ミラーレスカメラ・テクノロジー

(その5)ミラーレスカメラのレンズマウント

ライカLマウントを初採用したAPS-C機「ライカT」(2014年)

筆者は2012年から2014年まで、このデジカメ Watchに「レンズマウント物語」を連載した。今回はそのミラーレス版というような形だ。

レンジファインダーカメラや一眼レフカメラのマウントの場合はスクリューマウント、スピゴットマウントなど多彩な方式が存在し、バラエティに富んでいたのだが、ミラーレスカメラの場合はバヨネットマウントのみである。ボディと交換レンズの間の情報のやり取りも電気接点を介したデジタル通信に集約され、レバーや連動爪による機械的な連動は姿を消した。そのため、レンズマウントに関する一般的な興味の中心は、マウントの口径とフランジバックに移ってきているようだ。

2018年にキヤノンとニコンが新たにフルサイズミラーレスカメラ用のレンズマウントを採用したカメラシリーズを発表し、さらにパナソニックとシグマ、それにライカの3社によるLマウントアライアンスが発表され、にわかにミラーレスカメラのレンズマウントがクローズアップされるようになったのは、記憶に新しいところである。

これらの新マウント(Lマウントだけは従前からのものだが)は、共通して大口径、ショートフランジバックをアピールしている。レンズマウントの口径を大きくしてフランジバックを短くすると、なにがいいのか? 今回はその辺を少し掘り下げてみたいと思う。マウントアダプターの使用でさまざまなレンズが使えるということはよく知られているが、それだけではないのだ。

レンズマウントの口径とは?

具体的な話に入る前にちょっと触れておきたいのは、レンズマウントの口径の測り方である。Webや文献を見ると、どうもこの測定方法が一定していないようなのだ。

バヨネットマウントは、内側にレンズを固定するための2~4本の爪がある。その爪の内側、つまり爪を山に例えれば頂上のところで測る場合と、外側、つまりふもとあるいは谷のところで測る場合とがあるのだ。いろいろと調べてみると、現在のミラーレスカメラのマウントでは外側で測ることに統一されつつあるようである。まあ、画素数の表示と同じことで数字が大きいほど一般受けするので、少しでも径の大きなところで表示するという判断だろう。しかし、その比較対象として引用される一眼レフのマウント径は、どうかすると内側で測った径が表示されることもあり、両方の数字が混用されているのが現状なのだ。

以下に示す2つの図は、写真工業出版社発行の「国産カメラメカニズム便覧1978年版」から引用したものだが、現在の基準に従って外側で測定すればニコンFマウントは47mm、ペンタックスKマウントは48mmと表示すべきところ、前者は44mm、後者は45mmと表示されているケースをけっこう目にする。実際には両者とも46mm径のソニーEマウントよりちょっとだけ大口径なのだ。

ニコンFマウントの寸法(国産カメラメカニズム便覧1978年版より)
ペンタックスKマウントの寸法(国産カメラメカニズム便覧1978年版より)

射出ひとみ

具体的な話に入る前に、ここで撮影レンズの射出ひとみに関して説明しておこう。レンズマウントの口径やフランジバックを語る際に、この射出ひとみの位置が大きく関わってくる。

射出ひとみというのは、絞りよりも後側(撮像面側)のレンズ群で形成された絞りの像である。写真レンズの場合、絞りよりも後側のレンズ系は凸レンズ系になる場合と凹レンズ系になる場合とがあるが、いずれのケースでもそれによって形成された像は普通は虚像になる。

絞りDより被写体側のレンズ(前群)をL1、撮像面側のレンズ(後群)をL2とすると、絞りDの後群L2による虚像ExPが射出ひとみとなる。
レンズを後ろから見ると絞りの開口が見えるが、これが射出ひとみである。

レンズに入射した被写体光は、みなこの射出ひとみから出て撮像面に向かって入射するので、射出ひとみと撮像面の距離が問題となるのだ。被写体光の代表として主光線、つまり射出ひとみの中心を通った光を考えると、射出ひとみが撮像面から遠いほど画面周辺でも垂直に近い角度で撮像面に入射することになる。

