赤城耕一の「アカギカメラ」
第127回:ニコンZ で、DタイプFマウントニッコールをAF化する!?
2025年10月20日 07:00
2025年のCP+の焦点工房ブースにおいて、モーターを内蔵しないカプラー方式のAFニッコールD、Sタイプレンズで、ZシリーズカメラのAF、AE撮影を可能にする電子マウントアダプター「MonsterAdapter LA-FZ1」が開発発表され、注目を集めました。
LA-FZ1にはAF駆動モーターを内蔵しているのでAF撮影を可能としたわけです。ご存じのとおり、ニコン純正のマウントアダプターFTZとFTZ IIではAFが不可能だったモーター非内蔵レンズを救済することを試みたわけです。
筆者もこの時にLA-FZ1に実際に触れましたが、プロトタイプ段階で、ニコンZfに装着されたLA-FZ1の動きは不安定、製品化まではまだ道半ばという印象を受け、発売時期も未定とされていました。技術的には困難な問題がたくさんあったのでしょう。でも、このたび、めでたいことについに製品版の市販が開始されたのです。
「なぜ、マウントアダプターFTZを使用しても、ニコンFマウントニッコールのDタイプ、SタイプのレンズがAFで動作しないのか!」と、Zシリーズ発表当初から噛みついて、ニコンの皆さまからは嫌われてきた筆者です。だからLA-FZ1が登場したことは無上の喜びであり、落涙を抑えきれないほど感激したわわけです。
「おまえ、そうまでして、古いAFニッコールをZに装着し、AFで使いたいのかよ?」と言われそうですが、「はいそうです」としかお答えのしようがありません。
だって、FマウントのDタイプ、SタイプのAFレンズが筆者の手元にたくさんあるわけであります。
筆者の家では原則として「絞り環のないFマウントニッコールは購入してはならぬ」という厳しい家訓があるものですから、一部を除けば、レンズ内にモーターを搭載しないAFニッコールであるD、Sタイプのレンズが多くなるわけですね。また距離指標や絞り環のない土管みたいなZレンズを愛でるというのもあまり面白くありません。
はい、正直に申し上げればこれらは言い訳で、貧しい年寄りの写真家には小商いしかありませんから、高性能高額の新型Zマウントレンズを簡単には購入することができないのです。
手持ちのFマウントレンズの多くを売り飛ばしても、悪い冗談みたいなお値段にしかなりませんから、Zマウントレンズを購入するには多額のお金が必要になります。ならばZボディでも流用したいと考えるのは当然のことであります。
FマウントのAFニッコールレンズとくに古い大口径レンズでは、条件によってはフォーカスの精度が出にくいのではないかと感じるものもありましたが、LA-FZ1を使用して、Zボディに装着して像面位相差AFを使えば、より安定した精度で使うことができる可能性があり、顔認識AFもそのまま使用することができます。
「FマウントニッコールではZの持つポテンシャルを完全に発揮することができないではないか」
はい、これもそのとおりです。一眼レフ用に設計されたFマウントレンズと、フランジバックの極端に短い、設計の制約が少ないZマウントレンズの光学性能の差は実際に理解はしているのですが、筆者の仕事では、すべての条件でレンズに緻密な再現性を求めているわけではなく、旧FマウントAFニッコールでもなんら問題ないことも多いわけであります。
もっといえば、Zの画作りは非常に優秀なので、Fマウントのニコンデジタル一眼レフを使用した画とは、異なる再現性が期待できるかもしれませんし、もちろん光学性能の問題で逆によろしくない結果になるかもしれません。
筆者を勇気づけたのは、ソニーから発売されたAマウントレンズをEマウントカメラに装着できるマウントアダプターLA-EA5でした。LA-EA5は、モーター非内蔵のAマウントレンズを使用してもAF撮影が可能という利便性の高いものでした。
したがって、同じモーター非内蔵のDタイプ、Sタイプニッコールも、やろうとおもえばモーター内蔵のFTZアダプターさえ用意されさえすればAF撮影が可能になるはずですが、待てど暮らせど、AF駆動モーターを内蔵したFTZアダプターは登場しません。
はたしてそれで生まれたのがLA-FZ1であります。MonsterAdapter ブランドのマウントアダプターは、各メーカーのカメラ、レンズの相互互換を実現した各種アダプターを多く用意しています。
カメラメーカーにとっては旧レンズばかり使用されてしまうことになるわけですから、利益率の高いとされる交換レンズが売れなくなってしまうのは少々困るかもしれませんが、ユーザーとしては経済性や利便性を求めるのは当たり前のことでしょう。非常に言いづらいですが、筆者は「ニコンが本来やるべきことをMonsterAdapter が実現した」というふうにもとれるわけであります。
