|
|
|
|
|
|
|
|
【今年のPIXUSシリーズ】 ~新筐体&新インクでA4機を一新
|
|
|
|
|
|
|
|
PIXUS iP8600
|
今年のインクジェットプリンタ市場は、単機能機から複合機への急速な移行も予想されているが、一方で画質、機能、性能を重視するユーザーからの単機能機へのニーズも衰えてはいない。むしろ、機能バランス重視のユーザーが複合機へと流れたことで、単機能機には今まで以上に高い“質”が求められている。
そうした中で、単機能機にもっとも大きな変更を加えたのがキヤノンだ。キヤノンPIXUSシリーズの新製品は、メカニズムとインクに全く新しい技術が詰め込まれている。また、A3ノビ機のPIXUS 9900iに導入されたドライバ技術が熟成度を増し、滑らかな階調と程良い演出の絵作りを実現。一般コンシューマを意識した印象的な色彩表現と破綻ない階調表現を両立させている。
|
|
上面トレイと本体下のカセットから給紙できる
|
本体下の給紙カセット。L2以上の用紙では伸ばして使う
|
|
|
L判なら縮めたまま使用できる
|
伸ばしていると本体からカセットがはみ出すが、縮めたときには本体に完全に収納される
|
しかも、収納時にもL版写真用紙ならば用紙をセットしておくことが可能なため、常にL版写真用紙をカセット内に忍ばせておき、A4印刷が必要なときだけトレイを開いて用紙を載せるといった使い方もできる。逆に普通紙は常に前面給紙で、写真を印刷する時だけ用紙トレイに必要な写真用紙をセットしてもいい。
どのような用紙種類、サイズを頻繁に使うのか、使い方次第で自由な運用を行なえる点は魅力だ。前面カセット、用紙トレイのいずれから給紙するかはドライバ、もしくは本体前面にあるボタンで切り替えることが可能だ。
|
|
給紙切り替えボタン。隣はPictBridgeポート
|
両面印刷機能も備える
|
その上、自動両面印刷機能も本体内に内蔵している。本機はボクシーで無駄のないデザインを採用することで、最高8色ものインクカートリッジを装着するプリンタとしてはかなりコンパクトな仕上がりになっているが、自動両面印刷ユニットは完全に本体デザインの中に溶け込み、設置時に全く邪魔にならない。
前面給排紙や自動両面印刷のメカは、用紙をかなり急カーブで通さなければならないため、厚みのある用紙はサポートしにくいが、いずれのメカニズムも厚手の用紙もサポートしており、デリケートな写真用紙をカセット給紙した場合でも、用紙表面にキズが付くといった問題は見受けられない。しかも自動両面印刷では、なんと両面縁なし印刷も行なえる。年賀状はもちろん、オリジナルのフォトグリーティングカードやフォトアルバムを作成する時などに便利だ。
|
CD/DVDダイレクトプリントトレイ
|
さらにCD/DVDのダイレクトプリントでは、本体内にトレイガイドを内蔵。メディアをトレイに載せ、トレイガイドに沿って挿入するだけで簡単、手軽にCD/DVDダイレクトプリントを利用可能になった。
これだけコンパクトな筐体で、これだけのメカを詰め込みつつ、元々静かだった静粛性が全くスポイルされていない。メカや使い勝手に関するデザインの部分に関して言えば、不満点を見つけることが難しいほどだ。しかも、これらのメカニズムは、低価格な4色機のPIXUS iP4100以上すべてのモデルで共通に実装されており、価格レンジの違いによって差別化されていない点もうれしい。
敢えて注文をつけるとすれば、CD/DVDトレイを本体内に収納できないことだろうか。CD/DVDトレイは、工夫すれば筐体内に収まりそうなサイズである。また、排紙トレイが自動で開かない点も惜しい。が、言い換えれば、その程度しか不満を言うところがない。非常によく考えられた筐体だ。
■ 耐ガス性を増した新染料インク
これまでキヤノン製インクジェットプリンタの弱点とされていた色褪せに関しても、根本的な対策が施された。昨年モデルも、プロフォトペーパーの改良によって耐ガス性をアップさせたとアナウンスしていたが、ライバルのエプソンが耐ガス性を向上させた“つよインク”を打ち出してきたため、陰に隠れてしまっていた感がある。
