クルマとカメラ、車中泊
#10:真冬も暖かく快適に。3年越しの「FFヒーター取り付け計画」
2023年12月30日 09:00
今日紹介するのはFFヒーター。大雑把に言ってしまうと家庭用の石油ファンヒーターをキャンピングカー用にモディファイしたものだ。家庭用と一番違うのは、排気を車外に出せる構造になっていることだ。
数十年前からスイスのべパスト社が販売しているが、ここ数年は中国製の安価な製品が出回っていて今回チョイスしているのも中国製だ。冒頭に紹介した車中泊初号機サンバー号にも搭載していて、効果のほどは十分わかっている。ただ、サンバー号に搭載したのは熱量5kWの製品だったのだが、小さなキャビンには大きすぎて稼働するとすぐにサウナになってしまったのだ! そこで今回は2kWのものだ。サウナ好きには5Kwがおすすめだが(笑)。
筐体は車内に置くことが基本。燃焼用の吸気と排気を車外に出して設置することで、車内にはクリーンな暖気が循環する。燃料は灯油。燃料ポンプによって圧送される。灯油は燃えにくいので燃焼機の熱によって加熱され霧化することで燃焼が継続する。始動時には燃焼機による熱が得られないため予熱ヒーターで加熱する。この際に20A程度の大きな電力が必要となる。
灯油の燃焼により燃焼体が暖められ、電動ファンによって筐体内に取り込まれた外気が燃焼体の熱を受け取り、暖気となって排出される。暖気温度は直接コントロールできず、燃料の吐出量によってコントロールする。運転時には燃料ポンプと電動ファンにのみ電力が必要となる。製品仕様に明示されていないので経験値となるが10W程度のようだ。
製品とは言ってもパーツがたくさん届くイメージなので、取り付け作業が伴う。特に軽自動車はスペースが限られているので、取り付けの難易度は高いと思う。今回も取り付けてみて、もう二度と作業したくないと思いました(笑)。
よって、おすすめは専門の業者さんにお願いすることだ。実は今回、取り付けたヒーター自体を購入したのは3年前。取り付け場所と取り付け方法を悩んでいるうちに時間が経ってしまったのだ。
またヒーターの作動には電気が必要なのだが、起動後の消費電力は少ないもののサブバッテリーシステムを組んでおく必要があるので、この点も考慮しなければならない。さらには騒音も伴う。車のアイドリングよりもうるさいイメージなので使用する場所には配慮も必要だ。
と、さまざまな障壁と欠点はあるものの、いつも暖かい車内で過ごせることはとても大きなメリットなのだ。
購入したヒーター
以上FFヒーターの概要を説明したところで、ここから先は実際の取り付けの様子をお見せしよう。エブリイユーザーには参考になると思う。今回は取り付け作業しながら写真を撮っているので背景が汚い。勘弁してね……。
まず、購入製品はこれ。電動ドリル、ホールソー、モンキーレンチまでおまけでついてくる上、燃料ポンプとコントローラーの予備までついている。お買い得だわ。ちなみに僕が買った時には工具・予備パーツなしで同程度の価格だった。
ここで紹介した製品以外にもたくさんの出品があるが、使用燃料に注意してほしい。灯油を使うものがほとんどだが、中にはガソリンを使うものもある。いうまでもなくガソリンは引火しやすく素人が取り付けるのは大変危険だ。ガソリンを使うものは車両のガソリンタンクからの配管を分岐させるか、ガソリンタンクに穴を開けて別系統の燃料取り出しをするという方法になる。これらの作業自体が大変危険を伴うのだ。もし、ガソリン仕様を検討するなら取り付けは業者依頼一択だ。
別途購入したもの
燃料タンクの製作
