フォトコン生活のすすめ

第3回 画像処理に頼らない

この連載「フォトコン生活のすすめ」は、フォトコンテスト応募までに必要な考え方や注意点などを解説します。

今回は応募の際に行う画像処理について。筆者は「デジタルカメラマガジン」月例フォトコンテストの組写真部門選者、写真家・岡嶋和幸さんです。(編集部)

フォトコン生活のすすめ

第1回 フォトコンテストの魅力とは
第2回 応募作品を選ぶ
第3回 画像処理に頼らない(今回)

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一番良いのは「何もしない」

筆者の岡嶋和幸さん。数多くのフォトコンテスト選者を担当。近著は写真集「風と土」やムック「プリントすると写真が上手くなる」など。

今回はフォトコンテストに応募する作品の画像処理について考えてみたいと思います。

デジタルカメラで撮影した写真は後から容易に手を加えることができますが、それにより入賞のチャンスを逃しているケースは少なくありません。落選の原因が何であるのかを知ることはできませんが、そうとは知らずに撮影やセレクトが良くなかったんだと自信をなくすと、ますます入賞から遠ざかってしまいます。

ですから私は、これからフォトコンテストに挑戦しようとする人は、まずは「何もしない」ことをお勧めします。撮影をしっかり行い、セレクトにも時間をかけて、特に何も手を加えずそのまま応募するのです。

フィルム写真が主流のころは、多くの人がそのままプリントして応募されていました。プロラボ(*1)を利用して細かく指示を出したり、暗室に入って自分の手でプリントを仕上げる人はもちろんいますが、DPEショップ(*2)に全てお任せのケースがほとんどです。ところが、色や明るさが思うように仕上がらないなどの不満を誰もが一度は経験しています。

*1 フィルムの現像やプリントなどを行う現像所のことです。プロカメラマンのためのショップのイメージがありますが、写真愛好家に向けてプロ品質のサービスを提供しています。近年はデジタルプリントにも対応しています。
*2 「DPE」とはDevelopment(現像)Printing(焼き付け)、Enlargement(引き伸ばし)の略で、それらのサービスを提供しているお店のことです。

その点、デジタル写真はパソコンとプリンターがあれば自分で好きなように調整してプリントできるので便利ですが、フォトコンテストの審査ではフィルム写真の応募作品のほうが安心して見られる傾向です。RAW現像やフォトレタッチで使用する画像処理ソフトでは際限なく調整ができてしまうことが災いしているようです。

仕上がり設定を使い分けてみる
スタンダード
ビビッド

「スタンダード」「ビビッド」「ニュートラル」など、RAW現像で仕上がり設定を変えるくらいでは不自然な印象にはなりづらいです。撮影時にカメラで選べる機能でもあり、フィルムと同じく、好ましい仕上がりが得られるようになっています。ある意味「これくらいがちょうど良い」という制限がかかっているわけです。RAW現像やフォトレタッチで使用する画像処理ソフトではその制限がなくなり、調整の自由度も増しますが、どこまでやるか、どれくらいでちょうど良いとするかは自分で判断しないといけません。

作品制作のプロセスにこだわることはとても大切ですが、「撮って出し」でも、RAW現像ソフトを使いこなしても、フォトレタッチソフトでレイヤーを何十枚も重ねても、フォトコンテストの審査結果にはほとんど影響しないでしょう。評価されるのは過程ではなく結果だからです。

もちろんその判断基準は審査員によって異なります。過度な調整が行われていても効果的だと感じられれば入賞できるでしょうし、必要十分な調整が施されていないと評価が下がることがあるかもしれません。

画像処理に対する考え方は人それぞれですが、もちろんコラージュなど画像処理を前提とした写真表現もあります。ただし、合成の場合は申告、あるいは禁止というフォトコンテストもあるので、画像処理や加工はどの程度まで可能なのか、応募規定をしっかり確認するようにしましょう。

デジタル写真による応募作品のクオリティーは人によって差があります。プリンターの性能の違いはそれほどでもなく、プリント設定が正しくなかったり、プリント用紙が応募作品に合っていなくてマイナス評価となるケースもありますが、やはり一番は画像処理です。これが上手くできている人とそうでない人の差は大きいです。

とはいっても、ソフトを使いこなせていないなど、画像処理が上手くできてない人はRAW現像やフォトレタッチの「腕」が未熟なわけではありません。画像処理により全体のバランスを悪くしたり、過度な調整で不自然な感じにしてしまっているのは、写真のクオリティーの観察や判断に必要な「目」が備わっていないからだと考えます。そのような目がないうちは写真にあまり手を加えないほうがいいでしょう。画像処理に必要不可欠な目は、撮影、セレクト、プリント、フォトコンテストへの応募を繰り返しているうちに自然と養われていきます。

