フォトコンテスト
キヤノン「GRAPHGATE」第1回グランプリに逸見祥希氏 太陽光パネルと人の共棲を訴える
2023年12月7日 07:00
キヤノンマーケティングジャパンは、写真・映像作家発掘オーディション「GRAPHGATE(グラフゲート)」のグランプリ選考会を11月25日に東京・品川のキヤノンSタワーで開催した。
「作品を"伝える力"を重視した写真・映像作家の登竜門」として実施する文化支援活動の一環。2023年4~6月にかけて募集した作品の中から、優秀賞5名、佳作7名を選出し、優秀賞の中からグランプリ1名を選出する。
グランプリには賞金100万円とキヤノンギャラリーSでの個展開催、優秀賞には賞金30万円とキヤノンギャラリー(銀座・大阪)での巡回展開催の権利、佳作には賞金5万円がそれぞれ授与される。グランプリと優秀賞に対しては副賞として3年分の機材サポートとプリンタ+消耗品セットが贈られるほか、すべての入賞者にキヤノンスタッフによるテクニカルサポートを提供する。
2021年に終了した「写真新世紀」の流れをくむ取り組みだが、GRAPHGATEでは写真のほか映像も選考対象となっている。また選考委員についても多様な視点、価値観による選考を目的として、あえて写真映像作家を加えないなど方針を変更。第1回にあたる今回は、1,258名の応募があった。
選考委員には、梶川由紀氏(キュレーター/何必館・京都現代美術館)、品川一治氏(映像プロデューサー/(株)トボガン代表)、千原徹也氏(アートディレクター/(株)れもんらいふ代表)、長野智子氏(キャスター/ジャーナリスト)、藤森三奈氏(編集者・チーフプロデューサー/(株)文藝春秋『Sports Graphic Number』)の5名が参加している。
優秀賞受賞者は、稲垣翔太氏、奥田侑史氏、逸見祥希氏、オカダキサラ氏、宮田裕介氏の5名。グランプリ選考会では優秀賞受賞者が順に登壇し、15分の持ち時間の中で自由にプレゼンを行なう。大枠では「応募作品」「今後の作家活動」「1年後のキヤノンギャラリーSでの展覧会構想について」の各テーマについて話すことが決められているが、話す内容は各受賞者の裁量に委ねられている。プレゼン終了後に選考委員から改めて作家活動や展覧会構想について質問が出ることもあった。
壇上に上がった受賞者1名に選考委員が正対する形のオーディション形式になっており、これはGRAPHGATEのサイトによると、「作品の表面的な美しさや表現方法だけではなく、作家の強い意志や創作意欲を伝えるコミュニケーション力も重視」していることによるという。
グランプリを受賞したのは、人々の暮らしと太陽光パネルの共棲をテーマとした写真作品「(Un)acceptable Landscapes」を制作した逸見祥希氏。各地に設置された太陽光パネルを俯瞰撮影した大量の写真からなる作品であり、その内容は「太陽光パネルを真俯瞰で撮影した写真」と「太陽光パネルを美しく撮影した景観写真」の2種類によって構成されている。
故郷に太陽光パネルが設置されたことをきっかけに太陽光パネルの社会的な受容性について考えるようになったという逸見氏は、太陽光パネルが設置された土地で起きていることを把握すべく、太陽光パネルの撮影を開始。これと並行して現地住民への聞き込み調査を進める中で、特に景観の悪化について懸念が生じていることから、太陽光開発と人々が共棲するための方法を考え始めたという。
「太陽光パネルを美しく撮影した景観写真」は、共棲のために写真ができることとして逸見氏が見出した表現。空の情景を美しく反射する太陽光パネルの在りようは、元々あった景観が失われるさびしさと、失うことによって得られたものを象徴する景色だと逸見氏は話す。
「再生可能エネルギーの普及は避けられないものと理解していますが、地元に太陽光発電所ができるにいたって、思い出の景色が失われたさびしさもまたよくわかります。先日、太陽光パネル設置反対活動団体の方に私の写真を見てもらう機会がありました。そのとき『きれいだね』という感想をいただいて、もしかしたら私の写真で少しでも人の考え方を変えることができるのではないか? ひいては、少しでも世の中を変えることができるのではないか、と思うようになりました」(逸見氏)
今後起こりうる問題としては、耐用年数が経過した太陽光パネルが放置されることによる自然環境の汚染や破壊について言及。太陽光パネルが放棄された状態を写真加工で表現した比較図も提示した。再生可能エネルギーの恩恵を享受する一方で、近い未来に起こりうる事態にも意識を向けてほしいと訴えた。
逸見氏をグランプリに選出した理由について、選考委員の品川一治氏は総評の中で「クリエイティブで社会課題を解決する人を応援するのは、賞を主催しているキヤノンとしても意義のあることだと考えました。写真の優劣というよりは、新しい写真の可能性を見せていただけたことを評価しました」とコメントした。
長野智子氏は、問題解決のために写真が寄与できることとして採用した逸見氏のアプローチを評価。「生成AIの登場など、昨今大きく変化する写真業界の中にあって、最も新しいアプローチを見せてくれたのが逸見さんでした。来年の個展も楽しみにしています」。
入賞者のプレゼンターをつとめたキヤノンマーケティングジャパン株式会社カメラ統括本部長の吉田雅彦氏は、初回開催となったGRAPHGATEグランプリ選考会の開催にあたって「応募いただいた1,258名の皆様に支えられてのGRAPHGATEだと思っております」と謝意を表明した。
「写真と映像は技術だけで作り出せるものではなく、作品の中には記憶や感情、想像力、問題意識をはじめとした『人の力』が不可欠だと思っています。今回入賞した作品からも、そうした人間力を感じました」とコメントし、GRAPHGATE入賞者および参加者に向けては、今後写真映像文化の推進役となることを期待するとともに、キヤノンとしても写真映像の発展に力を尽くしたいと話し、会を締めくくった。
【2023年12月28日】奥田侑史氏の氏名が誤っていたのを修正しました。奥田氏および関係各位、記事を読まれた読者様すべてにお詫び申し上げます。