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海外で人気のBENROフィルター、その工場を訪ねた

三脚同様の“品質主義”で日本にも進出

高い品質を武器に日本でも知名度が向上している中国の三脚メーカー「BENRO」(ベンロ)が、今度はカメラ用のフィルター事業に参入した。今回、中国の同社工場を訪れ、フィルター事業の狙いや製品の特徴を取材した。

広東省中山市にある百諾(BENRO)精密工業を訪れた
今回取材したフィルターや三脚は、CP+2015のワイドトレードブースに展示される予定です。

既存品よりも高品質なフィルターを作りたい

弊誌ではBENRO本社を2012年に取材しているので三脚などについてはその記事を参照して欲しいが、ここで簡単に同社のあらましに触れておきたい。

1995年に広東省で三脚メーカーとして創業したBENROは、日本メーカーのOEM生産などを経て現在は自社ブランドの「BENRO」を中心に世界50カ国以上に販路を広げている。クラスとしては中、高級品が中心でプロ向けモデルも多い。

「品質重視」の姿勢を掲げ、三脚のカーボンパイプや小さな部品から自社一貫生産するという数少ないメーカーで、フィルターの製造も枠作りから自社で行っているとのことだ。

ベンロのトップ劉昊董事長(右)と研究開発マネージャーの陳郁氏

まず、なぜ三脚メーカーのBENROがフィルターに参入しようとしたのか、その理由をBENROのトップである劉昊董事長に訊いたところ、「三脚で培った精密加工の技術を使えば、市場にあるものよりも良いフィルターが作れると考えました。丸形フィルターは日本メーカーの製品が市場で成功していますが、角形フィルターに関してはもっと良いものができると考えたのです」と自信たっぷりに話す。

BENROがフィルターの研究を始めたのは2011年で、翌年から生産を開始している。ラインナップは上級者向けが中心で、これまでに北米、欧州、日本以外のアジアで展開しており欧州などでは特に評価が高いという。この度、日本でも2月から発売されることが決定した。

BENROのフィルターは丸形と角形をラインナップされているが、中でも特に角形フィルターに力を入れているとのことだ。日本ではフィルターと言えば丸形が主流で、角形はプロ向けというイメージもあるが、海外ではもっとポピュラーなものだという。

ベンロが特に力を入れているのが角形フィルターだ
日本でもなじみのある丸形フィルターもラインナップしている。

角形フィルターのメリットは、とりわけハーフNDフィルター使用時に実感できるものだ。風景撮影などで上半分に来る空が露出オーバーになる際などに、その部分の透過率を下げて画面全体を適正露出にできる。

その際、角形フィルターであればグラデーションの位置や角度を自在にコントロールできる。また、複数の角形フィルターを組み合わせるなど高度な撮影に対応できる利点もあり、プロ写真家には多用されている。

解像力を落とさないガラス製の角形フィルター

BENROの角形フィルターの大きな特徴は“ガラス製”ということ。実は従来の角形フィルターは樹脂製がほとんだったが、光学性能にこだわってガラス製にしたという。

ガラス製の角形フィルター。高い平面性が特徴

陳氏によると、樹脂は表面に微妙な凹凸があり解像力を落とす原因になっているという。その点ガラスは平面性が高く、入ってきた光を真っ直ぐに通す。

樹脂製フィルター(左)は微妙な凹凸で光が曲がってしまうが、ガラス製フィルターは平坦なため解像力を損なわないという

実際に解像力を測定する装置(コリメーター)にフィルターをセットしてチャートを見ると、確かに像の劣化は少なかった。

今回、数々の検査装置が並ぶ測定室を見学した
これがコリメーターと呼ばれる測定装置。平行光線でわずかな解像力の劣化を検知できる
フィルターをセットして測定する。このコリメーターはCP+2015(2月12日〜2月15日)のワイドトレードブースに設置される。来場者が持参したフィルターの性能を試すことができる
フィルターを入れない状態のチャート
BENROのガラス製角形NDフィルターを入れたところ。ほとんど劣化は見られない
他社製の樹脂製フィルターを入れたところ。像劣化が認められた

また、NDフィルターにおいて樹脂製のフィルターはその透過率特性として650〜700nm(橙〜赤)の波長域が他の波長域に比べて突出してしまうそうだが、ガラス製であれば可視光域である400〜700nmに渡ってほぼ均等な透過率になるとのことだ。「風景撮影の場合、色が重要なので、カラーバランスの良さがメリットになります」(陳氏)。

