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キヤノン PIXUS iP8600
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~ついに8色化されたA4機のフラッグシップ
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PIXUS iP8600はキヤノン製A4インクジェットプリンタの最上位に位置するモデルである。iP7100との違いはグリーンとレッド、2色の特色インクが加わっていることである。昨年はこの機種に相当するモデルは用意されておらず、8色化されていたのはA3ノビ機のPIXUS 9900iのみだった。ただしヘッドは共通で、不要なノズル列を利用しないことで異なるインク数のモデルに対応している。
ちなみにヘッドを目視で確認すると、全部で10列のノズル列があることがわかる(7色機だった昨年も同じ)。従って、8色プリンタのiP8600では2列分が余ることになるが、残り2列を今後利用することがあるか否かは発表されていない。あるいは歩留まりを上げるための冗長ノズルかもしれないが(1列不良だったときに、余っている列を割り当てるなど)、インクジェットプリンタはインクを打ち込む順番で色が変わるため、それは考えにくい。将来、グレーインクが追加されるなどすれば面白いのだが。グレーインクはモノクロ印刷時だけでなく、カラーでもコントラストの制御に使いやすいからだ。
もうひとつ余談だが、追加される特色のうちレッドインクは、名前こそレッドだが、実際の色は濃い目のオレンジである。インクカートリッジだけを見ると、イエローインクカートリッジがオレンジに見え、オレンジインクの入ったカートリッジは赤に見える。このため、装着時の混乱を避けるためにレッドインクと表記しているそうだ。
こうした特色インクは色再現域を広げることが目的としている。sRGBの色域とインクジェットプリンタの色域の比較はよく論じられるところだが、キヤノンはポジフィルムとインクジェットプリンタを比較し、ポジフィルムでは再現できていたがインクジェットプリンタでは再現できない色のためにこの2色を追加したという。オレンジに関しては、写真集などでもよく使われる特色で、CMYK印刷の弱点を補う意味合いが強い。
レッドインクが最初に搭載されたPIXUS 990iは、オレンジ周辺の色域拡大を最大限に活かすため、夕焼けなどの表現で思い切り鮮やかな色を出す演出が行なわれていた。しかし、やや演出過多な他、写真によっては破綻する場合もあった。元画像にはない色域を無理に利用していたとも言える。
しかし9900iでは忠実性、階調性を重視した絵作りへ大きく舵を取った。今年年末のPIXUSシリーズは、9900iの素直な特性をベースにある程度はよりきれいな写真のための演出を加えているが、iP8600は意図した写真を出しやすい忠実な色再現を強く意識した作りになっている。PIXUSシリーズの他製品と、あくまでも基礎部分は同じだが、最終的な味付けが薄味か、濃味かの違いと言えばいいだろうか。
階調表現そのものも、特色追加によってインクの混色が減っているのが原因なのか、6色インク機のiP7100よりも僅かに滑らかに見える。
※テスト方法についてはこちらをご覧ください。
■ JIS-N1RGB
背景やドレス、ドライフラワー、ソファー、ワインなど、あらゆる部分でオリジナルのイメージが損なわれておらず、トーンジャンプや色転びなども見られない。N1RGBでこれだけ良好な階調表現と忠実な色再現が行なえたプリンタは、コンシューマ向けではエプソンのPM-4000PXぐらいしか思い浮かばない(もっとも発色傾向は本機とは全く異なるが)。
正確には肌色は多少明るく健康的な色に変わっているが、オリジナルデータの雰囲気を損ねておらず、ドライフラワーのイエローが、かなり明るくなっているように見えるが、これはスキャナで取り込んだ時に変化したものだ。スキャン後の微調整を肌色の色調にあわせたためにこのような色になっている。
肌色のグラデーションでも色相が転ぶ事なく、非常に美しく仕上がった。実際の出力では、肌色部分のコントラストがもう少し強めに出ており立体感もある。
■ JIS-N2RGB
何か間に一枚重なっているような、ややスッキリしない出力になったが、オリジナルデータには近い。(N1RGBとは異なりスキャン結果と出力の一致度は高い)iP7100では、そのヴェールを剥ぎ取ったようにスッキリするが、ユーザーが意図して作った絵作りをそのまま反映させたい場合には、iP8600の方がずっとコントローラブルだろう。
背景のブルーの陰影、微妙に変化している色相なども正確に表現されている。
■ JIS-N3RGB
パッと見には6色インク機のiP7100と同等に見えるが、細かな点ではかなり異なる。
本の紙色、地図の薄黄、毛針ケースの綿色、壁のオレンジなどが主な相違点だ。オリジナルに濃度がより近く、質感や陰影がきちんと描かれている。壁のオレンジは他2機種が鮮やかになりすぎていたのに対して、本機は忠実性が高い。本機以外のモデルでは、肌色を好ましい色に変化させる際にシフトさせている部分が、オレンジ部分に影響しているのかもしれないが、本機は演出が控えめなため、周辺の色がシフトしないのかもしれない。
■ モノクロ写真
iP7100の記事でも述べたように、PIXUS 9900i以降、全弾2plのキヤノン製プリンタにはモノクロ写真印刷用のモードが用意されている。用紙に写真用の用紙を選び、プリンタ設定の第1画面で[グレースケール]にチェックを入れておくと、モノクロ写真を印刷するのに適した処理で印刷される。黒インクだけの片方向印刷となるのも同じで、印刷結果も全く同じだ。
インクの特性の違いか、チューニングによるものなのかは不明だが、完全なニュートラルグレーよりもわずかにイエローに寄る。モノクロ印刷そのものの質は、グレーインクが利用できる日本ヒューレットパッカードの製品や、エプソンのPM-4000PXの方が良い結果が得られる。しかし、手軽にモノクロ写真を楽しみたい向きにはなかなか楽しい機能である。
■ 風景
林の葉が織りなすテクスチャは陰影がハッキリとして立体感がある。濃い緑、薄い緑、黄緑、そして陰になっている部分など、各部の濃度差がハッキリしており、iP7100よりもメリハリがある。芝生部分も、よく見ると濃度が本機の方が濃い。グリーンインクの効果だろうか? データをディスプレイ上で見たときの印象も、本機の方が近い。
また似たように見える空に関しても、iP7100がスカッと濁りのない空色なのに対して、iP8600は右上を中心に僅かに黄色が差し込んでいる。元データにもそのような傾向が見られることから、iP7100は印象度優先、iP8600は忠実度優先の絵作りの方向が見える。いずれにしろ、この2機種は似ているが味付けの異なる製品と言えそうだ。
■ 人物
肌色にはやや演出傾向が見られるが、あまり大きくは色をシフトさせないのが本機の方針のようだ。iP7100は、明らかにきれいに印刷するために作っている、という意図を感じたが、本機はあまりそうした点はあまり強く見られない。
ただ、“自動補正のサンプル”として考えると、もう少しきれいな肌色にしてほしいところだ。このあたり、本来ならば“忠実系”と“演出系”のふたつのカラーモードがあればいいのだが(同様の考え方でVIVIDモードはあるのだから)。
■ URL
インクジェットプリンター 2004年冬モデル レビュー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/2004//printer/ijp2004.htm
製品情報
http://cweb.canon.jp/pixus/lineup/ip8600/
( 本田 雅一 )
2004/11/19 09:21
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