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スマートフォンをデジカメにする「TRUEZOOM」のコンセプトとは

ハッセルブラッド75年の伝統を絵づくりやスタイリングにも活用

ハッセルブラッドのCEOであるPerry Oosting氏

ハッセルブラッドは、フォトキナ2016の会場でカメラ事業75周年を記念した大々的なブースを展開しており、来場者の注目を集めていた。

中判ミラーレスカメラの「X1D 4116 Edition」に加え、コンセプトモデルの「V1D 4116」もケース内で展示。さらに、Lenovo傘下のMotorolaとの協業によるスマートフォン向けデジタルカメラアダプター「TRUEZOOM」なども展示していた。今回、ハッセルブラッドのCEOであるPerry Oosting氏に、TRUEZOOMを中心に話を聞いた。

TRUEZOOMは、Motorolaが開発するAndroidスマートフォン「Moto Z」のオプション製品だ。Moto Zは、背面のカバーを取り外すと磁石と独自接点が現れ、拡張モジュール「Moto Mods」を装着して機能を追加できるようになっており、このMoto Modsの1つとして用意されるのが、ハッセルブラッドが開発したカメラモジュール「TRUEZOOM」となる。

海外で先行して発表されていたが、日本でも9月27日に発表されており、購入が可能になっている。

有効1,200万画素の1/2.3型裏面照射型CMOSセンサーを採用し、開放F値F3.5-6.5の光学10倍ズームレンズを備えたコンパクトデジタルカメラといったスペックとなっている。

スマートフォンのMoto Zとは、マグネットと独自設定で接続する。

このカメラモジュールを開発した経緯についてOosting氏は、「Motorolaから提案を受けた」と話す。Moto Modsというコンセプトにも興味を持ったということで実際の協業が始まったが、Oosting氏は、実はその前から両社には関係があった、と明かす。「ハッセルブラッドに、元Motorolaのデザイナーがいるんだ」とOosting氏。

Motorolaからの提案に対して、カメラ部をハッセルブラッドがデザインできる点、写真としてのクオリティコントロールができる点などを条件に協業を受け入れたという。ハッセルブラッドは75年というカメラ事業の歴史の中で、自身たちのカメラ作りだけでなく、協業も大事にしてきたとOosting氏はいう。

実際にスーツの内ポケットからMoto Z+TRUEZOOMを取り出したOosting氏は、「こんな風にポケットにフィットするし、軽い。この(Moto Modsの)仕組みもとてもクールだ」と自賛。

グリップや光学10倍ズーム、キセノンフラッシュといった点をカメラのポイントとして挙げつつ、特に強調するのが、「カメラの後処理」だ。つまり、絵づくりの部分をハッセルブラッドが担い、光学系やカメラアプリといった部分も含めたカメラの設計を担当したことを強調する。



グリップを含めたボディラインはエルゴノミクスを考慮し、快適に写真が撮れるとアピールするOosting氏。

特に今回はカメラ事業75周年という記念のタイミングでの協業となる。Oosting氏は、「75周年を祝う最高の方法は、素晴らしい製品を提供することだ」と強調。それが例えばALPAとのコラボレーションであり、モバイルフォトグラフィー向けのコラボレーションがこのTRUEZOOMだと話す。「75周年で大きなパーティを開くのではない。パーティは、製品なのだ」とOosting氏。

TRUEZOOMのボディはハッセルブラッドがデザインしており、「Vシステムからインスパイアされた」とされている。Oosting氏は、「確かに、まだVシステムはハッセルブラッドにとって象徴的なカメラだ」と指摘。スクエアボディはハッセルブラッドの伝統的なデザインで、TRUEZOOMにもそうした特徴を生かしたとしつつ、「遺産は過去として敬意を払っているが、同時に我々は現在、未来に生きている」(Oosting氏)。

例えば今回、コンセプトとして出展されていたV1Dは、「確かにスクエアボディ、でもモダンな外観」(同)を目指した。Vシステムは「唯一であり、オリジナル」(同)としてレトロではない、とOosting氏は強調する。過去と同じ手法で、同じことは実現できず、現代の技術を用いてはいるが、ハッセルブラッドのDNAが生きているのだという。

Oosting氏は、写真はさまざまな要素に影響される、と話す。用紙によってもプリントする人によっても色は異なるし、「これがハッセルブラッドの写真」というのはコントロールできない、という。

それでも、「HNCS(ハッセルブラッド Natural Color Solution)」によって、より自然な色あいを追求しているのが同社で、こうした点もTRUEZOOMには生かされているようだ。

TRUEZOOMは、同社のエンジニアがMotorolaと一緒に作り上げたということで、光学設計や画質評価、デザインなどを担当したが、同様の取り組みはライカとHuaweiが協業している。

Oosting氏は、「とても興味深い、ただコンセプトが我々とは異なる」とコメント。ライカとHuaweiの協業がどの程度深いものかは分からないとしつつ、アプローチの違いを強調する。「TRUEZOOMはとてもシンプルな原則で作られている」(同)。それは、このサイズで光学10倍ズームを搭載する、という点だという。これ以外に方法はなかった、とOosting氏。カメラとしてのデザインに加え、「キセノンフラッシュとLEDフラッシュも異なる」(同)といった、よりカメラに近い点を強調。

「AppleもHuaweiもソフトウェアは素晴らしいが、物理的な部分が弱い」とOosting氏は語り、TRUEZOOMの光学10倍ズームレンズなどのカメラとしての機能をアピール。「ライカともよい関係だし、素晴らしい伝統、技術、資産、人がいるが、我々とはアプローチが違う」(同)。

とはいえ、今後ハッセルブラッドの技術をスマートフォン向けに提供するかどうかについては、「現時点で全く計画はないが、我々の価値が提供できるならオープンに議論する」としている。

もう1つの75周年記念モデルのX1D 4116 Editionは、同社内で「みんな黒いカメラが好きだろう! という声があった」とOosting氏は冗談めかして笑う。そこで、限定ではなく特別モデルとして、レンズなどをパッケージ化して用意したのだという。

75周年記念モデルのX1D。
通常カラーのX1D。

フォトキナ2016で富士フイルムが発表した同じく中判デジタルカメラ「GFX」シリーズに対しては、「素晴らしい製品だと思うし、X1Dのライバルというよりも、ともに市場を活性化させたい」と歓迎の意向を示す。X1Dが採用するのはソニー製のセンサーということだが、仮にGFXが同じセンサーだとしても、その後の画像処理や絵づくりは独自のもので、「ハッセルブラッドブランド」への自信を見せる。

貿易会社として1841年に始まった同社が、1941年にカメラメーカーになって75年。こうした記念のカメラだけでなく、記念バッグも用意。ブースでも、過去のハッセルブラッドから、コンセプトモデルのV1Dといった未来までを一度に披露して。75周年を大々的にアピールしていた。

コンセプトモデルのV1D。
DJIと協業したハッセルブラッドカメラ搭載のドローン
こちらは75周年記念のバッグ。