PENTAX K-3 Mark III 写真家インタビュー

私が一眼レフ“も”使う理由…並木隆さんの場合

撮るまでのプロセスが与えてくれた「撮影する」という実感

並木隆さん。ミラーレスカメラで省略された手間こそが、撮影の楽しさとのこと

最新技術が投入され、さまざまな撮影上の不可能を可能にしてきたミラーレスカメラ。その一方、かつての雄、一眼レフカメラはその進化を止めたかのように製品の投入が見られません。

そんな中、登場した久しぶりの一眼レフカメラが、PENTAX K-3 Mark III(以下K-3 Mark III)です。

この連載では、K-3 Mark IIIを愛用する写真家に話をうかがい、この時代にあえて一眼レフカメラで撮影する意義・重要性を聞き出します。

今回は、個性的な花の作品で知られる並木隆さんに話をうかがいました。久しぶりに手にした一眼レフカメラは、並木さんの心に何をもたらしたのか。並木さんの作品はどう変わったのでしょうか。(編集部)

並木隆

1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。花や自然をモチーフに各種雑誌誌面での作品発表。日本写真家協会、日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。

並木さんのPENTAX K-3 Mark III。装着レンズはsmc PENTAX-DA200mmF2.8ED[IF] SDM

私が一眼レフ“も”使う理由 記事一覧(Sponsored)
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/interview/k3m3/


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久しぶりの一眼レフで撮る楽しさを思いだす

——今使っているカメラはミラーレスがメインでしたよね?

K-3 Mark IIIは、久しぶりの一眼レフでした。5年ぶりくらいかな。最初に触ったときはミラーレスに比べれば使いにくくて、「最近はこんなにラクをして写真を撮っていたんだな」って。ただ、このプロセスこそが写真を撮る楽しさということも思い出しました。

ミラーレスだと、基本的に電子ビューファインダー(EVF)の中で完結します。ピーキング表示すればピントに位置は厳密ではないにしても分かりますし、露出も反映されるし、どれくらいボケるかも分かります。

でも、一眼レフだと撮った後でしか結果が分からないわけです。自分で露出をコントロールすることにもなりますし、ボケの感じも絞り込みボタンを押さなければ分かりません。想像して操作することが必要です。経験と勘の中で撮っていくK-3 Mark IIIは撮影を楽しめます。思った通りに撮れればもちろん嬉しいのですが、かといってうまくいかなくて撮り直すのも楽しいんです。

K-3 Mark III / smc PENTAX-DA200mmF2.8ED[IF] SDM / 絞り優先AE(1/800秒・F3.2・+2.3EV) / ISO 800

K-3 Mark IIIは背面液晶モニターも動きませんしね。花のマクロ撮影でも、K-3 Mark IIIの液晶モニターは固定式なので(ライブビュー撮影だとしても)、液晶モニターを動かして見やすい位置で撮るなんてこともできません。そのため、久しぶりに地面に這いつくばって写真を撮りました(笑) 全身筋肉痛になってしまって。ただ、そういったことも苦にならないんです。

撮影の基本は変わっていなくても、カメラはどんどん進化して手軽に撮れるようになってきています。ミラーレスであれば、便利な機能が全部ついている。レフがないから、撮影には有害なミラーショックもない。でも、K-3 Mark IIIで撮っていると、顔に伝わってくるミラーの動きが心地いいんです。「ああ、いま写真を撮っているんだな」と実感できます。

撮るプロセスの楽しさを感じるK-3 Mark III

——不便だけど苦じゃないんですか?

道具としてはミラーレスの方が便利なのは確かです。効率的に撮影できるから、同じ時間であれば一眼レフのほうが撮れるカットは少なくなるでしょう。でも、フィルムでも同じように撮っていたわけで、写真を撮るって本来こういうことなんですよね。手間はかかっても撮っている感があります。ラクではないけど、満足感はあります。なにより「写真を撮るのが楽しかったあの頃」を思い出します。満たされ過ぎるとつまらなくなるというか、少し面倒くさいのがいいんでしょう。

個人的な思いで、ほかの人に押し付ける気はまったくないのですが、簡単に撮れないだけに被写体に対する愛情は強くなります。撮りたい写真に至るまでのプロセスが多いほど楽しいし、思い入れも生まれます。感情移入することになるので、作品性にも関わってくるかもしれません。

仕事であれば、カメラは道具ですから、できるだけ簡単に撮れた方がよくて、ミラーレスという選択になるのはわかります。でも、自分の作品だったり趣味だったり、楽しみたかったりする撮影では、K-3 Mark IIIがいいですね。

K-3 Mark III / smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR / 絞り優先AE(1/1,250秒・F2.8・±0.0EV) / ISO 800

——ふと気づいたのですが、ストラップは付けないんですか。首からさげて被写体を探すわけではない?

