フォトキナ2012新製品「ライカM」など続報

〜プロダクトマネージャーにインタビュー

 独ライカカメラAGが9月17日にドイツ・ケルンで発表した「ライカM」をはじめとする新製品について、ライカカメラジャパンが10月1日に行なった国内発表会などで得た続報をお届けする。

国内発表会

 ライカカメラAGのプロダクトマネージャーStefan Daniel氏が、新しい「ライカM」の詳細や、「ライカS」と同時発表した新レンズなどについて説明した。

ライカM(シルバークローム)

 ベルギーのCMOSISとの共同開発したライカMの「Leica MAX CMOSセンサー」は、ヨーロッパで製造。従来のイメージセンサーよりカラーフィルターとフォトダイオードの間隔を狭くした「フラットピクセルデザイン」と呼ぶ構造を採用し、入射光が隣のフォトダイオードに入ってしまうといった現象に対処した。

従来のイメージセンサー(左)とLeica MAX CMOSセンサー(右)の構造図。集光力を高めたというLeica MAX CMOSセンサーを手にするStefan Daniel氏

 同センサーはMレンズだけでなくアダプターで装着可能なRレンズにも適合するようにしているという。ISO6400までローノイズで、センサー自体も熱を持ちにくくなっているとした。ライブビュー対応により新しくラインナップした外付けEVFは、M型ライカを一眼レフ化する同社のアクセサリーにならい「Electronic Visoflex viewfinder」と呼んでいる。

外付けEVFを装着したライカM。ライブビュー時はマルチ測光やスポット測光も可能ライカRレンズの装着例。アダプターの三脚座も用意する

 ライカSシステム用の新レンズ「ライカスーパー・エルマーS f3.5/24mm ASPH.」は、35mm判換算19mm相当の画角の超広角レンズ。明るさと最短撮影距離が40cmと短い点を特徴とし、クルマの内装や建築撮影に向くとしていた。

ライカスーパー・エルマーS f3.5/24mm ASPH.

 「ライカバリオ・エルマーS f3.5-5.6/30-90mm ASPH.」は、35mm判換算24-72mm相当の標準ズームレンズ。中判レンズの中で最小かつ最も明るい3倍ズームレンズとしている。

ライカバリオ・エルマーS f3.5-5.6/30-90mm ASPH.の装着例

 「ライカTS・アポ・エルマーS f5.6/120mm ASPH.」は、35mm判換算100mm相当のティルトシフトレンズ。最大12mmのシフトと最大8度のティルトに対応する。商品撮影などに向ける。

ライカTS・アポ・エルマーS f5.6/120mm ASPH.

 「ライカエルプロ S 180」は、ライカアポ・エルマーS f3.5/180mm用のクローズアップレンズ。撮影範囲を1.1mからに短縮する。ポートレートなどに向くとしていた。72mmのフィルターネジに装着する。

ライカエルプロ S 180をライカアポ・エルマーS f3.5/180mmに装着したところ

 また、セントラルシャッター(リーフシャッター)を内蔵した「CSレンズ」も30/35/70/120/180mmのレンズに用意。1/1,000秒のストロボ同調撮影が可能になる。今年中に発売するとしていた。

インタビュー

 国内発表会の翌日、本誌では改めてStefan Daniel氏へのインタビューを行なった。氏にはフォトキナ2012の会場でもライカMを中心にお話を伺っており、その内容は【フォトキナ】製品担当者に現地で聞いた「ライカM」詳細に掲載している。

ライカSを手にするStefan Daniel氏

--- 新しいライカSの主な進化ポイントを教えてください。

「ライカS(Typ 006)には前モデル『ライカS2』に寄せられたユーザーの意見をいろいろとフィードバックしましたが、中でも新しいジョイスティックにより画像の確認がとても便利になりました。従来は拡大表示中のスクロールにダイヤルの回転と押し込みの操作を伴いましたが、ライカSではダイヤルを回して拡大したらそのままジョイスティックで直感的にスクロールできるようになりました」

