山岸伸の写真のキモチ

第4回:樋口 光

憧れていた瀬戸内海に沈む夕陽を背に 情景と人物が一体となる瞬間を求めて

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(17mm:34mm相当) / マニュアル露出(F7.1・1/250秒) / ISO 400

連載4回目は新春号としてのお届けとなります。舞台は香川県。観音寺商店街の魅力を伝えることがテーマ。今回の撮影では瀬戸内の海に魅せられたという山岸さん。いつものグラビア撮影とは打って変わって、観光アピールというリクエストに対して、クリップオンストロボ1灯とOMデジタルソリューションズ(オリンパス)のOM-Dシリーズ、そしてシグマのfpで撮影に挑んできたそうです。(編集部)

◇   ◇   ◇

これまでの連載

◇   ◇   ◇

今回のテーマは一言で表現するなら地域活性化の街おこし。佐藤倫子さんと一緒に街へ行って、彼女は街の風景を。ボクは美しい風景と女の子を撮ってきました。モデルとなったのは樋口光さん。この1月にミニスカポリスの新メンバーとなる彼女を抜擢しました。

樋口光(ひぐち ひかる)
株式会社オムニアに所属。TBS「覚悟はいいかそこの女子。」や同名タイトルの映画に出演。資生堂のCM「シーブリーズ」、多数の舞台にも出演するなど、多方面で活動している。
プロフィール

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(24mm:48mm相当) / 絞り優先AE(F5・1/400秒・+0.3EV) / ISO 400

観音寺市とは

香川県の西端に位置する市です。いわゆる西讃といわれる地域で、そこには自分にとって見たことがないような海がひろがる街でした。

瀬戸内の海にみせられて

四国自体に行ったことって、ほんの数える程度しかなくて、行ったことがあるといっても愛媛県の松山のほうくらいでした。撮影初日は夕方に着いて、いきなりの海。こんな温暖でいいところがあるんだな、いい街だなぁ、というのが到着後の感想でした。

普段やり慣れないことをしたので、どうかなとも思ったんですけれども、今回はあえてデカいカメラは持って行かなかったんです。タイミング的にSIGMAから35mmのコンパクトな単焦点レンズが出たので、45mmも含めてSIGMA fpとの組み合わせで。ボクはそんなにバシャバシャと撮るのではなく、一枚が決まればそれでいいと思っています。すっかりズームに体が慣れてしまっていましたが、意外と自分に合うというか。単焦点ならではの描写が気に入りました。

街中で暖簾が素敵な着物屋さんを見つけたので、ここで撮りたいと言ったら、ぜひ撮ってください、という感じで快諾してくれました。そんな感じでぶらぶらと街を歩きながら撮影スポットを探していくという感じで進めました。いつもとは違うスタイルですが、すごく新鮮でした。JR四国の観音寺駅でも撮影をしましたが、市の協力があるおかげもあって、許可を得て撮影をすることができました。

SIGMA fp / SIGMA 35mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F3.5・1/640秒・-1.0EV) / ISO 400
SIGMA fp / SIGMA 35mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F3.5・1/320秒・+0.7EV) / ISO 400

休憩がてら入った喫茶店で窓際の席から見た景色が綺麗だったので、お店の人に「撮ってもいいですか?」と聞いたら、快く快諾してくれました。何の準備もセッティングもなし。同行していた関係者もびっくりしていました。「よく撮る場所を見つけますね」と言われましたけど、撮る場所を見つけないと写真は撮れないですからね。おそらく、他の人の3倍ぐらいは周りを見ていると思いますよ。とにかくきょろきょろしないと。

SIGMA fp / SIGMA 45mm F2.8 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F3.5・1/50秒・+0.7EV) / ISO 400

市の人が「馬も準備しました」と言ってくれたので、海辺で馬を走らせてみたりもしました。女性と比較して馬はかなりの大きさなので、普通に撮ってしまうと女の子が負けてしまいます。かと言って、彼女を馬に乗せるわけにもきませんので、背景として使わせていただきました。贅沢な使い方でしたが、とても楽しかった(笑)。

SIGMA fp / SIGMA 35mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F3.2・1/100秒・+2.7EV) / ISO 200

指は第二の脳

今回の撮影は、ふだんのグラビアの撮影と比べると、ボクにとっても、モデルとなった彼女にとってもストレスのない撮影でした。あれを撮らなければならない、こうしなければならない、という制約がなく、背景の中に彼女がいる状況で撮ればいいというものでしたからね。カメラはOM-Dシリーズと、SIGMA fpを使いました。機材重量にして、これまで大変な思いをしてきたことを考えると、これらカメラとクリップオンを持って行くだけで仕事ができるわけですから、幸せだよな、と。前にも写真仲間と荷物の重さが本当に大変だったね、という話をして笑っていたんですが、そういう意味では、今はもう自分たちの頃みたいな単玉じゃないとダメみたいな伝説ってないよね、という話をして。いまじゃズームばっかりだよ、みたいな。

その中でも「ズームなんか使うんじゃないよ」って言われたよね、って話も。35mmなら35mmの画角を覚えて、85mmなら85mmの画角で撮ってどうなるか覚えろ、って言われていたわけです。今考えてみるととんでもないような、想像もできないような話ですよね。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(23mm:46mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/2,000秒・±0EV) / ISO 400