まず燃料タンク上部に穴を開けて、燃料タンク用パイプを通す。パイプがタンクの底に届くよう、曲げとカットが必要だ。燃料タンク用パイプはタンクの内側からナットで留めるが、大きめのステンレスワッシャを入れておく。給油口からナットを回すのは通常工具では不可能なので、ラジオペンチもしくは薄口スパナを曲げてナットに届くよう加工しなければならない。
タンク内蓋に穴を開けてワンウェイバルブを取り付ける。ワンウェイバルブはダイスでネジ加工し、Oリング、ステンレスワッシャ、緩み止めナットの順で締め付ける。
この後タンク外蓋にも穴を開けてワンウェイバルブが通るようにし、外蓋を取り付ける。これらの加工をしない場合は、燃料ポンプで燃料が吸い出されるごとにタンクの内圧が下がり、タンクが凹んでゆき、いずれ燃料ポンプの能力を上回って燃料供給が止まってしまう。
ワンウェイバルブを使わない場合は蓋に1mm程度の小穴を開けておくが、その場合はタンクを倒すと燃料が漏れる。ワンウェイバルブを取り付けるのは内圧減少を防ぎつつ、タンクが倒れた際にも燃料漏れを起こさないための措置だ。しかし取り付け後数日の使用で、ここで使ったワンウェイバルブが灯油により軟化することが判明した。このままではいずれ溶け落ちてしまうので、早いうちにワンウェイバルブを別の製品に交換するか、自作することにする。よって写真のワンウェイバルブは灯油用には買わないでね。こういうトライ&エラーもDIYの醍醐味(?)です。
配線の検討
内装を全て剥がしたらケーブルを置いて配線を検討する。付属の配線は十分な長さがあるができる限り、延長が発生しないように検討する。
本体は車外、コントローラーと燃料タンクは車内。電源も車内に置いたサブバッテリーに接続するので、配線ケーブルと燃料パイプおよび温風を車内に引き込む必要がある。エブリイには荷室後部にサービスホール(製造時や整備時に使用する作業穴。蓋があるので恐らく製造時にのみ使用する穴)が2か所あるのでそれを利用する。サービスホールには固い蓋がしっかり接着されているので、ホールソーで50mmの穴を開けた。
本体取り付け位置の検討
ジャッキアップしたら必ずジャッキスタンドを使う。“ウマ”などともいう。
取り付け場所は、リアサスペンション左側のラテラルロッド取り付け補強メンバーに決めた。
ここには丸穴が開いているが、ハンドナッターを使ってネジを作る。ナットリベットはアルミ製が多いがアルミだと電食が発生するので、鉄ユニクロメッキとした。しかし、場所が悪く力を入れにくいので最後までナットが固定されない。そのような時はスラストニードルベアリングをワッシャーがわりに挟んだ上で高張力ボルトで締め付けると良い。
取り付け作業
補強メンバーに2mm厚のカーボンプレートをねじ止めし、そこから包み込むように本体をインシュロックで固定した。インシュロックは金属ベルトに交換予定。燃料ポンプも一旦カーボンプレートにねじ止めした。
一旦動作確認してみると、燃料ポンプの振動が車体に直接伝わってかなりうるさいことがわかった。そこで燃料ポンプをカーボンプレートから外し、ウレタンパッドで包んだ上で車載バッテリーケースに面ファスナーとインシュロックで取り付けた。随分ましになったがまだ解決したとはいえない。他に適当な場所がないのでいずれ対策を行うことにする。
ポンプから出ている緑色のチューブが製品付属の燃料パイプ。これは入力側として車内に引き込んである。本体と繋げているのは別途購入したシリコンチューブ。マフラーや本体など熱源近くを引き回さざるを得ないので、熱に強いシリコンチューブとしたのだ。
本体側取り付け完了! 黒いパイプが温風用で、車内に引き込まれている。バンテージを巻いた茶色のパイプが燃焼用排気管だ。車両の排気管に共締めしてある。
車内側配線完了! 車体リブの谷間に沿うように不織布絶縁テープで養生してある。この上にはマットと12mm厚のベニヤ板が載るので、配線を圧迫することはない。
完成!
