山岸伸の「写真のキモチ」
第19回:15年で1,000人達成。最終回を迎えた「瞬間の顔」写真展
東京・新宿で3月28日(月)まで開催中
2022年3月18日 17:00
山岸伸さんのライフワークとも言える写真展「瞬間の顔」が14回目にして目標としていた1,000人を達成し、最終回を迎えました。15年前から撮り始めたプロジェクトは、各界の著名人のまさに一瞬の表情を豊かに捉え、またその数の多さで見る人を圧倒しました。今回は一区切り付いたプロジェクトを振り返ってもらいました。(聞き手・文:武石修)
15年掛けて1,000人を達成
私のライフワークである「瞬間の顔」が今回のVol.14で総撮影人数1,000人を達
成し、1つの区切りを迎えます。なので今回はこの写真展を語りたいと思います。
元々は仕事で撮影させていただいた方を、感謝の気持ちを込めてもう一度写真に残そうと思ったのが始まりです。最初は60人で始めましてね、知り合いばかり。鳩山由紀夫さんや西田敏行さん、吉田秀彦さんなどですね。最初の写真展が2007年。その前の1年間で撮影しました。
以前のオリンパスの社長さん達が、この写真展の挨拶でいつも「1,000人までやってくださいよ。先生ならできる」と言ってくれて、いつしか1,000人が目標になりました。それが達成できたものもサポートしてくれたオリンパスのおかげです。会場の名前が変わって新しい運営になりましたが、やっとオリンパスに恩返しができたのではないかと思っています。
人が人を繋げてくれる縁
俳優の國村隼さんは、写真展でもみんなの前で挨拶をしてくれました。本人がこの写真を凄く気に入ってくれて、海外のプロモーションでも写真を使ってくれて光栄でしたね。
それから山田洋次監督を撮るにあたって、図録を見せたら國村さんの写真を「良い写真だったよね。今一番いい役者じゃない」と私に言ってくれたんです。國村さんのマネージャーも「國村は山田監督の仕事はしたことが無いんだけど」と凄く喜んでくれました。
ルーク・オザワさんは、全日空の飛行機を撮るトップバッターですね。僕は以前、全日空の社長の写真を撮ったことがあって、それを「翼の王国」(機内誌)の新年挨拶ページで使ってもらったことがありました。僕の名前が小さく入っていたんですが、それをルークさんが見つけて「山岸さん載ってましたね。同じ号に僕の写真も載ってます」と連絡をくれたんです。こんな風に面白いくらいどこかで縁が繋がっているんですよ。
小泉進次郎さんもそうです。色々なシーンを撮りましたが、演説中の姿が一番良くてそれを採用しました。その時に菅義偉さんが応援に来ていたんですね。実は菅さんも総理になる前に撮らせてもらっていて、不思議な繋がりを感じました。進次郎さんからは「写真を事務所に飾ってあります」と直接電話がありましたね。実は写真展が終わったら、展示した額装のまま皆さんにお渡ししているんです。鳩山由紀夫さんも14年前の写真を事務所の真ん中に飾ってあるんだそうです。
「瞬間の顔」というものは本当に人と人をつないでいってくれています。その方達の15年を僕はしっかり覚えています。だから、最初に撮った方も今日撮った方も同じ様に見えているんです。
斎藤工さんに僕の古くなったオリンパスのカメラを差し上げたんです。写真に興味があるというので、キットレンズを付けてね。それをずっと使っていてくれて、一昨年かな、事務所から「壊れたから修理してほしい」と連絡があありました。なにも修理しなくても新しいのだってすぐ買える方なのに、とびっくりしましてね。それで凄い人だなと。映画監督までやった方が、僕があげたお古のカメラを使い続けているんですよ。そういう写真を通した繋がりがあるのも、面白いんですよね。
こちらは絹谷幸二さん。画家では日本で一番だと聞いている方です。コロナ禍という制限の中、自宅アトリエで撮らせてもらうのは大変なことでした。でも本人がこの写真を大変気に入ってくれて、三越で展覧会をするときのパンフレットに1ページの大きさで使ってもらえました。小さく使われると思っていたので驚きました。高価な絵の図録に自分の撮った写真が入っているというのは、本当に光栄なことです。だから、「瞬間の顔」は僕にとっての一つの生きがい。皆さんからエネルギーをもらうという感じです。