上の図のように射出ひとみが撮像面に近いと、画面周辺に入射する主光線の角度θが小さくなり、撮像面に斜めに入射する形になるが、下の図のように射出ひとみが撮像面から遠ければ、より垂直に近い角度で入射するようになる。

逆に射出ひとみが撮像面に近いと画面周辺ではかなり浅い角度で主光線が入射するので、デジタルカメラの場合は各画素の受光面の直前にある配線層やオンチップレンズの影響で入射光の一部がカットされてしまう。特に往年の銀塩レンジファインダーカメラ用の超広角レンズでこのような現象が現れ、周辺の光量が極端に落ちた画像になる。同じ超広角レンズでも、一眼レフ用のレンズではこのようなことはない。一眼レフ用の超広角レンズはレトロフォーカスタイプ構成のためレンズ全体が前(被写体側)に出るので、必然的に射出ひとみも撮像面から遠くなるのだ。

銀塩レンジファインダーカメラ用の超広角レンズをミラーレスカメラに装着して撮影すると、射出ひとみが撮像面に近いため、周辺の光量不足や色付き(シェーディング)が起こる。SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5(初代) / ソニーα7R
同じ焦点距離の超広角レンズでも、一眼レフ用のレトロフォーカスタイプだと、射出ひとみが遠くなるため、シェーディングは起こらない。AI Nikkor 15mm F3.5S / ソニーα7R

射出ひとみとレンズマウント

では、この射出ひとみとレンズマウントの寸法とは、どのような関係にあるのだろうか?

前述したように被写体からの光は、みな射出ひとみから出て撮像面に入射することになるので、その光路をレンズマウントがブロックするようなことがあってはならない。下図のように射出ひとみから出た被写体光は、射出ひとみを底面として撮像面に頂点をもつ円錐の形となる。これは撮像画面の隅ではその点を頂点とする斜円錐になるわけで、レンズマウントはこの円錐を横切ってはならないということだ。ここで円錐の頂角ωはレンズの明るさに関係し、明るいほど頂角ωは大きい。

撮影レンズから撮像面に向かう被写体光は、射出ひとみを底面として撮像面に頂点がある円錐形になる。円錐の頂角ωはFナンバーに関係する。レンズマウントはこの円錐を遮らないような位置と大きさが必要となる。

つまり当たり前のことだが、明るいレンズほど射出ひとみからの光がマウントにブロックされやすいため、それを防ぐためには大口径のレンズマウントが必要ということだ。

もう一つ、前項で述べた射出ひとみと撮像面の距離も重要だ。射出ひとみが撮像面から離れているほどこの円錐の軸となる主光線が立つことになるので、画面周辺で被写体光がケラレ易くなる。極端な例としてはいわゆるテレセントリック光学系のレンズがある。テレセントリックの構成では射出ひとみが無限遠にあるわけで、画面周辺でも主光線は画面に垂直になる。

射出ひとみが無限遠に位置するテレセントリック光学系が、レンズマウントにとって最も厳しい条件となる。テレセントリック光学系では画面のどの位置でも主光線が画面に垂直に入射する。

このように射出ひとみの位置と大きさ(つまりレンズの明るさ)から被写体光の円錐の形状がきまるわけで、この条件から画面周辺でもこの円錐を邪魔しないレンズマウントの口径とフランジバックが決まってくるわけだ。逆にマウントの口径とフランジバックからは"どこまで明るいレンズが使えるか"が決まる。口径の小さなレンズマウントでも、射出ひとみの位置を撮像面に近づければ主光線の傾きが大きくなり、大口径のレンズの使用が可能になる。しかしデジタルカメラの場合には前述のような画面周辺の光量落ち(シェーディング)の問題が発生するので、そうそう撮像面に近づけるわけにもいかないのだ。

なお、この被写体光の「円錐」を遮るものはレンズマウントだけではない。現在のミラーレスカメラではマウントの内側に必ず電気接点があり、そのためのスペースやボディ内の機構部品のためにレンズマウント内の空間が制限される。大口径のマウントであっても、それらの「壁」で被写体光がブロックされる場合もあるのだ。また、ここで論じたのはフォーカスが合っている場合だが、ボケまで考慮するとさらに条件は厳しくなってくる。

