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世界陸上でソニーがカメラマンをサポート その現場を取材した

プロフェッショナルサポートの受付。機材の貸し出しやメンテナンスを受け付ける(提供:ソニー)

ソニーは、東京・国立競技場で開催された「2025世界陸上競技選手権大会」で、報道関係者向けの技術ツアーを実施。9月13日(土)には普段は立ち入ることのできない競技場内の技術エリアを特別公開し、カメラサービスブース、競技判定を行うオペレーションルームなどを案内した。

9月16日(火)にはソニーと長年協力関係にあるスポーツフォトグラファーのボブ・マーティン氏が最新機材の実力と業界の変化について詳述した。

会場には記録的瞬間を捉えるために多数のソニー製のカメラが配置された
レーン外周にはソニーの文字が

ボディ200台とレンズ600本でカメラマンをサポート

ソニーは大会期間中、各競技の開始前から終了までプロサポートを提供。カメラボディ約200台、レンズ約600本を常備する。開会式前後には1日延べ100人以上が利用し、前回のブダペスト大会と比較して利用者が増加しており、現場の声を次世代製品開発に活用している。

交換レンズの貸出で1番人気は「FE 400mm F2.8 GM OSS」だという
機材の各種メンテもその場で実施(提供:ソニー)
テレコンバーターも多数用意

今大会は機材のメンテナンスに加えて、ネットワーク技術の専門サポートも行ったという。近年急増するリモートカメラやネットワーク転送の需要に対応するため、通信技術に精通したエンジニアを現地に配置。会場では無線通信機器の持ち込みが禁止され、指定ネットワークの使用が義務付けられているため、個人機材との相性問題が頻発する中、ネットワーク設定から通信の安定化まで包括的にサポートしている。

フィールド内やマラソンコースなどWi-Fiや携帯回線に依存する場所では、多くのフォトグラファーがポケットに「PDT-FP1」を入れて撮影していたそうだ。プロフェッショナルサポートのソニー社員によると、即納ニーズの高まりを背景に、同製品への関心が高まっているという。

リモートカメラシステムでは、競技場上部のキャットウォークにα1 IIを2台設置し、公式フォトグラファーとしてマーティン氏のチームが大会全体を撮影している。操作にはソニーの「Remote Camera Tool(リモートカメラツール)」を使用し、「レースを見ながらボタンを押すだけで撮影できる」簡便さを実現。撮影画像はFTPでサーバーにリアルタイム転送される。

キャットウォークに設置されたα1 II(提供:ソニー)
撮影はリモートで行う。写真に写っているのは写真家のニック・ディドリック氏 (提供:ソニー)
ゴール周辺にも報道機関などがリモートカメラを並べていた

判定システムの舞台裏

競技の判定においては、複数のカメラを使用した高精度システムを導入している。リレー競技では第1コーナー全体をカバーする最初の4台のカメラで監視し、必要に応じて追加のカメラで詳細を確認する体制を構築。審判員の目視判定に加え、技術室からの映像確認、他チームからの抗議など、多角的なチェック機能により競技の公正性を担保しているという。

複数のカメラで判定を行っている

判定プロセスでは、全選手の足の位置を詳細に確認し、ライン踏みなどの違反行為を特定。テレビ放送用の映像と技術室での判定映像を照合し、最も明確な角度での確認を行っている。

単焦点レンズへのこだわり「差別化のための表現力」

東京五輪時にはミラーレスカメラの使用率は体感で10~15%程度だったが、現在では全ての報道カメラマンがミラーレスカメラを使用している状況に変化したと、マーティン氏は解説する。600mmに2倍テレコンバーターを装着した撮影が、一眼レフカメラ時代は宝くじのような運任せだったが、今では完全に実用的になったとして、機材選択の幅が大幅に拡大したことを強調した。

ボブ・マーティン氏

「スポーツ写真家にとって400mmか600mmが標準レンズ。遠くで起きていることを手元に引き寄せるのがスポーツ写真の本質」とするマーティン氏は、単焦点レンズへの強いこだわりを持つ。

「写真に対するこだわりから、可能な限り単焦点レンズを使用したい。ソニーは14mmから600mmまでの単焦点レンズ群を持ち、これがシステムの強み」として、600mmF4のような大口径レンズによる極浅の被写界深度表現を重視する。

FE 600mm F4 GM OSSを使うボブ・マーティン氏(提供:ソニー)

新製品の「FE 50-150mm F2 GM」については「単焦点レンズ風ズーム」と表現。「従来は4本のレンズが必要だった焦点距離をカバーしながら、F2の大口径による浅い被写界深度で400mmF2.8のような表現を135mmや150mmで可能にした。プロとして自分の写真を他と差別化したい。この限られた被写界深度が写真を際立たせる」と語った。

技術進歩が創造性向上に直結

マーティン氏は技術進歩の意義について「技術の進化により、かつては職人技だったピント合わせや瞬間を捉えることが容易になり、フォトグラファーはよりクリエイティブな表現や構図に集中できるようになった」と説明する。

カメラが進化したことで、より攻めた表現に挑戦できるようになったと語る(提供:ソニー)

「20年前なら両足が地面から離れたカール・ルイスの写真を600mmで1枚撮れれば大満足だった。今では全ランナーを完璧に撮影するのが当たり前」として、技術水準の向上を実感。

一方で「10年前、20年前のベストショットより、今の方がはるかに質が高い。求められる基準も上がっているが、技術によってより多くの良い写真が撮れるようになった」として、業界全体の底上げ効果を評価している。

本誌:佐藤拓