つけません。撮影するまでカメラはカバンに入れています。歩いて花を見ながらイメージしていくんです。ここで花を小さく撮るなら、どのくらいの距離でレンズの焦点距離はどうしようか、背景はどんなふうにしようかと。そうして見当をつけてからカメラを取り出します。ここまでの流れは、ミラーレスでも一眼レフでも一緒です。

このオオイヌノフグリの写真の黄色い前ボケはスイセンです。普通はスイセンを見せるような整備されているところだと、オオイヌフグリのようないわば雑草は刈られちゃうんです。そういうのを、見つけられるかは撮影で大切ですよね。この時期、どういったところに、どういった花が咲いているか知らなければ撮れないわけです。やっぱり色々知っている近所で撮るのが一番です。

K-3 Mark III / smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR / 絞り優先AE(1/640秒・F2.8・-0.7EV) / ISO 400

——つい、非日常なところに被写体を求めがちですが、そうではないと。

観光地に行けば、写真は撮れますが、たとえば海外だと撮らされてしまう感覚になってしまう人も多いのではないでしょうか。

そうはいっても、昨年の春の緊急事態宣言中は、近所も含めて写真は撮らなかったんですよ。自分の写真撮影が不要不急かどうかというのはさておき、アマチュアの方が我慢しているなら、俺も我慢しようって。2020年の3月頭くらいから6月くらいまでは、こういうときだし、割り切ってカメラには触れませんでした。家の中で撮ると、外に撮りに行きたくなるから、それもやめました。なので、去年は桜もチューリップも撮っていなかったんです。

そうしていると、やっぱり写真が下手になっていたんです。視点が狭くなっていて、ありきたりのものしか撮れない。体力も落ちてて、それまで1日10kmくらい歩きまわって撮っていたのに、1時間くらいでヘロヘロになってしまって。体力が奪われると、気力も失せます。写真のほうは1週間くらいで感覚が戻ってきて「俺やっぱり上手だな」なんて思えたのですが、体力のほうは戻ってくるのに1カ月半くらいかかってしまいました。

その後に、K-3 Mark IIIを使うようになったのですが、すべてにおいて「ああ、こうだったよな」と思い出され、癒しになったように思います。ミラーレスで写真を始めた人からすると一眼レフを面倒だと感じるかもしれませんが、一方で私と同じように、その手間を良いと思える人もいるでしょう。カメラは道具でしかないのですが、その道具に何を求めるかですよね。効率ならミラーレスでしょうし、楽しさならK-3 Mark IIIです。

K-3 Mark III / smc PENTAX-DA200mmF2.8ED[IF] SDM / 絞り優先AE(1/800秒・F2.8・±0.0EV) / ISO 800

——カスタムイメージは「鮮やか」ですか?

「鮮やか」です。PENTAXは*ist Dを使っていたことがあるのですが、コッテリというか、ねっとりというか、そうした色ノリがK-3 Mark IIIでも変わっていなくて安心しました。印象的な記憶色とも違い、鮮やか過ぎないけど、かといって地味というわけでもないのは良いですよね。

——長焦点のレンズでボケを生かした写真ですね。同じ焦点距離でもAPS-Cだと画角は狭くなりますが、フルサイズのカメラを使うときと違いはありますか?

今回の写真は、smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WRととsmc PENTAX-DA 200mm F2.8 ED [IF] SDMを使いました。HD PENTAX-D FA 70-200mmF2.8ED DC AWのようなフルサイズ対応のズームレンズは大きいですし、テレ端で使うことが多いので、単焦点レンズのほうが合っています。もちろん、最新ではないレンズでもあり、カリカリに写るわけではないのですが、そのぶん無理をしていないのか、K-3 Mark IIIと組み合わせてボケを入れて花を撮るなら満足な写りです。

当初、100ミリマクロのボケは若干硬いという印象だったのですが、いざ撮ってみれば柔らかすぎることもなく、ものすごくいい子ちゃんでした。今は、背景を広く写せるsmc PENTAX-DA 14mmF2.8ED[IF]を買おうかと思っています。PENTAXのレンズは比較的お財布に優しいのがいいですよね。

