PENTAX K-3 Mark III 写真家インタビュー

私が一眼レフ“も”使う理由…鹿野貴司さんの場合

結果を想像して撮るのにぴったりなファインダーと操作性

鹿野貴司さん。PENTAX K-3 Mark IIIについては「カメラを分かっている人が作ったカメラ」とのこと

「よりきれいに」「よりはやく」と、効率を突き詰めるかのように進化を続けるミラーレスカメラの世界。そんなミラーレスカメラが全盛となって久しいカメラ業界ですが、ここにきて新製品の一眼レフカメラが登場します。PENTAX K-3 Mark III(以下K-3 Mark III)です。

この連載では、K-3 Mark IIIを愛用する写真家にその特徴と魅力を尋ねると同時に、このミラーレス時代にあえて一眼レフカメラで撮影する意義・重要性を写真家から聞き出します。

今回は、「日本一小さな町の写真館」などの作品で知られる鹿野貴司さんに登場いただきました。鹿野さんはなぜ一眼レフカメラで撮影するのか。鹿野さんの体験や考え方を通して、皆様が改めてカメラへの向き合い方を考えるきっかけになりますと幸いです。(編集部)

鹿野貴司

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。スナップやドキュメンタリーをテーマに、数々の写真展や写真集を発表している。日本写真家協会会員。

鹿野さんのPENTAX K-3 Mark III。装着レンズはHD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR。左のレンズはHD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited

私が一眼レフ“も”使う理由 記事一覧(Sponsored)
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/interview/k3m3/


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一眼レフだから被写体の光の見え方が違う

——一眼レフとミラーレスで何か違いはありますか。

正直言えばないんです。一眼レフでもミラーレスでも、レンジファインダーでもどれが良いとかどれがダメというのはありません。

今回のお題であるところの「一眼レフ”も”」ってのはないですよね。2番目じゃなくて、K-3 Mark IIIが一番でもいいわけです。ミラーレスならファインダーで仕上がりが見えるので、仕事で使うには便利です。でも、一眼レフでそれができないからって、何も困らないですよね。

ただ、このことが写真の撮り方による変化もあるように思います。ミラーレスになって逆光で撮る人が増えましたよね。これは、逆光でもファインダーで見えるからだと思います。逆光でもちゃんとフラットに見える良さはあります。キラキラした写真が撮りやすいですよね。

一方、一眼レフで逆光となるとやっぱりちょっと見づらい。でも、その光学ファインダー像は、ミラーレスの電子ビューファインダー(EVF)で見るのと比べて奥行を感じ光の繊細なところが見えてくるわけです。ファインダーで見えている現実に対して、影になった部分を明るく見せるのか、暗く潰すのか、そういうことを考えてシャッターを切るのが写真の道だと思います。趣味で撮るなら、それこそが醍醐味と言えるのではないでしょうか。

撮影:鹿野貴司
K-3 Mark III / HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR / 20mm(30mm相当) / 絞り優先AE(1/400秒・F8・±0.0EV) / ISO 100

もちろん、露出補正した結果が反映されて写るものが見えるEVFの方が分かりやすいんでしょうけど、それだけに思考が停止しちゃいますよね。どれくらい露出補正すればいいのかはひと手間かかりますが、少し撮っていればすぐに分かってきますよね。慣れてくれば、ダイレクトに反映される感覚があります。

車で例えれば、ミラーレスってAT車のような感じであり、ミラーレスだから出来ることも多くて、快適さもあります。目的地に到着するだけなら、なんの問題もありません。ただ、ここはグッと加速したいとなると、ATだと自分の意図とはワンテンポ遅れる感じがあります。一眼レフは、結果を想像して撮らなきゃいけないけど、MT車のように自分の意志を素早く反映できるように思います。操っている感というか、道具として使う楽しさがありますよね。K-3 Mark IIIは、1.6リッターのターボ車のような感覚があります。

撮影:鹿野貴司
K-3 Mark III / HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR / 40mm61mm相当) / 絞り優先AE(1/160秒・F8・-0.7EV) / ISO 125

——撮り方に違いはないということですか。

スナップだと、被写体と対峙したときって、もうあとはシャッターを押すだけで済むように、近づきながら準備しますよね。どんな写真にするかイメージはあるので、絞りやシャッター速度、感度はどうするのか、ピントはどう合わせるのかというのは、事前に決めておくわけです。撮らせてもらっていいですか?と聞いてから時間かけてカメラを設定してたら、相手の気もそれちゃいますし、いい表情を逃しちゃいますよね。近づく段階でカメラは設定しておく。そういう一連の流れに対して、このK-3 Mark IIIはきちんと応えてくれるんです。

