デジタルカメラマガジン

7月号特集より「赤城耕一が独断と偏見で選ぶ50mmレンズ」を一部紹介

1950年代の名玉から最新のミラーレスカメラ用まで

独断と偏見で選ぶ50mmレンズ10選(写真・文:赤城耕一)

数ある50mmレンズの中には、歴史に残る名玉や、その後の開発トレンドを牽引するような一本がいくつか存在する。これまでに数多の50mmレンズに触れてきたレンズマニアックスでもある赤城耕一が、現行品から旧製品まで、特筆すべき製品、あるいは標準レンズを語るのに欠かせない50mmカテゴリーに属するレンズから10本を厳選。ここでは、そのうち5本を紹介する(編集部)。

全群繰り出しによる高性能化の実現「富士フイルム XF 35mm F1.4 R」

発売年:2012年 レンズ構成:6群8枚 絞り羽根枚数:7枚 最小絞り:F16 最短撮影距離:28cm 最大撮影倍率:0.17倍 フィルター径:52mm 外形寸法(最大径×全長):65.0×50.4mm 質量:187g

X-Pro1登場時に同時発売されたレンズだが、驚いたのはフォーカシングが全群繰り出しだったこと。筆者のように古い人間にとって、全群繰り出しのレンズは特に光学性能にこだわりのあるレンズに思えてくる。それはMTFの性能だけではなく、ボケ味も含め総合的な描写に期待できるということ。インナーフォーカシング全盛の世の中で、本レンズの立ち位置は特異なものかもしれないが、光の感じ方や抜けの良さに特異性を感じる。35mmの実焦点距離のため被写界深度が50mmよりも少し深く、開放絞りで至近距離からポートレート撮影をしても自然な描写になるのが良い。

クリアで抜けの良い描写に感心する。前後ボケの自然さもあり、立体感を感じさせる描写である。ただし、フォーカシングのスピードはインナーフォーカスのレンズと比較すると遅くなる
富士フイルム X-Pro2 XF35mmF1.4 R(53mm相当) 絞り優先AE(F2.8、1/220秒、-0.3EV)ISO 400 WB:オート

開放絞りから優れた描写で余裕のある高性能レンズ「OMデジタルソリューションズ OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」

発売年:2016年 レンズ構成:14群19枚 絞り羽根枚数:9枚 最小絞り:F16 最短撮影距離:30cm 最大撮影倍率:0.11倍 フィルター径:62mm 外形寸法(最大径×全長):70×87mm 質量:410g

マイクロフォーサーズ標準レンズの画角を、35mm判相当の焦点距離に当てはめるとレンズの実焦点距離は25mmになる。被写界深度が深く、大口径レンズでないと大きなボケが望めない焦点距離だ。そこでF1.2という大口径標準25mmレンズを用意することで大きなボケ味を得られるようにしたわけだ。レンズ性能はF1.2とは思えない優れたもので、開放絞りから完全な実用性能を誇り、撮影距離によって性能は変わらない。ボケ味もクセのない万能大口径標準レンズである。

絞りによる性能変化はないレンズのため、安心して開放絞りで使える。フルサイズの50mm F1.2よりも被写界深度は深いが、そのぶん自然な雰囲気に描写されるのでとても使いやすい。モデル:三浦まり
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(50mm相当) 絞り優先AE(F1.4、1/160秒、+0.3EV)ISO 200 WB:オート

旧来のガウスタイプを貫き通す伝統の味「キヤノン RF 50mm F1.8 STM」

発売年:2020年 レンズ構成:5群6枚 絞り羽根枚数:7枚 最小絞り:F22 最短撮影距離:30cm 最大撮影倍率:約0.25倍 フィルター径:43mm 外形寸法(最大径×全長):69.2×40.5mm 質量:160g

開放F1.8の50mmは、その昔、存在を軽んじられてきた。廉価で構成枚数が少ないことなどが理由だ。F1.2や1.4の標準レンズよりもボケは小さくなるが、F2.8やF4あたりの同じ絞りで撮り比べると、F1.2やF1.4などの高価なレンズより描写が優れている例は珍しくない。キヤノンは50mm F1.8というスペックのレンズを大事に考えており、EOS黎明期から用意している。ミラーレスのRFマウントになってもほぼ同じレンズ構成で存続させた。廉価で小型だが、その揺るぎない立ち位置には敬服する。