「メニュー画面も変更が加えられています。液晶モニターの左右に合計4つあるボタンでタブを切り替える仕組みは従来通りですが、見た目もより美しく、ユーザーフレンドリーになっています。3型の液晶モニターは46万ドットから92万ドットのものに変わりました。カバーにはコーニング社のゴリラガラスを採用しています」

「また、本体上部にGPSモジュールを内蔵しました。これは『撮影を行なった場所にまた戻りたい』というネイチャーフォトグラファーからの要望に応えました。ライカSは防塵防滴構造のため、スタジオだけでなくネイチャーフォトの分野でも多く使われています。ライカMでもオプションの『マルチファンクションハンドグリップM』を装着することでGPS機能を利用できます」

「信頼性を高めたフラッシュコネクターも特徴です。スタジオの照明機材に繋ぐ端子で、片方は一般的な端子ですが、カメラ側の端子はLEMOのロック機構付きコネクタをライカ向けにカスタマイズしたものを採用しています。ケーブルでカメラを吊っても外れないほどの強度を持っています」

「最高感度はライカS2のISO1250からISO1600に向上しました。プロ用カメラとして大事なバッファ容量は1GBから2GBに拡大しており、連写モードでシャッターを押しっぱなしにしても撮影はなかなか止まりません。RAWで32枚まで連続撮影できます」

「進化したAFは絞り開放でも高い精度を実現し、スピードも速くなっています。発売までにはもっと速くなるでしょう。新しく動体予測AFも搭載しました」

「ほかにも、ファインダー内でISO感度と電子水準器(2軸)を確認できるようになりました。外装では、グリップ部のラバーを変更し、ホットシューを黒くしたなどの変更点もあります。シャッター速度ダイヤルの表記の方法も変えました」

--- 他の中判カメラシステムに対するライカSのアドバンテージは何ですか?

「何より、中判でありながら35mmカメラのようなハンドリングを実現し、かつ最高の画質が得られることです。そしてCS(セントラルシャッター)使用時の1/1,000秒までのストロボ同調と、最高1/4,000秒のフォーカルプレーンシャッターを両方利用できるカメラは他にありません。また、JPEG画質は今の中判デジタルカメラの中で最も優れています。ライカSではJPEGの記録サイズを37.5MP、9.3MP、2.3MPの3段階から選べるようにもなりました」

「また、最高のレンズがシステマチックに揃っています。例えば今度新たに加わるティルトシフトレンズは、スタジオでの製品撮影のようなシーンに向け、市場のリクエストに応えたものです」

--- MとSのシステムでレンズ開発のアプローチは違いますか?

「はい。Mでは明るいレンズに力を入れていますが、Sはスタジオワークなどを重要視しているため、スタジオでコンパクトに使いやすいことを考えて開発しています。例えばSのレンズでズミルックス(F1.4レンズの呼称)のような大口径を目指すと、とても大きく高価で扱いにくいものになってしまいます。レンズそのもののクオリティについては、どちらも最高を目指しているため同じアプローチです」

「Mには現在23のレンズをラインナップしており、過去約60年の資産もあります。Sのレンズは登場から3年で、現在8本です。開発にあたってロードマップはありますが、社外には公開していません。新しい製品ももちろん準備していますが、将来の製品に関するコメントはできません」

--- ライカMでは動画機能もアピールしていますが、いわゆるSLRムービーの分野を狙っているのでしょうか?

「ムービーの時代なので、もちろん意識しています。ライカMではCMOSセンサーの採用によりライブビューが可能になったので、動画もやろうと考えました。オプションで外部マイク用のアダプターを用意するなど、しっかりとした動画を撮ってほしいと思っています」

「例えば、録画中でも音声レベルをインジケーターを見ながらコントロールできるようにしています。また、動画撮影中に通常のシャッターボタンを押して静止画を撮影することもできます。Motion JPEG形式を採用したことも、撮影後の編集にメリットがあります」

--- ライカの製品ラインナップにおけるコンパクトデジタルカメラ各機種の位置づけを教えて下さい

「V-LUXは『オールインワンソリューション』という考え方です。旅行やファミリーユースを意識していて、とにかく望遠やフルHD動画といった全ての要素を小さいカメラに集約したいと考えました。もちろん、よい画質で」