荷室にマット、ベニヤ板を引いたらもう完成。同梱の送風口を取り付けた。欲を言えば送風口は後部座席付近に取り出したいところだが、回復可能な改造にとどめるためにはこれがベストだと思う。温風は後部ドアに当たって車室全体に行き渡る……予定(笑)。とはいえ後尾の方が温度が高くなるはずなので、就寝時を考えるとかえって好都合かと。
コントローラーも荷室に設置。裏側に磁石を貼り付けて側壁鉄板に取り付けたので、ある程度の位置変更が可能。
燃料タンクは収納ボックスの隙間に設置。ただ置いただけだ。まず倒れることのない置き方だが、万が一倒れても灯油はこぼれない。ワンウェイバルブの効果で臭気も漏れないのでマル!
3年越しの計画完了! 注意点も紹介
以上で3年越しの「FFヒーター取り付け計画」は完了したが、まだ実運用できていない。数時間だけのテスト結果をお伝えすると、外気温10度で車両ドアを開け放してから始動、運転が安定してから燃料吐出量を最小にして運転。後部座席で温度を測ったところ、開始後20分ほどで20度に到達した。居心地としては足元が少し寒いがまずまず快適であった。
今回のような取り付けでは、温風のための吸気口と燃焼用排気管の位置が近い。よって風向きによっては燃焼排気が室内に入り込んでしまうことは想像に難くない。車両の駐車位置に細心の注意が必要だ。風向きと地形を考えて駐車する必要がある。
もう一つ、始動についてお伝えしておこう。始動時に20Aほどの電力が必要になるため、始動時には車両のエンジンもかけておいた方が良い。サブバッテリー単体でも始動できるが、始動時に電力を大きく使ってしまうのはもったいないし、僕のサブバッテリーはリン酸鉄リチウムバッテリーなので、短時間の大電力には向いていないのだ。古くからキャンピングカーのサブバッテリーに使われているデルコの100A鉛バッテリーなら確実で安心だが、大きく重い。リチウムポリマーバッテリーなら小さく軽く大電力が出せるが、大容量のリチウムポリマーバッテリーを車載するのは怖い。いずれにせよ、サブバッテリーは走行充電器につながっている必要もあるので、その点も導入する上での注意点だ。
また始動は必ず失敗する。1回目の始動では予熱が足りないのだろう。エラーで止まるので、即座に2回目の始動を行う。2回目の始動操作で連続運転できる。前回の予熱が残っているうちに続けて始動をするのだ。始動といっても電源ボタンを押すだけだが。始動してしまったらエンジンは止めて構わない。あとは低消費電力だ。一度定常運転に入ってしまえば、実はモバイルバッテリーでも動作しちゃうんである。この辺はサンバー号の時に実験済みだ。もし導入するなら、車体に実装する前に色々試してみることをおすすめする。
追記:実際に車中泊してみた
数日、車中泊した運用結果をお伝えしよう。温度調整は燃料ポンプの吐出量と書いたが、コントローラーにはHz(ヘルツ)で表示される。最小は1Hz。つまり1秒に1回、燃料ポンプが動く。最大は3.3Hz。外気温0度の時、最小では外気温+10度。3.0Hzの時、外気温+15度だった。こう書くと能力が低いような気がするが、本来は温風を車内で循環させるように設置するものだ。外気を取り込んで温めているので、温度は上がりにくいし、温風を車内に取り入れるための配管が長く途中で冷えてしまうためだ。
ともあれ車内が10度を超える環境は作り出せるので、シュラフでポカポカ快眠できた。温風の取り込み場所も好結果でじんわり車内全体が温まる。もっとも吹き出し口に近い、就寝時の足元の方が温度は高くなる。先に書いた温度計測は助手席の背中あたりの温度であるので、就寝時の足元にあたるバックドア付近ではもう少し温度が高い。ふと5kWモデルでも良かったかなあとの思いも頭をよぎったが、十分以上に快眠できたので取り付け大成功! ということにしておこう(笑)。ということで今回の報告を終わります。