光学系のメリット

ミラーレスカメラの大口径、ショートフランジバックのレンズマウントは、撮影レンズの光学系を設計する際に大きなメリットがある。最もわかりやすいのは、広角レンズのレンズ構成だろう。一眼レフでは撮像面とレンズの間に可動ミラーがあるため、レンズの後にミラーが動くための空間を作らなくてはならない。そのため焦点距離の短い広角レンズではレトロフォーカスタイプの構成にして焦点距離の割にレンズ系が前に出るような工夫をしているわけだが、その結果非対称な構成になってレンズ全体が大型化し、歪曲収差が出やすい。

一眼レフカメラ用レトロフォーカスレンズの例(Nikkor-UD Auto 20mm F3.5)。フランジバックが長く(46.5mm)焦点距離の割にレンズ全体が前に出るので大型になり、特に斜めからの光を受けるため前玉が大きくなる(共立出版刊「ニコンFニコマートマニュアル」より)。

ミラーレスにしてフランジバックが短くなれば、わざわざレトロフォーカスにしてレンズ系を前に出さなくてもよいので、その分素直なレンズ設計ができるというわけだ。ただし、前述した射出ひとみの位置については十分に配慮しなくてはならない。銀塩のレンジファインダーカメラとの違いがここにある。

最近の写真レンズは、以前には考えられなかったほど多くの枚数のレンズを使っている。単焦点のレンズでも昔は4~7枚程度で構成していたものが、最近では十数枚使うのが当たり前になってきている。その背景には設計技術の発達とコーティング技術の発達があるだろう。枚数が増えると撮影光が途中で反射する面が増え、光量ロスやフレア、ゴーストの発生につながるのだが、それを反射防止コーティングでカバーできるようになってきた。

また、レンズ1枚ごとの特性のばらつきや組み立て誤差の影響までもシミュレーションできるようになり、しかもコンピュータの発達で短時間にいろいろなケースを試すことが可能なので、レンズの枚数が増えたときの設計の負担が大幅に軽減されてきているのだ。

それらの枚数の増えた写真レンズだが、よくよくみると昔からの定番のレンズ構成の前後に、何枚かレンズを追加したような構成になっているものがある。例を挙げてみよう。下はAI AF Nikkor 50mm f/1.8Dの構成図だ。典型的な5群6枚のガウスタイプ(ダブルガウス)の構成になっている。

AI AF Nikkor 50mm f/1.8Dのレンズ構成。典型的なガウスタイプとなっている(ニコンWebサイトより)。

同じ50mm F1.8でもミラーレスカメラ用のNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sでは9群12枚と、レンズの枚数は2倍に増えている。

NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのレンズ構成(ニコンWebサイトより)。

このZ 50mm F1.8の構成をよくよく見てみると、第3群から第7群まではガウスタイプとなっている。つまり、昔ながらのガウスタイプの構成の前後に3枚ずつレンズを加え、それによってガウスタイプでは補正しきれなかった収差をより抑え込んだ構成とみることができるのだ。そして新たに加えられたレンズのうち後方の、つまり撮像面に近い方の3枚は大口径ショートフランジバックのレンズマウントだからこそ、可能になったと言える。

このように追加するレンズは、基本構成の前方、被写体側のみに配置した場合でも収差の補正は可能である。しかし前方にレンズを追加していくと、レンズに斜めに入射して画面周辺に行く光線をブロックしないようにするために、前玉がどんどん大きくなっていく。つまり追加レンズによる収差補正を前群だけでまかなうよりも、前群と後群とにバランスよく振り分ける方がレンズ全体の大型化を抑制できるということなのだ。フランジバックが短いとこれが可能になり、かつ後群の方のレンズは前述の射出ひとみの関係で比較的大型のものになるので、そこに大口径マウントのメリットが生きてくる。

フランジバックが短くてもマウント径が小さいと、射出ひとみを画面に近づけて画面周辺に行く光を浅い角度で入射させることになり、デジタルカメラではシェーディング発生の危険が出てくる。

2つの画面サイズに対応したレンズマウント

最近35mm判フルサイズのミラーレスカメラが続々と発表され、そのためのレンズマウントの特性が話題となっているが、これについてちょっと興味深い事実がある。同じメーカーで複数の画面サイズのミラーレスカメラを出しているところで、レンズマウントに対するポリシーがメーカーによってさまざまに変わっているのだ。具体的に言うと、画面サイズの違ったシステムでレンズマウントを共用するかどうかということだ。