ライカV-LUX 4。24-600mm相当の25倍ズームレンズを搭載するモデル。ズーム全域で開放F2.8を実現している。フリーアングル式の液晶モニターを搭載

「D-LUXはある意味『エキスパートカメラ』ですが、エキスパートのためだけのカメラでもありません。明るいレンズとマニュアル操作が可能な点も含め、ちゃんとした写真を撮りたいと考える方々にお勧めします。何より、ポケッタブルです」

ライカD-LUX 6。1/1.7型CMOSセンサーと24-90mm相当F1.4-2.3の「Leica DC Vario-Summilux」ズームレンズを搭載。同社コンパクト機で初めてズミルックス銘が付いた。レンズ鏡筒の絞りリングも特徴
オプションのEVFとケースを装着したところ

「家族の誰かがライカのカメラを持っているとしたら、コンパクトもライカを選んでもらいたいですし、1人がMを持っているとしたら、その奥さんや娘さん・息子さんにはライカのコンパクトを勧めます」

--- このところサイズや価格で手軽さを売りにした“ミラーレスカメラ”がブームですが、どう見ていますか?

「日本のレンズ交換式カメラ市場でミラーレスは50%を超えていますよね。世界的に見ればまだそこそこですが、伸びつつある市場で、中期的・長期的に見ても伸びるのではないかと思います。デジタル一眼レフカメラの市場をどんどん食っていくのではないでしょうか」

「コンパクトカメラのユーザーは徐々にミラーレスへ向かっていくでしょう。そして、デジタル一眼レフカメラとミラーレスカメラの市場が互いに潰し合う可能性もあるかもしれませんね」

--- ライカMは“ミラーレス”のフィールドにいると考えていますか?

「ライカMにはミラーレスと3つの違いがあります。フルフレーム(35mmフルサイズ)で、レンジファインダーを備え、AFがありません。デジタル一眼レフ、ミラーレス、コンパクトのどれにも属していないと考えています。フルフレームのCSC(コンパクトシステムカメラ)という見方をすれば、ライカMはすでに成し遂げています」

--- 使い込んだMデジタルのボディに愛着があるのですが、中身だけ新しくできませんか?

「それはできません。M8(APS-Hフォーマット)からM9(35mmフルサイズ)では、撮像素子がフルフレームになったことで多くのユーザーが乗り換えました。M9にはフィルムのライカユーザーも多くが移行しています」

「するとM9とライカMはどちらもフルフレームなので変化が少ないように思われるかもしれませんが、ライブビューを使ったマクロや望遠撮影、ライカRレンズの装着、動画撮影といった新しい魅力があります。M9をお使いでも十分にステップアップや買い足しの可能性があるカメラだと考えていますし、そうしてもらえると信じています。デジタルは進化が速いので、M6が18年も販売を続けたようなことはもうないでしょう」

--- デジタル化でライフサイクルが短くなったことにより、コストダウンを考えたことはありますか?

「『触っていかに心地よいか』はライカのコアバリューなので、変えたくありません。ライカを持って『ライカ』が感じられなかったら、ライカではないのです。M8が好きならM8をずっと使うことができますし、それだけのクオリティを持っています」

「今回のライカMというネーミングはそこにも関係していて、例えばM8からM10だと間が空いてしまったような印象を受けますが、全てが『M』になれば、そうした“型落ち感”もなくなるでしょう」

--- 2013年にウェッツラーの工場がスタートするそうですが、それによる新たな可能性にはどんなことがありますか?

「製品開発のスペースがあって、製造ラインも綺麗になります。現在は別の場所にあるカスタマーケアも一緒の場所になって効率が上がります。大きなライカストアや、博物館、ギャラリーもできます。あと、レストランもあります」

「訪れる方々はライカのカメラの製造工程、歴史、写真展を一度に見学できますし、そこでカメラを買うこともできます。一般の人にとっても楽しい場所となるでしょう。私も毎週そばを通っていますが、どんどん出来上がっています。完成予定はライカ100周年にあたる2013年の終わりで、25年ぶりにウェッツラーに戻ってくることになります」

--- ライカ100周年記念のプランはありますか?

