山岸伸の「写真のキモチ」

第86回:北海道遺産ばんえい競馬 私の新たな1つのけじめ

写真集出版に向けて

ソニー α7RV/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN | Art/絞り優先AE(F3.5、1/2,500秒、−1.7EV)/ISO 2500 撮影:近井

山岸さんが北海道遺産 ばんえい競馬を撮影し続けて約18年。2025年上半期に新たな写真集出版を予定している。その1冊を仕上げるために向かった2月のばんえい十勝 帯広競馬場。果たしてどのような撮影になったのでしょうか。(聞き手・文:近井沙妃)

2月の帯広へ

約18年かけて撮影し続けたばんえい競馬。自分の中で1つのけじめをつけるため帯広に向かった。羽田から帯広行きの飛行機は1日6便ほど飛んでいて、今回はいつもよりロケの日数が少ないこともあり始発の便で帯広へ。

常にスマホのカメラで自分の同行を記録。高速道路を使い羽田に到着し、車を空港の駐車場に預ける。最近駐車場の予約が取りにくく、アシスタントは1ヵ月前からサイトをこまめにチェックしてようやく予約できている。

空港に向かう車内からスマホのカメラで。朝焼けが綺麗で気持ちのいい朝だった

昔はJALをよく利用しており、世界中のロケ先で尾翼にある鶴のマークを目にした時に安心感があり非常に頼りになる存在だった。いつの間にかグローバルクラブ会員というステータスをいただき、利用頻度が少なくなった今でも会員ということでサービスを受けている。特に1番楽なのがチェックインと預け荷物。荷物をたくさん持つ人間として大きい利点だ。最近はANAに乗る機会も多く、同様にステータスをいただいて非常にスピーディーな荷物の出し入れが可能。これは結構カメラマンにとって大切なこと。

JALグローバルクラブカウンターと機体

飛行機は必ず窓際の席を取り、モニターに映るナビゲーションを見ながら今どこにいるかなどを確認しながらずっと写真を撮っている。これも写真を撮る人間としてとても大切なことじゃないかな。

東京上空を飛ぶと必ず富士山が見えるが、今回は帯広行きなので少し振り向きながら撮った1枚。これはこれでとても気に入っている

とかち帯広空港に近づいてきた。上空から見る日高山脈がとても綺麗。以前、熱気球に乗せていただき撮影を試みたが残念ながら風が強く思うように撮れなかったのでもう1度くらい撮ってみたいと思っている。

訪れる1週間くらい前、十勝帯広は記録的な大雪が降った

過去にもお話した通り、昔からロケではどこに行ってもいつも同じ道を通り同じものを買い同じものを食べるのが癖というか習性だ。そうすることによって余計な気を使うことがなく、撮影に行くことだけに集中できる。

着いたらまずは腹ごしらえ、飛行場から帯広市内へ直行しラーメン屋「大光」で昼食をいただく。ここの塩ラーメンは絶品。1度本当に美しく撮ってみたいと思うようなラーメン。

帯広でも有名なラーメン「大光」。最近は私の知人の方もちょくちょく行っているみたい

宿泊先もいつもと同じ駅前のホテルで無理を言ってベランダに出れる部屋。そこから毎日駅を見ながら寝起きしている。このホテルで有名なのはサウナとモール温泉。私は滅多に入らないがこの日は早かったので他に誰もいなく思い切り入らせてもらった。

(左)ホテルの部屋からの眺め(右)モール温泉は植物性の有機物を多く含み、とろとろとした手触りや飴色に近い湯色が特徴

夕方は市や関係者の方たちと食事をし、明日に備え早めに就寝。ここまでが山岸伸の帯広観光と帯広到着日の模様。

ばんえい競馬 撮影スタート

朝調教の撮影では冬は4時くらいに起きて5時半には競馬場、夏は3時くらいに起きて4時半には競馬場と日の出に合わせて行動している。まずは起きてベランダに立ちその日の寒さを肌で感じ、何を着てどう防寒するかを決める。

時刻は4時半、ベランダに出て気温をチェックし防寒対策を決める

2月の日の出は6時半頃、どの季節でも日が上がる前から撮影を始める。極寒の中で撮りたいと思っていたが以外と寒くなく、下がっても-10℃くらいだった。

ロケの直前に購入したキヤノンEOS R6 Mark IIを撮影に持って行った。果たして寒さに耐えられるのかと多少心配していたが問題なくごく普通に撮影ができ、何よりも良かったのは軽さ。そしてボディを長く触っていてもあまり冷たさを感じないという点。ISO感度までオールオートで撮ってみたシーンもある。過去一度もそうしたことがなく、長くはその設定を続けなかったが集中できてそれなりに撮れることに驚いた。

キヤノンEOS R6 Mark IIと撮影風景。私はR5とR6 Mark II、アシスタントの近井はソニーα1とα7R Vを使用
日の出前から撮影開始。 共にキヤノン EOS R6 Mark II/RF24-105mm F4L IS USM/絞り優先AE(F4)/ISO 3200(上)1/20秒、−0.3EV(左下)1/40秒、+0.7EV (右下)1/100秒、+0.7EV