ということもあってか、ズームと単焦点の切り替えでは戸惑うところがあるわけです。デジタルになってズームがどんどん高画質化されて、その便利さを味わってきましたからね。しかし、再び各社から魅力的な単焦点が出るようになってきて、単焦点ならではのボケ味とか、描写力を再認識するような感じになっていますね。自分のものの見方があまりにも変わってしまって、少し戸惑う部分もありますけどね。

ファインダーをのぞいて写真を撮る。標準50mmの1本だけで撮るっていうのは、やっぱり難しいですよ。被写体との距離を意識して、寄ったり離れたりと身体を使わないといけませんから。

最近、面白かったのが整形外科の先生と話をしたときのこと。朝指が痺れていたり、あっためないと動かなくなってきちゃって、という話をしたんですが、先生が「指は第二の脳だから」と言うんです。そこで、自分たちは職人だったんだよね、と。シャッターを押して脳にいく、脳が指にシャッターを押せという指令を送るっていう、その繰り返しの中でやってきていたから、指には負担をかけていた。でも確かに職人でも板前でも、手をつかってやっていたのが当たり前で。そこに今、手を使わずにできるようになってきている面があることについては、恐怖を感じています。

自分はもう指が痛かったりしたら、何かつけたりして使えばいいからとは言っていますが、でも指の速さは違う。整形外科の先生は、そんなことないって言うんだけど、この人差し指と親指、中指の3本だけは素早く動くんです。やっぱりカメラマンというか、写真を撮る人って職人だったんです。

ずっと望んでいた風景の下で

そんなふうに身体が痛いくらい写真を撮ってきた男として、今はラクだもん。昔はポラを本人に見せて、本人がその場で喜んでくれるかどうかっていうのがあった。「おっ、いいね」って言ってもらえるとすごくノルし、何も言わずにじっと見ている人もいる。だから、それを見せる勇気ってすごくつらかったわけ。でもデジタルだと撮影画像をPCなどで表示しながら見せていても、次々に画像をおくって見せることができる。再生画像を拡大せずに、サムネイルのまま見せれば済む、ということもあるわけで、逃げをうつこともできるわけです。ある意味、昔は嘘がつけなかったということですね。後で直すなんてことも言えなかった。クライアントに対してもそう。昔は肌が汚いなんてとんでもないことだった。デジタルだと、後で調整すればいいじゃんなんて、そんな発想になっちゃうとこともあって……。

ところで何で海辺に行ったか。市としても撮るところは海か山の上の神社、そしてシンボルのひとつでもある「銭形砂絵」くらいだという話がありました。街中も歩いたんですが、自分が撮る風でもない。で、海に行くことになったというわけ。じゃあ、海で撮るときにもう一味を加えるのにどうするかってことですが、モデルがいることで悩まなくて済むなと。撮った写真がどのように使われるのか、企画内容は趣旨のみだったので、モデルを中央に置いていこうと。

次のシーンは日没の直前。クリップオンを使っています。焚いたとしても5〜6枚程度しか撮れません。これがグラビア撮影だったらモデルを横にしますね。立った、横にした、何だって感じで。自分も横になったりもします。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(12mm:24mm相当) / 絞り優先AE(F8・1/250秒・±0EV) / ISO 250

こういった決め写真って、綺麗に見せるだけなら、これでパーフェクトなわけです。もっと夕陽が大きくならないかな、となってくると望遠レンズを使って撮らなければならないとか、いろいろあるわけですが……。駆け出しの頃に車を運転していたときに、いつかこんな夕陽が落ちてくるところで撮りたいなとずっと思っていました。東京を走っていたときも、多摩川のほうに向かって夕陽が落ちていく、九段のほうから坂道をがぁーっと登っていくときに落ちていく夕陽をのところで女の子を撮ったらいんじゃないか、とずっとチェックしていたから、「こういうところで撮ったらいんじゃない」というのは誰よりも言える。ちょっと写真を撮るにもどこで撮ったらいいかを迷ったら終わりだからね。

クリップオン1灯でコンパクトに

ここまで見てきてもらったように、夕陽が瀬戸内海に沈んでいく、とそれだけでもものすごいフォトジェニックな場所なんだと思いますね。今回特に感じたのは、機材重量という点でラクな面がありましたけれども、こういう海辺で写真を撮れたっていうことの幸せ感がありました。

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(12mm:24mm相当) / マニュアル露出(F8・1/250秒) / ISO 400

今回のような撮影なら、クリップオンひとつで撮れます。ボクが「写真と旅」ではなく、「旅と写真」と言っているのは、ここまで写るようになったら、もう旅が優先になってきて、そこに行くということが大切になるというか、何時何分にそこに「居る」から撮れるっていうこと。あとは運が良いか悪いかだけですから。

晴れるとやっぱり良い写真が撮れます。晴れないと、誰が撮っても同じでしょう。そこは運次第。今回に限っていえば、うっすらと空が曇っているんです。よけいに滲みが淡くって、それが今回はすごく良かったと思いますね。

クリップオンはアシスタントに持ってもらっています。撮影はフルマニュアル。正面からだとどうしても調整ができませんので、右に行ったり左に行ったり、前後したりというように、カメラ側が動くことで、発行量の調整をしています。使用したストロボはGN42。光量は1/2〜1/16の範囲で調節しています。

山岸伸

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、10年余りで延べ800組以上の男性を撮影。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。