コラム
【書籍紹介】人生を変えた夜の飛行機写真は、どのように写し出されたのか?
きっかけはあり得ないミスだった 別所隆弘さんの考え方に迫る
2019年1月21日 12:40
インプレス刊の書籍『物語と画作りで人を魅了する 最高の一枚を写し出す写真術』は、SNSで人気を集めるフォトグラファー別所隆弘氏が、「物語」をキーワードに、「発想」「準備」「撮影」「仕上げ」の4つのプロセスと共に、自身の作品作りの考え方とノウハウを公開した1冊。ここでは、本書の中から、別所氏の人生を変える1枚となった夜の飛行機写真を例に挙げ、作品が完成するまでの過程を紹介します。(編集部)
別所隆弘
フォトグラファー/文学研究者。National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外の写真賞多数受賞。東京カメラ部10選2014。写真と文学という2つの領域を横断することで新しい表現領域を模索する。滋賀、京都を中心とした“Around The Lake” というテーマでの撮影がライフワーク。
※以下の内容は、書籍『物語と画作りで人を魅了する 最高の一枚を写し出す写真術』(インプレス)の文章を抜粋、再構成したものです。
イメージ通り撮影できない=失敗なのか?
「写真家は常に、事前にイメージを持っていなければならないか」という疑問を持つ人もいると思います。僕自身も、以前はそう思っていました。確かに多くの場合は、撮影に向かう前にイメージがあることが多いです。
しかし、ときには現地に着くと想定していたイメージとは全く違う風景が広がっていて、四苦八苦しながらイメージを作り直すことが多々あります。さらに、「全然イメージどおり撮影できない」こともそれ以上に多いです。でも、その「失敗」こそ、極めて大事な要素だと考えています。
失敗写真には、実は作品を生み出すヒントが隠れている
「失敗」は、撮れ高がゼロだった、という「機会損失」を意味するのではなく、失敗の中にある要素が、新しい写真を生み出す可能性を秘めているものだと思います。そういう可能性を探るには、撮影が思い通りに終わらなかったとき、自分からその意味を解きにいく必要があります。
つまり写真の意味を「読む」力が大切だということです。僕の最初の代表作を生む転換も、「失敗写真」から生まれました。
2015年4月、午前中に別の撮影を行い、夕方頃に撮影を終えて、そのまま伊丹空港の有名な撮影地へ行って撮影を開始しようとしたその矢先、レリーズを握り込んだときにうっかりボタンを押してシャッターが切れてしまったのです。
先ほどまでの設定がそのまま残った状態で、シャッター速度は1/2秒、ISO感度は320。
このとき、「無駄なシャッターを切った」と思いました。当時は着陸機ばかりを撮影していたので、最低でもISO 3200、シャッター速度は1/80秒は欲しいところです。何から何まで完全なミスショットでした。
あり得ない設定で撮影された画には、見たことがない世界が広がっていた
ところがミスショットの画像を見て、一瞬ドキッとしたのです。それが下の写真で、まったく意識していなかった離陸機が中央に写っていました。当時は200mmまでのレンズしか持っていなかったので、離陸機はそもそも眼中になく、そこに停止して存在していたことさえ知りませんでした。
その画像は、今まで撮っていた「着陸機」の画とは、まったく違う雰囲気を宿していました。当時のカメラだと、着陸する飛行機は動いているため、RAWデータはノイズでザラザラ、色はほとんど乗らない状態です。2015年頃は、着陸する飛行機のノイズ処理に必死になっていました。
当時よく撮影していた着陸飛行機の写真の例です。高速で動く飛行機を捉えるため、ISO感度を高めに設定し、RAW現像時にノイズ処理を施しています。
一方、このときモニターに映し出された画像はISO 320と低めの感度で、1/2秒と長秒露光に近い状態で撮影しています。家に帰ってからRAW現像したのが下の2枚目の写真で、そのキレイな色合いと、ノイズの少なさに感動しました。そして何より、小さいとはいえ、飛行機がしっかりと「停止」している!
当時は、飛行機が離陸する際、滑走路で停止することさえ知らなかったので、偶然切られたシャッターによって「静止」する飛行機を見たとき、頭の中に強烈なイメージが湧いてきたのです。その感覚は今でも覚えています。
失敗写真からイメージを組み立てて、光にあふれる夜の飛行機をダイナミックに写し出てみた
では、ここからは具体的にどのようなプロセスで、完成写真を写し出していったのかを見ていきましょう。
小さく写った離陸機をもっと大きく撮ってみたい!
小さい飛行機が停止するなら、大きな飛行機も停止するかもしれない。それを超望遠レンズでもっと大きく、長秒露光で切り取ればどんな画になるんだろう? それが、失敗写真の要素から得たイメージです。
失敗写真を偶然撮ったのが2015年4月18日。その11日後である4月29日に、超望遠レンズを使って再チャレンジしました。人生初の超望遠レンズは、2週間ほどかけて準備しました。
失敗から要素を拾い、別の要素と結びつけることで、新しい世界が切り拓けることがあります。この写真を撮影したことで、SNSを通じて、僕は多くの方に写真を見ていただけるきっかけを得ることができました。
現像:機体がシルバーになるようホワイトバランスを調整
この写真を撮った当時は、通り一遍のLightroomの使い方しかわからなかったので、現像はほとんど「基本現像」のみ。あとは「段階フィルター」を少しだけかけ、飛行機の下半分に露光量をプラスしました。
一番気を遣ったのは「飛行機の色」です。全体の色はアクアから緑にかけての色になっていますが、この独特な色味は意図したわけではなく、飛行機をシルバーにするためのホワイトバランスを選んだら、この色になりました。個性の強い色味なので、現在は飛行機の色は他と分離して考え、ホワイトバランスを調整しています。
本書では、その他にも
●思い出が舞う桜
●古都京都
●地元を撮る
●大都会の光と闇
●新しい花火の美学
などさまざまな題材を取り上げ、別所さんの作品作りのプロセスを解説しています。テクニックにとどまらず、作品作りのアイデアや着眼点なども参考になります。また、RAW現像の基本プロセスは、手順や調整方法をイメージしやすい解説動画もついており、その考え方とノウハウをより深く学びやすくなっています。(編集部)