山岸伸の「写真のキモチ」
第88回:四天展
ジャンルの異なる同世代の写真家4人の集い
2025年4月30日 12:00
各分野を牽引する写真家である小松健一、鈴木一雄、林義勝、山岸伸の4人が集い6月2日から14日まで銀座の吉井画廊で「四天展(してんてん)」と題して写真展を開く。その経緯と伝えたいメッセージとは。お話しをうかがいました。(聞き手・文:近井沙妃)
写真を売ろう
写真を職業とする同世代の4人で写真展をやることになった。遠い昔から何らかの形で縁があったメンバーだ。小松健一さんから「4人で写真展をやりたいんだけど参加してくれないか」と電話があり、もちろん喜んで。意気揚々と新宿のバーに集まったのは昨年11月末のこと。
この中で初めてお会いしたのは風景写真家の鈴木一雄さん。私がお付き合いしている風景写真家さんはごく僅かな上に女性が多い気がする。会ってみると想像以上に明るく元気な方。いい意味でギャップがあった。
顔合わせで盃を交わし、写真展をやろうと決意が固まった。大の大人の写真家たちが集まれば急ピッチで話が進む。最初に決めるべきは会場。飲み会が終わりすぐに思いついたのが銀座の吉井画廊さん。私も1度写真展でお世話になったり、過去にはデビッド・ダグラス・ダンカンさんなど驚くほど著名な方が出入りをしていたりと写真に対しての理解力がとても高い画廊だからだ。
加えて全員写真展は何度も開催しているし次の個展を控えているメンバーが多かったので写真業界のギャラリーは避けることで合意していた。
吉井社長へ4人展をしてみたいとお話しすると「だったら1カ月空けるのでやってくださいよ」と良い返事をいただけた。
会場が決まり、2度目の打ち合わせは吉井画廊で。将来を考えてみんなで写真を売ろう。売ることを考えてこの写真展をやってみようと自由に1人7点展示する。写真展会場と違い会場自体はそんなに大きくない。コの字のスペースをどう分けるかじゃんけんで決めた。誰の名前が先に来るか、なにがどうだ、全てじゃんけん。じゃんけんで決めたらあっという間だよね。だけどじゃんけんで決められるぐらい個々に仕事をちゃんとしている写真家たちなのでそれもよしとして、決していい加減なわけではない。
妥協するところは妥協するししないところはしない。個性のぶつかり合い。返事が早い人遅い人、声が大きい人小さい人、皆それぞれ生きてきた人生の中で知人も多い。4人それぞれ持ち場で出来る事をやろうと進んでいった。
同世代の4人
年齢順でメンバーを少しご紹介しよう。私とほんの2週間ぐらいの差で林さんが最年長。次に私、鈴木さんと小松さんが1953年生まれで同い年。なんとなく私と林さんの方が若く見える気がするのは気のせいだろうか。
林さんとは齋藤康一先生が1998年に出版された「先輩・後輩・仲間たち」という写真集で共にその中に入れていただいた。当時は林さんとお会いすることはなく、彼が1番年下だと聞いていたが実は私が年下だったと後に判明。そんなことはどうでもいいが私の頭の片隅に林さんの名前が刷り込まれたのはこの写真集がきっかけということ。
その後に林さんの写真展に足を運んだり彼が私の写真展に来てくれたりと交流が始まり、私のライフワーク「瞬間の顔(現・KAO)」にも出演いただいた。これはそのときの1枚。
林さんはとてもダンディでなんとも素敵な方。私と違い物事を熟考するタイプでこの企画には欠かせない存在だ。ちなみに今回の企画をやろうと最初に意気投合したのは小松さんと鈴木さん、そして同世代ぐらいでやりたいねと林さんに声がかかった。林さんが「山岸さんも同世代で何かしたいって言っていたから声をかけよう」と最後に私に声をかけてくれた。嬉しいよね。
小松さんとはここ4~5年お付き合いさせていただいている。たまにスタジオで1杯飲んだりお互い体調が悪いのにけっこう深酒をしたり。実は彼がどんな方なのかさっぱりわからずにいた。恐らく出会いは2002年に開催された写真展「これがコダクロームだ!Ⅴ」のパーティーで記念写真を撮ったときだと思う。私がこの写真展に参加したのは光栄にも藤井秀樹先生から「君は米米CLUBを被写体にペイントされた顔の写真をコダクロームで撮っていたよね、是非それを出展しなさい」と声をかけていただいたから。
