山岸伸の「写真のキモチ」
第78回:自社スタジオで写す写真
コミュニケーションの場、撮影の場
2024年9月20日 12:00
山岸さんが千代田区神田にスタジオを構えて約13年。ここが基本的な仕事場であり、日々数々の撮影や作業、打ち合わせがおこなわれている。撮影された写真を交え、思うことや空間の使い方、維持し続ける理由をお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)
私の仕事が詰まったスタジオ
コミュニケーションの場であり写真を撮る場、私だけではなくアシスタントも自由に撮れるというつもりで小さな自社スタジオを十数年と持ち続けている。
1番のお気に入りは天井が白でアーチ型になっているところ。どこに光を当てても回るので光を切ることの方がメインになってくる。ポートレートで言えばなんとか全身を撮れるくらいの広さだがなかなか良いスタジオだ。
今回は私のスタジオで撮った写真の一部をお見せしながら話したいと思う。
case01:安宅伽織
昨年のミス・アース・ジャパン 香川代表の安宅伽織さんがスタジオに顔を出してくれた。彼女は大会で審査をした際に非常に注目していた子。モデルだけでなく棒高跳びの選手という顔を持っていて1度彼女が跳んでいる姿を撮ってみたいと思わされた。その人の姿だけではなく持っているものを撮りたいと思う好奇心が本質を表現することや写すことへの挑戦になる。
このとき私は目の調子が悪くアシスタントのマッハ佐藤君に撮影を任せた。テザー撮影で画面を見ながら私がもっとこうしたらいいんじゃないかという指示をしてマッハ君がシャッターを押す。こういう風に私も撮っただろうなと思うような写真を撮ってくれた。
ストロボを1灯スタンドで固定し、アシスタントの近井がブロワーで彼女の髪に風を入れている。レタッチはバックの影やグラデーションのムラ、被写体の肌の調子などを少し調整する程度。今回の記事に使用している写真の半数は軽くレタッチしているがほとんど撮って出しに近い。この写真はあくまでもこれから彼女を撮影したいという私のプレゼンテーション。彼女と事務所の社長さんに見ていただいて何かの機会に繋がればと思う。
必ず撮影の終わりに記念写真を撮るようにしている。言い方は難しいがこれがお互いに撮る・撮られるという関係を理解し合い、写真を発表することに同意しているという証明に近いニュアンスかな。もちろん本人や事務所に所属している場合は事務所に使用用途を説明し許可を得ている。
case02:前田瑠美・宇野晋太郎
非常に興味を持っている前田瑠美さん。今まで彼女がミスコンで賞を取ったときや会場などで撮る機会はあったが、今回は瑠美さんから頼まれ「先生はギャラがお高いんでしょう?」「友達価格でいいですよ」とやり取りをして撮影することに。
彼女をメインでというよりも柔道世界チャンピオンの宇野晋太郎さんが9月半ばで日本を発ちカザフスタンへ向かうためその前に彼を撮って欲しいということで、もちろん喜んで。彼はカンボジア国籍を取り、カザフスタンで柔道を教えながら世界大会に出るために磨きをかけている。
左はLEDライトを使用し陰影が強いもの、右はストロボを使用しグレーの背景で明るいもの。もちろん他にもたくさん撮っているが、強く優しくをテーマに撮影した。私の写真が被写体の皆さんの自信になったり、何か大切なときに使用されれば嬉しい。
私のスタジオでは大掛かりな撮影ができず、背景はバックペーパーの色を変えたりちょっとした背景布や折り畳み式柄背景を使って変化をつけるしかないので被写体と私の関係をきちんと表現しないとなかなかいい写真にはならない。
瑠美さんは歌手であり極真空手全日本女子チャンピオン、そして第25代ミス鹿児島。「闘う歌姫」をキャッチコピーに活動している。彼女が蹴りをしているが私のスタジオで撮るには狭く、左右が切れずに全身を入れるのは至難の業だ。リクエストしたわけではなく流れの中で彼女が蹴りをしてくれたときに撮って止まったもの。今のカメラはそういう意味では動きについていけるというが、スタジオのストロボ撮影で1発1発止めるということはなかなか難しい。自分の持っているシャッターチャンスを磨かなければできないことなので敢えて楽をしないで一生懸命撮る努力をしている。
3人での記念写真も撮っているがお互い武術を磨いている2人の記念写真もパチリ。
case03:大坪紗耶
彼女は知人の芸能事務所でタレントをされているときに知り合い、3年前の再会をきっかけに今回は少し話をして写真を撮ろうということで来てくれた。現在彼女はミスジャパン佐賀大会のプロデューサーをしながら女性の美を追及している。そんな中で撮られることも大切だと思う。アップ・全身、背景と衣装を変え2時間ほど撮らせていただいた。
