頬の明るい部分から首筋にかけての表現では疑似輪郭が出やすいところだが、本機はこともなげにクリアしている。かつてエプソンが販売していたPM-950Cが、この部分の表現力が非常に高く、ヌメリとした独特の柔らかい階調表現をしていたが、本機はそれに近い滑らかさ、階調の多さだ。画像全体を見てもそうだが、拡大するとその滑らかな階調の描写がわかるだろう。
昨年のPM-G800ではここまでの滑らかな表現は行えず、途中で色カブリする傾向も見られた。スペック上では同じプリントエンジンだが、階調表現の途中で色相が転んだり疑似階調を起こさないよう、入念なチューニングが施されたと考えるのが妥当だろう。手元にG800がないため、G800でも同様の改善が進んでいるか否かは不明だが、G820用ドライバの完成度の高さは十分に示している。
しかし豊かな階調の素直な特性といった基礎体力は非常にしっかりしているものの、オートフォトファイン! 6(APF6)の効き方には賛否両論あるところだろう。
赤みの差した肌は、補正でニュートラルになり、ハイライト付近の明度が持ち上げられた。顔の右半分を占めるシャドウ部分も明度が持ち上げられているのは、露出不足の人物写真と判別されたせいかもしれない。背景もやや明るく印刷されている。
元画像が本来持っていた雰囲気は失われていないが、意図した色やトーンカーブで印刷したいユーザーは、別途、カラーモードを設定し直した方が良い結果が得られる。APF6をデフォルトにしている限り、こうした事はある程度は仕方がない。
もっとも、作品性を意識せず、無造作に撮影した写真を印刷するという意味では、APF6はかなり効果的に機能しそうだ、とは言える。陰影を強調した作品本来の意図はともかく、スナップ写真として捉えるなら悪くはない。シャドウ部の色乗りも明度を持ち上げている関係で十分にあり、染料インク機の不得手な表現をうまく避けている。
|
階調の滑らかさや色相の転びが少ないという点では、やはり見事な出来具合だ。近年のエプソン製染料インク機では、PM-950Cがもっとも階調表現に優れていたと書いたが、PM-950Cが暗部にかけてのグラデーションで、やや黄色カブリを起こす傾向が強かったのに対して、本機は滑らかな階調と統一された色バランスが両立されている。
ただ自動的に色補正がかかっているのはポートレイトのサンプルと同じ。空の色はより空らしく、彩度が高いオレンジの屋根は“ほどほど”の色に、自転車に乗る女性の肌色は多少色白に、葉の緑は黄色が多少弱くなってスッキリした色になった。また全体的に濃度が抑えめで薄味、低コントラストの印象も受ける。
今回、評価に使ったもの以外にも、いくつかの画像をテストしているが、中でも南国の海を印刷させると、ラグーン内の海が必要以上に鮮やかで旅行カタログのように印刷された。それが好みならば話は別だが、個人的にはやや“やりすぎ”の印象を受ける。
|