デジタルカメラマガジン

歴史的な作家の作風をプリセットで発見できるムックが発売

14種類のプリセット無料ダウンロードも

小社では9月29日に歴史的な写真家の作風をプリセット設定で再現・解説するムック『Lightroom&Photoshop プリセットコレクション 01 レジェンドフォトグラファー』を刊行しました。執筆は写真史やRAW現像に造詣の深い大和田良さんがつとめています。定価は税別2,700円です。

内容

本書は、モノクロプリントによる風景写真で知られるアンセル・アダムスやニュー・カラーの中心的存在であったジョエル・マイエロウィッツなど、写真表現の変遷を語るうえで欠かせない写真家たちの作風をプリセットによって楽しみながら学ぶことができる一冊です。

取りあげている作家は14名。購入者には、特典としてこれら作家のプリセットが無料でダウンロードしていただけます。プリセットはAdobe Lightroom Classic/LightroomやPhotoshopで利用可能です。

作家一覧(五十音順)
アドルフ・ド・メイヤー、アンセル・アダムス、ウィリアム・エグルストン、ウィリアム・クライン、エドワード・ウェンストン、エルンスト・ハース、ジョエル・マイエロウィッツ、ナダール、フランコ・フォンタナ、マン・レイ、ルイジ・ギッリ、ルーカス・サマラス、ロバート・アダムス、ロベール・ドマシー

目次より。年表形式になっており、各作家がいつごろの人物で、どのような社会背景で活動していたのかを知ることもできます

プリセットとは?

PhotoshopやLightroomといった写真編集アプリケーションは、写真の現像や管理のほか、色調・コントラスト・明るさなどを幅広く調整することができる反面、できることの幅が広いため“何をどう調整すれば自分の表現したいイメージに追いこめるのか”が難しいという側面があります。「プリセット」はそうした画像調整の難しさに対して、あらかじめ設定された調整項目をまとめることで、ボタンひとつで、その効果を反映できるようにした画像調整機能のひとつです。

プリセットをLightroom Classicに読み込んだ状態

RAW現像テクニックの集大成から学びとる

プリセットデータは、現像処理で利用する様々な調整項目をフル活用してつくられています。言い換えれば、このプリセットデータの調整ポイントを知るということは、同時に現像テクニックのツボを理解することにもなります。

誌面では各プリセットがどのような意図で設定されているのかを解説していますので、それぞれの写真家の作風を導き出すための勘所を理解しながら、各作家の作風を追体験していくことができるようになっています。

各作家の人物像や作風に関する解説もあります。代表的な作品とともに解説していますので、興味を持った写真家についてより深く学ぶこともできます
解説パートより。左が現像設定のポイント、右はユーザー向けの調整ガイド

また、巻末ではLightroom Classicの各調整項目の役割についても解説していますので、RAW現像のテクニックをさらに深めることもできるようになっています。

どんな表現ができる?

偉大な作家の作風をプリセットを通じて学ぶ。これが本書の最大の特徴ではありますが、プリセットを単体で楽しむのもアリ。その背景を知ることで表現意図をぐっと引き立てることもできると思います。

そこで、本書のプリセットをさっそく使ってみました。まずは、くすんだ青色のケーブル編みニットで、モノクロ系のプリセットを適用しています。

ストレート
SONY α7S / Voigtländer MACRO APO-LANTHAR 65mm F2 Aspherical / 絞り優先AE(F4・1/80秒・-1.0EV) / ISO 1250
ナダール
アンセル・アダムス
ウィリアム・クライン

ナダールとアンセル・アダムスのプリセットでは、どちらもウールの柔らかさが感じられる仕上がりになりました。色があったころよりも、毛の質感がきわだつ印象です。各プリセットの解説をみていくと、ナダールは「中間調に情報を集約し、柔らかで、かつ鮮明なアルビュメンプリントの仕上がりを再現した」とあります。一方、アンセル・アダムスでは階調再現を重視した調整をしている、とあります。どちらもトーンの豊かさを重視した調整となっていることが、解説文と仕上がりから納得できます。

では、ウィリアム・クラインではどうでしょうか。適用した写真を見ると、ハイコントラストで明暗差がしっかりとついている印象があります。解説文をみていくと、「輝くような白と締まった黒が現れるようにトーンを補正し、粗い粒子を加えることが最大のポイント」だとあります。少し硬さすら感じさせる再現は、白と黒の明暗差をしっかりつけたからこそだということがわかります。この点も実際に適用して実感できるところが、本書のもうひとつのテーマとなっているのだろうことが実感として理解できます。

続けて、夕暮れ時の海でアンセル・アダムスを適用してみます。カラーでは淡い色合いを出す方向で撮影していましたが、プリセットを適用したものでは、印象が一転して、海や岩肌の力強さが感じられるイメージになりました。濃淡のグラデーション変化もスムーズ。色々なモノクロ表現を試して学べるため、ついつい色々なイメージで試してしまいます。

FUJIFILM X100T(23mm:35mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/30秒・+0.3EV) / ISO 1600 / PRO Neg. Hi
アンセル・アダムスを適用

すでにお気づきの方もおられるものと思いますが、このプリセット特集は、過去に「デジタルカメラマガジン」でもとりあげていました。が、しかし今回は、大和田良さんが、作家の特徴や作風を紐解きながら、プリセットのポイントを解説しています。ただ編み直したというものではなく、より学びと楽しみが加わったプリセット解説となっています。

著者である大和田さんのメッセージを以下に抜粋しました。現像処理による追い込みや、イメージの調整が当たり前となった昨今にあって、こうしたプリセットに学ぶことが「自分の目指すトーン、作品の文体を見つける道しるべになるかもしれません」とのコメントは、本書に託された本質的なテーマでもあるのでしょう。

著者からのメッセージ

写真のトーンを決めることで作品の文体が決まる。

写真のトーンは、作家が文章を書く上での文体にたとえることができるかもしれません。最終的な写真のトーンをイメージできるようになると、撮影時の意識やモチーフを見つける目にも影響を及ぼし、より明確な意図を持った撮影を行えるようになります。

フィルム現像における暗室作業は、失敗のできない不可逆的なものであったがゆえに、一定の基準や作法が設けられてきました。基準があることで、それをベースに自身のトーンを探るというアプローチが可能でした。一方でデジタル現像は自由度が高くやり直しも容易であるがゆえに、明確な失敗体験がなく、基準が定まらないままに現像を行ってしまっている人も多いようです。そんな中において、プリセットは1つの基準になるかもしれません。プリセットに基づいて現像経験を積むことで、自分の目指すトーン、作品の文体を見つける道しるべになるかもしれません。

著者コラムより抜粋