ミラーレスカメラ・テクノロジー

(その1)EVFと一眼レフファインダー

LUMIX DMC-G1(2008年)のEVF

ミラーレスカメラの発展において、EVF技術の果たす役割は大きい。2008年にLUMIX DMC-G1が登場した際も、接眼できるEVFを内蔵していたからこそ、デジタル一眼レフのユーザーにもスムーズに受け入れられたと考えられる。

EVF(電子ビューファインダー)はもともと動画のテレビカメラやカムコーダのモニターとして使われていたものだ。当初はカラーのカメラであってもモノクロの小型CRT(ブラウン管)を用いていた。コストに見合った十分な性能のカラーCRTの入手が難しかったこともあるが、一方で動画のモニターとしてはモノクロでも十分に使えたこともある。

つまり、同じEVFでも動画用と静止画用とではちょっと性格が違うのだ。動画用は連続して記録している映像の「モニター」の性格を持つ。意図通りの画が記録されているかどうかを確認するのが主たる役割だ。それに対して被写体の瞬間の姿をとらえる静止画のファインダーは、撮影の瞬間に備えてフレーミングだとかフォーカシングなどの準備をするためのものだ。その辺から要求仕様も違ってくる。

動画で使われていたEVFは、静止画のデジタルカメラにはレンズ一体型の機種から導入された。きっかけは高倍率ズームレンズである。当時のコンパクトデジタルカメラは撮影レンズのズーミングに連動して画角が変わる実像式の透視ファインダーが備えられていたが、ズーム比が大きくなると透視ファインダーでは間に合わず、代わりにEVFが内蔵されるようになったのだ。

EVFを用いた高倍率ズーム機の例「富士フイルムFinePix S7000」(2003年発売)

そして、そのEVFがミラーレスカメラに受け継がれたわけだが、ファミリー写真などの撮影が主となるコンパクトカメラと違い、レンズ交換式カメラを使うユーザー層に受け入れてもらうには、大幅な改良が必要となってきた。

EVFの利点

EVFの改良の話に入る前に、EVFがすぐれている点を挙げてみよう。一眼レフファインダーと同様にパララックスがなく、レンズ交換に対応して画角も変わってくれるので、レンジファインダーカメラのようにレンズ交換のたびに外付けビューファインダーを交換したり、画角の目安となるフレームを変更したりする必要がない。

そして一眼レフにない長所としては、まず、絞りを絞ったり開放F値の暗いレンズを装着してもファインダーが暗くならない点が挙げられる。外光に頼る一眼レフに対してバックライト付きの表示装置を使ったEVFは、状況に合わせて明るさを追従させられる。さらにファインダー画像を容易に拡大できる。これはマニュアルフォーカスの際にはありがたいことだ。加えてファインダー内の情報表示がフレキシブルに行え、カメラ内の画像処理による特殊効果やホワイトバランス、露出補正などの結果がリアルタイムに確認できる。

意外と知られていないのが、ファインダー倍率だ。接眼レンズとファインダー画像(表示部分)との間にペンタプリズムなどの光学系が介在しないので、接眼レンズの拡大倍率を大きくできるのだ。このことを活用して、最近話題のフルサイズミラーレスではニコンZ 7が0.8倍(50mmレンズ、∞、-1D)、キヤノンEOS Rでは0.76倍(同)と、比較的高倍率を実現している。

見え具合の改良

このように利点の多いEVFなのだが、レンズ交換式カメラのファインダーとしては一眼レフファインダーに及ばない点がいくつかある。それらの改良を積み重ねたことで、ミラーレスカメラの価値は一眼レフカメラに比肩するまでに高まったのだ。

改良点の1つはEVFの画質である。ハイビジョンが普及する以前の動画用のEVFなら、元々の画像信号もせいぜいで30万画素程度であり、表示の画素数もそれ以下の解像度だった。しかし、静止画カメラ用のファインダーとしてはそれでは不足。一眼レフカメラのファインダーに慣れた目には、どうしてもざらつきが目立ち、違和感が生じる。また、コンパクトデジカメと違ってレンズ交換のできるミラーレスカメラでは、マニュアルフォーカスでのピント確認の容易さも重要な要素となる。

そこでまずEVFの表示装置の画素数を増やし、画質を高めることが行われた。コンパクトデジカメの時代には30万ドット程度だったものを、2008年登場の初代ミラーレスカメラとも呼ぶべきLUMIX DMC-G1では144万ドット相当に引き上げ、例えば先に挙げたニコンZ 7やキヤノンEOS Rは369万ドット、先日海外発表されたパナソニックLUMIX S1R/S1ではさらに増えて576万ドットになっている。表示のフレームレートも60fps程度から240fpsにまでスピードアップされ、なめらかで自然な表示を実現している。