ただ、これは一眼レフだからというよりも、PENTAXのカメラだからなんじゃないか?という気もします。雑誌のレビューなどで色々なカメラを触るのですが、どんなカメラでも「ここが○○だったら」みたいな部分があるものです。でも、K-3 Mark IIIにはそういったところがないんです。余計なものもなければ、足りないところもない。あるべきものがあるべきところにちゃんとあり、初めて持ったのに未知のカメラな感じがしないんです。手に馴染みますよね。もちろん、標準状態ではちょっと違うと思う部分はあるんですが、いい感じにカスタマイズできるんですよ。

カメラを分かっている人が作ったカメラ

——どう変えてるんですか。ボタンの機能を変えると、どこがどのボタンか分からなくなりません?

慣れますよ。ただ、背面液晶に標準でどのボタンがどの機能か表示されているので、分からなくなるということはありません。

色々自分の好きなように変更できるのはいいですね。ほぼ全部カスタマイズしています(笑い)。特に再生ボタンが、標準ではちょっと押しづらい位置にあるんです。リコーの人に聞くと、あえてこの位置ということなのですが、やはり押しやすい位置がいいわけです。

そこで左手側のロックボタンには再生を割り当てています。それ以外のボタンだと、測光モードは切り替えないのでライブビューの切り替えに、押しづらい再生ボタンはWi-Fiにしています。マウント部左手側面のSRボタンは表示パネルの照明のオン/オフに、RAWボタンはドライブモードの切り替えにしています。ドライブモードは、十字ボタンでも変えられるのですが、割り当てたほうが直接変更できて素早く操作できるんですよ。

また、設定ダイヤルは感度の変更に割り当てているのですが、ISO感度ボタンを押せば感度オートになるようにしています。細かく感度を変えたいけど、さっとオートに戻せるのは気に入っています。このあたりは、カメラが分かっている人が作っているな! という感じが伝わってきます。

——今回の写真ですが、標準と比べて独特な感じに見えます。

撮影時はK-3 Mark IIIにまだ市販のRAW現像ソフトが対応していなかったということもあるのですが、カスタムイメージのパラメーターをいじっています。コダクローム(コダックのポジフィルム)をイメージした感じで、鮮やかをベースに彩度-2、色相-1、キー-1、コントラスト+1、ハイライト+2、シャドー-1、ファインシャープネス+1といった具合です。また、このままだとメリハリがなく少し眠い感じになるので、別途調整できる明瞭度を+2にしています。いじれる幅はかなり広くて、好みの状態にできています。こうした調整ができるのもいいですね。

撮影:鹿野貴司
K-3 Mark III / HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited / 21mm(32mm相当) / 絞り優先AE(1/400秒・F8・-0.3EV) / ISO 100

——また、ワイド気味の写真が多いですね。

レンズは、HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WRとHD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited を使いました。35mm判では30〜50mmくらいの画角が好きなので、20〜40mmはちょうどいいところです。21mmのほうは小さいというのもいいです。21mmを付けたK-3 Mark IIIは大抵どんなカバンにも入ります。

以前は多くの人が行きかう光景を撮ることが多かったのですが、新型コロナウィルス感染症の流行による自粛な世の中ってちょっと街が眠っているように思います。そんな時代を考えて、あえて人がポツンといるようなところへ意識的にカメラを向けています。

趣味で撮る楽しさを満たすカメラ

——昨年春の緊急事態宣言のときは、毎日一眼レフで撮っていたそうですね。

とにかく毎日撮ろうって決めて。最初はコンパクトデジタルカメラだったのですが、ミラーレスに変えて、他社のものですがすぐに一眼レフになりました。そのときに、改めて一眼レフっていいなって思ったんです。

——普通、軽量化を求めて逆になりそうな気がしますが、あえての大型化なんですね。

大型化というか、そういうプライベートな撮影に一番フィットしたのが一眼レフだったということです。緊急事態宣言が出て仕事がキャンセルになっていくと、写真を撮らなくても日々過ごせちゃうんですよ。写真って撮らないと腕が落ちていきます。それならばと毎日撮るって決めたんです。そうしていると、すぐに写真展の予定も決まり、途中でやめるわけにもいかなくなりました。