横軸に波長、縦軸に透過率をとったグラフ。青はBENROのND4フィルター、赤はBENROのND8フィルター。いずれも全帯域でほぼフラットな透過率となっている。一方、樹脂製フィルターは650〜700nmでNDの効果が薄れてしまっている。樹脂製フィルターでは避けるのが難しい特性という
透過率の測定には島津製作所の分光光度計を用いている
分光光度計によるNDフィルターの実際の測定結果。グラフの水色がベンロ製で、フラットに近い特性。紫と緑は他社製の樹脂製フィルターで、やはり赤色付近の透過率が増大してしまっている

ガラスは樹脂のフィルターに比べてコスト高だが、長期の光学安定性、変型のしにくさ、傷の付きにくさなどでも樹脂フィルターに勝るという。

ガラス自体にもこだわっており、上級グレードではドイツのショット製VBW370またはB270を、下位グレードでも旭硝子またはHOYAの硝材を使っている。これらの光学ガラスを用いることは透過率の向上に寄与しており、特にショット製の硝材は透過率が高いという。

加えて、反射防止コーティングもULCA(Ultra Low Chromatic Aberration=超低色収差)というドイツで開発されたコーティングを採用。可視光域で従来のマルチコーティングよりも反射率を低く抑えている。

これはコーティングの比較。従来のマルチコーティングやシングルコーティングに比べて全体として反射率が低いのがわかる
従来のコーティング品(左2つ)に比べると、ULCAコーティング品(右)は反射が少ない

コーティング作業自体は中国の協力工場で行っている。「そこは国営工場が民営化したところです。かつて国営工場は採算無視で高い技術を扱っていました。そのためいいものを作ることができるのです。BENROのフィルターは価格は他社よりも高価だと思いますが、角形フィルターでここまで良いものは他にありませんよ」(劉氏)。

透過率のテストは計測器だけでなく、実際にチャートをカメラで撮影しての確認も行っている
角形フィルターのケース(後)はそのままフィルター拭きになる
こちらは150mmのフィルター。大口径レンズに対応できるほか、動画撮影で需要があるそうだ
BENROフィルターのうち、中・上級品に採用される「WMC」タイプは、撥水・撥油加工が施してある。左はWMCタイプに水を載せたところ。そのまま傾けると水は残らず落ちる。一方、撥水加工の無いタイプ(右)は水が付いてしまう

工夫を凝らしたフィルターホルダー ミラーレス用も

角形フィルターはホルダーにセットして使うが、このホルダーもこだわりの一品となっている。特にホルダーの本体は樹脂では無くアルミ製にすることで精度や耐久性を持たせているという。

角形フィルターホルダーのラインナップ。3つのサイズそれぞれにフィルター、アダプター、バッグなどが用意される

装着するレンズのサイズ別にFH150(150mmフィルター対応)、FH100(同100mm対応)、FH75(同75mm対応)の3種類のホルダーをラインナップする。

左からFH150、FH100、FH75
FH150とFH100は角形フィルターが3枚入る(FH75は2枚)。実際に嵌めるにはそれなりの力で押す必要があるが(落下防止のため)、スムーズに入る
角形フィルターにハーフNDフィルターを装着したところ。グラデーションの位置を変えられるのが角形フィルターの利点だ

100mmのタイプが一眼レフカメラとしては一般的なサイズで、BENROで1番売れているタイプとのこと。150mmタイプは、より大口径のレンズ向けだ。そして珍しいのが75mmタイプ。これはなんと、ミラーレスカメラ向けのホルダーだというから注目だ。

これが、少なくとも日本では見かけない“ミラーレスカメラ用角形フィルター”ことFH75のシステム。ミラーレスカメラで本格的な風景撮影に挑めそうだ

FH75はマイクロフォーサーズやAPS-Cセンサーのカメラを想定したもので、より低コスト、軽量といったメリットがある。日本ではミラーレスカメラの普及はめざましく、画質も一眼レフと遜色ない機種もある。こうした動向をいち早くキャッチアップして製品化したことはBENROの先進性を表す一例であろう。

これらのホルダーには独自の工夫として、丸形フィルターを1枚装着できるようになっている。これは同社が特許を取得しているものだそうだ。ここにはPLフィルターを装着し、角形のNDフィルターと同時に使えるというもの。特に風景撮影に威力を発揮しそうな機構である。この辺りは、プロカメラマンの意見を取り入れた結果だそうだ。