もっとも厳密にいえば、非モーター内蔵のレンズはカメラとレンズをカプラーで連結し、カメラ側のモーターでAFを駆動させるので、常にフルスロットル、フルブレーキみたいな動きをさせねばならないため、光学エンジニア側からみると、あまりよろしくないAF方式のようなのです。
先にレンズの売れ行きに影響があるみたいな書き方をしてしまいましたが、ヘビーなニコンユーザーは、旧レンズも新型レンズも全部欲しいわけであります。
ある意味、旧来からのニコンユーザーにとってはLA-FZ1は夢のアダプターのようでありますが、筆者は真実を追求するジャーナリストなので、きちんと報告しますが、最初に感じた印象を述べれば、今回使用した限りにおいては、LA-FZ1はまだ夢のマウントアダプターではなくて、あいみょんの唄じゃないけど少々「雑なサプライズ」ということになります。
そう、すべてのDタイプ、Sタイプのニッコールにおいて、完全なAF挙動はまだ望むことができないということです。
もともとはサードパーティのアクセサリーのマウントアダプターであるわけですし、ニコンに言わせれば認めることのできない非公式の反則技の製品でしょうから、当然、LA-FZ1を介したカメラとレンズの電気的な疎通は、MonsterAdapter 側のエンジニアの独自の解析により行われているわけです。
LA-FZ1の使用に関しては、いくつかの注意が焦点工房のHPでアナウンスされていますので気になるものを少し拾ってみましょう。
AF、AF(D)シリーズなどの絞りリング付きレンズを使用する場合は、絞りリングを最小絞り(最大F値)に設定してください。
絞りに関してはボディ側のコマンドダイヤルを使用しろという意味であります。ただ、LA-FZ1にはニコンFTZにある「最小絞り検知ピン」が省略されています。このピンがどのような役割で使われているのかは不明ですが、無用なものをニコンがつけるわけもないので、何らかの意味があるはずです。
アダプターの取り付け・取り外しは、カメラ本体の電源を「OFF」にしてから行ってください。
うっかりONにしたまま装着したところ、AFが動かなかったり、怪しい挙動をすることがありました。
OFFにして、やり直せば復帰します。
使用中に動作異常が生じた場合は、電源を切ってからアダプターとレンズを取り外してください。その後、再度アダプターとレンズを取り付け、電源を入れてご使用ください。
今回使用したのは筆者愛用のニコンZ5IIとZ50IIですが、レンズの種類によっては、カメラ側が「何らかの異常を検出しました、シャッターボタンを押してリセットしてください」というアラートが出ました。とはいえ、カメラが動かなくなるようなトラブルは起こらず、アラートの通りの操作をすれば正常に戻ります。
レンズによってはAFの挙動が怪しかったり、設定絞りによってAFが動作せず沈黙してしまうことも普通にあります(笑)。
明らかにフォーカスがずれているのに合焦サインが出たり、一部のマクロレンズでは、通常の撮影距離では問題なく動作するのに至近距離では動かない。レンズによってはAEの精度が怪しくなるなど、さまざまな問題に直面しました。
AFエリアモードの「ピンポイントAF」は非対応です。
これは使い始めた時は少々困りましたが、ニコンZは、いずれもオートエリアAFでもかなり高精度なので、通常撮影ではあまり神経質になる必要もないかと。筆者などはテキトーですから、AFが怪しそうならば、絞りを絞って被写界深度を深くし、補ってしまえという割り切った考え方を持っています。
このように、いまだに不完全な事例がたくさんあることは否めないわけですが、それでもLA-FZ1は筆者には魅力的に感じました。まさにFとZというニッコール同士を結びつけるマウントアダプターだからです。
Monster Adapter側からも現時点でAFが動作するニッコールレンズ対応表がアナウンスされています。なお対応しているレンズでも、挙動が怪しいものが多々あることはお伝えしておきます。
MonsterAdapter LA-FZ1 firmware v1.00 対応レンズ / Supported Lenses List
LA-FZ1にはUSB-Cの端子が設けられており、将来に向けてファームアップを行うことで、AF使用することのできるDタイプ、Sタイプのニッコールレンズが増えたり動作安定性に努めてゆくということなので大いに期待したいところです。