ただ、楽しくないと続かないんですよね。コンパクトデジタルカメラ、たとえばリコーGRならポケットに忍ばせておいて、GRだから撮れる写真ってのもありますが、ガッツリ撮るにはちょっと気軽すぎちゃう。仕事で撮るなら結果がすべてですから、それでもいいのですが、プライベートだと、それじゃ物足りない。カメラを操作する楽しさも欲しかったんです。言わば、スポーツカーで峠に行くような感覚でしょうか。

撮影:鹿野貴司
K-3 Mark III / HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited / 21mm(32mm相当) / 絞り優先AE(1/160秒・F8・-0.7EV) / ISO 100

——今はフルサイズのK-1 Mark IIも使っているんですよね。K-3 Mark IIIはセンサーサイズがAPS-C機ですが、フルサイズでないことについてはどうですか?

はい。実は、K-3 Mark IIIを使うようになってからK-1 Mark IIを買いました。FA Limitedレンズを本来の画角で使ってみたかったんです。街角では遠景を絞って撮ることが多いので、大きなボケが必要なわけでもなく、APS-Cとフルサイズの違いはほとんど感じないですね。もちろんK-3 Mark IIIでも明るい単焦点レンズを使えば大きくボケます。smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limitedで人物スナップも撮っているのですが、これもおすすめの組み合わせです。

K-3 Mark IIIならFAとDAどちらのレンズも使えるので、その点ではフルサイズより利便性もありますね。感度もK-3 Mark IIIでは普段の撮影で使うISO6400くらいまではなんの問題もなく、特に困るということはありません。

APS-Cの一眼レフが主流だった頃、プロやハイアマチュアがフルサイズを熱望したのって、ファインダーの大きさですよね。APS-Cは以前だとどうしてもファインダーの視野角は小さくなっていました。まるで、井戸の底を覗いていたような感じ。ただ、K-3 Mark IIIのファインダーは非常に大きくて、フルサイズ機のK-1 Mark IIと一緒に持っていって使い分けていても、覗いただけではどっちを使っているのか分からないくらいに、不満はないんですよ。

ワークショップや学校では、写真を撮るときは隅までしっかり見るように教えています。中心だけで、全体に意識がいっていないと、写真としてもやっぱりどこか欠けたようになります。そこで重要なのがファインダーなのですが、K-3 Mark IIIのファインダーは気持ちがよく、隅まで見えます。スクリーン越しにリアルに見ているという感じがあります。目も疲れませんし。

ただし、K-1 Mark IIとK-3 Mark IIIを一緒に使っていると、キャラクターの違いを感じます。K-1 Mark IIも撮っていて良いのですが、どこか使われている感じがしてしまいます。一方で、K-3 Mark IIIは気持ちよく、シャキシャキ撮れる。最新モデルというだけあって、操作性なども洗練されていますしね。誰にでも勧められるカメラです。使ったらみんな欲しいと思うんじゃないでしょうか。

いまは、趣味でカメラをやっている人でも、ミラーレスが最初という人が増えてきました。ミラーレスを使っていて、壁にぶつかっている人、飽きちゃったり、燃え尽きちゃったと思っている人も、一眼レフを選んでもいいと思います。どう撮るのかというイメージが先にあって、撮影自体が楽しめるなら一眼レフは最適です。結果を想像しながら撮る必要はありますが、自分でやることが分かっていれば、どんなカメラでも一緒です。レンジファインダーも楽しいのですが、車の例にすればスーパーカーのような感じで、ちょっとハードルが高い。その点、一眼レフはバランスがいいと思います。ミラーレスがメインでも、トレーニングとして一眼レフ”も”使ってみてもいいかもしれません。

もちろん、上級者に限らず、スマートフォンで写真を撮っている人にも合うと思います。カメラを変えると気分が変わりますよね。多少慣れは要りますが、K-3 Mark IIIを使っていてつまらないところはないですし、長く使えるカメラだと思います。

撮影:鹿野貴司
K-3 Mark III / HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR / 26.88mm(41mm相当) / 絞り優先AE(1/320秒・F8・-0.3EV) / ISO 100

制作協力:リコーイメージング株式会社

猪狩友則

(いがり とものり)フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部。新製品情報や「ニューフェース診断室」などの記事編集を担当する傍ら、海外イベントの取材、パソコンやスマートフォンに関する基礎解説の執筆も行う。カメラ記者クラブでは、カメラグランプリ実行委員長などを歴任。