でも、撮るときは大変ですよ。初めて行く場所だし簡単ではないですね。みんな時間の無い方ばかりだから、15分から30分くらいしか確保してもらえません。シャッターを切るのは3分とか5分で終わらせるようにしています。人の肌の色はみんな違います。それをしっかりプリントするのも一苦労でした。あまりレタッチもしたくないので、現場で相当しっかり撮る必要があります。
実は心残りもあって……それは伊勢神宮の宮司さんを撮れなかったこと。5年前、スケジュールが出たのですが他の仕事があってどうしても叶いませんでした。「これを逃したらもう撮れないよ」と言われていたのですが、本当に残念です。
展示の気遣い
一昨年からかな、人数が多くなりこれまでのプリントサイズでは会場に収まりきれなくなりました。サイズを小さくして2段に展示するようになりました。誰をどこに配置するかは、実は毎日会場に行って変えているんです。被写体の方が来る日を連絡してくれるとその方を良い場所にしたりね。
それから、写真の雰囲気から来る見栄えもあるので、目立つ場所には目立つ作品を置くようにしています。写真ごとにサイズを変える見せ方もありますが、瞬間の顔ではみんな同じ大きさ。見せ方は難しくて毎回苦労しています。
人が人を呼んでくれて、次の撮影に繋がっていく。だからなるべく多くの方に会場に来てほしいんです。
図録があってはじめて続いた
瞬間の顔では、第1回から全部図録を作って記録しています。写真展は終わってしまえば何をやったか残りませんからね。
日本を代表するアートディレクターの長友啓典さんに第1回目からデザインをお願いしました。図録を見ると1人1人にナンバーが振ってありますが、これは長友さんのアイデア。僕は「人に番号を付けているんだ」と仰天してね。そしたら長友さんが「君はずっと撮り続けるだろうから、番号を入れておくよ」と。長友さんが番号を付けてくれたおかげで、1,000人に達したのがわかるということなんです。
製本も平綴じで、美しく仕上げるためには手間が掛かるんですが、長友さんは流石というか敢えてそれを選んだんですね。紙もニスが塗ってあったり、レイアウトも大きくスペースを取ってあったりと贅沢な作りでした。さすがに最新版ではページが増えてホッチキスが通らなくなり、平綴じは諦めましたが……。
この図録がないと瞬間の顔は続かなかったでしょう。初めての方に撮影の企画をなかなか口で説明できませんからね。でも図録を送ると「こういうことね」と相手にわかってもらえる。図録に知っている方がいれば「この人もいるんだ」となって進みやすくなりました。そういうわけだから僕の中に作戦もあったんですよ。この方を撮っておいたら、あの方は撮りやすくなるだろう、なんていうね。
まだ終われない
これまで1年の区切りで展示をして来たけれど、僕にとっては1人目からずっと連続してるものなんです。例えばどなたかの撮影で僕がなにかミスをしていたら、15年間同じミスをしていたということになります。
「1,000人撮ったら終わるんだ」と自分でも言って来ましたが、実は撮る約束をしながら撮れていない人も大勢いるんですね。その方達を撮らせてもらうだけでも、もっとずっと続けることができます。と考えると、まだ終われないかなと考えているんです。2年、3年掛かっても、またできたらいいなと。だから、オリンパスの流れを汲むギャラリーでは最後、という位置付けにしなければと思っているところです。
3月17日(木)〜3月28日(月)10時〜18時(※最終日15時まで)
※休館日:3月22日(火)、23日(水)
OM SYSTEM GALLERY(入場無料)
東京都新宿区西新宿 1-24-1 エステック情報ビル B1F
https://fotopus.com/showroom/index/detail/c/3440