを受ける機会は、さほど多くないのではないだろうか。とりわけBichoさんはとても話が上手で、大いに参加者の理解を助けただろう。

わかりやすさはリアルイベントならではだが、人によっては日程が合わなかったりや遠方からだと参加しにくいといった問題もあると思う。

冒頭でも紹介したが、そうした人にはぜひともProfoto Academyを覗いて欲しいと思う。ライティングの知識を深めたい人にとって大きな福音であるのは間違いないだろう。

制作協力:プロフォト株式会社

武石修

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。