山岸伸の「写真のキモチ」
第80回:俯瞰で撮る鉄道
重なる偶然と幸運に気づく感度
2024年10月17日 17:33
鉄道の魅力にハマっていく
無意識のうちに撮り始めた鉄道。いつの間にか、俯瞰で自社スタジオの上を走る電車を撮るほどになっていた。本来自分は鉄道や周辺環境に関する音を楽しむ「音鉄」だと思うが、最近は見ると撮りたくなる。ますます鉄道の魅力にハマっていく予感がしている。
今ほど鉄道への関心が強くなかった時代でも、訪れる機会があれば何気なく撮っていた。2004年の旭川機関区 扇形車庫と2002年の旧高島線 東高島駅。ここには可愛い女の子を連れていき撮影した気がする。鉄道は人物を撮る背景として好きなロケーションでもあった。そして常日頃からどの現場でも空き時間にスナップを撮っているから、その写真が後々こうして生きてくる。
2006年5月14日に閉館した交通博物館。翌朝に駆けつけ表玄関を撮影した。撮れるうちに撮ること、そしてその期限がわかれば最後の機会に撮ることでより記念性の高い記録になる。
私が鉄道写真において影響を受けたのは東京駅研究家の佐々木直樹さんと鉄道写真の第一人者である広田尚敬先生。そして若手フォトグラファーの西尾豪さんは驚くほど鉄道知識があり、最近鉄道のことを教わっている。先日ヨドバシカメラの撮影会で仙台に行った際に帰りの新幹線チケットを「はやぶさ・こまち」でこまち最後尾の席を取ってくれて、リクライニングの角度が大きく倒れることに感動。新幹線のスピードをスマホアプリで確認しながら到着が何分遅れるかなど細かくレクチャーしてもらい楽しいひと時を過ごした。
中央線が真上を走る自社スタジオ
私のスタジオは千代田区神田、中央線が真上を走る高架下にある。昔ニューヨークロケから帰ってきたときに偶然この路地を通ると、赤レンガや雰囲気がブルックリンの橋の下のように見えた。ちょうど事務所を移そうと考えていた時だったので調べて借りようとしたが空きがなく、JR東日本の不動産部門の方に「もし空いたら連絡するから」と言われて名前と会社の電話番号を伝え後にした。
その約半年後に突然「空いたけど、まだ借りる気ある? 今日返事をすれば貸してあげるよ」と連絡が入り、一度中を見せてくださいとお伺いした。蒲鉾型でボロボロの倉庫のようだったが、やはり外見が気に入り「お借りします」と契約してしまった。本当、“してしまった”に近い(笑)。
後からわかったけど非常に一方的な契約というか、制限が多い物件だった。借りて約15年になるがガスは通っていない。多少不便でも如何せんこの赤レンガに惚れて借りた場所。今ではここが自分の写真の発祥の地だという気持ちでいる。
この赤レンガは積まれているのではなくコンクリートの上に薄いレンガが貼られていて、たまに学生さんが写真を撮りに来ている。映画やテレビのロケなど多くの映像に関する人たちが月に1~2度くらい来て撮影しているぐらい、都心では素敵なスポットだと思う。この雰囲気をいつまでも保てれば嬉しい。
さまざまな俯瞰の視点と発見
時折見上げて電車を撮ることもあったが、ある時期近所にあるビルの屋上に上がることができて10回ほどそこから写真を撮らせてもらった。何車両の電車が行き交うのか観察していて、同時に最高5車両くらいあったと思うけど写真を見直す限り4車両が限界かな。
中央線、山手線、京浜東北線、東北・上越・秋田・山形新幹線、上野東京ライン、見事にJR東日本の車両を多く見れる場所にいたことが発覚して驚き。これも偶然中の偶然。今はそのビルに上がれなくなったが、当時は無理を言って様々な時間帯で撮影させてもらった。
その時代に初めてソニーのα9が手元にきたりと、新しいカメラの試し撮りもここで出来た。
最近購入した新しいスマートフォン Xperia 1 VIでも勉強中。過去に撮影した写真を100枚程度セレクトし、敢えてPCで画像送りをしてその画面をスマホで動画撮影した。このラフさがとても気に入り、思わずFacebookにアップすると鉄道写真家の助川さんが「楽しい夜間撮影ですね。車内灯だけでなく、街灯も綺麗です!」とコメントをくれてまた感動。つい翌日もう1本作ってみたがそれはあまり上手くいかなかった。
Facebook上の会員限定グループで「楽鉄俱楽部」という楽しく気楽に鉄道や駅の風景など身の回りにある鉄道関係全般の写真を共有して楽しむ会を主宰している。現在会員133名、いつかみんなで私のスタジオ周辺を含め電車を撮り歩く機会なども作ってみたい。
ここ3年ほど日比谷にあるホテルで撮影させていただいている。もうこちらでも撮ることは難しくなったが部屋から何度か撮影できた。
これがまた魅力的で新幹線の線路と東京高速道路(KK線)が並行して走っている。あと数年でこの高速道路は廃止されることが発表されていた。ということは、この写真が記憶と記録に残るものになる。私のテーマとなっている「記憶と記録」に沿った撮影が偶然できたのだ。これもきっと写真を撮り続けていたから辿り着けた場所であり機会だと思う。
最近新しく高速道路と鉄道とホテルが見える場所を見つけて何度か通い写真を撮らせてもらっている。東京は高層ビルなど高い所から撮影できるスポットが多い分、望むような景色を探そうとすると大変だったり、知らずに行った場所から想像以上の景色が見れたりしておもしろい。
ある時は福島の会津若松で空撮をする機会があり、高い所から町を眺めていたら気になる建物が見えた。パイロットに聞くと扇形庫と転車台だと言い、寄れるところまで高度を下げてくれた。すると電車が入っているのが見えて益々好奇心が湧き、すぐにこの転車台を撮りたいとお願いして約1カ月後に再び訪れた。
郡山総合車両センター会津若松派出構内にある転車台と扇形庫。そしてJR只見線キハ40系の姿が。広報の方に「山岸さんはツイていますね」と言われた奇跡のような撮影。撮影から約3週間後の2020年3月13日に運行を終えた。
なんでもそうだが、撮りたいと思ったら何を撮ってどうしたいかを明確に伝えて頼み、相手の返事を待つ。この撮影は仕事で撮っているわけではないがこうして写真に残していくことは自分の中で最も大切なことだと思うのでとにかく目の前にあるチャンスは全てカメラに収めたい。
私はとかち観光大使としてばんえい競馬の撮影に帯広へ通い、ロケ行程の中で1~2時間の空きができれば電車を撮りに行っている。残念ながら足腰が弱いし電車の本数も少なく、前後のスケジュールがあるため時間との戦い。どうしても上から撮るシーンが増えるが、このアングルが私にとってはとてもいい。