フィルターホルダーにPLフィルターをセットしたところ。丸印の部分にPLフィルターの枠が露出しており、簡単に回せる

もちろんPLフィルターは外から回せるようになっており、実際に操作するとスムーズに回すことができた。

ハッセルブラッドのレンズに対応した95mm径のアダプターも用意される。このサイズの対応は珍しいとのことだ

またカラータイプなど、フィルターの種類も今後拡充していく予定という。

BENROはカメラバッグも手がけているが、その技術を使ってしっかりしたフィルター用のバッグも作った。フィルターの交換などでは、カメラバッグに入れるよりもこうしたポーチを使った方が使いやすいという。中国のユーザーからも好評とのことだ。

しっかりした作りのバッグも用意する
フィルターホルダーとフィルター数枚を収納できる。ズボンのベルトにも取り付け可能

丸形フィルターも品質で勝負

それでは、日本で広く使われている丸形フィルターはどうか? こちらも角形フィルター同様の高い品質で作られていた。現在、UVフィルター、サーキュラーPLフィルター、NDフィルター、可変NDフィルターを揃える。

丸形フィルターも角形フィルター同様の高性能な光学ガラスやコーティングを特徴とする。丸形フィルターのうち最上位のSHDシリーズは、VBW370ガラスを採用するほか、枠が真鍮製となっている。真鍮枠のメリットはアルミ枠よりもレンズからの外しやすさにあるという。適度な重みも有り、質感も良い。

こだわりも色々あるが、例えばサーキュラーPLフィルターの偏光膜は日東電工製。「実績があって品質が高い日本製にこだわっています。解像力の低下を防げるのです」(陳氏)と、良い材料を積極的に採用している。

日本製の偏光膜を使ったサーキュラーPLフィルター。写真は最上位グレードのSHDシリーズでULCAコーティングも採用

加工技術も惜しみなく注ぎ、サーキュラーPLフィルターや可変NDフィルターは既存品よりも薄く作った。

回転機構が必要なPLや可変NDフィルターは、得意の精密加工技術で従来品よりも薄型に仕上げている
サーキュラーPLフィルターは厚さ5.3mmと薄型だ

フィルターも、三脚同様に金属加工には一部日本メーカーの加工装置を使い、品質を高めているという。「フィルターの超薄枠は日本の機械でないと作れません。また、組立技術も常に新しいものを取り入れています。例えば、丸枠フィルターにガラスを固定する機構はよりガラスをより平に留められる仕組みを取り入れています」(劉氏)とのこと。

丸形フィルターは種類やグレードにもよるが37〜105mm径をラインナップ。写真のようにミラーレスカメラ向けの小口径タイプも用意されている

フィルターの製造工程を見る!

今回特別に工場内を見ることができた。BENROにとってフィルター事業は三脚や雲台に比べてまだ小さく、加工は三脚部品の製造に混じって行われている印象だった。

BENROの工場棟。こうした建物が計3棟ある
工場内部。三脚部品を作る一角でフィルター枠の加工が行われていた。写真手前では雲台の部品を作っていた
フィルター枠の原料はパイプの形で仕入れる。これを輪切りにして加工する
これはアルミのパイプ
こちらは上級グレード品向けの真鍮のパイプ
大口径フィルターのパイプはそれだけ大きい
フィルター枠の加工風景
自動的に工具を持ち替えて加工できるマシニングセンタで枠を作る。もちろんコンピューター制御だ
加工しているところ
できたてのフィルター枠
こちらは特に高い精度が求められる薄型枠やガラスを固定する部品を加工するマシニングセンタ。日本のヤマザキマザックの子会社LGマザック製を使用している
できあがった、フィルターを押さえる部品
フィルター枠にレーザー刻印を入れる装置も備えている
こちらは角形フィルターに刻印を入れるサンドブラストの装置
協力工場でコーティングを追えたガラスはこのように納品される
完成後に梱包される

フィルターでは珍しい全数検査を実施

ところで、工業製品である以上はどこまでしっかり作っていてもある程度の初期不良品は出てくる。

そこでBENROでは、「ここまでやっているのはあまりないと思う」(劉氏)。という「全数検査」を実施している。劉氏によれば、一般的にフィルターなどはロット枚にサンプルを抜き出して検査するそうだが、BENROでは1枚ずつ目視と先に挙げた解像力テストなどを行って品質を担保しているとのことだ。