左下から今は亡き藤井秀樹先生、秋山庄太郎先生、右上が小松さん、真ん中は堀内カラーの方、左上は私。少し顔は変わりましたがファッションはほとんど変わらないね。当時から凄みのある方で何者かわからない感じで紹介されたがそれ以降は何十年もお会いしていなかった。今考えるともっと早く友達になっておいたほうがよかったかなとも思う。けれど今こうして同じく写真を職業とする人間としてこの1枚の写真は私にとって宝物だ。
今回、小松さんもいろいろと骨を折ってくれた。四天展というネーミングは小松さんの発案で「4人の写真家が夢や希望などを天という一文字に託して、ただ展示するのではなく自分たちの写真の価値を見出して販売する」そんなメッセージを後輩に残していこうという意味が込められている。題字も彼が20枚ぐらい筆で書いてきてくれてその中から皆の決で決めた。はじめは誰かにお願いすればよかったかなと思ったが、いざDMに入ると凄くいい感じに収まっている。小松さん、ありがとう。
今回初めてお会いした鈴木さん。風景写真家の方にあまり縁が無い私、どこかでお会いしていたかもしれないが恐らく初対面。彼は非常に分かりやすく意見を言ってくれて締めるところは締めてくれる。4人の中で1番細かく動きが早い方だと思う。これからは写真を通して友となれることが嬉しい。
写真展用のプロフィール写真は敢えて私のアシスタントである近井に撮らせた。写真を志す者が写真家を撮る、これは非常に緊張する。その4人分の緊張を近井に味わわせたかった。皆さんが気に入っているかわからないが取り敢えず癖のある4名の写真家を撮れた近井は立派だと思う。
プロフィール撮影と打ち合わせを終えてまた酒盛り。割り勘でお酒が飲める仲間が増えてとても楽しい。
会期中の6月4日にはギャラリートークを行う。13時から1人30分ずつ続けた後に全員一緒に話す。この順番もじゃんけんで決めた。来ていただいても入れないぐらいになるかな、と少し心配しているがよろしければ是非聞きに来て欲しい。
吉井さんの計らいで四人展が終わったら小松さんと林さんは順に同会場で別作品の個展を開くことになっている。鈴木さんは六本木にある大手写真メーカーでの写真展が始まる。私も7月半ばから写真展を控えているので吉井画廊で個展をすることは断念したが是非またそういう機会を作っていただきたいと思う。
それぞれ異なるジャンルで
林さんの人物写真や風景写真やドキュメンタリー、小松さんのジャーナリスティックな写真、鈴木さんの自然写真、特に桜。そして女性を沢山撮ってきた私。
本当のことを言えば私は裸婦の写真を出したかった。ふとした会話で吉井社長から「(裸婦だと)先生浮いちゃいますよね。もしそういう写真展をやりたければまたやってくださいよ」と冗談のように言われた。3人は問題無いと言ってくれたが、今回は展示だけでなく1人8ページずつで図録も作り会場で販売をする。なんとなく図録を買ってくれた人がどう思うかを考えた。そんなことを考えているのかと言われるかもしれないがやはり和は乱したくない。
そして選んだのは輓馬(ばんえい競馬)。その中から1点、風景と言ってもいい俯瞰の写真。
競馬場から撮ったのではなく特別にお借りして競馬場の後ろにあるビルの4階から撮影させていただいたもの。晴れれば日高山脈が見えてとてもいい景色かもしれない。だが天候はその日次第。これを見せたかった理由は今回展示する写真の全てはこの直線200mのエリアで撮った写真だから。一か所で脚立に座ってそこから狙って撮影した写真で構成した。作品を見てどこをどう撮ったか想像して欲しい。帯広競馬場内のこの小さな練習コースで撮った写真を皆さんに見てもらいたい。願いはそれだけ。
とにかくこの70過ぎのオヤジたちが4人でやろうということが1つになった。写真が画廊で見られる素晴らしさ、銀座の路面で写真展が出来るという素晴らしさを是非味わってほしい。
写真展情報
「四天展」
小松健一・鈴木一雄・林義勝・山岸伸
2025年6月2日(月)~6月14日(土)
平日10時00分〜19時00分、土・日11時00分〜18時00分
吉井画廊
〒104-0061
東京都中央区銀座8-4-25
https://www.galerie-yoshii.com/
ギャラリートーク
6月4日(水)
13時00分〜13時30分:林義勝
13時45分〜14時15分:小松健一
14時30分〜15時00分:鈴木一雄
15時15分〜15時45分:山岸伸
16時00分〜17時00分:出品作家全員