デジカメ Watch
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~ついに8色化されたA4機のフラッグシップ
[2004/11/24]

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【今年のPIXUSシリーズ】
~新筐体&新インクでA4機を一新
[2004/11/19]


キヤノン PIXUS iP8600

~ついに8色化されたA4機のフラッグシップ

 PIXUS iP8600はキヤノン製A4インクジェットプリンタの最上位に位置するモデルである。iP7100との違いはグリーンとレッド、2色の特色インクが加わっていることである。昨年はこの機種に相当するモデルは用意されておらず、8色化されていたのはA3ノビ機のPIXUS 9900iのみだった。ただしヘッドは共通で、不要なノズル列を利用しないことで異なるインク数のモデルに対応している。

 ちなみにヘッドを目視で確認すると、全部で10列のノズル列があることがわかる(7色機だった昨年も同じ)。従って、8色プリンタのiP8600では2列分が余ることになるが、残り2列を今後利用することがあるか否かは発表されていない。あるいは歩留まりを上げるための冗長ノズルかもしれないが(1列不良だったときに、余っている列を割り当てるなど)、インクジェットプリンタはインクを打ち込む順番で色が変わるため、それは考えにくい。将来、グレーインクが追加されるなどすれば面白いのだが、現時点では全くわからない。グレーインクはモノクロ印刷時だけでなく、カラー印刷時にもコントラストの制御に使いやすいからだ。

 もうひとつ余談だが、追加される特色のうちレッドインクは、名前こそレッドだが、実際の色は濃い目のオレンジである。インクカートリッジだけを見ると、イエローインクカートリッジがオレンジに見え、オレンジインクの入ったカートリッジは赤に見える。このため、装着時の混乱を避けるためにレッドインクと表記しているそうだ。

 こうした特色インクは色再現域を広げることが目的としている。sRGBの色域とインクジェットプリンタの色域の比較はよく論じられるところだが、キヤノンはポジフィルムとインクジェットプリンタを比較し、ポジフィルムでは再現できていたがインクジェットプリンタでは再現できない色のためにこの2色を追加したという。オレンジに関しては、写真集などでもよく使われる特色で、CMYK印刷の弱点を補う意味合いが強い。

 レッドインクが最初に搭載されたPIXUS 990iは、オレンジ周辺の色域拡大を最大限に活かすため、夕焼けなどの表現で思い切り鮮やかな色を出す演出が行なわれていた。しかし、やや演出過多な他、写真によっては破綻する場合もあった。元画像にはない色域を無理に利用していたとも言える。

 しかし9900iでは忠実性、階調性を重視した絵作りへ大きく舵を取った。今年年末のPIXUSシリーズは、9900iの素直な特性をベースにある程度はよりきれいな写真のための演出を加えているが、iP8600は意図した写真を出しやすい忠実な色再現を強く意識した作りになっている。PIXUSシリーズの他製品と、あくまでも基礎部分は同じだが、最終的な味付けが薄味か、濃味かの違いと言えばいいだろうか。

 階調表現そのものも、特色追加によってインクの混色パターンが増えているのが原因なのか、6色インク機のiP7100よりも僅かに滑らかに見える。

テスト方法についてはこちらをご覧ください。

ポートレイト ある交差点の風景

 多少、マゼンタが弱い印象もあるが、6色のiP7100よりもシャドウ部の色ノリは良く、描写も自然で立体感も残っている。

 iP7100の評価でも書いたように、顔の右半分に相当する部分は染料系インクジェットプリンタでは表現しにくい色である。彩度を出しにくいため、階調を残すためには、色乗りをある程度はあきらめなければならない。

 しかしレッドインクの効果なのか、本機ではiP7100よりもきちんと色が出ていることが確認できる。RGBデータと比べてはいけないが、印刷結果としては上々。全体の印象は忠実で破綻はあまり見られない。

 iP4100、iP7100でも十分に高い描写能力があったが、本機も基本的には同じ。色の忠実性で他モデルに勝る部分が見られる。トーンカーブの正確性は例によって差が見られないが、色に関しての違いがある。

 まずオリジナルデータの空が、かなりわざとらしい水色になっているが、他モデルではそこそこヌケの良い空色に描かれていた。ところが本機では、オリジナルのわざとらしさがそのまま近いイメージで描かれる。

 オレンジ色の屋根は元データを見ると、僅かに黄色カブリをしているが、他モデルは見栄えの良いオレンジとなるところ、本機は正確な色を出す。

 街路樹の葉は、多少くすみを感じる黄緑だが、他モデルは美しい緑色になる。ところが、本機の場合はそのままのイメージで印刷される。

 このあたりは、自ら拘って写真をレタッチし、出力しようというユーザーを意識したものかもしれない。

絵はがき モノクロ写真

 同社他モデルとほぼ同じ。先鋭度が高く、トーンカーブが正確で、赤が多少沈む事を除けば文句なしの表現である。ただし、シャドウ部や暗く落ちた背景部分の色乗りが悪くなっていたiP7100に比べると、暗部での色ノリはこちらの方が良い。また僅かながら、赤やオレンジの表現も本機の方が彩度が出ている。

 iP7100の記事でも述べたように、PIXUS 9900i以降、全弾2plのキヤノン製プリンタにはモノクロ写真印刷用のモードが用意されている。用紙に写真用の用紙を選び、プリンタ設定の第1画面で[グレースケール]にチェックを入れておくと、モノクロ写真を印刷するのに適した処理での印刷が行なわれる。黒インクだけの片方向印刷となるのも同じで、印刷結果も全く同じだ。

 完全なニュートラルグレーよりもわずかにイエローに寄るのは、キヤノンによると“モノクロ印刷時のスパイスとしてカラーインクで微調整している”結果とのこと。純黒調を期待するユーザーには、グレーインクが利用できる日本ヒューレットパッカードの製品や、エプソンのPM-4000PXの方が良いだろうが、温黒調の絵が好みならば結構使えるモードだ。手軽にモノクロ写真を楽しみたい向きにはなかなか楽しい機能である。

風景 人物

 林の葉が織りなすテクスチャは陰影がハッキリとして立体感がある。濃い緑、薄い緑、黄緑、そして陰になっている部分など、各部の濃度差がハッキリしており、iP7100よりもメリハリがある。芝生部分も、よく見ると濃度が本機の方が濃い。グリーンインクの効果だろうか? データをディスプレイ上で見たときの印象も、本機の方が近い。

 また似たように見える空に関しても、iP7100がスカッと濁りのない空色なのに対して、iP8600は右上を中心に僅かに黄色が差し込んでいる。元データにもそのような傾向が見られることから、iP7100は印象度優先、iP8600は忠実度優先の絵作りの方向が見える。いずれにしろ、この2機種は似ているが味付けの異なる製品と言えそうだ。

 肌色にはやや演出傾向が見られるが、あまり大きくは色をシフトさせないのが本機の方針のようだ。iP7100は、明らかにきれいに印刷するために作っている、という意図を感じたが、本機はあまりそうした点はあまり強く見られない。

 ただ、“自動補正のサンプル”として考えると、もう少しきれいな肌色にしてほしいところだ。このあたり、本来ならば“忠実系”と“演出系”のふたつのカラーモードがあればいいのだが(同様の考え方でVIVIDモードはあるのだから)。



URL
  インクジェットプリンター 2004年冬モデルレビュー
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/2004/printer/ijp2004.htm


( 本田 雅一 )
2004/11/24 00:05
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