また、昨年は色材を分解するガスとしてオゾンに注目が集まり、高濃度のオゾン暴露試験に評価を依存しすぎたこともキヤノンに不利に働いていた。キヤノンによると、色材に対する攻撃性が強いガスはオゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄の3種類があるという。これらを一般的な空気中の成分比で試験した時の、各色の褪色具合が評価の基準になるはずだと主張する。
「ChromaLife 100」と名付けられた新染料インクは、これら3種類の混合ガスに対する暴露試験に強く、しかも各インクの褪色度合いが均一なため、色バランスが変化しにくい。オゾンだけの暴露試験ではマゼンタの劣化が顕著となり、品質は著しく低下するが、実環境でオゾンだけの濃度が上がることはないため、混合ガスでのテストが正しいというわけだ。
たとえば、ある銀塩写真の場合、オゾンのみでテストすると全く色褪せないという。ところが、室内に置いて自然褪色させると褪色が起こる。同様に3種混合ガスで加速試験すると、室内に置いて自然褪色させたのと同じように褪色が進む。単一のガス濃度を上げても、実保管環境における耐食試験にはならないというわけだ。
残念ながら、オゾン単独の暴露試験とは異なり、成分比を固定した混合ガスでの劣化加速試験を行なう術を編集部では持ち合わせていないため、実際にどのような劣化挙動を示すのか、エプソンのPM-Gインクと比べてどちらが耐久性が高いのかを現時点で判断することはできない(キヤノンの提示した試験結果では、PM-Gインクよりも良い結果が出ているが、確認はできていない)。
新インクは耐光性30年、耐ガス性10年を謳っており、この数字が正しいのであれば、インクジェットプリンタの染料インクは、耐久性において銀塩プリントと同等、もしくは追い抜いたことになる。なおアルバム保存では100年で、高湿度環境下で保存した時に用紙宇内部でインクがにじみ、解像感が損なわれる現象も新インクで押さえ込まれている。
なお、新インクも新筐体メカニズムと同じく、iP3100以上、すべての単機能プリンタで利用可能だ(他に複合機のMP900、MP790、MP770でも利用可能)。
■ 実用性を増したPictBridge対応
iP2000以上の機種には、対応カメラをUSBケーブルで接続し、PCレスで印刷するPictBridgeにも対応している(キヤノン独自のキヤノンカメラダイレクトにも対応)。キヤノンは昨年も主要な機種すべてがPictBridgeに対応し、ノンPCで単機能機から写真を印刷する機能に力を入れていた。しかし、印刷速度が著しく遅く実用性に乏しいという問題もあった。
今年はプリンタ内蔵のコントローラチップの高性能化と、印刷処理を行なう内蔵ソフトウェアが最適化され、L版縁なしを3枚連続で約70秒という高速印刷を実現した。PCからの出力と比較すると、画質面、速度面ともにやや不満は残る。しかし、カメラ操作だけで簡単に印刷できるため、カジュアルな写真出力には十分使える。機能面でも、シール紙へのレイアウト出力や、Exif 2.21でサポートされているAdobe RGBの画像にも対応した。
【お詫びと訂正】記事初出時、L版縁なし印刷の速度を70秒と記述しましたが、3枚連続時の速度でした。お詫びして訂正させていただきます。
メモリカードからのダイレクトプリント機能がなくとも、カメラさえPictBridge対応ならば手軽な写真印刷が可能な点はPIXUSシリーズのセールスポイントだ。単機能機と言いつつ、デジタルカメラの写真出力だけに限ってノンPCソリューションを提供しているのだから、お買い得という見方もできるだろう。
【お詫びと訂正】記事初出時、「単機能機でPictBridgeに対応しているのはキヤノンだけ」という記述がありましたが、日本HPにも対応機がありました。お詫びして訂正させていただきます。
通常、高画素カメラにも対応しなければならない機能を組み込むと大幅なコストアップになるものだが、iP2000以上すべての機種に処理チップを組み込むことでコストを引き下げることに成功している。