梱包後に1つずつケースを開けてフィルターを全数チェックする
検査後に包装される。箱は高級感のあるデザインだ
約1.3mの高さから鉄球を落としてもフィルターのガラスが割れないことを見せる装置。このガラスはBENROのエントリー向けブランドMeFOTOで展開しているプロテクトフィルターに使われているもの。なお、この装置もCP+2015のワイドトレードブースにお目見えする予定だ
鉄球は直径14mmほどあり大きな音でぶつかるが、ガラスが割れることはない



なお、MeFOTOフィルターの国内発売は未定。またBENROブランドには現在プロテクトフィルターはラインナップされていないが、将来投入される可能性もあるという。

ちなみにMeFOTOブランドでは、いろいろな枠の色のフィルターをラインナップしている

「将来はレンズも手がけたい」

劉氏に日本での意気込みを訊くと、「日本でのフィルターのセールスに自信がある。日本は風景撮影が盛んなので需要があると考えている。BENROは世界で注目されるようになったが、日本での販売はまだまだ。これから頑張っていきたい」とのことで、勝算はあるとみているようだ。

BENROではフォトキナ2014を境に、ロゴマークを刷新した

劉氏によると、フィルターの生産枚数は今のところ月産約3万枚。大手ほどではないが、「スタートしたばかりとしては良い数字」(劉氏)という。

BENROの主な事業と構成比は、三脚と雲台(約65%)、カメラバッグ(約25%)、フィルター(約10%)、防湿庫(数%)という。直近の業績は2桁成長で、近く現工場の2倍の規模という新工場を建設するとのことだ。

江西省に新築する工場の完成予想図。“カメラ用品の生産”でこのように大きな工場を建てることに驚く

そして劉氏に、これから手がけたいものは? と訊くと“レンズ”との答えが返ってきてまた驚いた。

「光学製品にもチャレンジしており、フィルターもその1つです。今はミラーレスカメラ用の単焦点レンズを研究しています。成功する自信が無いうちは売ることはできないので、もう少し時間が掛かるでしょうが、レンズを揃えるのは将来の夢ですね」(劉氏)と熱心に語る。どんなレンズが誕生するのか今から楽しみだ。

見学した本社工場ではちょうど建物を増築する工事を行っていた。2桁成長を実感させるものだ

新コンセプトの三脚「Go Travel」にも注目

さて今回はフィルターの取材がメインだったが、工場に併設されているショールームで、日本でも2月から発売される新三脚SystemGoシリーズの「Go Travel」を見せてもらうことができた。

トラベルタイプでコンパクトに収納できる

Go Travelは脚を180度逆にすることでコンパクトに収納できるトラベルタイプの三脚に、センターポールを水平に倒せる機構を追加したモデル。俯瞰撮影やマクロ撮影が便利にできるという。

センターポールを水平にできるのが特徴

特にセンターポールのスムーズな動きが特徴で、発表したフォトキナ2014でもカメラマンから大きな反響があったという。

こだわりの1つはセンターポールを支えるパーツで、外側を一体成形の部品にすることで強度を増したという。この部分も特許を取得しているそうだ。

センターポールを支える部分は一体型の独自機構で頑丈にしたという
センターポールを倒すためのロック機構も操作しやすいものとした

センターポールが動かせる三脚はこれまでにもあったが、下の写真を見て頂くとわかるとおり、Go Travelシリーズはセンターポールを継ぎ足すことで様々な使い方ができるのが大きなうりとなっている。

センターポールをいわゆる鉄ちゃんバーにしたり、動画撮影用のスライダーにしたりとアイデア次第で様々に活用できそうだ。

オプションパーツの追加で様々に“変形・合体”ができる
センターポールを継ぎ足した例
本体部分の側面に3/8インチネジがあり、市販のアームなどを接続できる
長いセンターポール(順次発売予定)と一脚を使って動画撮影用のスライダーを構築することもできる
スライダーの台車(写真は試作品)は、車輪が入っておりスムーズに動かせる
脚の1本を外して一脚にすることも可能

SystemGoシリーズでは今後、長いセンターポールなどアクセサリーの充実を図っていくとのことだ。



製作協力:BENRO国内総代理店 ワイドトレード、百諾精密工業

(本誌:武石修)