前回のセレクトのときにも触れましたが、失敗写真を画像処理で誤魔化しても無駄です。それほどドラマチックな光景でもないのに、画像処理で誇張してそれっぽく見せるのも逆効果です。本当にドラマチックなシーンは特に手を加えなくても魅力的で、審査員はそのような写真に目が慣れているので見劣りしてしまうのです。

それとは反対に、すごく魅力的なシーンをうまく撮られているのに、余計な調整で台無しにしてしまっているケースもよく見られます。これは本当にもったいないです。

画像処理は最後の手段

フォトコンテストの応募作品の画像処理で気を付けたい例をいくつかあげてみましょう。

きちんと撮れて初めてRAWのポテンシャルを最大限に生かせる
JPEG
RAW現像

RAWで撮っても画像処理やプリントに必要な情報が入っていないと意味がありません。ハイライトの白飛びやシャドウの黒つぶれなど後から救済できない要素もあります。画像処理に頼らない撮影を心がけていれば、いまのデジタルカメラは高画質なので撮って出しのJPEGで十分です。きちんと撮れていて初めて、同時記録のRAWのポテンシャルを引き出せるようになるのです。

彩度を上げすぎないで
適正
高彩度

過度な画像処理の応募作品で一番多いのが彩度の上げすぎです。見た目の印象が不自然であるほか、下側の写真のように色の階調がなくなって、その部分のディテールがつぶれてしまうことがあります。ハイライトの白飛びやシャドウの黒つぶれと同じように、色にもこれ以上鮮やかになれないリミットがあって、それを超えると鮮やかであってもベタッと絵の具で色を塗ったような平坦な描写になります。これが「色飽和」です。コントラストや彩度が高めの仕上がり設定では起こりやすいほか、それらを調整するときには注意しましょう。

極端なホワイトバランスは避ける
太陽光
日陰

ホワイトバランスの特性を利用して、意図的に「日陰」モードで夕景の赤みを強調したり、「電球」モードで青みがかって涼しげな印象に見せることができます。でも下側の写真のように、条件によっては効果が強すぎて不自然に感じられることがあります。色温度指定やホワイトバランス補正でちょうど良く感じられるように微調整すれば効果的に見せることも可能ですが、上側の写真のようにオートホワイトバランスや太陽光など控えめの設定のほうが自然で好印象のケースは少なくありません。

安易なモノクロ化に注意
カラー
モノクロ

色がポイントとなるカラー写真を後からモノクロ写真に変換すると、何に興味を持って撮影したのか分かりにくくなることがあります。カラー写真(上)は色で区別できますが、モノクロ写真(下)では同じ濃度だと同化してしまうからです。これにより主題が埋もれてしまうなど伝わりにくい写真になってしまいます。カラーだといまひとつだからとモノクロにしたところで写真が良くなるわけではありません。後付けで安易にモノクロ変換しないほうがいいでしょう。

写真がきちんと撮れていれば、何もしないでそのまま応募したほうが好結果が期待できます。でも、もしきちんと撮れていなければセレクトから外しましょう。きちんと撮ることのほうが大事で、そうでないのに画像処理で何とかしようとするのは逆効果です。いまひとつの写真が、画像処理によって素晴らしい写真にはそう簡単に生まれ変わらないと思います。

フォトコンテストへの挑戦を始めるときは、ひとまず何も手を加えないで応募し、入賞するなど手応えを感じるようになってきたら、さらに上を目指すために画像処理に少しずつ着手するといいでしょう。

アートフィルター機能などデジタルカメラに搭載されている特殊効果も、それらが作品に合っていればいいのですが、そうでないと機能が前面に出てしまいがちです。それだと画一的で個性が感じらず、マイナス評価となることもあるため注意が必要です。審査員はアートフィルター機能を使った応募作品をたくさん目にしているので、もはや新鮮に感じられなくなっていたりもするのです。

パソコンのディスプレイのキャリブレーションはきちんと行っていますか? ディスプレイの表示が正しくないと、画像処理のこだわりが審査員には伝わりにくいです。画像データでの応募作品の審査は、きちんとキャリブレーションされたディスプレイで行われているので、自分のパソコン環境もその基準に揃えることが必要です。とはいえ、ディスプレイやキャリブレーターが違ったりすると全く同じに見えるようにできないため、細部にこだわるのであればプリントで応募したほうがいいでしょう。

ということで、次回はプリントでの応募について解説します。

岡嶋和幸

1967年、福岡県生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「ディングル」(SBクリエイティブ)、「風と土」(インプレス)など、著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」(富士フイルムフォトサロン)、「潮彩」(ペンタックスフォーラム)、「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」(キヤノンギャラリー)、「九十九里」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト)、「風と土」(ソニーイメージングギャラリー)などがある。