PENTAX K-3 Mark III 写真家インタビュー

私が一眼レフ“も”使う理由…大村祐里子さんの場合

効率や利便性よりも「いかに自分のイメージを実現できるか」

大村祐里子さん。K-3 Mark IIIについては「自分の世界を作り込んでいくのが楽しいカメラ」とのこと

次々と製品が投入されるミラーレスカメラ。新しい技術を取り込みながら進化する様は、かつてのデジタル一眼レフカメラを思わせます。反対にそのデジタル一眼レフカメラは新製品発表もすでにまばらとなり、その役目を終えたかのように見えます。

そんな中で登場するデジタル一眼レフカメラが「PENTAX K-3 Mark III」(以下K-3 Mark III)です。スペックに現れない撮影にまつわる感覚性能を大切したというこのカメラは、撮影者にどんな情感を与えるのでしょうか。

この連載では、K-3 Mark IIIを愛用する写真家に話をうかがい、一眼レフカメラで撮影することについて聞きました。

今回登場するのは仕事では最新ミラーレスカメラを、作品撮りではクラシックレンズを愛用する大村祐里子さんです。大村さんがK-3 Mark IIIで改めて感じたという「カメラで撮影する感覚」を共有ください。(編集部)

大村祐里子

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。クラシックカメラショップの店員を経て、写真の道へ。福島裕二氏に師事後、撮影のほか、雑誌・書籍・Webでの執筆など、さまざまなジャンルで活動中。趣味はフィルムカメラを集めて、使うこと。

大村さんのPENTAX K-3 Mark III。装着レンズはsmc PENTAX-M 50mm F1.4。その横のレンズは4月28日発売予定のHD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited(掲載している作例はリニューアル前のsmc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedで撮影しています)

私が一眼レフ“も”使う理由 記事一覧(Sponsored)
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/interview/k3m3/


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クラシックレンズもMFも使いやすい

——撮影にMF(マニュアルフォーカス)のレンズも使ったのですね。どうでしたか?

K-3 Mark IIIは、古いレンズ(クラシックレンズ)をつけたときの利用も考えられて作られています。焦点距離を入力すれば、ボディー内手ブレ補正も最適に効きますし。電子接点のないレンズでも絞りを入力すれば、Exifタグに反映されます。以前だとグリーンボタンを押して絞り込み測光でマニュアル撮影だったのが、K-3 Mark IIIではAv/TAvでモードでも撮影できるようになりました。

撮影:大村祐里子
K-3 Mark III / smc PENTAX-M 50mm F1.4 / 76.5mm相当 / マニュアル露出(1/1,000秒・F1.4) / ISO 100

ただ、レンズを交換するごとに、焦点距離を入力したり、一部の設定をし直したりするのはちょっと面倒なので、使うレンズごとにユーザーモードを登録しています。レンズを交換するのに合わせて、モードダイヤルを回すだけで済みます。

今回であれば、U1にFA 43mmF1.9 Limitedで撮るときの設定を、U2にはM 50mm F1.4を、U3には、P35mm F3.5を登録して使っていました。K-3 Mark IIIはU1〜U5の5つ登録できるので、レンズ5本ぶん登録できますね。

MFで撮るのが好きというのもありますが、K-3 Mark IIIはMFレンズでも撮影しやすかったのが良かったです。ファインダーは明るく広くて、ピントの山がつかみやすいので、素早く合焦できました。AFレンズのFA 43mmF1.9 LimitedをMFで使ってもピッと合わせられました。

手ブレ補正がクラシックレンズでもきちんと効くのは良かったです。プリントで見ても思ったよりもブレてないですよね。撮影していてもブレるという感覚はなく、いい仕事しているなって思いました。

カスタムイメージを調整して自分がイメージした絵を撮る

——カスタムイメージも色々と使い分けているのでしょうか。

被写体を見つけたときには、こういう風に撮りたいというイメージがあります。目の前の綺麗な景色をそのまま綺麗に写したいわけでもないですし、地味な被写体も自分の被写体にしたいんです。ありのままを写したいわけではありません。

もちろん、依頼された仕事ではそういうわけにはいかないのですが、自分がこうしたいというのを加味してこそ写真だと思っています。こうしよう、こうしたいというのが決まっていて、それに合わせてカスタムイメージをその場で設定していきます。