「もちろん。やれることは何でもやりたいです。一度きりのパーティや限定モデルをただ出すだけでなく、もっとトータル的なお祝いをやりたいと思っています。まだ、細かいところは何とも言えませんが。」

--- 例えば、カメラのトップカバーに“Wetzlar”の文字が戻るようなことは?

「可能性としては考えられますね(笑)」

--- ありがとうございました。

写真で見るドイツ新製品発表イベント/フォトキナ2012のライカブース

 前回(2010年)の10倍以上となるスペースを設けたというフォトキナ2012のライカブース。ここでは、現地レポート【フォトキナ】ライカ、ライブビュー対応のM型新モデル「ライカM」など4機種を披露に入りきらなかった内容を写真メインでお届けする。

フォトキナ会期前日、現地時間の9月17日19時に始まった同社イベントは、テレビ司会者のMarkus Lanz氏が進行役を務めたライカカメラ社CEOのAlfred Schopf氏も登壇し、同社99年を記念した書籍「NINETYNINE YEARS」を紹介
年代を追って、さまざまなライカとそれにまつわるストーリーが登場する内容。会場で英語版とドイツ語版を99ユーロで販売していた筆者は後で気づいたが、この時点ではまだ発表されていなかった「ライカM」がスクリーンに姿を表していた(右ページ側にRレンズを装着したライカMの姿がある)
続いて行なわれた「Leica Hall of Fame」の表彰は、ライカギャラリーザルツブルグのディレクターであるKarin Rehn-Kaufman氏が進行受賞記念に刻印入りのライカM9-Pを受け取ったNick Ut氏。レンズは現行のズミクロン35mmと見られる。贈られたカメラに口づけをするシーンも
Nick Ut氏が肩に提げていた、もう1台のライカ。エルマリート24mmを装着したM2と見られる同背面
同コーナー登壇者のひとりDavid Burnett氏は、スチールグレーのライカM9にフード外付けの第2世代ノクチルックスを装着していた。どちらも貫禄が漂う
製品発表のコーナーでは、プロダクトマネージャーのStefan Daniel氏(右)が登場すると喝采が起こった同ステージではCEOのAlfred Schopf氏が新製品の隠されたボックスを開ける役割。登壇者が説明している横で、ちらっとフタを開けるそぶりを見せるなど、お茶目な一面も
ライカMの紹介には、ライカカメラAGのオーナーであるAndreas Kaufmann氏も登場した
現地時間の21時過ぎに製品発表のイベントは終了。展示ブースがオープンした。会場ではこのあとも午前2時頃まで催しが行なわれていたというステージ上がフリーになったところで、プレスを含む参加者が新製品をひと目見ようと集まった。カメラを独り占めする人は目につかなかったが、人が集まっている様子を撮影している参加者が多いのが印象的だった
22時ごろスタートしたSealさんのステージは、参加者が思い思いに写真を撮っていた。目に入るカメラのほとんどがライカだったMCでは、友達というライカカメラ社のステファン・カイル氏をステージに迎え、Sealさんと同社の縁について話した。デジタルになったライカM8の発表に感銘を受けたSealさんは「私のことは誰だか知らないと思うが、M8を送ってほしい」と同社にコンタクトを取り、それ以来の関係だという
発表などを行なったステージと反対側の様子。多数の写真を展示している。右のスクリーンにはウルライカが3D表示されていた作家ごとにコーナーを設けており、広々とした会場内をゆったり回ることができた
ブース裏の関係者スペースに置かれていた「Fake Leica」という彫刻。ライカカメラ社が制作したものではない一見M型のオブジェだが、バルナックライカのスローシャッターダイヤルとM6以降の電池室が共存していたり、各世代の特徴を散りばめている
M8以降の特徴であるUSB端子も見えるが、M4のような巻き戻しノブもあるシャッターボタンと速度ダイヤルはバルナックライカ風
制作過程も展示していた



(本誌:鈴木誠)

2012/10/16 00:00