さあ、日が出てきた。馬の吐く息と体から出る湯気を撮りたかったが不思議と湯気が少なく朝日が上がる位置も想像とはかなり違い戸惑った。

このアウターはお尻と膝小僧まで隠れる長いものなので暖かく撮影できる。撮影し続けていると指先が凍るように痛かったがそれ以外は何とか凌げた

2~3年前から朝調教時もヘルメットを着用するようになった。

日が上がり時刻は6時50分。 キヤノン EOS R5/RF70-200mm F2.8 L IS USM/絞り優先AE(F4、1/2,000秒、+1EV)/ISO 1600

これは私の荷物を持ちながら近井が撮った1枚。なかなか牧歌的でとてもいい写真だと思う。

ソニー α1/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/絞り優先AE(F4.5、1/5,000秒)/ISO 1600 撮影:近井

今回は装蹄所にも顔を出して撮影させていただいた。私が以前撮った装蹄所とは変わりどちらかと⾔えば⾞の修理⼯場を感じさせるくらい近代化していて、装蹄師も若くかっこいい方たちがされていた。時代だよね。

装蹄所にて、装蹄の様子
装蹄所にて

帯広に訪れると必ずFM-JAGAというコミュニティーFMに出演する。番組出演前に全国区になりつつある浦島先生、いつもアテンドしてくれている元帯広市役所の梅村さんと写真談義。

浦島先生が差し入れてくれた「パンどら」をいただきながら写真談義

浦島先生は英語学校の経営者であり、なんとあの「ジュエリーアイス」の名付け親。続いて「ハルニレの木」とどんどん撮影スポットを見つけその場所を有名にされている。同じR6を使い、ピントは真ん中で余計なことは考えずにオートで撮っているらしい。先生は毎朝の撮影が習慣化するぐらい写真に情熱を持っている。今夏は若い頃にヨーロッパ留学されたときに訪れた場所をご夫婦で回ってくるということでその準備に精を出していた。梅村さんは本当に驚くほど写真が上手。この2人がいれば十勝を表現することが出来ると思うくらい。

いつも番組に呼んでくれるラジオパーソナリティの梶山さん。ちょっと太り気味で心配だったが、梶山さんの声はいつ聞いても癒されるね。

「Bravo Funky Voice」に出演

放送を終えてお昼は「そば小川」へ。帯広では車を一切運転しないのでちょっとだけお酒をいただく。いつも中々手に入らないお酒を飲ませていただき、これも勉強。ご主人と若旦那の写真を「瞬間の顔(現・KAO)」で撮影させていただいた縁もあり、とても親切にしていただいている。

(左)この日飲ませていただいたお酒(右)私が「瞬間の顔」で撮影した写真が飾られている

そば小川の建物は文化財になってもおかしくないような趣がある元酒蔵。人気のごぼう天そばをいただき観光気分は終わり。競馬場へレースを撮りに行く。

(左)ごぼう天そば(右)若旦那と。少し遅めのバレンタインということでマカロンをいただいた

お店を出ると駐車場に元副市長が私の大好きな「高橋まんじゅう」の温かいおやき(大判焼き)を差し入れに来てくれていた。嬉しいよね。一カメラマンごときにこんなによくしていただいて本当に感謝。

大好きな高橋まんじゅう、中身はあんことチーズの2種類

今回はここ数年で登場したまだ私が撮影したことのない若手騎手たちを撮影させてほしいと依頼した。それにあたり騎手の方はもちろんだが許可撮りや段取りなどを手伝ってくれている株式会社ティワイネットの皆さんには本当に感謝している。

株式会社ティワイネットの皆さんが撮影の段取りをきちんと組んでくれている

レースの間で初々しい5名の騎手を撮影。過去に撮影させていただいた騎手の皆さんはシャイでなかなか会話する機会がなく、十数年通った今でもほとんど口を利いたことがない方もいる。その中で若手騎手の方たちは驚くほど明るく好青年だった。皆さんの今後にとても期待している。

左から金田利貴騎手(2020年初騎乗)、中村太陽騎手(2022年初騎乗)、大友一馬騎手(2024年初騎乗)
左から菅原響希騎手(2024年初騎乗)、中原蓮騎手(2024年初騎乗)

レースの撮影では観客席から私たちが見えているので目立たないようなるべく謙虚に物陰でじっと始まるのを待つ。

(左)目立たない位置につきレースが始まるのを待つ(右)レースの度に整備されるコース、たくさんの人が関わり働いている
(上)推しの今井千尋騎手 共にソニー α1/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/絞り優先AE(上)F8、1/1,600秒、−0.7EV/ISO 800(下)F13、1/1,250秒、−1EV/ISO 400

撮影2日目 ロケ最終日

2日目の朝調教は1点気に入った写真が撮れたので大満足。

[キャプション] キヤノンEOS R6 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM/絞り優先AE(F3.2、1/50秒、−1EV)/ISO 3200
朝調教にて
朝調教にて、谷調教師と記念写真
ソニー α7RV/SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN | Art/絞り優先AE(F3.5、1/2,500秒、−1.7EV)/ISO 2500 撮影:近井

帰りの飛行機の時間が許すまでレースを撮影し競馬場を後にした。

写真集出版に向けて

こうして2日間のロケを慣行。ばんえい競馬を撮るにあたって私の決め事がある。それは撮影を競馬場内のみで完結させること。よりフィールドを広げて育成牧場などに行けば違った絵も撮れるが私が撮りたいのはこの帯広競馬場で馬と人間が暮らす世界だ。

ここで行われる朝調教やレースをじっとルールに則って撮り続けてきた。今年、過去18年の撮影を遡り写真集を作ろうと思っている。是非、期待していて欲しい。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。