赤城耕一の「アカギカメラ」
117回:格安の大口径標準ズームに見る“ツァイス”のおもむき
2025年5月5日 07:00
楽しいGWも残すところ本日を入れて2日であります。読者のみなさま、ココロの準備はできておりますか? 無事に社会復帰できることをお祈りしつつ、今回も始めていきたいと思います。
さて、筆者は新型レンズのレビューの仕事も長いことしておりますが、それはあくまでもお仕事であり、レンズの描写性能について読者に報告しているだけで、よほど気に入れば話は別ですけれど、実際にレンズを購入することは稀であります。ええ、あまりにもレビューのお仕事が小商いだからです。
ということで、貧しい筆者ですから、これまでも本連載では、資産たる所有の一眼レフ用交換レンズをミラーレス機に転用して使ってみようではないかと、いくつか紹介をして実写して報告してきました。
ところがとあるスペックマニアさんに怒られました。最新の高性能カメラのポテンシャルを最大限に生かすためには、最新のレンズを使わねばならないと。はい、それはおっしゃるとおりで、カメラのレビューではお借りしたボディと最新の超絶高性能レンズを組み合わせてご報告するようにしております。でもね、写真制作の楽しみという意味とは少々異なる話になります。
実は逆のケースもあります、オールドレンズマニアのみなさんは、筆者が記事で取り上げたレンズの製造年代が中途半端すぎるということでお気に召さないというご意見も頂戴いたしました。
「オールドレンズの定義」って、いったい何年前からのものになるのか筆者にはよくわからないのですが、勝手な解釈をしてしまえば、フィルム時代に設計されたレンズの多くはオールドの範疇に入るような気がします。
違うのかなあ。でも分類すれば、一眼レフ用のレンズは稼働ミラーという邪魔な存在があり、光学設計の制約がありましたから、とくに広角から標準レンズあたりまでのレンズはミラーレス用レンズとは異なるタイプになっているものも多々あります。
またMシリーズライカの交換レンズも、TTLメーター内蔵のため、特に広角レンズは対称型設計からレトロフォーカスタイプが多くなりました。これはMのデジタル化への移行も容易くした要因ではありますが、最近はまた対称型設計のレンズが喜ばれつつあります。
多くのカメラメーカーは、ミラーレス機に移行すると同時にマウントの変更を行いました。
フィルム一眼レフではマウントが変更されると地球が割れるくらいの大騒ぎというか、大事件だったわけですが、ミラーレス機はフランジバックが短いため、マウントアダプターを使用しても一眼レフ用の交換レンズを使うことができますから、事件にはなりませんでした。
多くのユーザーは、実用性を認めたということだと思います。このため各社ともに、次世代カメラへの転換は成功したとみるべきでありましょう。
筆者は通常の撮影業務でも筆者は手持ちの一眼レフ用の交換レンズをアダプターでミラーレス機に使用しております。筆者のような小商いばかりでは最近の高額設定となったミラーレス専用交換レンズを購入することが難しいからです。これが高齢者カメラマンの現実であります。
もっとも、こうしたレンズの使用方法でもトラブルは起こっていません。先に申し上げたとおり、カメラ本来のもつポテンシャルを引き出せていないということは事実ですが、仕事の多くが、人物撮影であり、画面の四隅の画質が乱れようが、周辺光量落ちが大きかろうが写真の出来不出来を大きく左右するということがないからであります。
それに、もうひとつ、買えない言い訳として、ミラーレス時代の交換レンズって、筆者が夢描いていた小型軽量化の期待に反している製品が多いこともあります。このため、本当に新しいレンズって必要なのか、という疑問を抱いてしまいました。
一眼レフ用のレンズは中古であれば特別なものでなければ廉価に購入できるようになりました。これは高齢者カメラマンには朗報であります。
特に以前ご報告したAマウントのレンズなど、昨晩の焼き鳥屋さんのお勘定よりも安かったりすることがあり、これはお得だ、じゃない不憫に思って、ウチの子になってもらうわけです。Aマウントとは一度決別し、完全にお別れした筆者だというのに、同じレンズを買い直したりしているありさまです。
で、さらにやってしまったのですよ、今回。以前から気になっていた、Vario Sonnar T*24-70mm F2.8 ZA SSM(SAL2470Z)と出会ってしまったのです。ええ、出会う場所に行ってしまった筆者に問題があるののは事実でありますが。
ちなみに現在Eマウントのツァイスの標準ズームはVario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSSですから、本レンズとは異なるスペックであります。だから、このレンズなら、仲間内の酒宴でネタに使えるかもしれません。
もちろん中古購入でリスクはあるものの、その値段はEマウントのソニーFE 24-70mmF2.8GM IIの新品価格の6分の1程度、Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSSの半額以下という、大口径標準レンズとしてはありがたいお値段設定でございました。つまり、まったく人気がないわけですね。ただ本レンズがオールドレンズの範疇に入るのかはわかりません。