フルサイズだから、APS-Cだからということはありません。フルサイズじゃなきゃ無理というシーンはなく、撮影していて気になることはなかったです。基本的に地面に生えているものですから撮影距離も近いものです。画角が狭くなるぶん、ちょっと離れて写せば済みますので。

花は日陰になるところで撮影することも多いので、感度を上げることになります。以前であればフルサイズのほうがノイズが少ないというメリットが確かにありました。しかし、撮影で使うISO 1600くらいでは、K-3 Mark IIIでは問題なく、なにも困りません。三脚は使わないわけでもないのですが、手持ちがメインなので、シャッター速度が遅くなることもあるのですが、ボディ内手ぶれ補正(SR II)もよく効きますし。

PENTAX製品のシンボルともいえるボディ内手ぶれ補正「SR II」(Shake Reduction)。K-3 Mark IIIでも健在だ

ところで、これまでAFの測距点ってこんなに端までありましたっけ?

——横方向は広くなっています。ファインダーもAPS-Cにしては倍率が高いです。K-3 Mark IIIのAFはどうでした?

久しぶりということもあり、APS-Cのファインダーの見え方はよく覚えてないのですが、使っていてなんら違和感はありませんでした。不満はありません。AF測距点は、端のほうまで使えると、被写体の位置に制限されなくなるので、やっぱり便利です。K-3 Mark IIIは、セレクトエリア(測距範囲)を任意でかなり小さくできるのもいいですね。

このカメラに限ったことではないのですが、マクロ撮影では外した時のリカバリーが大変なのでMFでも撮影します。よく、マクロ域の微妙なピント合わせをうまくやるにはどうしたらいいのかと聞かれることも多いんですが、やっぱり慣れですよね。たくさん撮るのが一番で、こればかりは簡単に撮れると思っているのが間違いですよ。

実は、今回も頑張ってファインダーでピント合わせたものの、背面液晶モニターで確認したらピントが合ってないなんてことも結構あったんですが、これは自分の目の曖昧さ(視力の衰え)ですね。背面液晶モニターを見るにしても、ルーペを使って確認していました。繰り返しになりますが、そういうことも含めて楽しいんですよ。

どうせならと、背面液晶モニターも見えなくしてしまえと、隠してみたんです。ボディ上部の表示パネルで、撮影前に絞りや露出補正は確認できますし。ただ、そうなるとそうなるとメニュー操作もできないので、諦めました(笑)。そんなこともあって、K-3 Mark IIIは、もっと機能を省いても面白かったのでは? とも思えます。

今後も長く付き合っていけるのは間違いない

——もっとシンプルにということですか?

このご時世にAPS-Cの一眼レフのフラッグシップ機を出すってのは、ニッチなところを攻めているわけで、すごいですよね。それでいて、道具としての作り込みもいいですし、ファインダーの見え味やシャッターを切ったときの感触といったカメラの魅力が残っています。そうした部分の楽しみを分かってくれる人のカメラになっていいます。そうなると、もっと限定しちゃっても面白かったんじゃないかなって。

連写(最高約12コマ/秒)もこのカメラのウリですが、個人的には風景撮影のように時間に追われて撮るわけではありません。動きものを撮るのは性に合いませんし、スナップも分かりません。いきなり花がしおれてしいまうわけでもないので、急いで撮る必要もないんです。ただ、私はK-3 Mark IIIで花の写真を不満なく楽しく撮影できました。

K-3 Mark IIIって、これさえ買っておけばなんでも撮れるというカメラではないかもしれません。また、飛びぬけて優れたところもないけど、劣っているところもありません。それは、カメラとしての基礎の部分はしっかりしているとも言い換えられます。写真を撮るプロセスを楽しめるカメラとして、フランクな感じで今後10年くらい付き合っていくことになりそうです。

K-3 Mark III / smc PENTAX-DA200mmF2.8ED[IF] SDM / 絞り優先AE(1/1,000秒・F5.6・-3.0EV) / ISO 100

制作協力:リコーイメージング株式会社

猪狩友則

(いがり とものり)フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部。新製品情報や「ニューフェース診断室」などの記事編集を担当する傍ら、海外イベントの取材、パソコンやスマートフォンに関する基礎解説の執筆も行う。カメラ記者クラブでは、カメラグランプリ実行委員長などを歴任。