熱田護の「500GP-Plus」

第20回:日本GPの中止は本当に残念

EOS-1V EF600mm F4L USM(F8・1/500秒)コダクローム64(以下KR)

ニュースなどの報道ですでにご存知の方も多いと思いますが、2021年の日本GPが中止になりました。

今回の日本GPは特別な意味がありました。まずは6年ぶりの日本人ドライバーである角田選手の初凱旋となるべきGPであったこと。

そして、第4期のホンダ参戦ラストイヤーで、しかもチャンピオンシップを争っているフェルスタッペン選手の勇姿を目の前で見られる最高のチャンスだったからです。

それに多くの女性ファンを持つライコネン選手が今シーズン限りの引退発表もあって、残念の3連発となってしまったわけです。

決まってしまったことを悔やんでも始まりません。そこで、今回の500GP-Plusは日本GPの思い出のシーンを振り返ってみたいと思います。

トップの1枚に選んだ写真は2002年のスタート。15万5,000人という観客数でした。2002年はフェラーリの勢いがすさまじく、日本GPもシューマッハとバリチェロがフロントローを独占しました。

EOS-1V EF14mm F2.8L USM(F5.6・1/250秒)フジクロームベルビア(以下RVP)

2002年は佐藤琢磨選手がデビューします。観客席は黄色(ジョーダン・ホンダ)に染まりました。そして5位入賞(予選は7番グリッド)を果たします。5位と言うのは、その年の初ポイントでしかも最終戦。

もう、まるで優勝したかのような雰囲気でした。それを出来てしまうのが、佐藤選手の持って生まれた実力と強運ということなのでしょうか。

EOS-1V EF16-35mm F2.8L USM(F5.6・1/250秒)RVP

翌年の2003年、佐藤選手はBARのリザーブ&テストドライバー契約となり、最終戦の鈴鹿ではレースにエントリーすることになり、鈴鹿で連続入賞という快挙を成し遂げます。持っている人は違うなぁと僕の記憶にも強く刻み込まれました。

そして翌年からは、レギュラードライバーのポジションを勝ち取ります。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L IS II USM(F2.8・1/250秒)

2016年、鈴鹿のフェルナンド・アロンソ選手。この前年、ホンダPUの性能に不満で「GP2エンジンだ!」と発言したことが、当時大きな話題となりました。

確かにパワーも信頼性も彼の望むものとはかけ離れたところにありました。ほかにもホンダに対して辛辣な発言があって、日本のファンからは敬遠されてしまうことにも繋がりましたが、僕はラテン系の彼からすれば、成績が出ないことに対するフラストレーションが大きな部分を占めていたことは事実で、それも仕方がないと思います。

EOS-1D X Mark II EF24mm F1.4L USM(F6.3・1/400秒)

あの、ハミルトン選手をチームメイトに持って、しかも上回ってチャンピオンを獲得したニコ・ロズベルグ選手(メルセデス)。2016年の鈴鹿でもポールトゥウィンで優勝をしました。そしてこの優勝が最後の優勝となってしまいました。

シーズンが終わった直後に引退を発表。このニュースにはびっくりしました。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L IS II USM+EF2× II(F5.6・1/500秒)

雨の写真を撮るのが大好きな僕としては、納得の1枚です。水飛沫がモウモウと上がるその様を、撮りたくてチャレンジして早くも30年余り。その条件が整うことは本当に稀です。

雨量が多すぎると走行を中止してしまうし、雨量が少ないと思ったような水煙が立たない。そのちょうど良い条件になった時に、その適切な場所に居なければなりません。

鈴鹿の裏ストレート。綺麗な水しぶきでした。

EOS-1D X Mark II EF14mm F2.8L USM(F10・1/2,500秒)

2018年、この年、ホンダが冠スポンサーに付きました。マクラーレンから、トロロッソにPUの供給先を変更して、加速的に性能が上昇。その様子を見ていて、やっぱり嬉しくなりましたね。

EOS-1D X Mark II EF11-24mm F4L USM(F9・1/2,500秒)

2018年もほぼ満員のお客さんの前でスタート。現在のコロナ禍で、無観客のレースをいくつも経験しましたが、まったく味気のない雰囲気です。当時の記憶と照らし合わせてみると、現場の雰囲気はお客さんが創るのだということが分かりました。

EOS-1D X Mark II EF85mm F1.4L USM(F1.4・1/125秒)

前夜祭と名付けられて、グランドスタンドは満員で、1人1人にライトを手渡してドライバーにその気持ちを伝えます。とても綺麗でしたし、フォトジェニックな演出でした。

ザウバーのドライバーだったルクレール選手は、今やフェラーリのナンバー1にまで成長しました。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L USM(F1.4・1/400秒)

仲良しの2人、ライコネン選手とベッテル選手。

ライコネン選手は、今シーズンいっぱいで引退。気持ちをストレートに表現したり、自分の興味がないことには興味なし。撮っても絵になるし、人気もある。

でも、誰でもいつかは引退する時がきます。そういう意味では、今がいい時なのかもしれません。

EOS-1D X Mark II EF50mm F1.2L USM(F1.4・1/8,000秒)

今年、チャンピオンを狙える位置にいるマックス・フェルスタッペン選手。2018年の日本GPは3位で表彰台に上がっています。この時のPUはルノー。翌19年はホンダPUでリタイヤしています。そして鈴鹿が2年連続中止となっているので、ずいぶんとご無沙汰していることになります。

レッドブルというトップチームとトップドライバーに、現在トップの性能を発揮しているホンダPUという組み合わせの真価を発揮している2021年。この当時は、まさかホンダがここまで飛躍的に進化をするとは考えられなかったし、レッドブルに搭載されるとは、夢としては期待していましたが、実現になるとは思っていませんでした。

チャンピオン争いをすることも、そして撤退することも。コロナという未知の病が世界をここまで変えてしまうことも、まったく想像すらできませんでした。たった、3年前の写真なのに、何故だかすごく前の景色に思えてきます。何もかもが激変してしまった、様々なことが……。

この3年を振り返ってみると、写真を撮るという意味においても、その瞬間を大切に1枚1枚のシャッターを切るべきだと思うようになりました。

それでも希望の光もあります。鈴鹿での日本GPは2024年まで延長することが発表されました。来年フェルスタッペン選手には、鈴鹿にチャンピオンと凱旋して欲しいと思います。そして、HONDAというロゴは、車体には無いかもしれませんが、間違いなくサクラで作ったホンダPUが走ります。
その音を聞きに、ぜひ鈴鹿サーキットに来てください。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。