仕様をみてみると、13群17枚構成うち非球面レンズ2枚、EDガラス2枚。最短撮影距離は0.34m、フィルターアタッチメントは77mm、大きさは最大径83mm、全長111mm、質量は約955gとギリ、1kgを下回るスレスレ設定です。
なお本レンズの後継モデルはSSMはII型となり、AFも4倍高速化し、防塵防滴にも配慮したということですが、以前と異なり筆者はスポーツ競技を撮影する機会はほとんどありませんから、これで問題も感じません。
それよりも普段はデカい重いレンズはどんなに高性能でも失格だと言い切っているくせに、ツァイスは別腹というか、ブランドでおびき寄せられてしまうわけであります。
まったくわかりやすく、信用ならない筆者ですね。しつこいようですが廉価に、かつての超高級名玉レンズを購入できると、いい齢をして生きるヨロコビを感じてしまいます。すみません。
ちなみに、うちにあるツァイスレンズは古いヤシカコンタックスマウントのものの他にZMマウント(Mマウント互換)とFマウントが多いのですが、とくにZMマウントのレンズはライカ純正レンズと比較して、廉価ながらかなりの高性能であることがその理由です。
また、先日テストでEマウントのツァイス新製品Otus ML 1.4/50を試しました。これがことのほか自分の想像していた期待と合致したことで、そうだ、Eマウントの標準ズームもツァイスにしてしまえという意識を持っていて、本レンズと出会いにも運命を感じたわけです。ま、説得力の薄い言い訳です。
とはいえウチの現行のソニーαカメラボディはα7CRしかありませんので、この小型軽量のフラットタイプのカメラと本レンズを装着すると不似合いなことこの上ありませんが、その不似合いであることを人に指摘されることを喜んでしまうというM的な意識も筆者にはあります。お願いです。誰か筆者を叱ってください。
装着に際してはAマウントレンズをEマウントにボディに装着するアダプターLA-EA5を使いました。この装着方法だと、α7CRは大木にとまるセミみたいな感じになりますが、マウント周りにくびれができて、なんだかセクシーです。嘘です。少し誇張しています。
実際の使い勝手、描写性能をご報告しますが、これね、結論を先に言いますと、想像以上に楽しく、かつ結果も良かったのです。いま、とても嬉しいのです、はい。
確かに本レンズはデカい重い太いんですが、昨今のミラーレス用交換レンズの鏡筒の味気ない作りとは一線を画するものがあります。
フォーカスリングとかズームリングの少々重たいフィーリングなんか、カネかかってますぜ、ダンナ。と言いたげな、トルク感ですら作り手の思いが指先に伝わってくるようです。
登場から17年という時間を経ても経年変化を感じさせないフィーリングはさすがです。鏡筒にはAF/MF切り替えスイッチがあり、中央にはフォーカスロックボタンもあります。最もα7CRのAFはカメラ任せでいけますからボタンの仕様頻度は少ないでしょう。
鏡筒の仕上げも美しく、ローレットの細かい刻みも良い感じです。レンズ前面を見るだけでも感激が大きい。これならアサインメントの撮影に携行しても、軽く見られずにすみそうです。
描写性能をみてみましょう。どうやら真っ直ぐなものは真っ直ぐに描写しないと許せない性格のレンズみたいです。さすがのツァイスです。厳密にみれば歪曲はワイド端はタル、テレ端は糸巻きと当たり前の仕様ですけど、その量が少ないことに驚くわけです。ボディ内でうまく歪曲を補正しているのかどうかは知りません。Aマウントレンズだし。
絞り開放から実用性十分でコントラストも高いですね。ハイライトに少しくらいフレアや滲みとか出るのかなあと思いきや、その量もわずかです。そういう日本的な情緒には期待してくれるなというツァイスならではの厚みのある描写ですね。
驚くべきは全域で最短撮影距離が0.34mと単焦点レンズとほとんど変わらないこと。これはすばらしく、ミラーレス専用設計レンズ並みです。テレ端の70mmでここまで寄れると感動が大きい。最短撮影距離で絞り開放ですと、やや残存収差を感じますけど、それは悪しき方向には働いておらず、ぜーんぜん実用になります。
当然、ツァイスレンズですからT*コーティングが施されております。逆光に強いというか、鏡筒内で光が遊ぶことなく、素直にセンサーに光が届くかのようで、そのヌケが良いのが特徴ではないかと。画面内の光源の位置によってはゴーストが出てきますが、騒ぐほどの量ではなく、これも実害は少ないと思います。
今回の本レンズの撮影後「たしかに違う。世界のカール ツァイス」というかつてのヤシカ・コンタックス時代の名キャッチコピーを思い出してしまいました。
ツァイスレンズだと騒いでことさら礼賛するつもりはありませんが、実写してみると、その個性ある再現にヒザを叩き、ひとり喜んでいます。そこには数字にはない“何か” を感じたからに他なりません。本当です。