パナソニックLUMIX DMC-G1では、EVFのパネル解像度を144万ドットに引き上げ、見えを改良した。

表示の遅れ

EVFは実際に撮像素子に結像された画像の信号をファインダー画像として用いているので、表示のタイミングは撮像素子から信号を読み出したあとになり、その分遅れが生じる。また、通常は読み出しから表示までの間に画像処理(コントラストや色の調整)が入るので、更に遅れる。大げさに言えば、EVFでは常に「過去の画像」を見ていることになるのだ。

この表示遅れは、比較的簡単に確認できる。EVFを片目で覗きながらもう一方の目も開けて両目で被写体をみるようにする。ファインダー像が等倍になるよう、装着レンズの焦点距離を調整しておくとよい。そして両方の目で見た被写体の像が脳内で重なるようにする。この状態でカメラをさっと横に振ってみよう。カメラを動かしている間は、直接肉眼で見た被写体像と、EVFの被写体像にズレが生じる。そして動きを止めると、EVFの像が肉眼視の像に追い付く形で、再び重なるのがわかる。

EVFでは表示の遅れがあるため、走る自動車を追いかけながら撮影する場合にはファインダーでは(a)のように画面中央に被写体をとらえても、実際には被写体の自動車は(b)のように先を行っており、このようにかたよって撮影されてしまう。そこで、(c)のように表示遅れの分を加味して狙う必要がある。

この表示遅れは、特に動く被写体の撮影時にタイムラグとなって、シャッターチャンスを逃す要因になる。タイムラグということなら、一眼レフでもレリーズボタンを押してから実際に撮影が行われるまでの間にミラーアップの動作が入るので、タイムラグが生じるのだが、EVFの場合はこれとちょっと様子が違う。

例えば流し撮りのように動体を追いかけて撮影する場合に、一眼レフならばシャッターレリーズ後もファインダーで捉えた被写体をそのまま追い続けていけば、タイムラグがあってもその間の被写体像の動きを修正できるが、EVFの場合だとファインダー視野の中央に被写体を捉えても、実際には被写体はその先に進んでいるわけで、そのタイムラグの修正にはまた違った難しさがある。

一眼レフファインダーなら表示遅れがないため、(a)のように被写体を中央にフレーミングしながら追いかければ、(b)のようにそのまま撮影することができる。

この表示遅れを小さくするには、まずEVFの表示フレームレートを上げることだ。前述のようにEVFのフレームレートは初期のものからは格段に速くなっており、それは表示の滑らかさだけでなく、表示遅れにも大きな効果があるのだ。さらに、2014年のFUJIFILM X-T1では、1画面分の画像信号をすべて読み出してから表示するのではなく、1ラインごとに読み出しをしては表示することを繰り返すという技術で、表示遅れを小さくした。これを突き詰めていくと、その内画素ごとに対応するディスプレイの画素に直結して表示するようなものが出現するかもしれない。しかし、それにはまだまだ時間がかかりそうだ。

FUJIFILM X-T1(2014年)では、画像信号のラインごとに読み出して表示することにより表示遅れを改善した。

今後の動向

前述のようにEVFには一眼レフファインダーにくらべて優れている点が多い。そして「見え」と「表示遅れ」という2つの大きな欠点も大幅に改良され、一眼レフファインダーに比肩するまでになってきた。しかし、一方でEVFがどうしても越えられない壁も存在する。

非常に感覚的で心理的なものだが、筆者はEVFを覗いても現実にそこにある被写体を見ているという実感がなかなか得られない。なんとなく「電気が作った絵」を見ているような感覚なのだ。電源スイッチを切るとファインダーの画像も消えるということも関係しているかもしれない。また、表示の遅れはEVFにどこまでもついて回る特性だろう。スポーツ写真などの分野には、これを気にするユーザーもいる。

このような問題点を残してはいるが、大局的にみればミラーレスカメラの発展と共にますますEVFの存在が大きくなっていくであろうことは間違いない。

今後の掲載予定

プロローグ:既視感(2019/1/9)
・その1:EVFと一眼レフファインダー
・その2:ミラーレスカメラのシャッター
・その3:ミラーレスカメラのオートフォーカス
・その4:ミラーレスカメラの手ブレ補正
・その5:ミラーレスカメラのレンズマウント
・その6:まとめ。今後どうなるか?

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。