EF版で撮影。開放絞り近辺では線が太く多少のユルさはあるが、悪い印象はない。EOS Rシリーズではデジタルレンズオプティマイザをボディで適用すれば、収差補正が行われ描写は向上する
EOS R5 EF50mm F1.8 STM 絞り優先AE(F3.2、1/4,000秒、-1.0EV) ISO 800 WB:オート

現代でも色あせることがない解像力番長「ライカ ズミクロン 50mm F2」

発売年:1954年(Mマウントレンズとして。現行製品の「ライカ ズミクロンM F2/50mm」とは外観やレンズ構成が異なります)

『アサヒカメラ』の機材レビューページ「ニューフェース診断室」で、“解像力”のレコードを記録し、長い間記録が破られることがなかった伝説のレンズ。今ではレンズの優劣は解像力で判断されることはなく、コントラスト減少率を判断するMTFが主だ。それでもこの記録が日本におけるライカ用レンズの神話を産んだことは確かであろう。現在のデジタルのライカM10系カメラに使用しても、ビクともしない性能を誇る。きっちりと作り込まれたルックスの良さ、真鍮製鏡胴の存在感、優れた光学性能と、三拍子そろったモノとしての充実感。現代においても色あせない魅力を放つ。

古い設計だが、線の細さというより強さというべき再現性。デジタルのライカでも問題なくその本領を発揮する。ただし、コーティングの古さの関係でレンズ内に光が入るような条件ではハレっぽい描写になることもあるが、それを除けば現代でも通用する名玉だろう
ライカM10-R ズミクロン50mm F2 絞り優先AE(F2.8、1/200秒、-0.7EV)ISO 1600 WB:オート

標準レンズ=50mmは間違いか?「リコーイメージング HD PENTAX-FA 43mm F1.9 Limited」

発売年:2021年 レンズ構成:6群7枚 絞り羽根枚数:8枚 最小絞り:F22 最短撮影距離:45cm 最大撮影倍率:約0.12倍 フィルター径:49mm 外形寸法(最大径×全長):64×27mm 質量:155g

本レンズの前身であるsmc PENTAX-FA 43mmF1.9の登場は20世紀の最後の頃だと記憶しているが、このほどコーティングをHDに変えてリニューアルし、再登板を行った。標準レンズの焦点距離は、フォーマットサイズの対角線の距離に準じるとされているが、フルサイズではこの距離は約43mm。つまり、本レンズは標準レンズの定義をきっちりと守った「標準レンズ中の標準」の画角のレンズということになる。正直、超高性能を追求したものではないが、味わいのある1本に仕上がっている。やや厚みのある描写は、単純にオールドレンズをレトロな描写であると簡単に片づけてしまうのとは違う次元にあり、品格すら感じるわけだ。

フィルム時代のコンパクトカメラでは40mm前後の焦点距離のレンズが採用されていることが多かった。被写界深度が少し深いことで、記念写真やスナップで扱いやすいというのがその理由なのではないだろうか
PENTAX K-1 Mark II HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り優先AE(F8、1/1,000秒、-0.7EV)ISO 400 WB:オート
対角線の長さから考えると43mmが正解?

フルサイズの対角線距離は約43mmなのになぜ標準レンズは50mmなのか。諸説あるが、レンズのイメージサークルは円形なので36×36mmの正方形をカバーすれば良い。その対角線が50.9mmで50mmに近くなるという説もある。

続きは本誌で。赤城耕一セレクトの残り5本はこちら↓

・無限遠から至近距離まで安定した描写能力を持つ万能性「ニコン Nikkor-H Auto 50mm F2」
・使っていて楽しい開放F1.2レンズ「ソニー FE 50mm F1.2 GM」
・50mmを純正から交換したくなる光学性能「シグマ 50mm F1.4 DG HSM | Art」
・高性能50mmのトレンドを作り出した先駆け「コシナ ZEISS Otus 1.4/55」
・収差理論を覆すマクロと大口径の両立「コシナ ZEISS Milvus 2 50 M」

気になる方はデジタルカメラマガジン2021年7月号の特集「50mm A to Z」をご覧になっていただければ幸いです。