クラシックレンズを使うのも、そういったイメージに合わせてです。今のレンズってちょっと写り過ぎる感じがします。ゆるい描写だったり、ボケが少し変な感じだったりすることもありますが、それも自分が撮りたいイメージに合っていればいいと思っています。なので、特定のレンズでなければ嫌ということはありません。フィルムカメラオタクではありますが(大村さんはフィルムカメラを約100台所有している)、実はクラシックレンズオタクというわけではないんですよ。

撮影:大村祐里子
K-3 Mark III / smc PENTAX-M 50mm F1.4 / 76.5mm相当 / マニュアル露出(1/1,250秒・F1.4) / ISO 100

——その場でですか? 定番の設定など登録しているのでしょうか。

はい。その場主義です。一枚撮るごとにカスタムイメージを選んで、自分の撮りたいようになるように、さらに彩度やコントラストなどのパラメーターを微調整して撮影します。だいたい狙った感じの色で再現されますよ。なかなかうまくいかないメーカーのカメラもあるので、PENTAXのカメラと私は相性がいいのかもしれません。どうしてもうまくいかないときは、RAW(DNG)で撮ったものをパソコンを使って調整しますが、時間をおくせいか、撮ろうとしたときに、こうしたいと思ったのとどうしても違ってしまうように思います。

カスタムイメージの中でも「リバーサル」や「ほのか」は、雰囲気いいですよね。ただ、特にコレと決めて撮っているわけではありません。どういう写真にしたいかは、被写体によって違いますから、それに合わせて変えています。撮っているときは自分の色は要らないと思っているんです。ただ、出来た写真を見ると結局自分らしさって出ちゃいますよね。

撮影:大村祐里子
K-3 Mark III / smc PENTAX-M 35mm F1.4 / 53.5mm相当 / マニュアル露出(1/1,000秒・F1.4) / ISO 100

撮影する時、こうしたいと思い、ホワイトバランスやカスタムイメージなどで絵作りを調整して、露出をマニュアルで決めて、フォーカスリングを回してピントを合わせるといった手間が記憶の定着につながります。そうして撮った写真のほうが、その写真の存在やどうやって撮ったかが、思い出しやすくなります。

逆に手間をかけずに撮った写真って、記憶に残りづらいんです。もちろんミラーレスでも、撮る前に自分で決めていくことはできます。しかし、電子ビューファインダー(EVF)だと、どんな絵になるか撮影前に見えてしまいます。撮る前に「これもどうですか?」とイメージを提案されるような、こう撮りたいという想像力を取り上げられちゃうような感じがします。光学ファインダーを覗いて撮るのに比べて、集中力が落ちるというか散漫になってしまうように思えるんです。一眼レフは絵を描いているような感覚なので、記憶に残りやすいですね。

ミラーレスは、現実をそのまま写しやすい、写真が上手に撮れる装置です。リアルを写せるので、ファインダーを覗いていて観察力は増すかもしれません。一方、一眼レフは「私の思う○○」を体現できるというか、自分の世界を押し付けられたものが写せるカメラだと思います。

——イメージと違った写真が撮れたときはどうしますか?

日常にあるものを自分の中で捻じ曲げていくわけですが、撮ってみたら違ったということはあります。ただ、あれこれやって複数枚撮るということは、あまりしません。パッと撮って、ダメだったら諦めます。ただ、ブレてもボケても、露出が思ったのと違っても、それでも、いいなって思うこともあります。失敗は失敗で面白い。だからこんな表現になるんだという発見にもなりますし。ただ、K-3 Mark IIIは、こう写したいというのを反映させやすく、撮った写真が記憶に残るカメラだと思います。

K-3 Mark IIIは、撮影している感触もよかったです。クラシックレンズをMFで撮るとなると、カメラを顔につけファインダーを覗いて撮ることになります。顔って感覚神経の集まりです。K-3 Mark IIIのシャッター音は良いのですが、それは音の大きさとか質とかだけでなくて、シャッターを切ったときの耳から聞こえる音だけでなく、ほほを介して骨を通じて伝わってくる感覚も含めてだと思います。操作ボタンも昨今のミラーレスの軽い感じとは違って、軽すぎずにゴリっとした感触があって、押しているという感触があります。誤操作することもありませんでした。

手触りとか音とかってスペックで数値化しづらいところですよね。そういう感覚の部分にこだわっているのでは、カメラオタクとしても嬉しくなってきます。

撮影:大村祐里子
K-3 Mark III / smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited / 66mm相当 / マニュアル露出(1/1,000秒・F1.9) / ISO 100

APS-Cだからいろいろちょうどよく撮れる

——K-3 Mark IIIは触っていて楽しいカメラ?

