写真を巡る、今日の読書

第7回:直感に訴える写真集は“買い”

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

写真集の“買い”のタイミング

今月は、写真集に目を向けてみたいと思います。以前にも書いたように、写真集というのは部数や取扱店の条件を含め流通が限られていることも多く、後から欲しいと思ったときには絶版になっていたり、中古価格が高騰してしまっていることが多くあります。直感に訴える本があれば、間違いなくその時が「買い」のタイミングであるというのが写真集というモノの特徴だと言えるでしょう。

『自然の鉛筆』ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボット 著、青山勝 訳(赤々舎・2016年)

一冊目は、フォックス・タルボット(本書による表記はトルボット)の『自然の鉛筆』をご紹介したいと思います。少しでも写真史に触れたことのある人にはご存知の通り、ダゲールと双璧をなす写真術の発明者の一人で、1841年に発表した「カロタイプ」は、ネガを用いて複製が可能である点において、現在に通じる写真システムの始まりとなる写真術だと言われています。

本書のタイトルにもなっている『自然の鉛筆』は、1844年に出された世界で最初の写真集と呼ばれる歴史的な作品です。当時の写真のクオリティやディテールを忠実に再現すると共に、タルボットのテキストを和訳で収録し、さらに様々な写真家や研究者の論説をまとめて今日におけるタルボットの写真術の意義や魅力が再確認できる一冊になっています。

単なるクラシックとしてではなく、現代に通じる写真の根源的な機能や楽しさ、さらには写真というものの不思議さを体感できる本だと言えるでしょう。

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『BLAST』畠山直哉 著(小学館・2013年)

二冊目は、畠山直哉の『BLAST』。現代日本の写真家を代表する一人として、必ず名が挙がる作家のひとりです。本作に収録されている作品は、鉱山の発破の瞬間を捉えた初期の代表作です。

『話す写真:見えないものに向かって』(現在は絶版)という著書やウェブサイトなどで検索できるインタビューにおいても本作の解説を参照することができますが、「爆発は芸術か?」という視点から展開される写真論などは非常に刺激的で、写真についての語り方という点においても大変参考になるでしょう。

本作に限らず畠山直哉の作品は日本以上に世界の現代美術界において評価されており、写真をどう読むか、また写真とはなにかを考えるための最も重要な作品を提示してきた作家だと言えます。この機会に是非手にとってみて欲しい一冊です。

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『Flora Photographica: Masterworks of Contemporary Flower Photography』William A. Ewing 著、Danae Panchaud 著(thames&hudson・2022年)

最後は、『Flora Photographica: Masterworks of Contemporary Flower Photography』。本書はこの原稿を執筆している現時点では、事前予約受付中の写真集となります。

大学や専門学校、あるいは社会人向けのワークショップなどで写真制作に関して相談を受けていると、花を被写体にする写真家にお会いすることがあります。その時、必ず目を通すように伝える一冊があるのですが、それが本書の前身となる『Flora Photographica: Masterpieces of Flower Photography From 1835 to the Present』です。

1990年代以前の、花をモチーフとした多様なアプローチを俯瞰できる貴重な一冊であり、各国語版が相次いで出版されたベストセラーでもあります。著者はどちらも同じ写真研究者/教育者のウィリアム・A・アーウィングであり、本書はその後の写真表現を含めた続編と言えるものです。取り上げられている写真家のリストを見ても、デヴィッド・ラシャペルやヴィヴィアン・サッセンなど現代で活躍する写真家が多く含まれています。その点で、特に花に関する写真を愛する方には、必携の一冊となることは間違いないでしょう。

私を含め必ず入手したい愛好家にとって、事前予約をしてでも押さえておきたい本ではないかということで、本作は期待をこめて発売前の段階でご紹介させて頂くことにしました。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『写真を紡ぐキーワード123』(2018年/インプレス)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)等。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。最新刊に『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)。