上の写真で彼女が腕を乗せているのは最近導入したオカムラのテーブル(ライズフィットIII)。天板の裏に高さ調整用のスイッチレバーがあり、天板の高さを665~1,000mmの範囲で任意に止めることができる。レフ板代わりや手を置いたり肘をついたりとポージングができるので重宝している。
このNANLITEのスティック型LEDは最近非常にウケがいい。先日もある芸術監督の方がこれを買って自分の舞台に使いたいということで品番を控えていた。私もいろいろと使用しているがこんなにコンパクトで使いやすいライトは久しぶり。ただ、人によってLEDの光がとても眩しく目が開きにくい方もいる。なんでもそうだがパーフェクトはなかなか無いと思う。
case04:MAYA
カメラマンの深津さんがフリーモデルのMAYAさんを連れて来てくれた。私はスタジオのすぐ近くに事務所とちょっとしたギャラリーを持っているが、そのギャラリーで来年早々に写真展をやりたいと。私も参加しようかな、なんて思い少し撮影させていただいた。
LEDを動かし定常光で当たりを見ながら似合うと思った光でシャッターを押す。初対面でも写真を撮っていい上がりでなければきっと本人も嫌だと思う。回数や時間など関係なしに一生懸命撮ることは欠かさない。
case05:三木美加子
仲良しの俳優、三木美加子さん。たまたまご一緒する機会がありスタジオに来た時にパチリ。「先生は毎日写真を撮っているよね」と写欲を煽られ、じゃあ撮ろうかってバウンス板の前で撮った1枚だ。心の準備をしていなかったこともありモノクロで、私としては少し逃げの写真というか攻めではない写真。本人はあまり気に入ってなかったみたいだが私はこういう力の抜けた写真もとてもいいと思う。写真を差し上げて彼女がSNSに載せたところ、評判が良かったと喜んでくれた。
私のSNSを見てくれている人たちから「山岸さんは毎日写真を撮っていますよね」とよく言われる。仕事も含めて毎日撮りたいと思っているが毎日はなかなか難しい。けれどこうしてどんな時でも極力写真を撮る努力をしている。
case06:笑顔写真プロジェクト
上記まではスタジオに来てくれた人を限られた中で私が思うように撮らせてもらったもの。この4枚の写真は私が約9年前から撮っている笑顔写真。笑顔表情筋プランナーの北野さんと始め、現在は協力を得ながら友人・知人に声をかけ撮り続けている。このシリーズではOM SYSTEMのカメラでアートフィルターを使用し、アスペクト比は正方形、色も極力統一。この色が第三者から見て正しいかはわからないが私が行きついた1つの表現。200名ぐらい撮影したが将来はもっとたくさんの人を撮って発表できたらと思う。
case07:二代目 喜多村緑郎
続いては依頼を受けて撮影している宣材写真。劇団新派の俳優、二代目 喜多村緑郎さんは2016年に襲名された日に浅草で撮影させていただいたことが始まりでその後宣材写真を任せていただいている。何度も言うが私のスタジオは狭い。男性で180cmを超えるとライティングの難易度が上がる。それでも知らないスタジオに行って撮るよりは撮り慣れた自分のスタジオの方が絶対に失敗はない。
case08:矢崎希菜
矢崎希菜さんはここ数年出会った中でお気に入りの俳優さん。売り出していく段階の俳優さんの宣材では極端なイメージや色を付けることは避け、魅力的な角度や表情をストレートに表現。まだまだこれから、この1枚の宣材が誰かの目に留まればいいと願ってシャッターを切っている。
case09:竹内茉音
最後は俳優の竹内茉音ちゃんを作品撮りとして撮ったもの。気心が知れているのでライトを手で持ち動かしながら撮影したり、リングライトを使用したりといろいろ試しながら撮影。このようなとき、比較的時間はかけてはいるが特別お金はかけていない。最低限の背景と手元にある照明機材で撮っている。光と知恵があれば新しい写真が撮れる。
私の仕事場、私の城
スタジオに来てくれれば顔合わせや打ち合わせなどコミュニケーションが取れて場合によってはそのまま撮影もできる。この無駄のないスピード感が次に繋がる確率を上げる。そして規模は限られてもある程度の仕事を確実にこなせて、時間の制限なく作品撮りが出来る。この時代にスタジオ・事務所・ギャラリーの家賃を払うだけでヒーヒーしているが、カメラマンである限り維持したい私の城だ。
これからもここで撮る写真が何かのきっかけになったり、そのまま皆さんの目に触れることになる。この場所で出来ることをまだまだ模索していきたい。