写真展リアルタイムレポート

モノクロ写真で並ぶ“ある家族の素の表情”。山本雅紀写真展「我が家 2」

ニコンサロンで9月5日まで

本展は2015年にニコンサロンで写真展「山本家」、17年に写真集『我が家』として発表した作品の続編だ。第1作では、他人は見ることのない家という密室で起きる出来事を撮影し、話題を呼んだ。当時、文化住宅の一室で暮らしていた家族は、その後に賃貸ながら庭がある2階屋に越した。

「引っ越して5年が経った今も、家族はまだ一軒家に住んでいることに浮かれています」と山本雅紀さんは笑う。

モノクロで並ぶ“インパクトのある光景”

最初は物が散乱した部屋の様子や、家人たちの下着や半裸の姿、奇怪に見える行動に目を奪われる。それでも一部の人はどこかに自分の家との共通点を見つけるかもしれない。インパクトのある光景に慣れてくると、彼らが全く撮影者を意識していない素の表情、行動を取っていることに気づき、家族間の関係の近さに驚く。少なくとも僕はそう感じました。

山本家に写真は身近だった。家族アルバムがあり、中学生ぐらいから雅紀さんは家族の写真を撮っていた。文化住宅時代から使う冷蔵庫には、彼が撮った色褪せた家族の写真が貼られたままで、今の住居にも持ち込まれている。

ただ、雅紀さんはもともと写真好きだったわけではなく、高校卒業後は自衛官を志望した。が、色覚に異常があり、望みは通らず、書店で偶然見た雑誌が進路を決めた。

「戦場カメラマンを紹介した内容で、戦地で父親が死んだ子どもを抱いた1枚に心を揺さぶられました。初めて写真というものに出会った気持ちがして、写真の専門学校へ進みました」

東南アジアを旅したり、専門学校卒業後は1年間、ワーキングホリデーを使いニュージーランドで過ごした。この旅が、改めて自分の家族について考えるきっかけになり、帰国後からきちんと家族を撮り始めた。

幼少期は車上生活も。波乱万丈な生い立ち

三男二女計7名の山本家は波乱万丈な過去を持つ。次男である雅紀さんが幼いころは公営団地に暮らしていたが、家賃の滞納で退去。家族で約1カ月、車上で生活し、その後、父親が生活を立て直すまで2年ほど、児童施設などで別々に暮らした。

「車上生活は家族がずっと一緒にいられるので、僕はただ楽しいだけでした。最近、公団の当時の家賃を聞いたら月1万円だったそうです。普通に考えたら滞納する金額じゃないですよね(笑)」

ただ、撮り始めたものの手応えのある写真が撮れず、「家族を生活保護を受けていた頃の想い出の場所」に連れていって撮ったりもした。

「高校時代は家族の話を友だちにすると引かれました。自分では笑い話のつもりだったんですが、そのようには受け取らない周囲とのギャップを感じていたこともあります。それである時、『家族そのものが面白いんだから、そのまま写せばいいんだ』と気づいたんです」

それは自分の中にあった、何かを表現しようと思う気持ちをなくすことでもあった。

一軒家への引越しは環境が一新し、撮りやすくなると期待したそうだ。

「家が広くなり、モノが減り、壁も新しい。また写真に手応えを感じなくなり、もういいかなと思うこともありました」

撮りためた写真を見返した時、新しい家における家族の習性や姿が写っていた。今回展示した、ムカデをライターで焼く父親や、父親の髪を切る母親の姿などだ。

「カットした髪を受ける上着を、父が新聞紙で器用に作る。その出来栄えに感心しました」

その瞬間を逃さないことが第一

カメラは、メインにソニーのレンズ一体型カメラ「RX100」、他にはニコンのデジタル一眼レフ、リコーGRなどを使う。

「家の中で常にカメラは持ち歩きません。1階と2階に置いて、撮りたいと思った時、取りに行きます」

いつもカメラを持っていると撮影者として被写体を探してしまう。撮る意識を排除していたいのかと穿ってみたくなるが、山本さんは「ああ、どうなんでしょうねえ」と困惑気味に答える気がする。

家族を撮り始めて、初めて内蔵ストロボを使うようになったそうだ。

「光を考えて撮るよりは、その瞬間を逃さないことが第一です。手前が明るく、背景が落ちるので主題が強調できる。また全てをパキッと同じように写せるのも便利です」

前回の展示では全てパネル張りで構成したが、今回はプリントのサイズを変え、展示方法もフレームとクリップ止めを使った。

「展示にバリエーションを付けたかったのと、こうした写真をフレーム入れて見るギャップも面白いかなと思いました」

貴方も山本家を体験してみよう。

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山本雅紀「我が家 2」

会場

ニコンサロン
東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階

会期

2022年8月23日(火)~9月5日(月)

開催時間

10時30分~18時30分(最終日は15時まで)

休館日

日曜休館

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。