パナソニックはSシリーズの35mm判フルサイズとGシリーズのマイクロフォーサーズの2つのフォーマットがあるが、画面サイズが大きく違うのでその間でレンズマウントを共用するのは現実的でない。同様に富士フイルムがAPS-CサイズのXシリーズと中判のGFXシリーズでレンズマウントを変えているのは妥当なところだ。問題は35mm判フルサイズとAPS-Cサイズの両方を有するメーカーだ。ソニー、キヤノン、ニコン、ライカがこの範疇に属する。

デジタル一眼レフカメラでも同様のことは生じた。ただ、一眼レフの場合はもともと35mm判の銀塩一眼レフのシステムを流用するところから出発している。新たな交換レンズシステムを開発することなく銀塩からスムーズに移行できるよう、既存のシステムを借りたわけだが、当初は35mm判フルサイズの撮像素子は技術的に難しく、現実的な画面サイズとしてAPS-Cを採用したのだ。キヤノン、ニコン、ペンタックスがこのような経過をたどっている。画面サイズはAPS-Cでもレンズマウントは銀塩フルサイズ機のものをそのまま流用したわけだ。その後フルサイズのデジタル一眼レフがリーズナブルな価格になって、銀塩のころの交換レンズもフルの画角で使えるようになったのだが、そんな中でAPS-Cサイズ専用のレンズもシステムの中に加えるようになった。キヤノンではEF-Sレンズ、ニコンはDXレンズ、ペンタックスではDAレンズである。

これらのAPS-C専用レンズを35mm判フルサイズのデジタル一眼レフで使用する際のポリシーがメーカーによって異なっている。キヤノンだけはフルサイズでの使用は不可としたが、ニコンとペンタックスはAPS-C用レンズを装着した場合は画面サイズをAPS-Cにクロップして使用可能としたのだ。APS-Cサイズのデジタル一眼レフでは画面サイズが小さい分ミラーも小さくなるので、レンズの後玉をより撮像面に近づけることができる。キヤノンはその分をレンズの性能アップや小型化に使ったのだ。そのためフルサイズの一眼レフにAPS-C専用レンズを装着して使うことはできなくなった。

同様のことがミラーレスカメラでも起こっている。前記4社のうちキヤノンだけはフルサイズのRFマウントに対してAPS-C機はEF-Mマウントと別マウントとなっている。ソニーは2010年にAPS-Cサイズのミラーレスカメラから出発してフルサイズのα7(2013年)を出すときに、そのレンズマウントをそのまま使った。ライカもAPS-CサイズのライカT(2014年)のマウントをフルサイズのライカSL(2015年)と共用している。ニコンだけはフルサイズのニコンZ 6/Z 7(2018年)が先行し、APS-CサイズのニコンZ 50(2019年)が同じレンズマウントを使って後から出るという逆の順序であったのが面白い。

こうしてみるとキヤノンはAPS-Cサイズの系列とフルサイズの系列とは全く別ものととらえ、画面サイズごとのメリットをフルに活用する方向を選択し、他の3社は2つのフォーマットの混用、あるいはAPS-C機からフルサイズ機へのステップアップの便宜を図ったと考えることができるだろう。

マウント共通の3社はいずれもフルサイズ機にAPS-Cサイズ専用のレンズを装着すると、自動的にAPS-Cサイズにクロップされるようになっている。画素数は減るが、高画素機ならば実用上問題ないし、ミラーレスカメラのEVFならばファインダー視野が狭くなることもない。このオートクロップ機能は、キヤノンでもEF-Sレンズをアダプターを介してRFマウントのボディに装着する際には働くようになっている。

今後の掲載予定

プロローグ:既視感(2019/1/9)
その1:EVFと一眼レフファインダー(2019/2/5)
その2:ミラーレスカメラのシャッター(2019/3/26)
その3:ミラーレスカメラのオートフォーカス(2019/5/29)
その4:ミラーレスカメラの手ブレ補正(2019/9/9)
・その5:ミラーレスカメラのレンズマウント
・その6:まとめ。今後どうなるか?

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。