写真を巡る、今日の読書
第65回:お盆休みに映画をまとめて見るのはいかがでしょうか?
2024年8月7日 07:30
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
暑くて撮影に出るのも大変……。
猛暑の夏、いかがお過ごしでしょうか。私は東北で育ったからか、夜になっても蒸し暑い東京の夏というのは、いつまで経っても慣れません。特にここ数年の長く暑い夏は、まるで別の国に来てしまったかのようです。
昨年は、ちょうど夏にフィリピンに取材に行っていたのですが、東京より断然過ごしやすくて驚きました。これだけ暑いと、外に写真を撮りに行くというのもなかなか大変で、休日はもっぱら自宅で本を読んだり映画を観たりしています。
そんなわけで、今回は映画に関する書籍をいくつかご紹介したいと思います。お盆休みにまとめて見る映画のリストを検討するのにも役立つのではないでしょうか。
『映画を聴きましょう』細野晴臣 著(キネマ旬報社/2017年)
1冊目は、『映画を聴きましょう』。著者は「はっぴいえんど」や「イエロー・マジック・オーケストラ」のメンバーとして知られる細野晴臣です。
『キネマ旬報』での連載をまとめた本書では、映画音楽と個人的な映画史に触れつつ、邦画洋画問わず現代の様々な映画についてのエッセイがまとめられています。劇場公開されなかった洋画などにも触れていて、私自身観たことがない映画が多く紹介されており、非常に好奇心をくすぐられるテキストが多く掲載されています。
例えば、「ファニー・ボーン/骨まで笑って」(95年、ピーター・チェルソム監督)は、VHSのみ発表されたようで、現在はFODで配信されているようですが、細野が初めてレイモンド・スコットの音楽に出会ったきっかけとして「宝物のような映画」だと評しています。私も、この本で知ってYouTubeでトレイラーを見ただけなのですが、今後鑑賞する機会が楽しみになった1本です。
その他にも、映画の紹介だけでなく細野の頭の中までが覗けるような本書は、YMO好きや映画好き、サントラ好きの方だけでなく、様々な方におすすめの1冊です。
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『仕事と人生に効く教養としての映画』伊藤弘了 著(PHP研究所/2021年)
2冊目は、『仕事と人生に効く教養としての映画』。本書は、様々な大学で映画に関する講義科目を担当する、映画研究者の伊藤弘了によってまとめられた1冊です。面白いのは、単なる映画ガイドではなく、なぜ映画は面白いのか、どのように見れば教養を獲得できるのかといった、「映画鑑賞論」を軸に語られている点です。
「トイ・ストーリー」から始まり、古典的なハリウッド映画や黒澤作品、現代の映画作品まで、多角的に取り上げながらそれぞれの映画制作におけるバックグラウンドや技法、監督のこだわり、細部の意味などが取り上げられ、深く鑑賞することで得られる映画の醍醐味が新しい視点で語られています。
最終章では、映画を鑑賞した後の感想のまとめかたや批評を行うヒントも掲載されており、私の仕事である写真に置き換えても興味深い内容でした。巻末に、筆者が独自にまとめた必見の名作映画が111本、年代順にまとめられていますので、何を観るか迷った時には、本書の解説を片手にランダムに観てみるというのも良さそうです。
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『ビハインド・ザ・ホラー ホラー映画になった恐怖と真実のストーリー』リー・メラー 著(青土社/2021年)
今日最後にご紹介するのは、『ビハインド・ザ・ホラー ホラー映画になった恐怖と真実のストーリー』。様々なホラー/スリラー映画の創作の元となった、実際の事件や事故、現象をまとめた1冊です。著者は、カナダを拠点に犯罪学を研究し、多数の著書を持つリー・ミラー博士です。
アルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」や、トビー・フーバー監督の「悪魔のいけにえ」の制作に影響を与えたと言われるエドワード・セオドア・ゲインの生涯や、ウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」の原作で取り上げられた主人公のモデルとなっている少年の身に起きた、不可解な現象や悪魔祓いの体験を読むと、実際の映画に向けるまなざしや、恐怖の度合いも大きく変化するように思いました。
他にも、スティーブン・スピルバーグ監督の「ジョーズ」に関するテキストなどもあり、それぞれの映画を新たな観点で解釈できる1冊だと思います。真夏の夜に見る映画を選ぶのにも、良い参考になるのではないでしょうか。