なお初期ファームウェアでは、AF-I/AF-S/AF-P(モーター内蔵レンズ)、電磁絞り(Eタイプ)、レンズ内手ブレ補正には非対応とのこと。今後のファームウェア更新で対応となる場合があるとのことです。
本誌連載の第123回でも述べましたし、他のマウントアダプターを使用した時にも感じましたが、過去と未来の隔たりをなくし、異なる関係のカメラとレンズを結びつけることは、実用性もさることながら、人間の知恵を感じるとともに、そこに楽しさがあります。杓子定規に考えてしまうと面白くありません。おおらかな気持ちで遊んでみることが大切です。
それでもLA-FZ1を使用することで、使用レンズや設定の条件で何が起こるかわからないというのは正直なところで、あくまでも自己責任で使用するしかありません。
他のサードパーティー製のレンズやアクセサリーを使う時と同じことです。心の安寧を常に求める人、カメラの動作に神経質な人にはオススメできません。2度と撮り直しのできないもの、特に重要な撮影には使用しない方がいいでしょう。
AF NIKKOR 24mm F2.8D
コンパクトで取り回しの良いレンズです。LA-FZ1との相性は25点かな。残念。頻繁に異常を検知した旨のアラートが出ます。またAF-Sモードに設定しているのにフォーカスが合焦していないのにシャッターが切れたり。個体差なのでしょうか。チリチリした描写ではないので好きなんですけど残念です。
AF NIKKOR 28mm F2.8D
個人的には好きなレンズであります。撮影距離による描写の差はないし、コンパクトだし。24mmよりもいいと思いますけど。LA-FZ1との相性は75点。アラートは稀に出てきます。AFの動作は良いのですが、AEが安定しないことがあり。ちょっとがっかりです。
AF NIKKOR 35mm F2 D
筆者が愛してやまないレンズなんですが、LA-FZ1との相性も素晴らしく良くて、アラートは出ませんでした。90点をつけます。ほとんど動作的な不安もないのですが、鏡筒内の動作音が少々うるさい。じつはNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sが高性能すぎて、どうにも困ったなあと思っていたところでしたから喜んでいます。
AF NIKKOR 85mm F1.8 D
LA-FZ1との相性は悪くありません。アラートも出ませんから動作的には85点ですが、初期のインナーフォーカスレンズだからでしょうか、鏡筒内でレンズが動くたびに結構な音がします。描写性能はAF NIKKOR 85mm F1.4Dに及ばないのは諦めるけど、MF時代のニッコールオート85mm F1.8よりも感激がないのは問題ですね。Z系カメラにつけて使うと欠点が誇張されてしまう気がします。ボケも今ひとつだぜ。いや、気のせいかもしれません。時間のある時に再度テストしてみましょう。
AF Zoom NIKKOR 20-35mm F2.8D IF
フィルム時代の意欲的な超広角ズームです。でもLA-FZ1との相性は良くて、動作だけなら85点はつけられます。アラートも出ませんでした。しかし、古いレンズゆえに中心はバッチリなんですがワイド端での四隅の描写は流れますね。絞り込んでも。久しぶりに使用したのですが、中央の画質との格差に驚きます。こういうレンズが好きな人もいるとは思うのですが、Zだから欠点が露呈したのでしょうか。知りたくなかったぜ。
AF VR Zoom NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6 D ED
なんでこのレンズを購入したのか定かな記憶がないのですが、イベントの仕事か何かで必要になったのだと思います。LA-FZ1との相性は100点つけてもいいかもしれません。使用にあたってストレスをまったく感じません。AFは速いとは言えませんが筆者には十分。確実に合焦するし、光学性能面でも素晴らしいですね。購入時には全くこの良さがわかりませんでした。このレンズのためだけにLA-FZ1の導入を考えてもいいくらいです。
AF Micro NIKKOR 60mm F2.8 D
LA-FZ1との相性は最高ですねえ。挙動は確実ですし、AFは速くはないけど合焦精度も素晴らしい。ストレスなく使うことができます。95点をつけます。ただ、LA-FZ1に装着しますと、60mmという焦点距離に対して、全長が長くなりますので注意が必要です。性能面での安定度は高いです。昔のクセノタールタイプのMicro NIKKORとは異なり、チリチリとしたシャープさにならずボケも良いのも好みであります。