■ ヘッド構成の基本を引き継ぎつつ高速化
さて、本誌の読者がもっとも興味を持つのは、写真画質向上に特化したiP8600、8100、7100の3機種だろう。この3機種はiP7100の6色インクを基本に、iP8100にはレッド、iP8600にはグリーンインクが追加されている。なお、ヘッド自身の世代は昨年のものと同じ1色あたり768ノズル、各インクドロップ2pl(ピコリットル)のスペックだ。つまり、iP8100は990i、iP8600は9900iに近い構成である。
ただし、iP8600はインク吐出サイクルの高速化が図られており、元々高速だった写真印刷がさらに20%向上している。また、メディア先端、後端での紙送り精度向上により、縁なし印刷時に使うノズル数が従来の128ノズルから256ノズルに増え、L版フチなし印刷はおよそ35~50%(印刷モードによって前後)も速くなった。
全弾2plのインク滴サイズは共通のため、画質面では(9900iから)あまり変化がないと思うかもしれないが、実は990iと9900iの間には画質面での差は小さくない。その理由はインク滴サイズやインク色の追加ではなく、ドライバ処理にある。
キヤノンによると、9900iは一眼レフデジタルカメラユーザーを強く意識したとのことで、見栄えの良い絵作りのためにやや破綻する場面も見受けられた990iよりも素直な絵になっていた。具体的にはグレートーンがしっかりと統一され、結果的にシャドウやハイライト部分での色転びが少なくなり、また階調性も改善。色補正もそこそこに抑えられていた印象だ。
今回発表のA4機は、9900iよりは一般コンシューマを意識した絵作りで、コントラスト感を強調し、彩度もやや高めに振られている。レッドインク、グリーンインクの使い方も適度で、わざとらしく高彩度を演出する印象はないが、きちんと両インクを生かせるだけの“さじ加減”で好ましい絵を作っている(なお、コントラスト向上はブラックインクの濃度向上も大きく貢献しているようだ)。
今年のPIXUSは、ヘッドの世代が同じため、画質面での進歩は少ないのでは? と思われるだろうが、実際に様々な画像を出力してみると、絵作りの完成度が格段にアップしていることがわかる。得手、不得手が少なく、それでいて印象的な色遣いだ。
■ 画質テスト
さて、PIXUSシリーズからiP8600、iP7100、iP4100の3台をピックアップし、写真出力の画質と速度を計測、別掲の記事としてまとめた。
本機はICCプロファイルが添付されている他、キヤノン製RAW現像ソフトDigital Photo Professionalから自動でカラーマネジメントされた写真出力などにも対応しているが、今回はsRGB画像からの出力のみを評価している。(添付カラープロファイルなどの評価に関しては、一通り全メーカーのICCプロファイルが揃ってから、横並びで比較することにしたい)
テストでピックアップした機種のうち、iP8600とiP7100の違いは、レッド/グリーンインクの有無と印刷速度(約20%の差)だけである。一方、iP4100はCMYのレギュラー濃度インクに加えて写真印刷用の黒インクも利用するモデルだ(iP3100は普通紙用黒インクしか装着できないため、光沢紙への印刷は3色混合となる)。
レッド(実際には濃いオレンジ)とグリーンのインクが追加されることで、印刷結果にどのような変化が現れるのか、あるいは薄いインクを用いない4色印刷と6色以上のモデルの差がどの程度あるのかが興味深いところだ。
■ URL
インクジェットプリンター 2004年冬モデルレビュー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/2004/printer/ijp2004.htm
( 本田 雅一 )
2004/11/19 09:19
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。
|
|
|
|
|
|