自分らしい好きな写真が撮れました。手元にあっていいカメラだと思います。

慣れた同じカメラを使い続けるのもいいことだと思います。ただ、ちょっと凝り固まってしまうような感じがするのが嫌なんです。レビュー記事のために、初めてのカメラで写真を撮ることも少なくありません。慣れないまま撮るのですが、それが気分転換になるんです。カメラやレンズが変わると新しいアプローチができる気がします。同じアプローチで撮り続ける人もいいなと思いますが、私は同じことを繰り返す自分がちょっと怖いので、変えようって思って撮っています。

いつものところに行くと、たしかに撮れ高はよいのですが、視点が同じで毎回同じものをつい撮ってしまうようなことがあります。かといって、予備知識もなく知らない土地に行って、何も撮りたいものがなくて困る可能性もありますので、散歩のガイド本などを参考にすることもあります。電子書籍で購入すれば、出先で見られますし。

そうした撮影の中で、K-3 Mark IIIのバッテリーのもちがいいのも好感触でした。予備にもう1つ持っていたのですが、一日の終わりの頃にようやく必要になるかどうかというくらい。連写しなかったり、ライブビューを使わなかったりというのもありますが、バッテリーが1個だけで済んだのは久しぶりでした。ミラーレスだと、こうはいきません。

——今回使った3本のレンズは35mm/43mm/50mmで、APS-Cだと標準から中望遠の手前くらいの画角になります。

好みの焦点距離は広角から中望遠域です。35mmフィルム用だったクラシックレンズはいわばフルサイズ用で、APS-Cで画角は狭く(35mm判換算での焦点距離は長く)なりますが、K-3 Mark IIIで撮影していて違和感はありませんでした。私は、視野が広めなので、だいたい28mmくらいの焦点距離が見たままに撮れることもあり、どちらかといえば広角よりのほうが好きですが、特定の焦点距離でなければダメといったこだわりはありません。今回は、PENTAX SPなどKマウントカメラ用に持っていたレンズを使ったので、たまたま標準域でしたが、違和感なく撮影できました。

——APS-Cということは気にならない?

APS-Cって結構好きなんですよ。もちろん、B0サイズくらいに大きくプリントするような画質を求めたり、高感度が必要だったり、大きなボケを得たかったりするのであれば、フルサイズのほうが有利です。しかし、そういう特別な目的がないのであれば、その差は決して大きくないと思っています。被写界深度が深いのは、製品撮影など被写体によっては有利に働くこともあります。

K-3 Mark IIIのボディーサイズを実現できているのは、APS-Cサイズのセンサーを採用しているからですよね。APS-Cだからラフに撮るってことはないんですが、ボディーサイズは、どんな写真になるか影響があると思います。あまり小さすぎるとファインダーを覗いていてちょっとバランスが悪くなります。一方、K-3 Mark IIIはシャキシャキ撮れますし、私にはベストな大きさです。ただ、さっき食事していたらお店の人に立派なカメラって言われちゃいましたけど。知らない人にはゴツくみえるのかもしれないですが、カメラらしくて良いデザインですよね。

PENTAXのAPS-C一眼レフと言葉にすると、いまどきの流行りとはちょっと違うかもしれません。ただ、最近カメラを始めた人、特に若い女性は、一眼レフだからとかAPS-Cだからとか、クラシックレンズだからとかってのは気にしないですよね。

K-3 Mark IIIは、操作性もよく、分かりやすかったのも良い点だと思います。ミラーレスカメラだと、使っていて意味が分からないということもあるのですが、このカメラはそういう部分はないので、初心者から幅広い層の人が安心して選べるカメラだと思います。値段は、ちょっと可愛くないですけどね。モノとしてプロダクトとしての良さがあって、長く使えそうな気がします。

撮影:大村祐里子
K-3 Mark III / smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited / 66mm相当 / マニュアル露出(1/1,600秒・F1.9) / ISO 100

制作協力:リコーイメージング株式会社

猪狩友則

(いがり とものり)フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部。新製品情報や「ニューフェース診断室」などの記事編集を担当する傍ら、海外イベントの取材、パソコンやスマートフォンに関する基礎解説の執筆も行う。カメラ記者クラブでは、カメラグランプリ実行委員長などを歴任。